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2. ネオ、高等魔法学校の講師になる

結局遺跡では新しい発見は何もなかった。新しいスライムも発生していなかったし、扉も開けることができなかった。絶対何かあると思うんだけど、何をしても傷すら付かないのだ。物理攻撃はもちろん、あらゆる魔法も無効化してしまう。スライムで溶かそうとしても無理だし、入り込めるような隙間もなかった。非常に高度な結界が施されているのだろう。今は諦めるが、いつかまた挑戦しに来ようと思う。


そんなわけでブリタニア王国本土のラプールの港町まで戻ってきた。馴染みの酒場のカウンターで酔えない酒を飲みながら物思いに耽る。


「これからどうしよう……」

「どうした、ネオ。シケた面しやがって」


カウンター越しにオヤジが話しかけてくる。このオヤジは酒場のマスターで私が初めてラプールに来て以来の仲だ。といってもここ数年はガリアに行っていたので随分久しぶりだ。


「それが……マネ島の遺跡あるでしょ?あの遺跡の扉の奥を調べようと思ってたんだけど、やっぱり開かなくてさ。それで次に何をしようか悩んでたところ」

「あの扉かぁ。ありゃー昔っから開いたって聞いたことはねーな。昔はこの辺りも遺跡荒らしどもがたくさん来てたみてぇーだがよ、結局みんな諦めちまった。俺が産まれる前の話だ。今ではただの観光名所の一つだな。学者連中も来なくなって久しい。って、ネオなら知ってるか」


そういってオヤジは肩をすくめた。


「そういやネオはすんげぇー魔法使えたよな?ガリアの高魔学で臨時講師を募集してるって話があるぞ。かなり大規模な募集らしくこんな辺鄙な田舎まで噂が聞こえてきてやがる。コレがかなりすごいらしいぞ」


そういってお金を表すジェスチャーをする。


「講師ぃ〜?私は人に物を教えたことがないから無理だよ。それにそもそもなんでそんな募集してるのさ」


そこでふと思いついたことが一つ。あの遺跡の扉の結界を解くためにはより高度な魔法を学ばなければならない。高等魔法学校……いや、その上の高等魔法研究所にでも潜り込めれば何かわかるかもしれない。結界関連の蔵書を見ることができれば何か手がかりが掴める可能性はある。臨時講師になれば、他の講師のツテでどうにかならないだろうか。


「オヤジ、やっぱその話詳しく教えて!」

「なんだぁ?結局行ってみるのか?」


そう言いながら詳しいことを話してくれた。


ガリア王国南部のラ・ローヌ領、それが次の目的地だ。海を渡り、更に大陸の反対側の海にまで行くことになる。長い旅になりそうだ。


**


ラプールの街を出発してからひと月程かけてラ・ローヌ領の首都マーセルに辿り着いた。ガリア王国に入ってからは馬車があったのでほんとに助かった。そうでなければふた月は掛かっていただろう。


高等魔法学校はマーセルの北のヴァロンって所にある。王都アヴァロンから名前を貰ったのだろう。ウンチクが好きな人に聞いたら色々語ってくれそうな気がする。学園都市ヴァロン、世界でも最高峰の魔法教育が受けられる学校があり、最先端の魔法の研究が行われている場所だ。魔法の知識も期待できそうだ。今日はここで一泊して明日早くに向かうとしよう。


ヴァロンに到着した私は、さっそく高等魔法学校、通称高魔学へと向かい、臨時講師募集について応募することにした。応募人数が多いため、まずはテストを受ける必要があるそうだ。その後試用期間を経て正式採用されるらしい。


案内されたテスト会場。私の他にも何人も受験者がいたようだ。申し込み人数が多いため、まずは筆記テストで落とすらしい。オヤジのやつめ、情報不足じゃないか。筆記テストなんかやったこと無いぞ。いきなりピンチだ。悪態をつくも、時既に遅し。結構わかるが私の知識では完全には埋まらない。しょうがないから周り人の内容を書き写させてもらった。もちろんバレないようにこっそりだ。スライムの特性で全方位を認識できるためにできる裏技だ。異なる答えが書いてあるところは回答が多いものを選んで書き込んだ。これなら受かるだろう、たぶん。


次は実技テストがある。魔法を使って何かするらしいが、これなら自信がある。さぁ、なんでも掛かってこい!


