04.転校生
自己紹介の順番が近付いてきた。
前の席の茶髪野郎が、教卓の前に出てこちらに向き直った。
俺は「選択ぼっち」なだけで、空気が読めなくてナチュラルに友達が居ない訳ではない。
茶髪が、モデルかタレント並のイケメンで、こいつが前に立った途端教室の空気……特に女子の目の色が変わったのが、わかった。それに対して、男子が一瞬、殺気立ったのも、ひしひしと肌で感じた。
塩屋さんは一番後ろの席だ。俺の席からは見えないので、反応は不明。
競争率は高そうだが、好きになるのは、自由だ。
是非とも、このイケメンに一目惚れして欲しい。
「巴政晶です。春休みに商都から引越してきました。宜しくお願いします。それと、髪の色は生まれつきです」
外見はよかったが、雰囲気は最悪だった。
ぼそぼそと滑舌が悪く、全身に負のオーラを纏っていて、死んだ魚のような淀んだ目をしている。
髪の色と男子の嫉妬でいじめられ、女子の醜い争いに巻き込まれて、もううんざり……ってとこか。どうせ転校の理由も、その辺にあるんだろう。
馬鹿馬鹿しい。
本人にとっては大変なことだろうし、不幸だろう。
でも所詮、相手は同年代の子供だ。
俺みたいに大人……それも自分の母親が敵で、隣人や同級生を守る為に孤独を強いられ、戦わなきゃならない訳じゃない。
父ちゃんは、単身赴任。
クソ兄貴は、オカンの味方で、つまり敵。
祖母ちゃんは、三年前に亡くなった。
祖父ちゃんは、今年の一月に倒れて入院。今は退院して、愛子叔母さんの家で介護を受けている。
愛子叔母さんたち……都内に住む親戚には、これ以上迷惑を掛ける訳にいかない。
俺の味方は、姉ちゃん唯一人。
巴は少なくとも両親が味方だから、いじめられても、遠くに引越せたんじゃないか。
「ハーフじゃなくて十六分の一だけど、こんな色です。脱色とかはしてません」
巴は、ちょっと商都訛のある発音でそれだけ言うと、席に戻った。
前の学校で何の部活やってたとか、言わないんだな。
入れ替わりに、同じ出席番号の女子が前に出る。
本当は全然違うキャラなのに、明らかに巴を意識した「大人しくて優しくて家庭的な女の子」アピールをして、女子に引かれていた。
普段の姿を知っている男子も、ニヤニヤしている。
俺の番が回ってきた。
「友田鯉澄です」
一応、小さくお辞儀して席に戻る。
誰とも友達になってはいけない俺には、みんなと仲良くなる為に開示できる情報なんて、何もなかった。