07.待遇差
クソ兄貴と、姉ちゃん&俺の扱いが全然違うのを知っている人は、誰も居ない。
クソ兄貴は、毎月小遣い貰って、スマホの最新機種持ち。部屋は個室。
部活して、同レベルの奴とつるんで悪さして、アホなのにやたら金掛かる大学に行って、家事もバイトもせず、女遊びしまくり。
姉ちゃん&俺は、小遣いなし、ケータイなし。相部屋で二段ベッド。
お年玉も父ちゃんの正月休みが終わったら、「食費」として、全部、オカンに取り上げられる。
俺の部屋になる筈だった部屋は、オカンのブランド服置き場になっている。
部活は「金が掛かるから」と、オカンに反対され、万年帰宅部。
オカンは何故か、姉ちゃん&俺の交友関係を全力で潰してくる。
小さい頃、公園で知らない子と遊んでいたら、オカンは「バカが移る! 遊ぶな!」と喚き散らして、その子に空缶ぶつけて、追い払ってしまった。
同性の同級生は「こんなレベルの低い子と遊ぶな」と、全方向性のダメ出し。
異性の同級生は「子供の癖にマセててイヤらしい」と、エロ方向のダメ出し。
隣の須磨兄妹は「早く死んでくれればいいのにね」と、存在自体を完全否定。
大学は「あんたたちみたいなバカに行ける所なんてないし、受験料が無駄」と、オカンに反対されてる。塾にも行かせてくれないから、学校と家で頑張るしかない。
家事は、姉ちゃんと俺が手分けして、全部やってる。
「出来損ないのお前たちを育ててやってるんだから、このくらいやって当たり前」がオカン理論だ。
オカンは何故か突然、わざわざゴミを撒いてから「掃除がなってない!」と布団叩きで、髪や服で隠れる部分を殴る。
俺が何か「地雷」を踏んだからだろう。
以前は姉ちゃんが標的だったが、バイトを始めてからは、俺がメインの家事担当者になると同時に、サンドバッグにクラスチェンジ。
俺たち姉弟が庇い合うと、火に油を注ぐだけなので、黙って耐えるしかない。
父ちゃんの帰宅が近い時期には、機嫌がよくなり、痣ができるようなことはしない。
姉ちゃんは、独立資金を貯める為にバイトしてるけど、給料が振り込まれる通帳とカードをオカンに奪われて、使い込まれている。
姉ちゃんが「バイト辞める」って言ったら、オカンにボコられていた。結局、高校に入ってからずっと、同じ食堂「北斗星」でバイトを続けている。
黙々と掃除機を動かし、居間と台所と一階の廊下の掃除を終えた。
炊事や掃除をしている最中は、何故か、いつも嫌なことを思い出してしまう。
満タンになった紙パックを交換し、掃除機を片付けた。
嫌な記憶を振り払うように腕を振って、風呂場に向かう。
シャワーで浴槽を流しつつ、洗剤不要のスポンジで、しっかりこすって湯垢を落とす。
祖父ちゃんも、叔父さん、叔母さんも、従姉兄も、みんな好きだ。
好きな人にこそ、迷惑を掛けたくないから、なるべく頼りたくない。
父ちゃんは、仕事と移動で疲れきっていて、家ではずっと寝ている。しかも、オカンがべったりへばりついている。
俺と姉ちゃんには、説明する機会すらなかった。
何もかも、クソ兄貴が美人のオカンに似てイケメンで、姉ちゃん&俺は、父ちゃんに似てパッとしない外見だからだ、と思う。
うだうだ考えている内に風呂掃除完了。
汚れに怒りをぶつけていると、掃除が捗る。
すっかりキレイになった浴室を見ると、気持ちも少しスッキリした。
俺は、夕飯の仕込みをしに台所に戻った。
明石先生がくれたクッキーは、後で姉ちゃんと半分こしよう。
甘い物は、元日に親戚の家に行った時以来、三か月振りだった。