実技の成績は一番よかったと思う。ちょっとやり過ぎた感はあるが大丈夫だろう。というか周りのレベルが低すぎだ。そもそも杖を使っていないのが私だけだった。もうちょっと手を抜いてもよかったかもしれない。一先ず試験は終わったので、連絡先を教えて学校を後にした。


数日後、酒場兼宿屋で酒を飲みながら暇を潰していると連絡が来た。次は面接らしい。関門がいくつもあるとか、やはり狭き門なのだろう。ダメならダメで他の方法を考えるとしよう。


面接では学校のお偉いさん方がいた。色々聞かれたが適当に答えておいた。だってしかたないじゃん。私の生まれはマネ島です、とか言えないし。適当にでっち上げたのであとでボロが出ないよう気をつけねばならない。とりあえずテストの結果は絶賛されていたのでこのまま行けば受かりそうな気配だ。また連絡待ちということなので宿酒場に帰って待機しておくことにする。


一週間経った。連絡は来ない。もしかしてダメだったのだろうか。あと1日待って連絡が来なければ研究所に忍び込もうか。そんなことを考えながら時間を潰していると、ようやっと待ちに待った連絡が来た。やったよ!合格だって!


**


さっそく教鞭を取ることになったがまずは少人数を担当して結果を残せだって。これが試用期間ってやつだろう。週2回程度の授業を3ヶ月行い、その後生徒の成績を見て判断するそうだ。これに合格すると正式に臨時講師として採用されるという話だ。それにしても経歴不明でよく貴族のいる学校に入れたものだ。このまま上手く採用され、なんとか研究所のコネを手に入れねば。


私に割り当てられた生徒は3人だ。どこかから私の実力が漏れ、希望者が殺到したという話だが、そこから3人にまで絞りこまれた。何れも高位貴族の子息っていうことから権力を使ったのかもしれない。まぁコネが作れりゃなんでもいいので構わないが。


今日は第一回目の講義だ。学園の教室の一つに集まり、お互いに自己紹介から始める。


「私の名前はネオ。短い期間だけど、皆を指導することになったからよろしく」


ちょっとぞんざいだったろうか。舐められるよりはいいだろう。


「私が教えられることはただ一つ。効率のよい魔法行使だけだ。これからの3ヶ月で、その方法を学んでもらう。全員が一つ上のランクの魔法を行使できるようになるのが目標だ。厳しく指導するので覚悟しておくように」


生徒たちを見る。男が二人に女が一人。女の方はちょっとびびってるかもしれない。男は二人とも生意気そうだ。


「まずは自己紹介をしてもらおうかな」

「それでは私から……。お初にお目にかかります、シャルル・アレクシス・ド・ロワールと申します。ロワール侯爵の長男です。ロワール侯爵領はオル・レアンを中心として栄え――」


長い。自分の領の説明から、先祖の偉業まで、30分はしゃべり続けたのではなかろうか。この次点で少しうんざりしてしまったが、折角試験に受かったのだ。投げ出すわけにはいかない。


「エルヴェ・フェリックス・ド・シェールです。シェール伯爵の3男で、シャルル様にお仕えしています。シェール領はロワール領の南西に位置し――」


こっちも長い。いい加減にイライラしてきたが、我慢だ、我慢。


エルヴェはシャルルの従者のようだ。伯爵家といえど、三男ともなれば家も継げないので、将来ロワール侯爵家を継ぐシャルルとの関係を築いているのだろう。領地も隣り合っているみたいなので家もそういう関係なのだろう。


「ジュリエット・イヴェット・ダーシュと申します。以後お見知りおきください」


女の子は空気を読んでくれた!最高だ!!私の授業では贔屓してやろうと決めた。貴族の女の子らしいほわほわとした雰囲気を纏っていて、とても可愛らしい。


「私のことはネオ先生と呼んでちょうだい。ダーシュ……ジュリエットは貴族ではないの?」


疑問に思ったことを聞いてみる。


「貴族です。オーシュ伯爵領……ラ・トゥールの西、シェールの南に位置しています。イスパニアとも国境を接しています」

「へぇ〜、辺境伯か。貴族だったらド・なんちゃらという名前にはならないの?」

「わたくしの家名はオーシュ、つまりAuchなので、ドが省略され、d'Auchとなるのです。あと辺境伯とはゲルマニアにしかない爵位ですね。ガリアでは単に伯爵と呼ばれます。ただ他国と国境を接していることから、王家より信任の厚いものが選ばれるそうです」

