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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
120/156

no.120

 ふわっとベールが顔の前に掛けられた。

 とうとう行くんだね。


 ドアを前にパパと腕を組む。

 こんなことするの始めてだよね。


 パパはなにも言わない。

 私ももう言葉が見つからない。


 扉が開いた。 

 パパの腕に掴まって、ゆっくりゆっくり基樹の待つバージンロードを歩く。


 慣れない高いヒールの靴。

 真っ白でシンデレラみたいだね。


 そしてそこで待っていてくれるのは王子様。

 手を差し出されて、私は彼に手を伸ばす。


 絶対離さない。

 この大きな手を絶対に……。


 誓いの言葉もちゃんとわかるよ。

 だって予行練習しちゃったもんね。


 イブの夜に。

 だから間違えたりしない。


 でも指輪の交換は手が震えちゃうね。

 始めて触れるわけでもないのに、触れられる手に、触れる手に全神経が集まっちゃって……。


 ベールを基樹の手がそっとあげる。

 真剣に見つめる瞳。

 まっすぐすぎて怖いくらいで。


 ふっと瞼が半分閉じられて、誓いのキス。

 一生分の幸せを感じているみたい……。


 荘厳で神聖な教会で私達は本当の愛の誓いをした。



 ******

 


「アリス、雨が上がったようだよ」

「えっ、雨降ってたの?」


「ああ、式が始まる前ね。係りの人が慌ててた。中庭に飾るろうそく、雨だとただのライトアップになるって。せっかくアリスが楽しみにしてたのにさ。できるだけろうそくでやって欲しいって言っといたんだ」


 もう皆が教会の前にいるはず。

 ドアが静かに開く。


 柔らかくて小さな光があちこちに灯っている。

 ゆらゆらと揺らめくその明かりに照らされる草木の雫がきらきら輝いて、まるで夢のような光景。


 今になって涙が溢れてきた。

「ほら、アリス。みんなが待ってるぞ」

「うん」


 ドアを出ると皆が一斉に祝福の言葉を掛けてくれる。

 涙で霞んでしまうけど、皆の笑顔が見えるよ。


「泣いてないで、ちゃんと見とけよ。みんなが俺達を見守ってくれてるとこ。忘れないように焼付けとかなくちゃな」

「うん!」


 顔を上げる。

 一番に沙耶の泣き顔が目に入った。


 私は駆け出して沙耶に抱きついた。

「沙耶……」


「アリス、素敵。本当に素敵。本物の結婚式……おめでとう、アリス」

「ありがとう、沙耶。これ、沙耶に」


 私は手にあったブーケを沙耶に渡す。

「ありがとう、アリス」

「うん」


「お兄ちゃん、アリスを泣かせたら許さないからね」

 横に来た基樹に沙耶が言う。


「泣かすかよ、ヴァーカ」

「よっ、基樹。幸せもの!」

 高田が涙ぐんでいる山内を連れていた。


「本物はどーだ。すっげーだろ」

「さすがね。やっぱり感動が違うわ」


 川上もうっすら涙を浮かべ、その横で大里が半泣きの顔をしていた。

 皆におめでとうを沢山もらった。



 ******


 

 披露宴が終わって、帰っていく皆にキャンディを手渡す。

 横でキャンディを渡していた宮川が体を傾けてこそっと言った。


「アリス、足、大丈夫か? もう少しだからがんばれ」

 えっ、足?


 気付かなかった。

 言われてみると靴が当たっているかかとの上のところが痛い。


「連休でハネムーンかよ。いいよなぁ、おまえら」

 高田が基樹を冷やかした。


「ああ。オーストラリア、楽しんでくるよ。土産楽しみにしてろよ」

「気をつけて行って来てね。アリス」

「楽しんできてね、アリス」


「今日はありがとな。来てくれて」

 基樹が言うと皆、笑って帰っていった。


 沙耶と沖野が手を繋いで来た。

「アリス、帰ってきて学校来るの、楽しみに待ってるからね」

「今日は本当にありがとう。沖野君も」


「いや、なんかさ。いいなぁって。こういうの」

「沖野君ったらね、二人の結婚式で泣いちゃったのよ」


「おいっ、それ言うなよ」

「だって……」


「おまえだって泣いてばっかだったじゃん」

「そうでした。感動~」


「沙耶達もいつかね、私達にその感動させてよね」

「やっだぁ、アリスったら」

「いつかきっと」


 沖野が沙耶の肩を抱いて言った。

 きっと、だよ。


「じゃ、学校でね」

 二人が帰るともう人の波が消えた。


 基樹のお父さん、来てくれなかったのかな。

 顔、見れなかった。

 伝えたい言葉があったのに……。


「来てくれてたんだな」

 突然の基樹の声に顔をあげると基樹のお父さんが立っていた。


「ああ」

 お父さんがそう答えて、会話が途切れた。


「あの、お父さん、今日は来てくださってありがとうございます。あの……先輩を……基樹を生んでくれてありがとうございます」


 涙が出てくる。

「生んだのはお袋だよ。ヴァーカ」

 横で茶化す基樹。


「そうだけど、でもお父さんだもん。お父さんがいるから基樹がいるんだもん。私、お父さんに一杯一杯感謝してます。お母さんには伝えられなかったから、お父さんに……ありがとうございましたっ!」


「まぁ、がんばりなさい」

 お父さんは一言そう言って帰っていった。


「がんばりなさいって言ったよ。ねぇ、がんばりなさいって言ってくれたよ」

 私は基樹の袖を引っ張って言った。


「ああ。アリス、ありがとなっ」

 基樹は、優しい笑顔をしていた。


「二人ともそろそろ着替えて……」

 ママが来た。


「あ~ん、もっとこのままでいたい」

「そんなことしてたら飛行機乗り遅れるわよ」


 そうだった。

 時間ぎりぎりなんだよね。


 急いで着替えを済ませ、式場を出る。

「パパ、ママ、行ってきま~す」


「気をつけて」

「写真一杯撮って来てねぇ」

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