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第3章

次の日、まだ平日なので俺は学校へと足を運んでいった。すると、学校中ではある話題で持ちきりであった。

 俺は友達が誰もいないので盗み聞きするしかなかったのだが、話によると一昨日夜にUFOが目撃されたらしい。

 亡霊は腐るほど見たことあるが、UFOを目撃したことはない。その存在に対して俺はどちらかというと否定的であった。

 UFOの目撃元は他校の生徒らしく、その噂がこの学校へと流れてきたらしい。

 しかし、今の俺には関係ない。今日は悪霊と対峙しなければならないため、俺はかなり緊張していた。しかも、憑依霊なのでライフルの乱射は容易にはできない。

 そのことばかりが頭を離れなかったため、勉強が頭に入らなかった。そして、集中できない授業中にあることに気がついた。

 給与の話を大神さんとするのを忘れたことだ。

 一回の亡霊駆除にどれだけの料金がかかるのか。振込み式なので通帳の中身を知っているのは大神さんだけだ。

 勉強にどうしても集中することができなかったので、亡霊駆除に関することを考えることにした。もちろん、お金の話だ。

 亡霊の数で金額が決まるのか? それとも、霊の種類によって金額が変わるのか? また、霊力弾を使用率で判断されるのか?

 そんなことを考えていれば、どんなに長い勉強とて時間が経ち終わる。しかし、終わるたびにクラス中はUFO話で持ちきりであった。

 携帯電話やスマートフォンなのでネットにつなぎ、撮影されたUFO動画を見ている。俺は直接それを見ることができなかったが、何の問題もない。

 UFOより、この教室にいっしょになって動画を見ている亡霊のほうが俺には怖かった。この光景を写真にでも取ったら、幽霊写真ができ、話題になるだろうに。

 すると、そこで俺はふと思った。

 写真はなぜ霊を映し出すのだろうか?

 俺は今まで大勢の亡霊たちを見てきた。そして、今も見ている。しかし、心霊写真には一度も出会ったがことがない。亡霊の顔が映っているとか、映っている人の腕が映っていないとかそういう類のものとは無縁の生活を送ってきた。

 UFO同様に心霊写真は本当に存在するんだろうか? 合成や何かのトリックなのではないか? 

 例えば、アンダーワールドの世界で『霊力カメラ』なるものが存在するならぜひ一度利用したいものだ。この表の世界で今みたいに流行るかもしれないな。

 しかし、彼らにとって俺や亡霊の存在は単なる『ネタ』にすぎないのだ。

 このUFOさわぎの元凶は誰だか俺は知らない。しかし、流行は所詮流行だ。いずれは流れ消えていくもの。UFOが真実かどうかも分からずに。

 くだらない現実世界だ。実に滑稽で醜い。

 すぐ隣に制服を着た亡霊がいることに誰も気がつかず、目先の真実かどうかも分からないものに群がる。それが世俗の高校生だ。

 これだけ価値観が違うのだ。友達ができるはずもない。この世界の流行は知っていても真実を知る術を持たない彼らとの歩み寄りなど不可能だ。

 これは俺が孤独と孤立の原因でもある。しかし、譲れないものは誰にだって存在する。俺はそれを受け入れている。

 そんな学校の流行よりも俺は憑依された女の子のことが心配であった。

 そんなこんなで、今日も授業の内容が頭に入ってこなかった。ハンターになってまだ二日目である。俺は責任重大の仕事を任されている。普通の企業なら勉強会などがあり、すぐに仕事はさせたはもらえないはずだ。まあ、バイトとかならいきなりなのだろうが、俺の仕事は人生を左右する仕事内容だ。

 しかし、授業内容が頭に入らないのは俺だけではなかった。クラスにいる生徒たちもUFOネタに取り付かれたかのようにひそひそ話を続けている。

 実に無意味で長い一日が終わり、俺はすぐに家へと戻っていった。荷物を置き、黒いバッグを持ち、昨日と同じ要領で家を出た。

 昨日、大神さんから渡された用紙に住所などが記されているので場所は分かっていた。しかし、学校とは反対方向にあるため、見慣れない場所でもある。

 自転車で番地の札を確認しながら進んでいく。なかなか見つからない。

 パソコンで調べるべきだったと後悔し始めた。しかし、俺には別の手段で住所を特定することができる。

 お金持ちが住む住宅地内をうろついていた俺は霊力で居場所を特定しようと考えた。通常の亡霊に比べ、悪霊の霊力は段違いだ。なら、この住宅地をうろついている亡霊との見分けがつくはずだ。

 実際、自転車で辺りを見ているが、昼間から徘徊亡霊がさまよっている。しかし、彼らの霊力などたかがしれている。

 そして、ついに見つけた。三階建ての豪華な一軒家を。その建物内からは異常な霊力と曲々しい悪意を感じる。この感覚は亡霊ではない。悪霊だ。

 俺はその家の前に自転車を止めた。

 そして、インターフォンを鳴らした。

 しかし、音を鳴らしても返事がない。誰もいないのだろうか?

