no.10
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お昼は沙耶と一緒に食べた。
「あれっ、アリス。朝持ってたうさちゃんのタオルは?」
ドキッ!
「あれ、かわいかったのに」
「えっ、う、うん……」
ひゃ~~~っ、ドキドキだよぉ。
「お~い、おまえらここで食べてたのか」
ぎゃ~~~っ。
横から、顔出さないで。
後ろから突然現れないで!!
「あ~~~~~~っ!!」
目の前にいた沙耶が私のほうを指差して大声を出した。
な、なに?!
「なんでアリスのうさちゃんタオル、お兄ちゃんが使ってんのよ!」
えっ?
と、振り返ってみると真横にあった宮川の首に私のタオルがかかっていた。
タオルの片側に刺繍されたうさぎは、どこから見たって、今朝持っていた私のタオル……。
「なんで、なんで?」
「なんでって取り替えたんだよな、アリス」
ひょえ~~~。
だからそういうこと平然と言わないでよぉ。
「へぇ~、へぇ~、へぇ~」
沙耶ってば冷やかしてる。
ううっ。
「なんだよ、沙耶。いーじゃねえか。このうさぎ、気に入ったんだから。ところでアリス、ペアの得点表は? 今のうち、わかるとこまで計算しといたほうがいいと思ってよ」
私は飛ばされないように、乗せておいた袋をよけて得点表を差し出した。
「なんだ、もう計算してあんのか」
「時間のあるときにしておきました」
「さっすが、アリス。んじゃ、大丈夫だな。あんまり食いすぎんなよ、沙耶。午後、動けなくなるぞ!」
「や~ん、お兄ちゃんのバカぁ」
走り去っていく宮川に甘ったれた声で沙耶は叫んだ。
羨ましいな。
そんな感情が沸いたのもはじめてだった。
「でぇ~、アリス。お兄ちゃんと何かあったの?」
「えっ?」
「ね、ね、白状しなさいよぉ」
中腰になって迫ってくる沙耶。
「な、なにも別にな、ないよ」
「ふぅ~ん。なにもないわけないでしょ。態度でバレバレよ。でもまっ、いいわ。あとで教えてね」
なんでこんなにアセアセなことばっかり起きるの。
心臓にほんと悪いよぉ。
「お兄ちゃんってさ、結構付き合ってる女とか多いって噂あるでしょ。あれね、嘘じゃないよ」
えっ、ホントなの?
「だけどね、意味が違うんだ。モテるのは事実。で付き合ってくださいとか言われたりしちゃうじゃない。でもお兄ちゃんからしてみれば、相手のことなんて全然わかんないわけじゃない」
そ、そりゃそうだよね。
「それでとりあえず1日、付き合うの。で本当に付き合うかどうか決めるって。結局未だに本当に付き合う相手が現れないらしいけどね」
「じゃ、みんな1日付き合って、それでおしまい?」
「そういうこと。思わせぶりでなんだか嫌だなって思ったんだけど、お兄ちゃんから言わせると、相手のこと何も知らないで返事をするほうが失礼だって。簡単にノーって言ったら傷つけるし、かといってOKしてもまるで相手の外側で選んだみたいだから、なんだって」
そんなことまで考えてたんだ。
ただの女好きってことじゃないんだ。
「噂なんて歪んで広がるもんだよね。お調子者っていうのはそのまんまだけど、ね」
二人で笑ってしまった。
でもそこまで考えて返事をする人がどのくらいいるだろう。
生真面目なのか、いい加減なのか、なんだか難しいな。
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花火がなって、午後の部が始まった。
午後は先生方もペアを組んで競技に参加。
みんな大騒ぎで応援したり、お腹抱えて笑ったり、本当に心底楽しい体育祭だった。
「おい、計算、間に合うか?」
最後の競技が終わって、校長の話が始まったところだった。
「うん、あとちょっとです」
私は計算機片手に、必死で合計を出している。
「1年、2年は出てるのか。じゃ、こっちのは……このペアとこのペアだな。最高点」
「3年のできました」
「よし、えっとここだ。OK、間に合ったな、ご苦労さん。ほれ、これやるよ」
ポンとテーブルに置かれたのは、冷えた缶ジュースだった。
「休む暇なかったろ。あとはこれ発表やっとくから、おまえは終わるまで休め」
「大丈夫です。先輩こそ、今日一日、走り回って疲れたでしょ。休んでください」
「俺は男なの。こんなもんで疲れてたらしゃーないだろ。じゃ、これ預かってくからな」
みんなテントの前で整列して校長の話聞いてるのに、私だけ飲めないよねぇ。
丸見え。
でも嬉しかった。