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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
105/156

no.105

 コンコン。

「社長、お連れしました」


「入れ」

 中から声がして佐々木は私を押すようにして中に入れた。


「おまえは呼ぶまでそこで待っていろ」

 後ろでドアが閉じた。


 目の前にばーんと立派な机があって、その向こうに座っていたのは沙耶のパパだった。

 忘れもしないくそ親父!


「なんのご用ですか。こんなことして」

「これを受け取れ!」


 はぁ~。

 机の上にパンッと封筒を置いた。

 わけわからない。


「手切れ金だ。基樹と別れろ。あいつはおまえなんかと一緒になるやつじゃない」

「勝手なこと言わないで。そんなものいらないわよ!」


 人の言ってることを無視して、ドアの外にいる佐々木を呼んだ。

「家に帰せ。これを持たせろ」


 こんのぉ~。

 怒り爆発!


「ふざけんな、このくそ親父! 沙耶も先輩もあんたの道具じゃないって言ってんでしょ! いい加減にしなさいよ」

「うるさい!」


「なんでわかろうとしないのよ。そんなに会社が大事なの? 会社だけなの? そんなはずない! もっと大切なものあるはずだぁ~!」


 後ろから佐々木に押さえられた。

 でも言わなくちゃ。


「離して下さい。離しなさいっ!!」

 叫んだら離してくれた。

 結構簡単に……。


 私はつかつかと机の前に行った。

 ポケットから1枚の写真を出す。

 宮川からもらったお母さんの写真。


「この人がどんなにあんたを好きだったか思い出しなさいよ。あんただって好きだったはずよ。先輩のことも沙耶のことも愛してたはずよ。いくら会社が大きくなったって、今のあんたは世界一不幸よ。家族がみんな笑っていられたころが一番幸せだったはずなんだから」


 涙が出てきた。

 でもまだ話さなきゃ。


「笑って、笑ってもらって、それが幸せだったはずだよ。今、あんたの周りに笑ってくれる人はいる? 一人もいないはずよ! あんたがみんなの気持ちわかって笑ってやらなかったら、誰もあんたに笑ったりしない!! こんなんじゃ、誰もあんたに笑ったりしないのよ!! それでも会社が大事? みんなが幸せに笑って会社も大切にすることだってできるはずじゃないの……」


 目の前で親父は何も言わない。

 腕組をしたまま、窓の外に視線をなげている。


「できるはずだよ。沙耶のパパだもん。優しい沙耶のパパだもん。優しい先輩のお父さんだもん。……素敵な人、愛してた人だもん!……みんなに笑ってもらって、それで会社もうまくやっていけるはずだよ。こんな汚い手使わないで、みんなに笑ってもらうこと考えなよ。じゃないと本当に一人になっちゃうよ。みんな傷つくだけで、バラバラになって、一人になっちゃうよ!!」


「佐々木!! 連れていけ」

 とうとう佐々木に押さえられてしまった。


 佐々木は私を押さえたまま、机の封筒を掴んだ。

「ちょっと写真も返して。私の大切な人なんだから。先輩のお母さんなんだから!」


 佐々木がその写真も一緒に手にすると私を連れて車に戻る。

 放りこまれるようにして乗せられた。


 ここまで言われてもまだわからないのかな、あの人には。

 それとも私なんかじゃ、話にならないと思われてるかな。


 後部座席に私と一緒に放り投げられた封筒と写真。

 私は動き出した車の中で写真を見つめて泣いた。


「社長の言うことは絶対です。聞いておいたほうがいい」

 ボソッと佐々木が言った。


「言うことなんて聞けるわけない……」

「あなた、何されるかわかりませんよ」


「私はどうでもいい。でも沙耶や先輩は会社の道具になんてさせない。二人とも私の大切な人だから……」

「……あなたは綺麗な心を持ってますね……」


 意外な言葉。

 そして見た目には似つかわしくない丁寧なしゃべり方。


「そんなことないよ。私、あの人を沙耶と先輩のお父さんを憎いって思ってる。こんな風に人を憎むのって始めて。嫌だよ、こんな醜いの……」


 何、言ってるんだろう、私。

 こんな怖い人相手に。


 でもさっきからなんだか声が優しい。

 もしかしたら見た目ほど悪い人じゃないのかも。


 あっという間に家に着いた。

 ドアを開けられて降りて。


「これを持っていってください」

 封筒を差し出された。


「いらない。そんなもの」

「しかし置いて行かれると私が困る」


 そうか。

 怒られちゃうね、この人も。


 結局、封筒を預かって私は家に入った。

 気がついて出てきたママ。


「あらっ、アリスちゃん。どうしたの、こんなに早く」

「なんでもない……」


 私は部屋に入ってしまった。

 封筒を机の上に置く。


 握られていた写真。

 端が折れちゃった。

 それを伸ばしながらまた涙が出た。


「お母さん、どうしたらいいんですか? 私、どうしたら……」

 苦しかった。

 なんの力もない自分が悔しかった。


 しばらくして落ち着いて時計を見る。

 まだ午後の授業、終わってないかな。

 沙耶、心配してるかも。


 そんなことをぼんやり考えていると、

「アリス!」


 宮川の声がした。

 ドアが開く。


「どうしたの? まだ授業終わってないでしょ」

「沙耶がおまえがいないって。担任に聞いたら佐々木に連れてかれたって言うから」


 ふぅー。

 宮川は大きく息を吐いてドサリと座った。


「なにもされてないか?」

 心配して帰ってきてくれたんだ。


「ごめんね、心配させて。大丈夫だよ。なにもされてない。ただ、これ、お父さんから渡された」

 そういって封筒を差し出した。


「なんだよ、これ」

「手切れ金だって……」


 そう言って胸が苦しくなった。

 嫌な言葉。


「くそっ! どこまで腐っていやがるんだっ」

 そんな怖い顔しないでっ。

 私は宮川に抱きついた。


「おまえにもうこんな思いはさせないから。ごめん、アリス」

「ううん、私は大丈夫。でも……でも……」


 どうしたらいいの。

 このままじゃ、絡まった鎖は解けない。

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