巨万の富
ライトノベル作家がいた。歳は三十代そこそこといった所。出した作品は一冊だけだったが、その一冊で彼は巨万の富を手に入れた。
作品が大ヒットしたのも理由だが、彼は特許を取っていたのだ。
『異世界冒険譚』の特許。
異世界冒険譚はこの世で初めて、彼が書いたジャンルである。彼が書いた小説は、
『ごく普通の高校生の青年が、異世界に召喚され世界を救う。』
という、今では使い古された何の珍しさもない話ではあるが、そんな事はあまり関係ない。
先駆者である彼は特許を取っている為、他の作者が異世界冒険譚を書こうとしても、彼に使用料を支払わなければならない。
主人公が魔王だろうが女戦士であろうが、異世界が出てくる時点で支払い義務は発生する。
彼は独り言を呟いた。
「皆が異世界冒険譚を書いてくれるので、お金に困る事がない。良い時代になったものだ。」