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異世界に普通を求めて何が悪い!  作者: 無頼音等
第一章 交易都市
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第5話『鬼ごっこ、決着』

 俺達は一体どれくらい走り回ったんだろうか。


「うりゃああああああああああああああああああああああ! 逃げんな、このツインテール小娘!」

「きゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」


 とりあえず、そんな少女達の雄叫びと悲鳴が都市の中を駆け巡っていた。

 やめて! そんなに叫ばないで! 周囲に人達から変人みたいに見えちゃうでしょうが! 俺までお前らの奇行に巻き込まれてんの分かってんのか!?


 俺達はさっきからこんな感じで恥ずかしい鬼ごっこを繰り広げていた。そして俺は今も逃げ回る少女の後ろを追い掛けている。土地勘がない俺にはもうここが何処だか分からない。大通りではないから多分、少女の知ってる路地か抜け道ってところだろう。

 やはり体格差や足幅の違いで俺達の方が少女よりも足が速く、おかげで俺達の間にあった距離はどんどん縮んでいく。しかしあと一歩という時に限って少女は姿を消してしまう。

 どういうわけか、ツインテール少女は捕まりそうになると姿が消えてしまうのだ。そして俺達から十分距離を稼いだ後に姿を現す。さっきからそれの繰り返しだ。


 今度は何処に行ったと俺達は視線を彷徨わせると、少女はなんと建物の壁をよじ登っていた。ただ今にも落っこちそうで危なっかしい。

 出来の悪い忍者か! それに女の子がスカート穿いたままで高い所に行くなよ、見えちゃうぞ!

 駄目だ。相手を年下だと甘く見ていた。まさかここまで体力が有り余ってる女の子だとは思わなかった。

 予想以上に難易度が高い鬼ごっこで俺のテンションは上がってしまっている。今なら声高に「変身!」とか叫ぶこともできそうだ。何それ変態じゃん。


「それにしても透明化とは厄介ですね!」

「透明化?」


 脳内で盛り上がっていた俺と違って、あのリーゼが冷静に頭を働かせている。なんだそれ。超屈辱なんですけど。俺だってそれくらい簡単に見破ってました! ただこういうのは俺一人より二人で考えた方が効率的だから、あえて分からない振りをしておくだけだ。質問することは脳を活性化させるって言うからな。むしろ活性化し過ぎて困ってる。


「あの小娘が急に姿を消す理由ですよ。ほんの数秒間だけのようですが幻影(ヴィジョン)系の魔法を使えるみたいです」

「……ふむ。お前が言うからには間違いないか」


 リーゼは普通の人間には無い能力(スキル)を持っていて、その目で見た能力や魔法の正体を一瞬で見破ることができる。俺はその能力を全く使えないから詳しいことまで理解していないが、その力は“魔眼持ち”さえも凌駕しているらしい。人はこれをチートと呼ぶ。

 それにしても透明化か。まいったな。あの少女が透明になっている間は服も影も消えてしまっているから位置を把握するのが難しい。少女が消えた瞬間にその場所を押さえ込めば捕まえられるかもしれないけど。


「でも見えないんじゃやっぱり捕まえるのも簡単じゃないか……。なるほど、確かに厄介だ」

「マスター。因みに盗まれたのは昨日の報酬だったようですけど、具体的にどれくらいの額なんですか?」

「あれ、教えてなかったっけ? 一〇〇〇〇〇クランだよ」

「じゅうまっ……!? た、たた大金じゃないですか! なんでそんなもの普通に持ち歩いてるんですか! そういうのはちゃんとギルドの銀行に預けないと駄目ですよ!」

「だってあれの使い方知らないもん」

「きゃああああああ! マスターったら可愛い! もっかい! もっかい『知らないもん』って言ってください!」


 俺達がくだらない会話をしている間に少女はどんどん離れていく。彼女はすでに屋根の上だ。おい、どうしてこうなった。くそっ、この際透明化とか気にしてられるか!

