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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第01章.新学期
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02.幼馴染

 後者……「絶対に接触してはならない」須磨春花(すまはるか)は、本気で洒落にならない。

 最悪の場合、死傷者が出るかもしれない。


 俺と須磨春花の家は隣同士。

 同じメーカーの建売住宅で、新築当時……俺たちが生まれる前から住んでいる。

 何もなければ、幼馴染として育つ筈だった。


 事件は、俺たちが一歳の冬。

 バレンタインデーに起こったらしい。


 経緯(いきさつ)は、幼小の頃から折に触れ、祖父ちゃん祖母ちゃん姉ちゃんに説明されている。

 だが、俺の理解の範疇を超えていて、何度聞いても意味がわからない。


 言語的な意味は理解できても、何故そうなるのか……因果関係がさっぱりわからない。


 取敢えず理解できたのは、ウチのオカンがマジキチで、須磨さん一家や近所の人、姉ちゃんたちが通っていた幼稚園に、迷惑を掛けまくった……ということだけだ。


 当時、俺の姉ちゃんと須磨春花の兄ちゃんは、幼稚園の年中組だった。

 他の幼稚園は遠かったり、費用が高かったりするので、この辺の子は大体みんな同じ園だ。


 祖父ちゃんには「女の子と仲良くなるのは、一人前になって独立してからにしなさい」と、噛んで含めるように言われた。

 祖母ちゃんには「女の子とお友達になるのは、大人になって家を出てからにしなさい」と、繰り返し何度も言い聞かされた。

 姉ちゃんには「男の子のお友達も家に連れて来ちゃダメ。教室とか、外から見えない所で遊んで、絶対、お母さんにバレないように気を付けて」と悲愴な顔で言われた。


 オカンには、姉ちゃんと俺だけ、交友関係にケチを付けられ続けて育った。

 父ちゃんは元々出張が多く、現在は単身赴任中。たまに家に居ても寝てばかり。

 クソ兄貴が俺に絡んでくるのは、八つ当たりする時だけなので、全く会話が成立しない。


 須磨春花の兄ちゃんは、国立大学附属小学校を受験し、現在は、附属高校の寮に入っている。

 須磨春花は、兄ちゃん程勉強が得意ではないらしい。小中と受験に失敗し、仕方なく俺と同じ瀬戸川区立に通っている。


 お互い持家でローンがあって、そう簡単には引越しできないからだろう。


 事件後、警察と弁護士の介入で、両家の間に不可侵条約のようなものが締結された。

 以来、俺たち……友田家と須磨家の人々は、没交渉を守っている。


 須磨春花とは同い年で、幼小中と同じ所に通っているが、一言も喋ったことがなく、挨拶すらしたことがない。

 ある朝、通学路で距離を保つ為に、春花の動きを目で追っている所を見つかり、その場でオカンにボコられた。


 それ以来、春花の姿を直視することも避けている。


 近所の人たちも事情を知っている為、回覧板の順番やゴミ捨て場の掃除当番など、町内会活動では、配慮してくれていた。


 だが、自分の家の子が、俺達三兄姉弟(きょうだい)と遊ぶことは、禁止しているらしい。

 俺と姉ちゃんには、友達と遊んだ記憶が、幼稚園のほんの一時期しかない。


 小学校の時にも一度、俺達は同じクラスになってしまった。

 俺は小二の始業式の日、担任に頼んで、電話で祖父ちゃんを呼び出してもらった。


 校長先生や他の先生とも話し合った結果、「書類ミス」ということにして、俺は翌日、隣のクラスに移された。

 こうして不可侵条約が守られ、小二の惨劇は回避された。


 小学校からの引継ぎで、中学校にもこのことは伝わっている筈だ。

 瀬戸川(せとがわ)区立第一中学校は、十数年前の事件を「既に終わった過去」として、処理してしまったのだろうか。

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
【関連が強い話】
野茨の血族」 巴君のその後。
虚ろな器」 高校生になった友田君が登場。
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