90.後始末
銀の腕環を持って、占い師の爺さんの店Ova‐avisに行った。
爺さんは、相変わらずニコニコして「まだ、お母さんに会う機会があるみたいだから、念の為に持ってていいよ。引越しの前の日に返してくれればいいから」と、言ってくれた。
オカンが敵とか、一言も言ってないのに、この人、マジ凄ぇ。
俺は、その言葉に甘えて、もう暫くデーレヴォを手元に置かせてもらうことにした。
家に帰っても、誰にも脅かされることなく、平穏に過ごせている。
父ちゃんと親戚みんなが、俺たちを守ってくれる味方。
近所の人たちは、姉ちゃんと俺を見守ってくれていた。
ほぼ接点のない校務員さんも、気にかけてくれていた。
暴力も、暴言もない。
ただ、それだけの日々が、こんなに幸せだとは、知らなかった。
家事の負担が前と同じでも、全然苦にならない。
寧ろ、俺たちの家を自分でちゃんと管理している実感が湧いて、充実した気分だ。
いい思い出はなかったけど、もうすぐ、この家ともお別れだ。
それまで大切にしよう。
テーブルは、警察に確認してから捨てた。
オカンの持ち物は、もう何も残っていない。
義一伯父さんが、売れる物は全部売って、残りは捨てた。そのお金でカード利用額の残高を繰上げ払いした。
オカンは、クレジットカードを毎月一万円払いのリボルビングで使っていて、限度額いっぱいまで、キャッシングもしていた。
オカンに巻き上げられていた俺たち姉弟の貯金とお年玉、姉ちゃんのバイト代も、花隈家が、田んぼや畑を売って、一括で返してくれた。
前から欲しがっていた会社が買って、工場を建てるらしい。
父ちゃんは、浮気相手の龍寿にも慰謝料を請求して、こちらも龍寿の実家が払った。
バカな身内が居ると、尻拭いが大変だ。
オカンがカードで作った借金は、利息が雪だるま式に膨らんでいて、持ち物を売っただけでは返済しきれず、離婚成立後に自己破産させられるらしい。
自己破産すると、裁判所の許可がないと引越せなくなって、公認会計士とかの資格が要る仕事や、保険の勧誘員とかはできなくなる。
信用情報が更新されるまで、七年はローンが組めず、クレジットカードも作れなくなって、新しい借金ができなくなる。
今までのオカンは、生活費や子供の金まで使い込んで、更に借金までして、帝都で派手に遊び歩く生活をしていた。
これからのオカンは、何もかも取り上げられて、過疎地の実家で、家業の農業を手伝う地味な生活をする事になる。
まともな神経の働き者なら、当たり前の地に足のついた普通の暮らしだ。
浪費家で怠け者のオカンにとっては、この世の地獄みたいなもんだろう。
運転免許を持ってないオカンは、周囲に田んぼと畑しかない実家からは、まず逃げられない。
裁判の日だけは、帝都に出てくるけど、そのまま逃げないように、義一伯父さんと礼二伯父さんが、ガッチリ捕まえている。
裁判所で見たオカンは、別人のようにボロボロになっていた。
地味な服を着せられて、化粧もしていなかったから、もしかすると、これが四十四歳と言う年相応の、素の状態なのかもしれない。
目だけが異様にギラギラしていて、不気味だった。