 俺はもう一度インターフォンを鳴らすと、声が聞こえてきた。

「どちらさまですか?」

 女性の声が聞こえてきた。

「ハンターの大神の代わりにきました、神川です。取り付いた悪霊を駆除しにきました」

 実に非現実的な言葉だ。自分でも笑いそうになる。

「少々お待ちください」

 しばらくして、ドアが開いた。

「いらっしゃい・・・・あなたが大神さんの代わりの方ですか?」

「はい、そうです」

「大神さんからは若い方がいらっしゃると聞いていましたけれど・・・」

「高校生です」

 俺は嘘をついてもしょうがないと思い、正直に答えた。しかし、この女性は俺が本当に悪霊を駆除できるのか疑問に持っている顔だ。

 まあ、無理もないか・・・・・

「話によると、女の子が悪霊に取り付かれているとか・・・・」

「はい、そうなんです」

 この女性の顔からは恐怖を感じる。それだけ自体は深刻だということだ。この仕事をよく俺に丸投げしたものだ。大神さんは・・・・

「実は・・・・霊媒師の方にもいらっしゃってもらっているんです」

「霊媒師・・・・ですか?」

 これは駄目だな。

「まあ、おあがりください」

「失礼します」

 俺は新築の家に上がった。奥深く、無限に広がっているかのような構造をしている。こういう家に憧れを抱いてしまうくらいの家だ。

 しかし、この家には霊媒師と俺以外に客人がいるのも確かだ。実に性質が悪い。すると、あることに気がついた。

「複数いる!」

 俺は、亡霊は一匹だとばかり思っていたが、この家には複数の亡霊が取りついているらしい。

「あの、すいません。女の子は二階にいらっしゃるんですか?」

「そうです。今、霊媒師の方にお払いをしてもらっています」

 二階から御経らしき声が聞こえる。

「それは一旦霊媒師の方に任せましょう」

 これは俺の独断以外の何物でもなかった。

「言いにくいのですが、この家には亡霊が複数存在します」

「え!?」

 驚くのも無理はない。誰だってそういうリアクションをするものだ。

「急に言われても信憑性にかけると思うのでこれをつけて見て下さい」

 俺は黒いバッグから霊力ゴーグルを取り出した。

「これは霊が見えるゴーグルです。だまされたと思って一度使ってみてください。押し売りは一切しませんから」

 その女性は半信半疑でゴーグルを被った。

「一度、辺りを見ていてください」

 その女性はその場を離れ、居間の方へと向かった。俺は黒いバッグからライフルを取り出し、ベルトを巻き、駆除準備を済ました。すると、居間の奥から女性の悲鳴が聞こえたので俺はライフルを片手にその場所へと向かった。

