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1. スライム、その名は「ネオ」

私の名前は「ネオ」。

種族はスライムで、普段は人間の女に擬態している。ただのスライムではないと思っているので、自分でネオスライムと称し、そのルーツを探る旅をしている。安直だが、名前はそこから取ってつけたものだ。


現在は、海に囲まれたブリタニア王国のマネ島という所に来ている。というのもこのマネ島には遺跡があり、私はこの遺跡で生まれたのだ。気がついたら遺跡の中にスライムとして存在していたので、生まれたと言っても差し支え無いだろう。それ以前の記憶は思い出せず、ただ自分は人間だったという記憶と穴だらけの知識が残っていた。あの遺跡で人間になれたのは幸運以外の何者でもないだろう。懐かしい思い出だ。


**


う……ん……?ここは……?


私は気がつけばソコにいた。ぼーっとする頭でここは何処か考える。360度の視点で周りを見回し、ふと、視点がおかしいことに気がついた。全方位を同時に認識できるようになっている。驚いたことはそれだけではなかった。なんと自分の体が存在せず、スライムになってしまっている。


これはなんだろう?


手を動かそうとすると、スライムの体がふにゃりと動いた。


おぉ!


やはりこれは自分の体のようだ。意識すると触手も伸ばせる。なかなか便利そうだ。しかし声は出せず、体が震えるだけだ。いや、何を落ち着いているのか。そもそも私は誰なのか、それすらもわからない。急に心細くなり、体をぷるりと震わせた。


辺りは洞窟のようで、ゴツゴツとした岩壁に囲まれている。周りには骨が散乱し、長い年月の経過がうかがえる。


自分が誰か考えても埒があかず、ここに居てもしょうがないので移動することにした。足元はゴツゴツと尖った岩肌で歩きにくそうだが、このスライムの体には関係がない。水が流れるようにするすると移動できた。ここは洞窟だとして、明かりもないのにどうしてこんなにはっきりと見えるのだろう。スライムの体とは便利なものだと感心する。


しばらく進むと俺と同じようなスライムを発見した。だが、大きさも小さく、プルプルと震えているだけでまともに動けないようだ。スライムというと獲物を溶かし吸収してしまうイメージがある。近寄らないほうがいいのだろうか。だが、好奇心に負け、相手が小さいこともあって大丈夫だろうと判断した。


そろそろと小さいスライムに近寄っていく。近くでまじまじと観察して思う。スライムというのはなんて不思議な生物なのだろうか。脳があるわけでもないのにこうやって思考でき、目も無いのに周りを認識することができる。体も液体のようであるが、自由自在に動かせて、力を込めると固くすることもできる。なんとも不思議な生物だ。


小さいスライムに触れてみようと触手を伸ばす。ちょん、と触れた瞬間雷に打たれたようなショックを受けた。目の前が真っ白になり、気がつくと小さなスライムは私の体の一部となっているのがわかった。


吸収……いや、融合した?


思考のモヤが少し晴れたような気がした。もしかするとスライムを吸収していったら何か思い出すかもしれない。漠然とだが、そのような考えを抱いた。体の動きも滑らかになり、力も強くなったように感じる。当面はスライムを探し出し、取込むことにした。


あれからしばらく洞窟内を探索し、多くのスライムと見つけた。時間感覚がわからないため数時間かもしれないし、数日かもしれない。融合を繰り返し体積が大きくなるにつれて思考速度が上がり、動作もキビキビとしたものに変わっていった。以前は滑るように移動していると感じていたが、どうやらかなりゆっくり動いていたのだと今の感覚が告げている。もしかすると数ヶ月は経過していたかもしれない。だが空腹も疲労もないこの状態では、どれほどの時間がかかったとしても問題にはならない。洞窟はまだ続いている。探索を続けよう。