「なるほどね。私はブリタニアの平民の出なのでその辺には疎いことがあるわ。間違っていたらその都度教えてちょうだい」


ガリア貴族の名前には色々あるらしい。


**


室内では魔法の練習はできないので訓練場へやってきた。幾つかある訓練場の一つだ。この場所には私たち以外はいないようだ。魔法を放つのに十分な広さがあるので張り切って教えていこう。


「それじゃあまずは皆の実力を知ることから始めたいと思います」

「ネオ先生」


シャルルが話しかけてきた。


「なにかしら」

「私たちの前に、まずはネオ先生の実力を知りたいのですが、いかがでしょう」

「かまわないけど……それじゃあ、あそこを見ててね」


そう言って訓練場の一角を指し示す。生意気なシャルルに実力差を教えるいい機会だ。派手なのがいいだろう。普通の魔法使いではできないことを見せてやろう。


集中し、魔力を練る。魔法で引き起こしたい現象を想像する。魔力を体から発散させ、精霊に譲渡する。土を分解し、空中に舞わせ、水を分解し、酸素と水素を生成する。それらを風の力で閉じ込め一箇所に留めておく。これで準備が整った。


伸ばした指先から迸る閃光、直後に響き渡る雷轟。土煙が晴れると小規模ながらクレーターが出来ていた。


「……すごい」


ジュリエットが呟くように言う。シャルルとエルヴェは言葉もなく呆然としている。


「今のは火風水土に雷の混合魔法よ。再現できる魔法使いは私以外に見たことはないわ」

「先生!杖もなしに、今のどうやったんですかっ!しかも無詠唱でしたよねっ!」


ジュリエットの目がキラキラと輝いている。好印象バッチリだったようだ。でもこんなに食いつきがいいなんて、魔法オタクか何かかもしれない。ジュリエットのいる前ではあまり新しい魔法は使わないでおこう。


「慌てなくてもちゃんと教えてあげる。まずは、皆ができることを教えてちょうだい。シャルル」


興奮するジュリエットを抑えつつ、シャルルに声をかける。


「これでいいかしら?」

「……ええ、素晴らしい魔法でした。ネオ先生になら安心して教えを乞うことができます」


シャルルはちょっと悔しそうだ。大したことがなかったら文句でも付ける気だったのだろう。


「じゃあまずはシャルルからね。一番得意な魔法を使ってみてちょうだい」


杖を構えるシャルル。杖に魔力を溜めているのだろう。そして、長ったらしいルーンを唱えると魔法が発動した。


「<<ファイア・ストーム>>」


炎の渦が発生し、辺りの空気を吸い込みながら成長していく。やがて魔力がなくなったのか、魔法が掻き消えた。


シャルルは炎と風の魔法が得意なのか。なかなかのものだ。


続いて、エルヴェが試す。同じように杖を構え、ルーンを唱える。


「<<アイス・ジャヴェリン>>」


巨大な氷の槍がドスドスと地面に突き刺さる。シャルルには劣るが、なかなかの数と大きさだ。


次はジュリエットの番だ。


「<<グランド・スラスト>>」


地面の一部が隆起し、隙間から水が吹き出した。相手のバランスを崩し逃げられなくしてから水の槍で攻撃するなかなかにエグイ魔法だ。水なのでチェーンメイル等では防げず、プレートメイルでも隙間があれば貫かれてしまうほど威力がある。可愛い顔してやるものだ。


「皆、凄いじゃない。複合属性を使えるとは思わなかったわ。シャルルは火と風、エルヴェは風と水、ジュリエットが水と土でいいの?他に使える属性はある?」

「わたくしは水と土の他に風も使えます」


ジュリエットは3種もいけるとは、応用が広そうだ。


「ふむ……それじゃあ皆が使える風から教えていこうかしら」


こうして指導、第一日目は何事も無く過ぎていった。


シャルルがちょっと生意気だったが、それ以外問題なさそうだ。初めての授業でも上手く要点を伝えることができたという確かな手応えを感じた。この調子でいけば本採用も間違いないだろう。