 部屋に行くと、広く、液晶テレビが置かれている。そして、その隣にはまぎれもない亡霊の少年が立っていた。

「神川さん。これは・・・・」

 その女性は腰がぬけているようであった。

「大丈夫ですか?」

 俺は女性に寄り添った。

「ゴーグルを外すと何もないのに、つけると見えるんです。何かのトリックですか?」

「いいえ、そこには亡霊が確かにいるのです」

 俺は少年へと近づいていった。

「少年、どうしてこの家にいるんだい?」

 俺はやさしく聞いた。悪霊ではなかったからだ。

「ここは僕たちの家だよ」

「僕たち?」

「僕たちの家を奪ったんじゃないか!」

「奥さん、どういう意味ですか?」

 俺は女性に話を振った。

「私たちは普通に土地を買って家を建てただけです。何も悪いことはしません」

 俺は再び少年の姿を見ると、昭和っぽい服装をしていた。

「分かりました。この少年の霊は地縛霊です。この家に取り付いているのではなく、この土地に取り付いているのです」

 俺は再び少年に顔を向けた。

「君は昔からこの場所にいるんだね。じゃあ、二階にいるのは誰?」

「僕のお兄ちゃん」

「兄弟か・・・・・」

「でも、最近お兄ちゃんおかしいんだよね。まるで人間じゃないみたいに」

 悪霊になったというわけか・・・・・悲しいな。

「君たち兄弟は自分が死んだことを自覚している?」

 俺はいきなり確信へと迫った。

「僕たちは今でも生きているよ。ただお父さんとお母さんを待っているだけなのに知らない人が勝手に僕んちに入ってくるんだ」

 この亡霊は女性を指差した。

「もう君たちはこの世にいないんだよ。肉体は失っているし。この状態を受け入れるんだ。生きたものに迷惑をかけてはいけないよ」

 しかし、この少年は理解できないようだ。

「僕んちを汚す泥棒め!」

 もういいだろう。

 俺はライフルを構え、その少年を撃ち殺し、駆除した。

「え? 今何が起こったんですか?」

「亡霊を一匹駆除しただけです。早く二階へ行きましょう」

 次第に亡霊を駆除することに対し、抵抗感がなくなってきている自分に気がついた。それはどこか恐ろしく、自分自身を見失う可能性を秘めている。

 あの少年幽霊は決して悪霊ではなかった。しかし、相手にするだけ馬鹿らしくなったのだ。昨日の老人たちだってそうだ。自分たちの勝手で生きた人間に迷惑をかける。そんなやつらの話などいちいち聞いてなどいられない。駆除するのが一番効率のいい方法だ。その考えだけは間違ってはいない。

 黒いバッグから霊力手袋を取り出し、両手に身に着けた。

 取り付いた霊を物理的に取り出すなど聞いたことがない。しかし、だからこそわくわくする。取り付かれた少女には申しわけないが、俺はこの仕事を楽しんでいる。だからこそ、取り付かれた少女は救い出し、悪霊を完全消滅させる。

 ライフルを再び持ち、階段を登っていくと、なにやら物音がした。

 そういえば、霊媒師が先に来ているといったが、本当に悪霊を払うことができるのだろうか・・・・・・無理に決まっている。他に霊がいたことを察知すらできなかったのだから、その霊媒師に霊力はないはずだ。

 まあ、悪霊ではない亡霊を放置した可能性はあるけれど。

 次第に部屋から聞こえる声は高くなってくる。それが御経を唱えていることが分かった。

しかも、その部屋からは強力な霊力を感じた。間違いなく悪霊である。かなり危険だ。俺は何のためらいもなくドアノブを手に取ると、奥さんに止められた。

「すいません。霊媒師の方から絶対にドアを開けるなと言われているのですが・・・・」

「そうなんですか?」

 それは困ったな。確かに、インチキであろうと仕事をしていることに変わりはない。

「つかぬ事をお聞きしますが、霊媒師の方が中に入ってどのくらいになりますかね?」

「一時間は中にいます」

「そうですか・・・・」

 正直長すぎる。本当にお払いなどというもので駆除できると思っているのだろうか?

 しかし、向こうにも考えがあって行っていることだ。数分だけ見守っても良いかもしれない。

 俺は奥さんといっしょにしばらく部屋の前に立っていたが、御経が聞こえるだけで何も変化がなかった。

 ついに痺れを切らした俺はドアノブを再び握った。

「神川さん!」

 奥さんを退け、俺は部屋の扉を聞いた。すると、中には白いはかまをきた女性が正座をしながら御経を唱えている。御幣と呼ばれる白い紙が棒に取り付けられたものを振りながら悪霊払いをしている。

部屋の中を確認すると、机や椅子、教科書やスマートフォンなどの私物が宙を浮いていたのだ。これを見れば悪霊払いをしたくなる気持ちがよく分かる。奥さんの判断は正しい。しかし、呼んだ同業者が悪かったようだ。

 そして、ベッドに座って動こうとしない少女が一人。後ろを向いているため、顔を見ることができない。しかし、間違いなくその少女から強力な霊気を感じる。人の物ではない。亡霊や悪霊と同じ感覚だ。

「すいません、お払いが済むまでドアを開けないようにといったはずです!」

 悪霊払いのおばさんは威圧的な態度で言葉を発した。

「す、すいません」

 奥さんは丁寧に謝っている。

「開けたのは俺です」

 俺は異様な空間となっている部屋へと足を踏み入れた。

「邪魔するな! 今は悪霊払いの真っ最中だ!」

 口の悪いおばさんだ。上から目線で傲慢さを感じる。

「そんな棒で本当に悪霊が払えると本気で思っているんですか?」

 俺はいやみったらしく言っていやった。

「あんた、何言ってんだ。仕事の邪魔だよ」

「インチキ商売の邪魔しにきたんだよ」

 俺は自分が驚くほどに本音をすらすら言っている。目の前にいるおばさんもまた俺を苦しめた『嘘』なのだ。だから、怒りを覚えてしまい、感情的になっている。

 何にもしらないババアが!

