no.116
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それからはあっという間に春休みに突入してしまった。
「ねぇ、あなたたち、確かホテルの宿泊券持ってたわよね」
そういえばクリスマスのダンスパーティーの時に貰ったのがあった。
「はい」
宮川が答える。
「ねぇ、春休み中に行ってきたら。折角あるし、もったいないわ。宮川君もこれから勉強で大変でしょ。その前にちょっとゆっくりってどうかしら?」
「そうですね」
そんな簡単に答えていいのかなぁ。
「そうだ。パパとママも一緒に行っちゃおうかしら。ほらっ、夏休みに入ったらすぐにアメリカに行くことになるし、皆で旅行なんて多分もうしばらくないと思うのよ。同じホテルに予約すればOKじゃない?」
「わぁ、みんなで行くの、楽しそう!」
それなら大賛成!
やっぱり二人きりでっていうのにはまだ抵抗あるしね。
「じゃ、早速いつなら大丈夫かホテルのほうに連絡してみましょう」
宮川が宿泊券を持ってくるとママはさっさと電話をかけて日程を決めてしまう。
「パパは大丈夫なの。ママ」
「大丈夫よ。ママからちゃんと言っておく。それよりアリス、大丈夫よね。この日程で」
「私はいつでもいいけど?」
「ちょっと来て」
いきなりママに手を引っ張られてキッチンに連れて行かれる。
「簡単に答えないの。意味わかってるの?」
「えっ? だって春休みは特に用事ないし、全然大丈夫だよ」
「そういうことじゃなくて、アレ、ぶつからないでしょってことよ」
アレ……?
アレってアレのこと?
ボッ。
「な、なに考えてるの。ママ」
「なにじゃないわよ。部屋は2部屋なの。ママはパパとがいいもの。当然あなたは宮川君と一緒。だから、ね」
「信じられない。ママってば。普通、娘にそういうこと言う?」
「あらぁ、言わないかしら?」
言わないんじゃないの?
「でもママはパパとがいいの。だから……」
「わかったよ。大丈夫だから心配しないでよ。ヘンな心配!」
「よかったぁ」
本当にどういう心配してるのよ、まったく。
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そんなこんなで2泊の旅行。
パパの運転でいざ日光へ。
神社や滝を見たり、湖で遊んだり。
目一杯遊んでホテルへ。
「うわぁ。結構豪華なホテルだね」
貰った宿泊券だから大したところじゃないかなって思ってたのに。
「そうね。素敵なところだわ。楽しみ!」
フロントに行って、部屋に案内される。
「じゃ、また明日の朝ね。アリス」
パパとママは隣の部屋。
私達も部屋に入る。
10畳の和室、窓際にはテーブルと椅子があって……窓からの眺めもいい。
「綺麗だね、先輩。あっ、ほら、湖が見える!」
こうして旅行って初めてなのだ。
多分記憶に残らないほど、昔にはあったかもしれないけれど。
「いいところでよかったな」
「うん。最高。みんなに感謝しなくちゃね」
「そうだな」
来てよかった。
ママたちと別々っていうのがちょっと寂しいけど、でもま、ママたちはママたちで楽しくやるんだろうし。
「アリス、温泉いいみたいだぞ。入ってくるか。まだ食事の時間まであるし」
「うん。食事持ってきてくれるの6時半って言ってたもんね。ゆっくり入れちゃうね」
用意されていた浴衣を宮川が渡してくれた。
二人で最上階にあるお風呂に行く。
「じゃな、出たらここにいるから」
「うん」
温泉温泉~。
そう言えば夏のキャンプで温泉に入ったんだよね。
あの時は温泉どころじゃなかったから。
今日はゆっくり入ろうっと。
何人かもう入っている人がいるようだった。
浴室は結構広くて綺麗。
そこから露天風呂に行けるようになっていた。
そちらもたっぷり楽しんで出る。
ちょっとゆっくり入りすぎちゃったかな。
もう先輩、待ちくたびれてるかも。
『女湯』と大きく書かれたのれんをくぐって出ると小さな休憩所になっていて、竹製の椅子がある。
そこに宮川は座っていた。
始めて見た浴衣姿の宮川に見とれてしまう。
なんだか雰囲気があって、大人みたい。
「アリス」
見とれていると宮川のほうが気がついた。
「ま、待たせちゃってごめんね」
「待つのは慣れてる。ほらっ、ジュース」
手渡されたピーチジュース。
一緒に座って飲んだ。
渇いた喉に甘いピーチの香りが広がった。
「部屋、戻るか」
手を握られる。
そのままエレベーターに乗った。
二人きり。
「アリス、浴衣姿、いい」
そう言ってキスされた。
こんなところで恥ずかしいよ。
体が火照っていた。