no.107
皆で楽しく食事ができた。
やっぱりこういうのがいい。
絶対いい!
「沙耶ちゃん、今度は沖野君も一緒にお食事しましょうね。皆で食べると楽しいわ」
ママがはしゃいで言った。
「はい、ありがとうございます」
「若い人達はパワーが違うわね。とっても素敵よ、あなたたち」
「一番パワーがあるのはアリスですよ」
宮川が笑って言う。
皆が笑顔で食卓を囲んでいる。
幸せな時……。
シャワーを浴びた後、3人で私のアルバムを見た。
「なんだよー、おまえ、ホントにかわいくねー」
「えっ、でもほら、小さい頃のはすっごく可愛い。このピンクの服なんかとっても似合ってるし笑ってる」
沙耶が1枚の写真を指差した。
幼稚園の年中まではフリフリ着せられてたもんね。
それ以降のものはぜんっぜんかわいくないかも。
「ね、ね、ほら、これもかっわいい! 見て、お兄ちゃん、かわいいアリス!」
な、なんか恥ずかしいな。
「もういいよ」
えっ?
「そっか。お兄ちゃんは今のアリスが一番いいんだもんね。この~っ」
「うっせー」
「あははっ、照れてるぅ」
元気な沙耶がいる。
本当によかった。
やっぱり元気な沙耶がいいよ。
なんだか嬉しくて涙が出てきた。
「おいっ、何、泣いてんだよ」
「あ、アリス、どうしたの?」
「だって、だって嬉しいんだもん。沙耶が元気で笑ってる。先輩もいつもの先輩だもん」
「ったく、すぐ泣く。ほれっ」
そう言って宮川は抱きしめてくれた。
「いいねぇ、アリス。いっつもそうやって抱きしめてもらえて。お兄ちゃんもアリスのことになるとマメだね」
「ほっとけっ」
「はいはい、そういうことは二人でやってね。お兄ちゃんの部屋で」
そう言って押されて立つ。
「でもあんまり激しくしないでよ。私、一人寂しいんだから」
「ヴァーカ言ってんじゃねーよ」
「はいはい、おやすみなさ~い」
結局部屋を追い出されてしまって、宮川の部屋に移動。
「ったく、沙耶の奴……」
「沙耶、幸せなんだよね」
「だろ? あんだけきゃらきゃらしてりゃ」
「よかった……」
私は宮川に抱きついていた。
「本当に感謝してるよ。アリス……」
宮川は私の頭を抱きしめた。
「私、本当に何もしてないんだよ……」
自分で不思議で仕方なかった。
本当に叫んできただけなんだもの。
「あっ、でもお母さんの写真見せたの。この人と沙耶と先輩と笑ってた時が一番幸せだったはずだぁ~って」
「それで?」
「えっとね、あとは……今世界一不幸だぁ~っ。みんなの気持ちわかって笑ってやらなかったら、みんなも笑ってくれない……とか……いつか本当にひとりになっちゃうよ~っとか……」
「あはははっ、そりゃ、なんとも……」
「でも、そんなんで本当に気持ちが変わる?」
「さぁな、おまえが言った言葉の中にあいつを動かす何かがあったのは確かだろうね。見たかったなぁ~」
「もぅ、怖かったんだからね」
「散々喚いてきて?」
「それでも怖かったの……」
「ごめんな、アリス。もうこんな思いさせないから」
「ホントだよ?」
「ああ」
宮川の肩に寄りかかるようにしてボーッ。
とにかくよかった。
「あ~~~っ」
「なんだよ」
「ね、佐々木さんって見た目怖い人に見えるけどさぁ、本当はいい人でしょ」
「……?」
「だってね、送ってくれる車の中でなんだか優しく感じた。運転してたからよくわからないけど、でも声がなんとなく、怖い人に思えなかったんだよね」
「それって後ろから見てたからじゃないの?」
「そんなことないよ。絶対優しい人だよ」
「まぁ、嫌な奴ではないな。多少強引だけど……」
「それは先輩も一緒!」
「おいおいっ」
あはははっ。
きゃはははっ。
「あっ、沙耶に悪いね、こんなに笑ってたら」
「いーんじゃねーの。おまえが笑ってたらあいつもほっとするだろ」
「そうかな……」
「迷惑かけたって結構気にしてたから、おまえは笑ってたらいいの。それよりもう寝ようぜ」
「そうだね、明日も学校だもんね」
「俺、今日は我慢できそうにないんだけど……だめ?」
「だめっ!!」
「そんなはっきりゆーなよ」
「ダメったらダメ!!」
「わーったよ、フン!」
ふてくされて布団に入ってしまった宮川。
私はベッドの明かりを先につけて部屋の電気を消した。
これで今日は躓かずにすむもんね。
完璧!
と、思ったら、足元のクッションに躓いて、思いっきりベッドに倒れこんだ。
「いってーな、なにしてんだよ」
「ご、ごめんなさい……」
しっかり宮川の上に乗っていた。
「まったくおまえは」
「……いたい……いちゃ……」
「えっ、どこ?」
思いっきり転んだ拍子にかかとがテーブルに当たっていた。
「ぐしっ、いちゃあ~っ」
「どこだよ!」
「右足のかかとぉ~~っ」
「ほれっ、見せてみろ」
そう言ってベッドに引き上げてくれた。
「ちょっとうつぶせになってくんない?」
「う、うん……」
うつぶせになって右足を掴まれた。
カーッ。
ちょっと恥ずかしい。
「ああ、ここか。大したことねーよ」
「いちゃいも~ん、ふぇっ」
「んじゃ、治しましょう」
ひゃ~~~~~~~っ、なにしてんのぉ~~~~~~っ。
柔らかくて暖かいものが触れていた。
見ればかかとにキスしてる。
うっうそ~~~っ。
私はパタリと枕に頭を落とした。
う゛~~~っ、は、離してぇ。
「も、もう……いた……く……ない……はなし……て……」
こんなんで気がヘンになりそうなんて恥ずかしいよぉ。
「だめ、痛いんだろ」
痛くない、痛くない!
私は首をフルフルした。
ストンと足を離されて今度は上から覆いかぶさって来た。
「もぅ、なんでそーゆーこといきなりするのよっ」
「しーっ」
首筋にキスされた。
またぁ~~~~~っ。
体が熱くなる。
もう離して……。
でもなかなか離してくれない。
「やだ、もうだめだから……」
やっと離してくれた。
キスされた首筋がじりじり痛かった。
かかとより痛いじゃないよぉ。
「はははっ、おまえってかわいいっ」
「もう知らない。寝るからね」
布団をバサッと被ってしまう。
「ありがとうな、本当に」
もういいのに。
「おやすみ、アリス」
優しい声が聞こえてなんだか眠くなった。
たくさんのことがあり過ぎて疲れちゃった。
眠い……。