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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第01章.新学期
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03.委員長

 俺は、溜息(ためいき)()いて窓の外に目を向けた。

 桜は三日前の雨で散り、花弁(はなびら)の残骸が、グラウンドの隅にこびりついている。


 教室では、お決まりの自己紹介が進んでいる。

 座席は出席番号順。

 男女各一番の赤穂潮(あこううしお)網干翠(あぼしみどり)が、問答無用で学級委員に任命され、場を仕切っている。


 赤穂と同じクラスになれたのは、僥倖(ぎょうこう)だった。

 俺と姉ちゃんは、バレンタイン事件とその後に起きた騒動で、色々と諦める癖がついた。


 誰かと仲良くなると、オカンに全力で潰される。


 恐怖と、相手への申し訳なさで、一人も友達を作らなくなった。

 遊びに誘われても断って、断って、断って、断って、断って、ぼっちを貫いている。


 姉ちゃんはトラウマになっているらしく、卒業アルバムや卒業生名簿も家に持って帰らず、学校で捨てていた。

 「私なんかとは、少しでも接点残さない方がいいから」

 そう言った姉ちゃんは、怖いくらい無表情だった。


 俺も姉ちゃんに(なら)って、小学校の卒アルと名簿は捨てて帰り、幼稚園の卒アルも大掃除の時に捨てた。

 修学旅行や遠足では、常にカメラマンの背後に回り、集合写真以外、全て回避したので、そもそも俺は最低限しか載っていない。


 赤穂潮は、小五の時に同じクラスだった。

 俺は誰とも遊ばず、会話もしなくていいように、休み時間は、都立図書館で借りた本を読んで過ごしていた。


 ある日「魔術師連盟 霊性の翼団概要」という国際機関のガイドブックを読んでいたら、赤穂が食いついてきた。

 「友田君、魔法に興味あんの?」


 俺は本から目を上げもしなかった。普通の奴はここで退く。


 「俺も超! 興味あるんだ! 魔力がなくても使える術もあるんだって! 俺たちでも頑張ったら魔法使いになれるとか、夢広がりまくりだよな!」

 「えっ?」

 そんな事は初耳だった。


 ここ……日之本帝国(ひのもとていこく)は科学文明の国で、魔力を持っている国民は、ごく(わず)かだ。それも魔法文明国の人とのハーフとかで、純粋な日之本帝国人では、皆無といってもいい。


 俺も赤穂も純日之本人だ。

 「俺さ、中学になったら、魔術士検定受けるんだ。友田君、魔検知ってる?」

 「え……? あぁ、うん」


 魔検……魔術士検定は、霊性(れいせい)翼団(つばさだん)とは別の魔術士連盟「(あお)薔薇(ばら)の森」が実施している検定だ。

 初歩的な魔術を使う技能や、魔法の知識レベルを認定する初心者向けの検定試験。

 ぶっちゃけ、ガチの魔法文明国では、お子ちゃまレベル。

 主に魔法と科学を折衷(せっちゅう)している両輪(りょうりん)の国と、科学文明国向けの検定だ。


 日之本帝国で魔検を受けても、就職とかで有利になる訳ではない。知る人ぞ知る趣味系のマイナー検定扱いだ。


 「うおぁあぁ! 知ってるッ! 初めてだッ! 魔検知ってる奴! 初めて会ったよ!」

 「俺に関わるな」

 俺の肩をバンバン叩いて大喜びしている赤穂に、なるべく冷たく言ってやった。


 「何で? オカルト仲間じゃん。あ……霊性の翼団しか認めないとか?」

 「違う。そうじゃなくて……」

 俺は事件の詳細は伏せて、俺と関わり合いになると、酷い目に遭うことだけを説明した。


 それでも、赤穂はめげなかった。

 「平気平気。災難除けの護符(アミュレット)持ってるから、大丈夫だって」


 仕方なく「会話は学校内のみ、絶対にウチに来ない、電話もしない」と約束させた。


 小六と中一は別のクラスだったが、放課後に三十分程、教室に残ってオカルト話に興じた。

 俺にとって、その三十分はギリギリの自由時間だった。


 同じクラスになった今年は、もう少し赤穂と話せるかもしれない。

 瀬戸川区立第一中学校二年三組。

 小学校の時と同じ手段を使えば、俺はこのクラスに居られなくなる。


 だが、須磨春花(すまはるか)達の命には代えられない。

 赤穂、塩屋さん、須磨春花。三人をオカンから守るには、そうするしかない。


 俺は無力だ。


 大人になんとかしてくれるように、頼むことしかできない。

 自分の無力が歯痒い。


 魔法か何かで、オカンを大人しくさせられればいいのに……


 それが、俺のオカルト研究の最大の動機だ。

 それが可能なら、姉ちゃんも助けられるのに。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
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