no.113
「実はね、夏からアメリカの大学に来て欲しいって話があってね」
「えっ、え~~~~~っ」
それもまたいきなりな話なんだけど!
「僕としてはちょっと興味があってね」
「行かれるんですか?」
宮川が聞いた。
「そうしたいと思ってる。でも行けば4.5年は帰って来れないな」
「だからね、ママも一緒に行こうと思って」
パパの横で笑顔のママ。
「えっえ~~~~っ」
驚きの連続で……。
でも、考えてみると、そうなるとこの家には私と先輩だけになる。
それってヘン?!
「そういうことですか……」
宮川は事の成り行きにも落ち着いた雰囲気だった。
「だからね、安心して行きたいというか……」
「あなた達が夫婦なら一緒に暮らしていて不自然ではないでしょ? もちろん学校にはママたちが報告に行くわ。一緒に暮らすって決まったときと同じ。わざわざ大きく公表することはないけれど、一応報告ってことで」
「それなら一緒に暮らしてるってことがバレても夫婦だからって言える……と」
宮川が言った。
「お父さん、それも口実の一つに過ぎないですよね。俺とアリスを結婚させるっていう。そして結婚すれば息子だから援助ができる。そうすれば俺が少しは楽になれるっていう。ここに引っ越してくる前と同じなんじゃないですか?」
えっ?
そうなの?
「まぁ、待ってくれ。僕は今、援助のことは思いついただけだ。もちろん口実になり得ないとは言わないよ。でもアメリカ行きは以前から出ていた話でね。できたら安心していきたい。結婚なんて紙切れ一枚のことと考えてしまえば意味もないが、でも君達の場合はそういう考え方をしないだろう」
「はい」
宮川はしっかりと頷いた。
「それによって生まれる責任も理解できるはずだ。それなら二人を残していっても、私達は安心していられる。もうおままごとをやっているんじゃないって思えればね。そうじゃないかな?」
そうかもしれない。
結婚っていう二文字はものすごく重たいもん。
「だからママと話していたんだ。できるなら二人を結婚させてやって、そして安心して行きたいねって。そして今、医学部に行きたいって話を聞いた。ならば結婚して息子になるんだから、私が援助してもいいんじゃないかと思ったんだがね」
「すみません。そうですね。俺、今、医者になりたいって初めてお父さんに話したんでした」
「いや、君が色々と考えて、援助されることに遠慮があるのはわかる。でもね、アリスがまたバカな計画だのなんだのって騒ぐ前に直接話しておいたほうがいいと思って思いついたまま言ったんだ。でもそうしてもらったほうが私達はいい」
ふぅー。
バカな計画ねぇ。
思い出したくもない。
「ははっ、それもそうですね。確かにまたアリスが何かやりそうです。お二人がアメリカに行くって話を聞いたら」
「だろう?」
「はい」
「ちょっとぉ、二人して真面目な顔してそういうこと言わないで」
「遠慮があるのはわかる。男のプライドってのがあるのもわかる。でもね、今の私達にはそういうものより何より大切にしてもらいたいものがある」
「……はい……」
「それがわかれば君も私がこういうことを言ったことをわかってもらえると思うんだが」
「……はい……」
「どうだろう。すぐに返事はしなくていい。考えておいてもらいたい。結婚も援助も。もちろんそれぞれ別にだ。結婚しないから援助はしないなどというようなこともないからね。既に君は我が家の一員だから」
「ありがとうございます。少し考えさせてください」
「まだ時間はたっぷりある。じっくり考えて答えを出してくれ」
「はい」
なんだかすごいことになっちゃったなぁ。
結婚なんて全然考えてなかった。
******
翌日学校に行ってもなんだか溜め息ばかり。
「どうしたの、アリス」
「あ、うん、あのね……」
沙耶に昨夜のことを話す。
「結婚?!」
「しーっ、声が大きいよ」
「あっ、ごめん」
「いきなりな展開ねぇ。まぁ、いずれするとは思ったけど……」
「あのねぇ、沙耶……」
「ごめんごめん。茶化してるわけじゃないよ。でも本当にそう思ってたから。でもこんなに早くなんてね」
「私、全然考えてなかった。結婚なんて……」
「ほんと?」
「うん。だってまだ高校生だよ。まだ2年とちょっと残ってる。そしたら大学とか行って……」
「なにか夢とかあるの? 何かなりたいものとか……」
「えっ……」
そう言われて困ってしまった。
いくら考えても答えが出ない。
私って夢がない……。
じゃ、なんの為に大学にいくの?
その前に何科に進むの?
具体的なことが何一つない。
それに気付かされてかなりショックだった。
「あの、沙耶は何かなりたいものってあるの?」
「あるよ、私はお花の先生になるの。一応大学は行くけどね」
あるんだ、沙耶には夢……。
「沖野君は前に色々あったけど、本当はね、ある会社に入りたいみたいなの。そこにはバスケのチームがあって、そこに入りたいらしいのよ。難関らしいけど」
沖野もある、夢。
なんで私にはないの……。
「アリスは?」
ドキッ。
だからないのに……。
どうしよう。
「あっ、アリスは奥さんになるんだからいいんじゃない?」
「えっ?」
「だってお兄ちゃんと結婚しちゃうんだもん。別に働かなくてもいいわけだし、専業主婦よね」
それってなんだか……寂しく思えた。
結婚するのが嫌なんじゃないけど、どうもしっくりこなくて……。
このままただなんとなく過ごして、宮川と結婚してしまう。
何もしないで?
いつもいつも守られるだけで、自分では何もしないままでいいの?
「自分で何かしたい……」
「なによ、それ?」
「何もないなんて嫌だ」
「何もなくないでしょ。奥さんになるの嫌なの?」
「そうじゃなくて……私、自分で何かやりたい。頑張れって言ってもらえるような何かをやりたい」
「訳わからないなぁ」
沙耶が悩んでる。
「私も何がやりたいのかわからない。でも……このままは嫌なの」
自分でもうまく説明できない。
でも何かしたいと思うのは確か。
数日そのことばかりが頭から離れなかった。




