no.102
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沙耶を交えて夕食をする。
ママは沙耶が来ていることが嬉しいようだったけれど、はしゃぎ過ぎないように気を遣っているようでもあった。
「沙耶、私のベッド使って。ゆっくり眠って。いろいろ考えなくちゃいけないことあると思うけど、焦らないで。そんな簡単に解決できることじゃないし。とりあえずゆっくり寝て、明日一緒に学校行こう、ね」
「うん。あっ、でもベッドはいいよ、アリス。私、悪いし」
「いいの。私、下で寝るから」
コンコン。
「俺、入っていい?」
「どうぞ」
宮川が入ってきた。
「お兄ちゃん、ごめんね。色々と」
「いや、別にいいけど。大丈夫か、おまえ」
やっぱり気になってるんだよね。
もう守ってやるのは俺じゃないとか言って。
「うん。なんか優しくされて泣けちゃうね。アリスにも今、ベッド使っていいよなんて言われて……」
「沙耶……、私にできることならなんでもするよ。だから……」
「ありがとう、アリス」
「うん」
「そんじゃ、アリスは俺んとこで寝ろ」
「へっ?」
「えっ?」
沙耶と二人で宮川を見てしまった。
「あっ、いや、わざわざ布団敷くのもなんだしよ。あっ、でも二人でしゃべりてーか。まっどっちでもいいけど、明日学校だしよ、ちゃんと寝ねーとな。じゃな」
そう言って宮川は出ていってしまった。
はー。
なんだかなぁ、私はどうすればいいの。
沙耶も辛い時だし、先輩だって平気な顔してるけど、本当は辛いはずだし……。
「ねっ、アリス、もしかしてもうお兄ちゃんと……」
「えっ?」
「お兄ちゃんといくとこまでいった?」
ボッ。
い、いきなりそういうこと聞かないで欲しい。
「あ、あの……」
「やだ、アリスってすぐ顔に出る。真っ赤だよ」
沙耶がやっと笑った。
「沙耶があんなクリスマスプレゼント用意するからだよ」
「あははっ、もしかしてあれ、着たとか?」
「う、うん」
「うっそー」
「だって着ろってゆーんだもん」
「えっ、お兄ちゃんが? やだぁ、お兄ちゃんってエッチ!」
「でしょ、でしょ? 恥ずかしかったんだからねー」
「で、いつ?」
「へっ?」
「だから、いつそうなったの?」
「えっと、あの、イブの……」
「そっかぁ、だから初詣の時、大人っぽく見えたんだぁ」
「そんな……」
「あの時、なんか変わったなぁって思ったの。はずれじゃなかったんだね。雰囲気っていうか、なんとなく違うなぁって」
「そんなわかるの?」
「うん。毎日見てたんだからわかるよ。よかった。ちゃんと幸せでいてくれて」
「沙耶が言った通りだね。ちゃんと変われるって言ったでしょ。そういう時が来るように変われるって」
「そうだね」
「沙耶も変われると思うよ。……っていうか、きっと沙耶と沖野君、そしてお父さん。みんな変われると思うよ。すぐは無理かもしれないけど、きっと変われると思うよ。ずっとこのままなわけないもん」
「うん。変われたらいいね。本当に……」
「もう寝たほうがいいよ。沙耶。疲れちゃったでしょ。私、どうしたらいい? 一緒にいようか?」
「ごめんね、今夜は一人がいいかも……」
「わかった。じゃ、ゆっくりね。あまり思いつめないで」
「ありがとう、アリス」
「おやすみなさい」
私は宮川の部屋に行った。
コンコン。
「あの、いい?」
ドアを開けるとベッドに腰掛けてこちらを見ている宮川。
「入れよ」
「ごめんね。あの、沙耶、やっぱり一人がいいって」
「こっち来て座れ」
「うん」
隣に座ったものの、なにを話していいのかわからない。
今日は本、読んでないんだね。
きっと先輩も辛い思いしたんだよね。
こんなとき、本なんて読めないよね。
私は宮川の腕に抱きついた。
「ねぇ、先輩。先輩のお母さんってどんな人?」
ものすごく唐突だったと思う。
でもなんだか知りたくなったんだ。
会社がお父さんを変えたっていった人。
そうなる前は愛し合ってたってことだよね。
そんなお母さんってどんな人だろうって。
「ご、ごめんね。あの……」
やっぱり今、こんなこと聞くのヘンだと思って慌てて言ったものの……。