no.114
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宮川も宮川で結婚のこと、援助のことを考えているらしい。
二人でいても特に話をするでもなく、本に目をやるけど上の空だった。
ふぅー。
溜め息が出た。
何かやりたい。
それだけじゃ、なんの答えも出ない。
「アリスは結婚するのは嫌か?」
本から視線をそらさずに、宮川が言った。
「えっ?」
「俺と結婚するのは嫌か?」
「そんなことないよ。ただいきなりだから……」
「そうだな」
会話が途切れた。
結婚してなにが変わるだろう。
今までこうして一緒にいて、結婚してもこのままのような気もするし。
なんだか段々気持ちは沈んでいくばかりで……。
「先輩はお医者さんになるんだよね」
「ああ、なりたい」
「沙耶はお花の先生になりたいって」
「へー、そうなのか」
「沖野君もなりたいものが実はあるって。みんな、ちゃんとなりたいものがあるんだよね」
宮川がじっと見つめる。
「で、おまえは?」
「わからない……」
「今まで何かやりたいって思ったことはないのかよ」
「……ない……。あ~~~~~ん、ほんとうにないの。なんで私だけないの。このままなんて嫌だよぉ」
「ちょっとアリス。おまえ、もしかしてそれで悩んでたわけ?」
手にした本を音を立てて、閉じると、宮川は私ににじり寄った。
「うん。だってこのまま先輩と結婚して、先輩はお医者さんになって、沙耶はお花の先生になって、沖野君はバスケの選手になって……私だけ何もないの。そんなの嫌なの。何かしたいの」
「はーっ。俺、なんだか疲れた……」
「えっ?」
「ちょっと来い!」
腕を掴まれてリビングに降りる。
リビングにいたパパとママに宮川はまっすぐ向かう。
「な、なに?」
私は訳がわからなくて、どぎまぎ。
「お父さん、お母さん。アリスを俺にください。アリスと結婚します。それからアリスとできるだけたくさん一緒にいたいです。だから援助もお願いします」
ちょっ、ちょっと先輩!
「そうか。よかった。その答えが聞けて、僕らも安心してアメリカに行けるよ」
「ありがとうございます。それじゃ、俺達、話がまだあるので。アリス、来い」
今度は部屋に連れ戻される。
な、なんなの。
訳わかんないよ。
こんないきなりな展開……。
なんでどんどん決めてっちゃうの?
「座れよ」
「なんで、なんでそんなにどんどん決めていっちゃうの? 私、もう着いていけないよ。周りばっかり動いて、私一人振りまわされて。嫌だよ、こんなのばっかり」
「いいから。座れよ」
ものすごく、ものすごく優しい声だった。
座っている宮川に手を差し伸べられて、体が自然に言うことを聞く。
宮川に肩を抱かれて座った。
「アリス、おまえ、結婚するのが嫌なんじゃない。だだ自分を試したい何かが欲しいだけだろ。つまり将来の夢ってやつ」
「うん……」
「結婚してもそれ以外の何かがないと寂しいわけだろ?」
「うん……」
「俺、アリスが悩んでるみたいで、マジ焦った」
「なんで?」
「結婚すんの、嫌なのかと思って」
「そんなことないよ。私、先輩のことしか見えてないもん。結婚ってまだ考えたことなかったけど、パパに言われて、なんだかそれは全然嫌でもなんでもなくて、そうなるんだって思ってたし。ただいきなりで驚いたけど。でもね、結婚してだだお嫁さんやるのかなって思ったら、なんだかわからなくなって」
「まぁ、実感はわかないしなぁ。で、周りがどんどん動いていくのに、また取り残されたって感じてたわけだよな。みんな、将来の夢持ってて、それに向かってるのに自分だけ流されてるって」
「多分……」
「バカだな。将来の夢なんてそんなに焦らなくていいんだよ。まだアリスは高1だぞ。俺、その頃何も考えてなかった。これからゆっくり考えればいいんだよ。焦ったって答えは出ないよ。それに結婚したからって、夢が持てないわけじゃない。俺、アリスが何かになりたいって言ったって、反対しないよ。ちゃんと応援するから」
「先輩……」
「そういう時のためにできるだけおまえの側にいてやりたい。なんでも話を聞いてやれる二人の時間を持っていたい。俺のプライドなんて簡単に捨てられる。一番大切なのはアリスだから」
抱きしめられた。
「焦るなよ。大丈夫だ。ゆっくり考えろ。自分は何がやりたいか、自分に何があってるのか」
「うん……うん」
そうだよね。
いくら今考えたって、答えは出ないもんね。
周りが急に動き出して、怖かったんだ。
でももう大丈夫。
きっといつか夢が見つかるよね。