no.12
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シャワーを浴びて着替え。
……でもママってば、なんでこんな服出すの!
用意された服を広げて愕然となった。
こんなの着て出ていけないよ。
「ねぇ、アリスちゃん。もう出たんでしょ」
覗きに来たママを睨んだ。
「なによ、これ」
「だってほら、あなたの部屋に宮川君いるし、出せないじゃない。たまたま昨日買って来たワンピースが下に置いたままだったし、お洗濯で乾いた下着も……だめ?」
だめ?と言われても、確かに宮川がいるんだから服を出しに行けないし……。
「い、いいよ。仕方ないから」
「可愛いんだからいいじゃない。そしたら宮川君にもシャワー使ってもらったら」
「えっ?!」
「だって彼だって汗掻いたでしょ。シャワー浴びたら、さっぱりするわよ。ちゃんと言うのよ、わかったぁ」
私が階段を上がるまでママは叫んでいた。
ママのテンションはいつもあんなだけど、宮川が来ているといつもより上がるのかも。
ドアの取っ手に手をかけたまま、数秒。
自分の部屋に入るのにまた勇気出さなくちゃならない……。
ガチャッ。
「あっ、ごめん」
ドアが内側から開いて、結構焦る。
「い、あっ、う、ううん。あの、ママが先輩もシャワーどうぞって。すみません。なんかママ、テンション高いみたいで」
「いや、あははっ、参ったね。でもシャワーまで借りたんじゃ悪いでしょ。でもトイレ借りたいんだけどな」
前髪を掻きあげながら言った。
えっ、トイレ?
「あ、あの階段降りたすぐ横です」
「悪いね」
「いえ……う、ううん」
はーっ。
つ、疲れる。
私が部屋に入ろうとすると階段を降りながら宮川が、
「あっ、アリス、かわいいよ。それ似合うじゃねーか」
そう言って、なんか慌ててるみたいに降りて行っちゃった。
ボッ!
言われた言葉が頭の中に反響して、体中が熱くなった。
部屋に入ってペタリと座り込む。
姿見が目の前にあった。
細かい苺柄のピンクのワンピース。
胸にたくさんのリボンが並んでいてフリルもついてる。
こういうのは嫌だと言っても、ママはやっぱり買ってくる。
仕方ないから、休日で外に出ないときだけ着ることにしてる。
それが可愛い服は大嫌いと言って、傷つけてしまったママへのお詫び。
でも何も今日、これじゃなくてもいいじゃない。
今のうちに違う服出して着替えちゃおうかな。
でも戻ってきたらヤバイしなぁ。
はーっ。
しばらくしても宮川は、戻ってこない。
どうしたんだろうと思っているとママが部屋に入ってきた。
「ね、先輩は?」
「あっ、今シャワー使ってもらってる」
「えーーーーっ!!」
「そんな大きな声、出さなくてもいいじゃない」
「ママ、また無理強いしたでしょ」
「そんなことしてないわよ。さっぱりしたほうがいいじゃない。ほら、そんなとこで座り込んでないでこっち来なさい」
「なによ」
「あなたの髪、ドライヤーで乾かしただけでしょ。まったく色気もないったらありゃしない。早く座りなさい。みっともないでしょ」
みっともないか……。
「うん」
クスクスッ。
「なに、ママ?」
「いい影響ね。とってもいいわ」
「なによ!」
「あなたが素直になってるってこと。今までだったら髪なんて触らせてくれなかったでしょ。嫌よ嫌よばっかりで、かわいくなかった。なのに最近とってもかわいいのよ。宮川君の影響ね。いいことだわ」
「なに、言ってんのよ、ママってば」
私は鏡に映る自分から視線を外した。
「宮川君が好き?」
「やめてったら!」
「いいじゃない。まぁ、アリスちゃんは男の子に免疫がないからなんとも言えないけど、でも多分好きになってると思うんだけどな。ママにはそう見える。宮川君、とってもいい子だし、ママ反対しないよ。応援しちゃう。ヘンな男の子にひっかかるより、彼に守ってもらったほうがいいわ。免疫のないあなたのような子はね」
わかったようなこと言わないで。
勝手に決め付けないで。
私が先輩を好きだなんて……。
ドキドキが収まらなかった。
「さぁ、出来上がり。かわいいわよ。食事の用意、手伝って」
「うん」
「そうそう、そのお返事。素直でかわいいわ」
「ママぁ~」
もう、娘で遊ばないでほしいわね。