「何言ってるんだい? ええ! 何様のつもりだい?」

「なら、早く少女を救ってください。俺なら一時間もかけませんよ」

 実際何時間かかるか分からなかったが、無意味な御経や棒を振るだけの行為に怒りを超えて、憎しみを覚えるようになってきたのだ。

「あんたのような餓鬼に何が出来るのよ!」

「では、あなたは亡霊が見えるのですか?」

 俺は確信に迫った。

「見えますとも!」

「では、今日この家に来て、亡霊は見ましたか?」

「もちろん、この少女の中にいることは明確よ!」

「本当ですか?」

「私は霊媒師ですよ」

「なら、この家に取り付いていたもう一つの亡霊をどうして放置していたのですか?」

 俺はこの霊媒師を追い詰めていた。

「そうよ。あなた本当に霊が見えるの?」

 奥さんからの援護もあった。

「そりゃ・・・・見えましたよ。ただ、この女の子に取り付いている悪霊を成仏させるのが優先でしょう」

「では、この少女に取り付いている悪霊はどのような霊ですか? 男? 女? 子供、大人?」

「そんなの取り付いていて分かるわけないでしょう、馬鹿じゃないの?」

 その言葉は正しい。悪霊は少女の体の中に入るため、姿は見えない。

「下にいた女の子の幽霊から聞きました。中に入るのは兄の霊だそうですよ。下の霊を本当に見たんですか?」

「見えましたよ。女の子の霊でしょ。言われるまでもないわ。さあ、邪魔よ。出て行きなさい!」

「出ていくのはあんただ。下にいた霊は男の子だ。奥さんもそれを目撃している。見えないものを見えているという嘘はうんざりだ!」

 俺はその霊媒師の棒を奪い、部屋の外へと放り投げた。

「何するの!」

 霊媒師は棒を取りに部屋を出た。俺はその隙に少女に近寄った。

 悪霊の塊ではないかと思うほどの霊気。しかし、目の前にいる女の子は紛れのない人間だ。

 すると、宙に浮いている日常品が回転し始めた。まるで俺を少女に近づけないようにするためのように・・・・

 後方から奥さんと霊媒師の叫び声が聞こえていた。部屋中は散らかり、ゴミ屋敷とは違う恐怖がその部屋にはあった。

 宙に浮いたものを避けながら俺はその少女に近づくと、その女の子は急に浮かびだしたのである。空中浮遊した女の子は半回転し、こちらをにらみつけた。その眼球は光り、人の目ではなかった。髪の毛は逆立っており、憎悪に満ちたオーラを放っている。

「お前はなぜこの少女に取り付いている?」

 俺は冷静になりながら質問した。

「この家を取り戻すためだ!」

 駆除した自縛霊と同じことを言う。しかし、女の子の体を使っているので腹話術のような違和感を発している。

「その子を解放しろ」

「なら、家を返せ!」

 女の子の顔がまるで野獣のようであった。

「家を返さなければ、この女を殺す!」

「娘を返して!」

 奥さんが叫んでいる。無理もない反応だ。

「なら、この家から出て行け!」

「君の弟も同じことを言っていたね」

 俺は悪意に満ちた笑みで口を開いた。

「弟にあったのか?」

「ああ、けど俺が殺した・・・・ははは」

 俺は自分でも信じられないくらいに意地くそ悪くなっていた。この悪霊の憎悪と同等のものを俺も持っているということか?