ようやく洞窟の最奥と思われる場所まで辿り着いた。何故最奥かというと、如何にもそれっぽい石造りの巨大な扉によって閉ざされた部分があるからだ。扉には精緻な彫刻が施され、荘厳な雰囲気を醸し出している。扉は押しても引いても動かず、周りに仕掛けらしきものも見当たらない。完全にお手上げ状態だ。スライムには手がないので、手も足も出ないと言ったほうが適切だろうか。


しかたなく引き返そうとしたところ、洞窟の岩壁を照らす明かりと、その明かりに映る人影を捉えた。段々と足音がこちらに近づいてくる。目的はこの扉だろうか。周りを見回すも、辺りに隠れる場所はない。慌てて壁をずるずると上り、天井に張り付くことにした。


現れたのは人間の女だ。格好からすると冒険者や探検家といった類の人間だろうか。どうにかしてコミュニケーションを取れないだろうか。しかしこの身はスライム、発見されれば攻撃されてしまうだろう。姿を表すのは諦め、観察を続ける。人間の女はしばらく扉を調べていた。何か分かったのだろうか、メモをとっているようだ。様子を覗っていると、女は不意に顔をあげ、こちらを見た。視線があった。


ヤバい、バレた。


そう思ったときには体が無意識のうちに動いていた。天井から女に向けて飛び掛かる。幸いにもスライムと融合しまくったお陰で人間一人を飲み込むことが出来るほどの大きさになっていた。女は悲鳴を上げるが、上から覆いかぶさるように降ってきた私の体に潰された。地面に倒れ込こむと、スライムの巨体にのしかかられ、もがくことしかできない。意識を奪おうと口と鼻を塞ぎ、息を止める。ジタバタと暴れる女。やがて抵抗が弱くなり、意識を失ったようだ。俺は拘束を緩めず、口と鼻を塞いでいた体を退かす。


さて、どうしたものか。


このまま起きるのを待っていれば少しは落ち着いてくれるだろうか。いや、意識を取り戻したとしても自分を襲ったスライムを見たら暴れ出すのがオチだろう。となればこの場所を離れるのが正解か。などと考えていたが、どうやらスライムの体は本能に忠実だったようで、なんと女の体を溶かし始めていた。身につけていた布製の衣服や腰に挿したナイフもまとめて取り込もうと蠢く。俺は咄嗟にやめさせようとしたが、なんとも抗い難い強烈な飢餓感に襲われ、身を委ねてしまった。これはスライムの食欲と呼べるものだろうか。今まで感じたことが無かった感覚に魅了され、気がつけば自分から女を取り込もうと動いていた。女が意識を取り戻し、暴れだしたので、せめてもの慈悲と思い、窒息させて殺した。全てを溶かし吸収し尽くすと、女がいた痕跡は、扉の傍に残っていたランタンと近くに落ちているメモと筆記用具だけとなった。食事を終えた俺は充足感を感じ、ここに来て初めて感じる眠気に身を委ねた。


目を覚ますと全てが変わっていた。手足がある。体もある。顔もある。人間の女になっていた。視界は相変わらず全方位を捉え、自らの裸体をも映し出し、自身の顔の造形でさえ認識することができた。顔は先ほどの女とは明らかに異なっている。金色のショートヘアに、神秘的な雰囲気を放つ碧眼。瞳が大きく、童顔に見えるが、かなりの美人だ。そしてすらっとした長身に鍛えられ引き締まった肉体。あの女とは似ても似つかない。


どういうことだろうか。先程の女を吸収したから人間になったのだろうか。私は何かを吸収すると進化できる種類のスライムだったのだろうか。


スライムの時のように、体を伸ばそうと意識してみると、なんと腕がそのまま伸びるではないか。戻れと念じるだけで元の腕に戻る。手だけをスライム化することもできた。全身も試してみる。全身が溶けてスライムに変化したり、反対に人型に戻ったり。どうやら私はスライム人間へと進化してしまったようだ。


**


人間を吸収し、今の姿になった時のことを思い出していた。


「さて、行きますか」


私は遺跡に潜るべく洞窟の中に入っていった。

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