no.123
「寝よう、疲れたし」
「うん……」
ベッドの横に立つ、背の高いスタンドだけ明かりをつけて、部屋の照明はすべて消す。
「アリスは真っ暗っていうの、苦手だよな」
「昔から。どうしても何か一つ明かりがないと眠れない」
「臆病だな」
「へへっ」
ベッドにもぐりこむ。
広くてゆったりしてる。
ちょっとフリフリのカバーに枕がママの趣味しててなんだけど。
「アリス……」
「うん?」
基樹の方を見る。
えっ、疲れてるから寝るんじゃないの?
と思っている間にキスされる。
「寝なくちゃ、疲れとれないよ」
「だめ、このまま眠れない」
額にキスされる。
「でも、明日、みんなにお土産くばらなくちゃだし……」
「大丈夫だよ。それにアリスにおめでとうのご褒美」
「えっ?」
「童話の大賞受賞……」
あっ、忘れてた。
なんだか部屋のこともあって……。
「感動薄いぞっ。嬉しくないのか?」
「嬉しいよ。でもなんだか信じられない私の……」
最後まで言わせてよ。
話してるのにキスされたら言えないじゃない!
「もぅ、話してるのに!」
「いいよ、もう。明日ね。だからしーっ」
パジャマのボタン外されて、もう……。
基樹からのご褒美……。
******
そしてあっという間に授賞式。
なんだか本当なんだろうかって信じられない気分で、授賞式が行われるホテルに来てしまった。
「ホントに俺が付き添いでいーのかよ」
「だって金倉さんがそれでいいって言ったんだもん」
「なんだか俺らだけ場違いな気がするよな」
「やっぱりぃ。そうだよねぇ。なにかの間違いじゃないのかなぁ」
私達はロビーでうろうろ。
「ねぇ、宮川アリスさん?」
「はい?」
「わぁ、やっぱり。あなたね。待ってたのよ。遅いから」
「あ、あの……」
「金倉です。電話で話した」
ショートカットの女性が言った。
この人がそうなんだ。
とってもセクシーな赤のぴったりスーツ。
さすが大人の女性って感じ。
圧倒されちゃう。
「こちらがあなたの彼ね」
「始めまして。宮川です」
「あれ? 宮川って、じゃ、彼の苗字をとってペンネームにしたの?」
「は、はい……」
もうすぐ本当にその苗字になるんだけど……。
「じゃ、会場に行きましょう。そろそろ始まるから」
会場にはたくさんの人がいた。
壇上にはマイクが置かれて、『第12回聖道出版社 童話大賞授賞式』と大きく書かれた看板がかかっていた。
「じゃ、ここで待っててね。名前を呼ばれたらあちらに来てくれればいいわ」
「あ、あの、金倉さん。本当に私で間違いないんですか?」
「もう、電話でも何度も言ったでしょ。宮川アリスさんはあなただけ。しかも高校生で最年少受賞者よ。『やさし森』を書いたのはあなたでしょ?」
「……はい……」
「信じて。ウソでも夢でもないわ。確かにあなたなのよ。それじゃ、ね」
周りの人達はみんな大人、ちゃんと社会人って感じで、違和感がある。
「ここまで来たんだ。もう自信持っていーんじゃねーか? 間違いないようだしよ」
「うん……」
「それではお時間が参りましたので、これより第12回……」
とうとう授賞式が始まった。
緊張する。
足だってガクガクだもんね。
なんでこんなことになっちゃったんだろう。
本当にただ書いただけのものだったはず。
書くだけでいいって、やりとげるってことでなにかを試していきたいって、それだけだったはずなんだ。
偉い人の話なんかが続いていたけれど、まったく耳には入らなかった。
「アリス、緊張してんのか?」
「だって……」
基樹は肩を抱いていてくれた。
準大賞の人の名前が呼ばれる。
白いスーツを着たストレートの髪のきれいな女性が壇上に上がる。
落ち着いた感じ。
「さて、大賞受賞者ですが、今回受賞された方は高校生です。最年少受賞者となった宮川アリスさんです」
「ほら、行けよ」
あ、足が……。
「アリス、がんばれ」
耳元で基樹の言葉が聞こえて頬にキスされる。
そして背中を押された。
やっと1歩が踏み出せて壇上に上がった。
賞状と盾、賞金目録などを受け取る。
これで降りられる。
早く基樹のところに戻りたい。
心臓破裂しそうだよ。
「では、宮川さん、受賞の喜びをどうぞ」
マイクが目の前に差し出されて、慌ててしまった。
なにか言わなくちゃいけないの?
どうしよう。