「俺の弟を!」

 悪霊は怒り狂い、宙に浮いている日常品の回転数があがった。

「もう終わりにしよう。この世界は生きている人間だけのものだ!」

 俺はライフルを地面に置き、少女に急接近し、左手で少女の肩を押さえ、右手で頭を押し付けた。

「何をする!?」

「彼女の体を返してもらう」

俺の右手に霊気を感じる。まるで接着しているみたいだ。少女の体内にいる悪霊を少しずつ引きずり出している。少女の体と悪霊の身体が分離し始めた。

「娘の体から・・・・・」

 霊力ゴーグルを身に着けている奥さんには今の状況が理解できている。

「早く出て来い、悪霊よ。お前はこの世界に存在してはいけないのだ!」

 そして、少女と悪霊を完全に分離することができた。

「奥さん、娘さんを早く!」

「は、はい」

 気を失い、倒れている女の子を奥さんは強引に抱き、部屋の外へと出していく。

 一方の俺は半透明な少年の悪霊を両手で押さえつけていた。そして、両腕に装着した霊力手袋でその悪霊を馬乗りになって殴りつけた。左手で押さえ、右手で顔を殴りつける。まさか、幽霊を殴るとは夢にも思わなかった。しかし、これは現実だ。

 何度も何度も殴り、その度に悪霊はうめき声を上げる。

「お前のようなやつがいるから俺は苦しむんだ。死んでしまえ!」

 殴って、殴って、殴り続ける。それが俺の復讐だ。

 悪霊の顔はムンクの叫びのように歪み、人の顔をすでに失っている。しかし、俺はそれでも殴り続ける。その様子を部屋の外で奥さんと気を失っているその娘と霊媒師の女性の三人が見ている。彼女らの恐怖は悪霊ではなく、俺に向いている。恐怖とつめ痛い視線が俺に命中しているが、俺はそんなこと気にしない。

 何十発ものパンチを食らわせると、悪霊はどんどん衰弱していく。そして、その顔からは悲しみに満ちた顔になっている。それは暴力に対する苦痛から来るものか、それとも自分の置かれている立場からなのか。俺を油断させるための同情作戦か。

 しかし、それでも俺はパンチをやめようとはしなかった。

「悪霊は地獄へ落ちろ!」

 俺は大声で叫んでいる。憎しみが俺の体を蝕み、理性を失わせる。

 本当は、悪霊は俺で、少年の亡霊が人間なのではないかと思わせる異様な空間を俺は作り出していた。俺の目は殺意に満ち溢れ、誰にも止められなかった。

 すると、悪霊は力を振り絞ったのか、強力な念力を発動させ、俺を吹き飛ばしたのだ。俺は部屋の壁に激突し、背中と後頭部に激しい激痛を覚えた。しかし、そんなことで怯むわけにはいかない。

 俺は体勢を立て直すと、目の前に置いていたライフルを見つけたのでそれを手に取り、悪霊に向けた。トリガーを弾き、連射すると悪霊は狭い部屋の中を浮遊し、霊力弾を避け、俺に向かってくる。そして、左手で俺のライフルを吹き飛ばし、俺の首を絞めた。俺は作業用のベルトに取り付けてあった、霊力ナイフを右手で持ち、悪霊の左腕付け根に刺した。

「ぐわぁ!」

 霊力ナイフは白く光り、悪霊の左腕の付け根を強くえぐっていく。悪霊は痛みを感じるのかさらに喚き散らしている。そして、悪霊の左腕を切り落としたのである。

「がぁぁぁ!」

 半透明な左腕は地面に落ち、光の拡散のように消え去った。

 悪霊や亡霊は肉体を失った魂の塊のようなものだ。その魂の一部を俺は切り落としたのだ。

 悪霊は俺を離し、後方へと下がっていく。

「この・・・・・悪魔め!」

 まさか、悪霊に悪魔呼ばわりされるとは思ってもみなかった。悪霊を追い詰めている証拠だ。このままやつを駆除する。

 俺は霊力ナイフを捨て、ホルスターからハンドガンを二丁出し、連射した。悪霊の体全全体に霊力弾が命中し、腕や足がなくなっていく。体中が穴だらけになり、一方的な状況に陥れていた。