**


「今日は座学を行います。復習を兼ねて、魔法の基礎的な部分からやりなおします。それでは、ジュリエット」

「はい!」


ジュリエットが元気っ子になってしまった。混合魔法を披露してから懐きっぷりが半端ない。ブンブンと振り回される尻尾が幻視できるほどだ。


「魔法を行使するに当たって、現在解明されている仕組みを述べてもらえるかしら」

「はい!魔法は、杖に練りこんだ魔力を込め、ルーンを唱えることにより発動します。先生がやっているように杖なし無詠唱でも魔法を発動することは理論上可能ですが、難易度が高く、発動できる人は寡聞にして聞いたことがありません」

「うん、もうちょっと詳しく説明すると、杖に魔力を込めるのではなく、魔力を体内から切り離すということが必要なの。体内から切り離すことにより、魔法を引き起こす触媒として使用されるの。だから杖を使わない場合は、練りこんだ魔力を体外の一箇所に留めておくために難易度がケタ違いよ。魔力操作に精通していないと無理ね」

「はい、先生。杖無しで魔力を留めるとはどのような感覚なのですか?」

「うーん、口で説明するのは難しいわね。ジュリエット、ちょっとこっちにいらっしゃい」


ジュリエットを呼び寄せて、私の向かいに立たせる。


「ジュリエット、手を前に出して。そう。手を通して魔力操作を行うわ。普通は魔力の波長が合わないからできないんだけど、魔力操作が得意な人はその波長を合わせることができるの。だから……」


そういって、手を握り、魔力を流す。


「キャッ!」

「大丈夫、ゆっくりやるから落ち着いてね」

「はい……でもなんか変な感じです……ん……んん……」


「今から魔力を切り離すわよ。集中して。感じるようにしてね」

「はい……あぅ………う、うぅ……か、感じます」

「ふぅ」

「はぁ、はぁ………」


魔力を流すのを止めて手を話す。ジュリエットの顔が上気して色っぽい。少々刺激的だったかもしれない。


「でも、先生。感じはなんとなくわかったんですが、魔力を留めておくなんて出来そうにないですよ」

「そりゃー、簡単にできたらみんな大魔法使いよ。魔力操作を鍛えるしかないわね。シャルルとエルヴェもこっちへいらっしゃい。一度体験してみるといいわ」


**


「今日は属性のバリエーションの説明をします。シャルル、四大属性と派生属性の説明を」

「はい。四大属性とは万物の根源であるアルケーのことを言います。アルケーは火、風、水、土の四つです。(くう)、つまり虚空(アーカーシャ)を入れて五大と呼ばれることもあります。また第五元素としてアイテールが提唱されていますが、空とは対極を為す存在のため、しばしば議論されますが結論は出ていません。派生属性としては、雷、光、影、空間、時間などが挙げられます」


シャルルも従順になってきたなぁ〜。私は嬉しいぞ。


「うん、十分よ。強いて言えば、空間と時間の魔法は使い手がいないということね。これらは概念だけの存在で、現象を想像しようとしても難しいのが原因と言われているわ。ただ過去の文献にそれらしき記述が残っているからあるということだけはわかっているわ」

「はい、先生!回復魔法は派生属性に入るのですか?」


ジュリエットがいい質問をしてきた。なかなか鋭い視点だ。


「いい質問ね。回復魔法は神聖魔法と言われて、普通の魔法とは別枠で考えられているわ。まぁ、これは教会が勝手に言ってるだけで、実際には生体魔法というのが分類としては正しいんでしょうけど。生体魔法という分類だと回復の他に、麻痺とか毒とかがあるわね。あと精神魔法という分類もあって、幻惑や混乱、狂戦士化などがあるわ」


ここで一息いれる。うむ、ちゃんと理解できているようだ。


「ぶっちゃけると、分類なんてのは人間が勝手に分けているだけで、魔法は現象さえ詳細に想像できれば万能なのよ」


実際はこれが真理なのだが、残念なことに分類分けの方が主流なのだ。


「じゃあここでちょっと一般的ではない特殊な考え方の説明をするわね。あくまでも参考にするだけで、吹聴はしないように……。万物の根源たるアルケーは4つだけど、これはそれぞれが特徴的な性質を持っているわ。土は大地や金属などの堅い物、つまり固体、水はその名のとおり水や海などの形を持たいない液体、風は空気などの気体、火は物が燃えるという現象の時に現れる。これらは――」


うん、順調、順調。

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