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碩学の無能力者  作者: 髙津 央
第02章.日常

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10. 贈り物

 四月の第三日曜日。

 オカンはライブ旅行、クソ兄貴は彼女の所で、二人とも、金曜から家に帰っていない。


 久々に姉ちゃんと二人きりで、のんびり過ごせた。

 バイトに行く姉ちゃんを見送った後、俺も家を出る。

 ポケットの中には、千二百円。八百源(やおげん)貯金の端数だ。


 行き先は、瀬戸川(せとがわ)公園のフリーマーケット。

 姉ちゃんは、四月三十日で十八歳になる。


 来年の今頃は、きっと就職して家を出てる。

 オカンに給料を巻き上げられないように、遠くの会社に行って、引越し先も就職先も、内緒にするって言ってるから、一緒に過ごせる誕生日は、今年が最後かも知れない。


 姉ちゃんと俺は、自分の手元に誕生日プレゼントが残っていない。

 クソ兄貴が取り上げて、遊んでいる内に壊すか、新品の状態で、つるんでる連中に売りつけていたからだ。


 父ちゃんと、祖父ちゃん祖母ちゃんが、プレゼントに付けてくれたメッセージカードだけは、大切にとってある。



 瀬戸川(せとがわ)公園に着くと、既にフリーマーケットは始まっていた。

 新緑に囲まれた広場に、家の不用品を持ちこんだ家族連れや、瀬戸川区内の業者が、ブースを出店している。

 ブースも買物客も多く、公園の中は見たことがないくらい混雑していた。


 すっきり晴れ渡った空の下を若葉の香りを含んだ風が、やさしく通り過ぎて行く。その風に乗って、どこかのラジオから、DJの明るい声と流行りの曲が流れてくる。

 晴れてよかった。雨だったら中止になるところだった。


 姉ちゃんの誕生日プレゼント。

 中古はどうかと思うので、一般人のブースには行かず、業者のブースに直行する。


 一般と業者は区画が分かれていて、客層も混み具合も全然違っていた。


 姉ちゃんはロクな服を持っていない。

 従姉(いとこ)のお下がりと、オカンがシマウラで買ってきた一着数百円の安物と、学校の制服だけだ。

 化粧品とアクセサリーは、一個も持っていない。

 来年は社会人だし、人並みにお洒落させてあげたい。


 千二百円で何が買えるだろう。


 俺は化粧品屋のブースをチラ見した。

 折り畳み式の長机の上に、商品を山盛りに入れた籠が並べてある。

 掘り出し物を求めて群がるおばちゃんたちの隙間から、(カゴ)に付けられた値札が見えた。


 どれでも一個三百円―


 四つ買える。

 少し近づいて、おばちゃんたちの肩越しに、籠の中を覗いてみた。


 絵具のパレットの小型版みたいなのや、何かよくわからん円い容器、歯磨き粉っぽいチューブに入った何か、派手な爪セット、小さい瓶に入った何か、可愛い小瓶は香水なのかな? 香水ってこんな派手な色なのか? よくわからん。


 化粧品は、種類が多過ぎて、何が何やら全くわからん。


 結論。

 ヘタな物買って使えなかったらアレだし、やめとこう。


 服屋のブースが並んでいる所に向かった。

 客を見て、姉ちゃんくらいの年の人が多いブースに近付く。


 ハンガーラックに付けられた値札は「どれでも一着二千円、三着五千円」だった。

 退()き下がって、隣のブースを見る。スカーフ専門店らしい。

 価格帯は三百~千円。俺でも買える。


 スカーフって、お洒落アイテムなんだ……

 あ、姉ちゃんが好きな柄とかわかんねー……

 女だし……花柄とか? 姉ちゃんの好きな花って何だっけ?

 無難に薔薇……とか?

 いや、無難って何だよッ?

 どうせ買うんなら、姉ちゃんが好きな奴買わなきゃ意味ねーよ!

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用語は、大体ここで説明しています。

野茨の環シリーズ 設定資料(図やイラスト、地図も掲載)
地図などは「野茨の環シリーズ 設定資料『用語解説17.日之本帝国』
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