10. 贈り物
四月の第三日曜日。
オカンはライブ旅行、クソ兄貴は彼女の所で、二人とも、金曜から家に帰っていない。
久々に姉ちゃんと二人きりで、のんびり過ごせた。
バイトに行く姉ちゃんを見送った後、俺も家を出る。
ポケットの中には、千二百円。八百源貯金の端数だ。
行き先は、瀬戸川公園のフリーマーケット。
姉ちゃんは、四月三十日で十八歳になる。
来年の今頃は、きっと就職して家を出てる。
オカンに給料を巻き上げられないように、遠くの会社に行って、引越し先も就職先も、内緒にするって言ってるから、一緒に過ごせる誕生日は、今年が最後かも知れない。
姉ちゃんと俺は、自分の手元に誕生日プレゼントが残っていない。
クソ兄貴が取り上げて、遊んでいる内に壊すか、新品の状態で、つるんでる連中に売りつけていたからだ。
父ちゃんと、祖父ちゃん祖母ちゃんが、プレゼントに付けてくれたメッセージカードだけは、大切にとってある。
瀬戸川公園に着くと、既にフリーマーケットは始まっていた。
新緑に囲まれた広場に、家の不用品を持ちこんだ家族連れや、瀬戸川区内の業者が、ブースを出店している。
ブースも買物客も多く、公園の中は見たことがないくらい混雑していた。
すっきり晴れ渡った空の下を若葉の香りを含んだ風が、やさしく通り過ぎて行く。その風に乗って、どこかのラジオから、DJの明るい声と流行りの曲が流れてくる。
晴れてよかった。雨だったら中止になるところだった。
姉ちゃんの誕生日プレゼント。
中古はどうかと思うので、一般人のブースには行かず、業者のブースに直行する。
一般と業者は区画が分かれていて、客層も混み具合も全然違っていた。
姉ちゃんはロクな服を持っていない。
従姉のお下がりと、オカンがシマウラで買ってきた一着数百円の安物と、学校の制服だけだ。
化粧品とアクセサリーは、一個も持っていない。
来年は社会人だし、人並みにお洒落させてあげたい。
千二百円で何が買えるだろう。
俺は化粧品屋のブースをチラ見した。
折り畳み式の長机の上に、商品を山盛りに入れた籠が並べてある。
掘り出し物を求めて群がるおばちゃんたちの隙間から、籠に付けられた値札が見えた。
どれでも一個三百円―
四つ買える。
少し近づいて、おばちゃんたちの肩越しに、籠の中を覗いてみた。
絵具のパレットの小型版みたいなのや、何かよくわからん円い容器、歯磨き粉っぽいチューブに入った何か、派手な爪セット、小さい瓶に入った何か、可愛い小瓶は香水なのかな? 香水ってこんな派手な色なのか? よくわからん。
化粧品は、種類が多過ぎて、何が何やら全くわからん。
結論。
ヘタな物買って使えなかったらアレだし、やめとこう。
服屋のブースが並んでいる所に向かった。
客を見て、姉ちゃんくらいの年の人が多いブースに近付く。
ハンガーラックに付けられた値札は「どれでも一着二千円、三着五千円」だった。
退き下がって、隣のブースを見る。スカーフ専門店らしい。
価格帯は三百~千円。俺でも買える。
スカーフって、お洒落アイテムなんだ……
あ、姉ちゃんが好きな柄とかわかんねー……
女だし……花柄とか? 姉ちゃんの好きな花って何だっけ?
無難に薔薇……とか?
いや、無難って何だよッ?
どうせ買うんなら、姉ちゃんが好きな奴買わなきゃ意味ねーよ!