 捕まえる方法を考える前に逃げ切られたら意味が無い。俺は少々無茶をすることにした。


「リーゼは後から付いて来い……【ドライヴ】!」


 あくまでこの世界に来てからの話だが、俺は体を動かすことについて少々自信がある。それも自身に宿った能力を発動させた今なら尚更だ。ふはは。誰も俺から逃げることなどできん!

 力を込めた俺の足は銀色の光を纏っており、地を蹴ると凄まじい火力を生み出した。それこそ空を飛んでいると錯覚するほどに。


 弾丸のような速度を出しながら大跳躍(ハイジャンプ)した俺は、少女との距離をあっという間に縮めていく。だが少女は宙を浮かぶ俺の姿を見つけた瞬間、不敵に笑って姿を消しやがった。まだ近くにいる筈だが、少なくとも俺が着地した付近にはもういないようだった。


「くそっ! 子供のくせにちょこまかと!」


 俺は超人みたいなことができても超人そのものじゃない。殺気以外の気配は読めないし、空気の揺らぎや音で居場所を推測するようなこともできない。残念ながら俺には透明になった奴を見つける手段が無いわけだ。リーゼに頼るか? でもあいつだって魔法の正体を見破ることは出来ても、透明になった奴の姿が見えるわけじゃない。それにあいつがここに来るまでまだ時間が掛かりそうだ。

 次に少女が姿を現した時、彼女は別の建物の屋根に移っていた。このままじゃ埒が明かない。何か打開策は無いのか!?


「ああ、もう! 俺の金を奪われてたまるかぁ!」


 考えるのは俺の性に合わない。俺は連立する建物の屋根を駆け抜けて少女を追った。屋根の下を覗くと、俺達に全く気付いていない人達が大通りをぞろぞろと歩いている姿が見える。ああ、俺も今頃はあの中に混じって観光を楽しんでた筈なのに。


 視線を戻すと少女はまだ先にいる。急いで追いかけなくてはならない。見失ったら不味いからな。

 ……ん? 見失う? あれ、そもそもあの子はどうして捕まりそうになった時しか透明にならないんだ? 姿を晒している時間が長いほど俺達に追われてしまうのは分かってるだろうに。多分魔力の節約なんだろうけど……そうか!


「最初っから馬鹿みたいに追いかければそれで良かったんだ!」


 あの少女、体力には自信があるみたいだが他はそうでも無いらしい。いくら透明化できるのが数秒間だったとしても、連続で魔法を使用すれば逃げ切れる確率は大きく跳ね上がる。なのにそれをしないってことは、連続で使用できるほどの魔力が無いってことだ! だからどんどん追い込んで魔法をもっと使わせれば、あいつは近いうちに魔力切れで倒れる。

 それが分かれば話は早い。俺は少女との距離を一気に詰めた。


 少女は俺の存在に気付くと、舌打ちをしてもう一度透明になった。よし、やっぱりあいつは透明になれる回数に限度があるみたいだ。でも舌打ちされるとは思わなかったぜ。お兄ちゃん、軽く傷付きました。


 一応消えた場所に手を伸ばしてみたが少女に触れた感覚はしない。考えてみれば当たり前か。相手は消えながら移動することだってできるんだもんな。それにしても、ただ逃げることだけに使うのは勿体無い気がする。もし俺が透明になれたらその力を使って追跡者を撃退しているところだ。

 まあ俺のことはともかく、次に少女が姿を現せばそこまでの距離を潰してまた透明にさせる。そうして少女の魔力を削いでしまえば俺の勝ちだ。それに……ようやくリーゼも追いついてきた。


 リーゼのストーキング能力はバルジ村の中でも一位二位を争うくらい卓越している。少女を追い回す役目はリーゼに任せて、俺は少しだけ予定を変更することにした。気付かれないように、俺は少女の逃げた先を待ち伏せするべく身を隠す。人の視界に映らないようにするだけなら魔法なんて必要ない。ただ物陰に隠れているだけでも十分な効果がある。

