表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第02章.日常
9/95

09.家計簿

 帰ってすぐ、冷蔵庫内の所定の位置に隠された封筒を出し、中身を確かめる。


 三千円也。


 これで、家族四人、一週間分の食材を調達するのか……


 まぁ、どうせクソ兄貴は彼女の所に入り浸りで、オカンはどっか行ってる。

 朝以外は、姉ちゃんと二人分だけだし、毎回なんとかなっていた。


 オカンは家計簿をつけない。

 なのに、俺達のおつかいチェックは、やたら厳しかった。毎回、レシートと釣銭を提出させて、電卓で計算する。


 完全に姉ちゃんと俺を泥棒扱い。

 買物の内容ではなく、お釣りを盗んでいないか、調べているだけだ。


 クソ兄貴は小学生の頃、コンビニとかで万引きして、何度も捕まっていたが、姉ちゃんと俺は、泥棒なんて一回たりとも、したことがない。

 「創歌瑠(そうる)たんは、おこづかいが足りないと、万引きしちゃうから」と、クソ兄貴には毎月、万単位の現金を渡している。


 姉ちゃんと俺は、小学生の頃から一度も、おつかいを()められたことも、(ねぎら)われたこともない。

 うっかり、オカンの嫌いな食べ物を買って、殴られたことならある。


 姉ちゃんが、小五の家庭科の時間に「家計簿」を習ってからは、おつかいと光熱費分のみ、家計簿を付けている。

 それ以外の金の流れは、知らないので記録できない。


 オカンは、姉ちゃんと俺が使う金は、家族用の買出しでも、鬼の形相で監視するのに、姉ちゃんと俺がもらった金は、祖父ちゃん祖母ちゃんが「学費の足しにしなさい」と、積み立ててくれた定期預金でも、勝手に解約して使い込んでいた。


 数年前、姉ちゃんがゴミ捨ての時に、生ごみの中から、残高ゼロの通帳を見つけた。

 姉ちゃん名義百二十万、俺名義七十万貯まっていたが、解約されていた。


 姉ちゃんは通帳を拾い上げて、洗ってからビニール袋に入れた。

 「時機(チャンス)が来たら、お父さんに相談しよう」と言って、タンスの下に隠してある。


 その時機(チャンス)とやらは、いつ来るんだろう……


 俺は、エコバッグを持って家を出た。

 まずは、駅前のスーパー。

 一斤九十八円の食パンと、冷凍の鶏肉と特売の卵を買った。


 それから、商店街の八百屋「本山商店八百源(もとやましょうてんやおげん)」で、新鮮な野菜を買う。

 スーパーの特売品の方が安いが、野菜はいつも、ここで買っている。


 八百源の本山婆さんは、俺が買物に行くと、いつも「おつかい? 偉いね。お母さんには内緒だよ」と、おつかいのご褒美(ほうび)として、百円玉を握らせてくれるからだ。


 婆さんに家の事情を話したことは、ない。


 小一の時からずっとこうで、今日もニコニコ褒めてくれた上に、ご褒美もくれた。

 当初、遠慮して断っていたが「子供が遠慮しなさんな」と、笑いながらポケットに入れられたので、今はお礼を言って受け取っている。


 八百源でもらった百円玉は、オカンに見つからないように隠してある。

 学習机の引き出しの裏に貼り付けた封筒に入れ、千円貯まったら、お札に両替して、別の場所に移す。

 お札は複数の封筒に分散して隠し、今の所は、見つかっていない。


 小一から現在までの「八百源貯金」は、五万一千円になっていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