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ありす☆らぶ  作者: 湖森姫綺
103/156

no.103

 宮川は立って本棚の一番下からアルバムを出してきた。

 それを私に手渡す。

 先輩のアルバム……。


「見ていいの?」

「ああ」

 私は最初を開く。


『命名 基樹』

 立派な字で書かれていた。


 赤ちゃんだった宮川がいた。

 ちゃんとお父さんとお母さんと一緒に写っている写真。


 普通、離婚とかしちゃうと片親の写真とかしか残ってないっていうけど、ちゃんと二人が写ってる。

 しかも幸せそうな……。


「ヘンだろ。産まれたときからの写真、全部ちゃんととってあるんだ。お袋と二人になってからのは少ないんだけどさ。その前の写真は結構ある」


 本当に毎日撮ってたんじゃないかって思うほどたくさんあった。

 七五三・入学式……ちゃんとお父さんとお母さんが一緒だね。


 小さな沙耶もいる。

 こんな風に幸せだったのに、どうして……。


 お母さんが一人で写っている写真が一枚張られずに挟まっていた。

 それを手にとってみる。


 肩より少し長めの艶のある髪。

 優しい目元。

 とっても綺麗。

 さすが先輩のお母さん。


「きれいな人だね」

 フェミニンな花柄のワンピースがよく似合ってて、優しそう。


 そのあと、しばらく写真を見ながら、運動会の写真だの、なんの写真だのと話した。

 アルバムを閉じた。


 先輩の子供の頃。

 小学校に入ってからはお父さんが写った写真は入っていなかった。

 中学の写真はない。


 私のアルバムには写真がたくさんある。

 パパやママが可愛げのない私でもせっせと撮っていたから。


 なのに……。

 涙が出そうになってアルバムを先輩に返す。


「ありがとう、先輩」

「いや……これ、おまえにやる」

 そう言って、さっき見たお母さんの写真を差し出した。


「でも、これ大切なお母さんの写真でしょ?」

「だから、やる」


 いいのかな、でも先輩のお母さん。

 会うことができなかった。


 会ってたくさん先輩のこと聞きたかった。

 この写真でいいから、話しよう。

 私は頷いて写真をもらうことにした。


 お母さんが生きていたら、こんな状況にならなかったかな。

 沙耶だって、色々相談できたかもしれない。

 先輩も……。


 私なんか何もできなくて……。

 なんで死んじゃったの……。


「私……何もしてあげられない。沙耶にも先輩にも……」

「沙耶はこうして世話になってんだろ。沙耶が行くところなくて、一番におまえのところに来たんだ。それでいいじゃないか」


「うん。でも先輩には何もしてあげられない」

「俺はこんなこと、なんとも思っちゃいねーよ。寝るぞ」


 そう言ってベッドに入ってしまった。

 私は電気を消してくると戻ろうとして躓く。


「いちちっ」

「ブァーカ、気をつけろっ」

 そう言いながらベッドの明かりを着けてくれた。


「ほれっ、おまえもさっさと入って寝ろ」

「うん」


 宮川の持ち上げてくれた布団の中に滑り込む。

 枕元の明かりに照らし出された宮川の顔がひどく寂しく見えた。


 なんともないわけないじゃない。

 平気なわけないじゃない。


 私はそっと宮川にキスした。

「早く傷ついた心が元気になりますように……」


 そう言ってもう一度キスする。

「おやすみなさい」


 布団に頭までもぐりこむ。

 思わずやっておいてやっぱり恥ずかしい。


「ありがとっ、アリス。もう治った」


 んなわけないでしょー、まったく。

 調子いいんだから。

 こっちがこんなに悲しくなってるのに……。


「でももうちょっとしてもらいてー」

「調子に乗らないの」


 顔を出したところを上から押さえられた。

 宮川の顔が近づく。


「先輩、ダメだよ。沙耶が隣にいる」

「挑発したの、おまえだろ」


「そーじゃないよ、だめだってば」

 額にキスされる。


「わかってるよ、キスだけ。でも名前読んで欲しい」

 頬に……。


「名前、読んで」

「……基樹……」


「もうとまんねー」

「ばっ、ばっ、ちょっと……」


 既にパジャマのボタン外し始めてる。

「ちょっと……だ、め……」


 体が熱くなって……でも、今日……。

「わかってるから。上だけ……だから……」


 パジャマの上を脱がされて、宮川も上、裸になっちゃった。

 キスが続いて、やっぱりヘンになりそう。

 抱きしめられた。


「こうして寝たい」

「わかった。でも早く起きてね。バレるのやだよ」


「うん、アリス、愛してる」

「私も基樹……」


 二人、抱きしめあって眠った。

 やっぱり肌って気持ちいいね。


 私には何もできない。

 ただ側にいてあげるだけ。

 抱きしめてあげるだけ……それだけしか……。

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