 そしてリーゼは己の本職を全うし、少女が俺の方へ逃げるように上手く誘導してくれた。そのおかげで少女が俺の横を通り過ぎた瞬間、俺は彼女の腕を掴むことに成功する。


「やっと捕まえたぜ、ツインテールの少女!」

「はぁ……はぁ。お兄ちゃん達、しつこいね。こんなに追い掛けて来たのはお兄ちゃん達が初めてだよ」

「そうか? これくらい普通だろ? まあ、観念するんだな。大人しく盗んだものを返せば許してやらないこともない」

「そんなこと言って……私をギルドに突き出すつもりなんでしょ?」

「あったりまえに決まってるでしょこのドスケベ小娘! マスターのお尻を触った罪はこの星よりも重いんだから!」

「おいいいいいいいいいいい!? 話がややこしくなるからお前は黙ってろ!」


 せっかく俺が話を丸く治めようとしてるのに隣の馬鹿が余計な一言を打ち込んできやがった! そして案の定、リーゼの怒声を聞いた少女は顔を険しく歪めてしまう。

 嫌な予感を覚えた俺は少女を落ち着かせようと目線を同じ位置まで下げたが、顔が同じ位置に来た瞬間に少女から頭突きを喰らった。せっかく掴んでいた手が離れ、少女の腕は解放される。その隙を見逃さず少女は俺達から逃げようと足に力を込めた。


「……あれ?」


 だが彼女はバランスを崩し、その場で倒れてしまった。そしてそのまま体を滑らせ、コロコロと屋根の傾斜に沿って落ちていく。


「ヤバイ!」


 これは典型的な魔力の枯渇現象だ。人の魔力は精神力と直結している為、魔力が空になれば精神も憔悴し、体が思うように動かなくなる。俺も初めて魔法を覚えた日に調子に乗って魔力が空にしたことがあるから分かるけど、魔力の枯渇現象っていうのは本当に辛いんだ。下手したら気絶するからな。普通の人は気絶した方が楽なのかもしれないけど、俺の場合は気絶してても構わず襲ってくるケダモノを知っているだけに人一倍注意しないといけない。

 そんなことを考えながらも俺が行動を起こしたのは一瞬だった。

 間髪入れず少女の後に続いて屋根から飛び降り、宙に身を投げた少女を抱きかかえることに成功した。


「――【ドライヴ】!」


 両足に銀色の光を纏った俺は怪我をすることも無く無事に地面に着地した。俺の腕に抱えられている少女も無事だ。……む。こいつ、意識あるぞ。


「……お兄ちゃん」

「大丈夫……なわけないよな。一旦俺の部屋に戻って休もうか」

「なんで……怒らないの?」

「いや、それよりもお前の心配が先だろ」


 確かに人の物を盗むことは良くないことで、大人としては怒らないといけないことだ。だけど俺だって鬼じゃない。ぐったりしてる女の子を叱り付ける筈が無いだろう。


「怒ってるに決まってるじゃない! マスターにお姫様抱っこされるなんて羨ましい!」

「お前は黙ってくれ」

「はう!?」


 空気が読めないリーゼは放っておいて、とりあえずこのツインテール少女を休ませよう。そう考えた俺は少女を連れて「竜の卵」に戻ったが、その時ババアにめっちゃ睨まれた。

 も、もしかして変な誤解されてる? ヤバイ、あのババアに殺される!


「…………」

「…………」

「おい、クソガキ。またやらかしたのかい」

「ちょっと待って! 俺は何もしてない! 無実だ! ……というかまたって何さ!?」


 俺はババアの冷たい一言に慌てて弁明を始めた。しかしババアは当然聞く耳を持ってくれず――


「アンタのことじゃないよ」


――鬱陶しそうにそう答えた。

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