94.未来へ
六月最後の金曜日。
瀬戸川中学に通う最後の日。
帰りのホームルームで、明石先生が俺の転校を説明した。
親しくなった友達には、もう言ってあったし、他の奴らは、空気な俺が、居ても居なくても同じだから、反応は薄かった。
須磨春花の弁当も今日で最後だ。
今日は、姉ちゃんと二人でお隣に行って、厚くお礼を述べた。
帰り際、須磨春花に名刺サイズの可愛いカードを渡された。
携帯のアドレスが書いてある。向こうでの生活が落ち着いたら、必ずメールすると約束して、須磨家を出る。
そのまま家に帰らず、Ova‐avisに行った。
「長い間貸して下さって、ありがとうございました」
「お役に立てたみたいで、良かったよ」
「あの……ウチの祖母のお知り合いなんですか? 墓参り……」
これが最後のチャンスっぽいから、気になっていたことを聞いてみた。
「あぁ、それね。私は知り合いじゃないけど、君たちのことがとても心配で、成仏出来てないみたいでね。頼まれたんだよ」
えーっと、それはつまり、ホットリーディングって奴ですか?
祖母ちゃんの幽霊から色々聞いて、占いじゃなかった……?
いや、でも、霊感スゲー!
明日、家族三人でお墓参りに行こう。
姉ちゃんは、三千円で新しい名前を鑑定してもらった。
爺さんは、鑑定書を書きながらニコニコしていた。
「うん。元の名前はあんまり良くなかったけど、新しい名前はいい名前だよ。幸せが撓に実る枝……良い名だ」
俺は、最後にもう一度、体力モードで腕環を身に着けた。
巴先生から服をもらったことを説明して、姉ちゃんと二人でお礼を言う。
「デーレヴォ、短い間だったけど楽しかった。いっぱい助けてくれて、ありがとう」
「妹ができたみたいで、楽しかった。ヘンなこと手伝わせちゃって、ごめんね」
デーレヴォが、爺さんを見て首を傾げる。
爺さんは黙って頷いた。
「どういたしまして」
腕環のゴーレムが、俺たちに向き直ってにっこり微笑む。銀色の瞳が潤んでいた。
「バイバイ」
「……ありがとう。さようなら」
姉ちゃんが小さく手を振り、俺はもう一度、お礼を言って腕環を外した。
デーレヴォの形が揺らぎ、寂しそうな微笑みが、靄になって消える。
その眼から透きとおる滴が、ひとつ零れた。灯を受けてキラキラと光り、カウンターに落ちて弾けた。
腕環と五百円玉が交換され、正式にレンタルが終了した。
「幸助君も、幸枝さんも、元気でな」
「はい」
「大変お世話になり、ありがとうございました」
姉ちゃんと俺は、何度も頭を下げて店を出た。
大勢の人に助けられて勝ち取った、新しい可能性。
自分自身の為、助けてくれた人達の恩に報いる為……
誰かの幸せを手助けして、自分も善意の助けを素直に受ける……
幸助の名に恥じないように、生きて行きたい。
これから、この新しい名前で、新しい人生が始まる。
児童虐待事件の執行猶予判決を見る度に、疑問に思っていたことを小説にしてみました。
ファンタジーにかこつけて、何か別のことを言おうとしている話です。
この作品はフィクションであり、実在の個人・団体・キラキラネーム等とは無関係です。
本当にキャラと同名の方がいらっしゃったら、すみません。フィクションです。
このくらいわかりやすいご家庭なら、親戚もご近所さんも警察も行政も介入しやすくて、救助率は却って高いんじゃないかと思ったりもしますが……
「74.束の間」「75.掲示板」のまとめサイトはフィクションです。実在するサイト、掲示板等とは一切関係ありません。
このお話はフィクションですが、「名の変更許可申立」は、実在する手続きです。
友田姉弟同様、「虐待親に付けられた珍妙な名前で、その名で呼ばれることが苦痛である」と言うのも、変更理由として認められます。
満15歳以上なら、家庭裁判所に行き、自分で手続きすることも可能です。詳細は、最寄りの家庭裁判所で調べて下さい。
経済的に自立して、親と縁を切り、逃げ切ってから変更することをお勧めします。
R15にしたのは、実はこれがメインの理由だったりします。




