no.110
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そしてとうとう本番。
当日はもう自由登校に入っている3年生は、卒業式の予定などを教室で説明を受けてから体育館に来る。
私はもう準備で走り回っていた。
全員が体育館に揃って、さぁ、始まり!
「3年の先輩方。今日はお越しくださってありがとうございます……」
宮川が司会で、挨拶をする。
その横で私はもう疲れていた。
ほれっと最後にマイクを渡されて……。
「では、皆さん、楽しんでいってくださ~い!」
と言葉を添える。
バタバタとそのあともステージの準備や片付けを手伝っていた。
「アリス、そろそろ教室戻っていいぞ。そっちの準備もあんだろ」
「うん」
とうとう来てしまった。
やらなきゃ、ならないんだよね。
とぼとぼと教室に戻る。
わいのわいの、騒がしい教室に入る。
「あ、アリス、待ってたんだよぉ。猫娘の衣装だけ、まだできてなかったでしょ。着てもらってから丁度いいかどうか見なくちゃならないから、早く着替えて」
「そんじゃ、男子陣は先に行ってんぞー」
「は~い」
男子が教室を出ていく。
「ほらっ、ここでいいからさ」
差し出された服を見て、もう言葉もでない。
なに、この黒タイツ。
「早く。時間ないんだから」
和美も焦っている。
「直す時間なくなっちゃうよ」
既にウサギの衣装を着ている沙耶も言う。
「わかったわよ」
仕方なく着た。
でもなんで私だけこんなのなの~!!
黒のぴったりセーター、黒タイツ。
黒のフェイクファーのパンツに猫耳。
猫の手袋に猫足までつけさせられた。
「きゃ~っ、かっわいい!」
「でも、やっぱりこれ、つけてもらおう」
そういって和美がさかさかっと私に着せたもの……。
黒のフェイクファーでできたブラ?
「うん。これでセクシー!!」
「ちょっとー!!」
「猫耳、落ちない? カチューシャ、動いててずれちゃうと困るし。あっ、大丈夫みたいね」
「ちょっと、和美!!」
「あっ、この猫ちゃん尻尾もかわいいのよ。襟の後ろのところから糸で吊るからね。ほら、ぴ~んと立って。きゃ~、いいわぁ」
ぜんっぜん人の話、聞いてないわね。
「どう? どう? ね、皆~」
「さいこー」
「かっわいい!」
「セクシー」
もうどうにでもなれっ!
「じゃ、みんな行こう。時間ないし」
ぞろぞろと動物達が歩く。
妙な感じ。
舞台裏に行くともう前の出し物が終わったようで片付けをしていた。
「きゃ~っ、アリス、かっわいい! ねっ、宮川君に見せた?」
山内がいつのまにか来て言った。
「見せられません」
「あっ、山内先輩。ちょっとちょっと進行のことで……」
和美がいきなり山内を連れて離れていった。
ふぅ~。
これ以上なんだかんだ言われるのはたまらない。
助かった。
「では、次準備してください」
大里の声がした。
「じゃ、行こう、アリス」
コーラス達がステージに整列して、動物達も出る順番に並ぶ。
幕が上がった。
とりあえず客席に座ってるみんなの顔は見えない。
ステージのライトが明るいから。
「1年A組の『ここに生息する動物達』始まり始まりぃ~」
コーラスが流れ出し、始まった。
順番に動物がステージに出て、色々やってくる。
笑い声が聞こえたり、拍手がおこったり……。
気が遠くなりそう。
でも隣で沙耶が微笑んでくれた。
大丈夫って言ってくれてるんだよね。
やりますよ。
ここまできたらやるしかないもん。
「……続いては~、クラスのかわいい人気者。うさぎと~」
沙耶に手を引かれてステージに出る。
コーラスに合わせて沙耶のリードでなんとかかんとか……。
キリンの沖野が出てきて沙耶が沖野にくっついて……。
二人は仲良く手を繋いで退場。
その後は私の一人芝居。
なにが悲しくてこんなことしなくちゃいけないの。
しかもこの猫足、滑るのよ。
ドキドキじゃない。
「~きりんとうさぎは仲良しこよしぃ~、ひとり残された猫娘~」
コーラスは続く。
泣きまね泣きまね……。
「にゃうにゃう~」
私はこれだけ声に出せばいいんだもんね。
恥をしのんで大声で泣いた。
あとは元気になった猫やればいいのよね。
「~それでも大丈夫。こんなかわいい猫娘、一人にはしませんと~」
あれっ、コーラス違うよ!
と、私はコーラスの方を振り向いた瞬間ツルリッ。
ひぇ~~~~~、みんなの見てる前でコケるぅ~~~っ。
と、思ったらハシッと誰かに支えられた。
セーフ!
「~それはそれは素敵な王子様~」
えっ、なに?
やっぱりコーラス違うよ。
一斉に歓声が上がった。
な、なんなのよ!
「アリス、大丈夫か」
耳元で聞きなれた声。
見上げると宮川がいた。
な、なんでここにいるのよ!!
宮川は舞台の袖に視線を送った。
山内が手を振っていた。
まさか、またやられたの?
「また、やられた……。ったく、もうこうなりゃ」
そう言って、宮川は私を後ろから抱きしめた。
なに、やってるの、ステージの上だよ!
「~これで猫娘は学校一、世界一幸せなのでしたぁ~」
もう、信じられない……。
わぁわぁきゃあきゃあ客席からは聞こえてきた。
客席が暗くて見えないのが唯一の救いか。
でもステージの上の私はもうボーッ。
ライトの熱さと抱きしめられた腕にのぼせていた。
気がつくと幕が降りていた。