11.可能性
よろよろ、ふらふら。
広大な公園にびっしり並ぶブースを、俺は当て所もなく、彷徨い歩いた。
見れば見る程、迷いが出る。
これで喜ぶ姉ちゃんの顔が思い浮かばず、ブースを離れた。
どこからか、ラジオの天気予報が流れてくる。
今日の帝都は、天気に恵まれ、五月中旬並みの気温で云々……
道理で暑いと思った。
人混みを吹き抜ける風が、気持ちいい。溜息をついて顔を上げる。
業者の爺さんと目が合う。
心臓を鷲掴みにされたような衝撃を感じた。
思わず爺さんに駆け寄る。
爺さんは、芝生の上に直接、半畳くらいの赤い絨毯を敷いて、座っていた。
売り物はアクセサリー。
爺さんの胸元では、銀のペンダントが揺れていた。
翼の生えた銀の卵……
「あ……あの……こっこっこ……これっ……」
緊張で言葉が出てこない。
震える手で、爺さんの胸元で揺れる銀の卵を指差した。
爺さんは、人の良さそうな笑顔を浮かべて、首を横に振った。
「ごめんよ。これは売り物じゃないんだ」
「あっあの、知ってます。かっ……かっ【可能性の卵】ですよね!?」
「へぇ、よく知ってるね」
爺さんは驚いて俺の顔を見上げた。
魔術師の国際機関「霊性の翼団」は、魔法の専門分野毎の小集団に分かれている。
【可能性の卵】はそのひとつで、魔力は持っていないが、魔術の研究で一定以上の成果を修めた功績や、知識の量を認められた学者……というか、賢者の集団だ。
この近くだと、日之本帝国の最高学府・帝国大学の魔道学部教授が、持っている。
元々は、魔法文明国に稀に生まれる「魔力を持たない人」の目印だったらしい。
帝大の公式サイトで見た。
サイトに拠ると帝大には、【舞い降りる白鳥】の先生も在籍している。【舞い降りる白鳥】は、ガチの魔法使いで、術の解析や呪い解除の専門家だ。
「おじいさん、帝大の先生なんですか?」
「はははっまさか。儂ゃそんな優秀じゃあないよ。若い時分、ディアファナンテに住んでいただけだ」
「スゲー……魔法の修行とか、してたんですか?」
まだ、心臓はバクバク言ってるが、少し落ち着いてきて、ちゃんと質問できるようになってきた。
ディアファナンテは、魔術士連盟「蒼い薔薇の森」本部がある魔法文明国だ。
魔法文明国は、鎖国政策を採る国が多いが、アルトン・ガザ大陸のディアファナンテは、国際交流に力を入れている。
近くに科学の大国バンクシアがあり、周辺国は両輪の国と科学の国。その地域の純粋な魔法の国は、ディアファナンテ一国だけ。
国際政治とか難しくてわからないけど、一国だけぼっちを貫くのは無理だったんだろう。
でも、そのおかげで、初心者向けの魔術士連盟「蒼い薔薇の森」ができて、現在はネットでも、魔術について色々と調べられるようになっている。




