no.117
部屋に戻ってすぐに夕食が運ばれてきた。
テーブルに一杯になるほどの料理が並べられた。
「すごいね、先輩。こんなにたくさん」
お料理はどれもこれもおいしくて、食べ過ぎてしまうほどだった。
「ほんとにこりゃ、みんなに感謝だな」
「うん!」
食事の後、また温泉に入った。
今度は露天風呂だけにしてさっと上がる。
待たせてばかりでも悪いから。
「あれ、早かったんだな」
「うん。さっきゆっくり入ったからね」
部屋に戻ってきてから、ママたちの部屋に電話をしてみた。
ママたちも食事がすんで今から温泉に行くと言っていた。
「パパはちょっと飲んじゃったから、あとで入るんだって」
「あ~っ、俺も飲めばよかった」
「だ~め。未成年は飲んじゃいけないんだよぉ」
「いーじゃねーか。別に。俺、結構強いんだぜ」
「そういう問題じゃないでしょ」
私はそう言いながら明日着る服をハンガーにかけた。
「先輩、明日着るもの出して。ハンガーにかけといたほうがいいから」
宮川が出した服もかけて……。
「喉渇いたな。アリスはなにか飲むか?」
冷蔵庫を開けた宮川の後ろから覗く。
「うん。ウーロン茶」
「OK!」
宮川はウーロン茶をグラスに注ぐと私に手渡した。
私は椅子に座ってそれを飲む。
コーラを注ぐ音。
シュワシュワと泡の音。
耳にとても響いてきた。
静かになるとこんな音も大きく聞こえる。
なんだかドキドキ。
考えてみれば二人きりなのだ。
前に座った宮川から視線を外に向けた。
もう真っ暗でなにも見えない。
かえってガラスが鏡の役目をして宮川の浴衣姿が目に付いた。
また慌てて視線をそらす。
テーブルの上にあったガイドマップを見つけて、ホッ。
それを手にして見る。
ホテル近辺の観光などが出ていた。
「あっ、先輩、牧場もあるよ。ここ、いいねぇ。パパに言って明日連れていって……きゃっ」
いきなり電気が消えた。
「せ、先輩、先輩!!」
「ここにいるよ。俺が消したの」
「えっ? 真っ暗で怖いよ」
「待って……」
そう言ってテーブルが置いてあるほうの小さな明かりをつけてくれた。
「もぅ、いきなり消さないで、びっくりした!」
「アリス……」
「ん? ちょっ、ちょっと……」
宮川は椅子に座っている私を抱きしめた。
「もう限界……」
「せ、先輩……」
「家でだってずっと我慢してきたんだよ。もういいだろ?」
「えっ、でも、あの……」
ドキドキ。
心臓が爆発しそう。
抱き上げられて布団に連れていかれた。
キスされる。
体が熱くなった。
「クリスマスからずっと……よく我慢できたって自分でも思う。ご褒美をもらわなくちゃな……」
「私はご褒美なの?」
「そう、最高のご褒美……」
首にキス……。
「もらうよ……」
浴衣の帯を引っ張られた。
ドキンッ。
ちょっと怖い、かも……。
「どうしたの? まだ怖い? 震えてる……」
目の前に顔を近づけてじっと見つめられた。
答えられない。
「名前呼んでて。大丈夫、アリスは俺の宝物だから大切だから……優しくしてあげるよ……」
そう言ってキスの嵐が始まる。
ゆっくりと確かめるようなキス。
される度に体温が上がっていくようで……。
でもその熱さの中にいるのが気持ちよくなっていく。
不思議な感覚。
「……基樹……基樹……」
優しく私の体をなでていく大きな手もくちびるも、すべてが基樹のもので、暖かさが伝わってくる。
もう怖くなかった……。
******
目が覚めたのは夜中だった。
まだそんなに眠ってない。
宮川に抱きしめられたままの格好で……。
ふっと思い出して恥ずかしくなる。
でも目の前にある宮川の胸、手のひらをそっと当ててみる。
鼓動が伝わってくる。
「アリス……」
宮川の声がした。
驚いて顔を見るとじっとこちらを見ている。
「えっ、起きてたの?」
「いや、うとうとしてた」
「じゃ、起こしちゃったんだね。ごめんね」
「いや、いい。眠っちまうのはもったいないよな」
「でも、眠くなっちゃう。気持ちいいんだもん。こうしてくっついてると……」
あっ、なんか厭らしいかな……こんなの。
恥ずかしくなって視線を逸らす。
「俺も……。早く結婚したいな。そしたらずっとこうしていられる」
「えっ、ずっと?」
「そう。ずっとずっとアリスを抱きしめていられる」
「うん……」
「アリス……」
「うん?」
「俺、また元気。もう一回ご褒美欲しい」
「えっ……」
「いい?」
「でも……眠いよ……」
「寝てていいよ……」
そ、そんなことできるわけない、でしょ……。
キスされたらもう体中の神経が倍になったような感覚なんだから……。
「アリス……愛してる……」
「ん……私……も……」
私達の息遣い以外ほかに何も聞こえない静かな夜。
熱い吐息が、熱い夜に変えた。