08.掃除班
始業式の翌日、早速授業が始まった。と、言っても今日までは午前中授業だ。
掃除が終われば帰れる。
塩屋さん、須磨春花とは別の班になったが、巴とは同じ班になった。
出席番号順だから仕方がない。それに、ある意味セーフと言える人員配置だ。
俺達の班は、男女三人ずつ計六人。今週は本校舎の東階段担当だ。
回転箒で埃を集めてから、雑巾モップで磨く。
巴は、女子に話し掛けられまくっていたが、ずっと暗い表情で、足下のモップの動きを見ていた。返事は単語のみ。
それでも、女子達は根掘り葉掘り、誕生日、血液型、好きな色……と、あれこれ質問を浴びせていた。
これは、巴でなくてもうんざりする。
お前ら刑事かよ。
「水捨ては重いから俺らが行く。女子はゴミ捨てに行ってくれ」
班長の西代が返事も待たず、巴の手を引いて手洗い場に向かった。
俺もバケツを持って後を追う。
「あいつらしつこいよな。個人情報保護法とか知らねーのかよ」
バケツの中で雑巾を洗いながら、西代が言った。
巴は小さく頷いた。
西代が俺を見たので、俺も頷いて同意を示した。
「巴さ、イヤだったらイヤって言えよ。一発ガツンと言ってやりゃ、あいつら黙るし」
陰で「サイテー」とか言われるけどな。
巴は、雑巾を絞りながら黙って頷いた。
「お前、大人しいなぁ。言い難かったら俺が言ってやろうか? 班長として」
「……うー…………ん……」
巴は、否定とも肯定ともつかない曖昧な声を出して、雑巾を広げた。
西代が困った顔でオレを見る。俺は外国人のように肩を竦めてみせた。
帰る道々、巴のことがムカついて堪らなかった。
ぬるい返事しやがって。
気が小さいのか知らんが、自分の身くらい自分で守れよ。
嫌だったら嫌って、意思表示すればいいのに。
所詮、あいつら同学年の女の子じゃないか。
女子にも何も言えないんじゃ、ヤンキーにカツアゲされ放題じゃないか。
どうせ、「言っても止めてくれない、仕方がない」って思いこんで、一人で勝手に無常感に浸ってんだろ。
俺みたいに、やるだけやってみて、それでもダメだったんなら、仕方ないけど、やる前から諦めて、何もしないとか、バカじゃねーの。
マジキチな大人に理不尽にチャンスを踏み潰されてる訳じゃないのに。
何で、自分が頑張れば、何とかなりそうなことなのに、自分の手で、何とかしようとしないんだよ。
救いの手を、掴もうとすらしないんだよ。
せめて、助け船を出してくれた西代に、お礼くらい言えばいいのに。
何様のつもりだ?
あいつ、あんな無気力で、よく今まで生きてこれたよな。それともアレか?
「努力とか一生懸命とか、マジになってる奴だっせ―。バカじゃね?」って、クソ兄貴みたいに斜に構えて、「本気出したらスゲーけど、敢えて本気出さない俺カッコイイ」って、世間様を舐めてるダウナー系中二病なのか?
イケメン様は、頑張ってる奴を見下して、鼻で笑えるくらい、人生イージーモードなのか?
俺なんか、顔はこれだし、授業中、超まじめに頑張って、家でも勉強頑張って、筋トレ頑張っても、平均点よりちょい上止まりなのに。