 そして、力無き悪霊は醜い顔だけの存在になっていった。

「終わりだ。釈明などさせない」

 そして、俺はハンドガンをしまい、霊力グローブでその悪霊を殴りつけ、完全消滅させた。すると、宙に浮いていた日常品等々が落下し、床に撒き散らされた。

 終わった。すべて終わった。駆除終了だ。

 投げ捨てたライフルを拾い、部屋を後にする。

「奥さん。もう大丈夫です。この家に住む悪霊は完全に駆除しました」

 俺はやさしく、冷静に答えた。

「ほ、本当に大丈夫なんですか? 引越しをしたほうがいいとか・・・・」

「その必要はありませんよ。悪霊は繁殖しませんから定期的な駆除の必要もないですし、問題ありません」

 すると、奥さんに抱きかかえられていた少女が目を覚ました。

「ん・・・・お母さん・・・・どうしたの?」

「良かった・・・・目を覚ましてくれた」

 奥さんは涙を流しながら強く少女を抱きしめていた。

「では、俺はこれで」

 俺は廊下に置いた黒いバッグの中にライフルと奥さんから回収した霊力ゴーグル、霊力手袋を閉まった。

 しかし、一人不満そうな霊媒師が俺のことをにらみつけている。

「あんた! 一体何者なんだい?」

 愚問とはこういう時に使う言葉なのだろう。

「同業者だよ。しかも、本物のね」

 その言葉に嘘偽りはない。

「化け物!」

 霊媒師にののしられたが、所詮インチキ女だ。気にすらできない。

 俺は無視して、この家から出た。


 家を出た俺は今日の自分の行いについて考えていた。

 今日の俺は暴走していた。怒りに心を奪われ、悪霊を虐殺した。駆除ではない。虐殺だ。今後の仕事にどのような影響を与えるのか俺は自分自身を心配している。

 いつか、頭が完全におかしくなって自分自身を破滅へと導くのではないだろうか。

 悪霊殺しにはまってしまった俺。この先、仕事に支障をきたさなければいいが・・・

 自転車に乗り、俺はこの場所を離れる。

 風に吹かれながら、俺は家には帰らず、河川敷へと向かうことにした。しかし、安堵の気持ちを邪魔する亡霊は俺の視界へと入ってくる。

 道には何体かの徘徊亡霊が歩いている。自分が生きているのか死んでいるのか分かっているのだろうか。俺は無意識に黒いバッグからライフルを取り出そうとしていた。意識を取り戻した俺はその手を止めた。

 亡霊がいれば駆除する。その考えに心を奪われている。その考えを危険と思っている内はまだ大丈夫なのかもしれない。

 自転車をこぎながら、高校生らしからぬことを考え、前へと進んでいく。しかし、俺の心は停滞したままだ。亡霊に対する一種のトラウマを抱えて生きてきた。それは幼い時からずっとだ。俺は過去からのトラウマを今でも引きずっている。心の前進は遠い先なのだろう。

 早く亡霊のいない河川敷に到着したい。しかし、その道を亡霊たちが妨害する。

 一体、また一体と亡霊は増えてく一方だった。

 彼らはすでに死んでいる。しかし、成仏できない亡霊たちは後を立たない。

 駆除したい、駆除したい、駆除したい、殺したい!

 俺は黒いバッグに再び手を伸ばそうとした時、亡霊たちの気配は消え、きれいな草原が見えてきた。

「やっと、着いたか」

 俺の心に住み着いていた黒い闇がクリーナーで掃除されたかのように真っ白になった心地よさを感じる。この場所には亡霊は存在しない。大神さんの一件を例外にすれば。しかし、あの時はあの場所に来てしまった感じであった。

 橋を渡り、自転車を置くと、俺は坂になっている芝生に大の字になった。

 すがすがしい気持ちだ。

 空はまだ明るいため、青く輝いている。その輝きの中に亡霊は存在しないし、霊気もない。穢れの無い空だ。

 今の俺はただの人間と同じだ。霊力の無い人間へと戻ったのだ・・・・・・

 そんなはずはない。俺は霊力を持った悲しい宿命の持ち主。今は周囲に亡霊がいないからただの人間と同等の状態になっているだけの話だ。

 もし、俺に霊力がなければ、この時間帯に部活に精を出していたのだろうか?

 青春を謳歌する。

 そんな安っぽい人生は、そうそう過ごせはしないだろう。部活に入ればそれなりの喜びと苦しみの両方を味わうことになる。亡霊はいないが人間がいる。人間同士が仲良くすることは簡単であり、難しい。

 結局、霊力があろうとなかろうと俺は変わらなかったかもしれないな。

 しかし、もう後戻りはできないし、するつもりもない。

 俺はハンターだ。亡霊殺しの男だ。この肩書きは一生消えることは無い。上等だ。やってやろう。町中の亡霊たちをすべて敵にまわそうとかまわない。殺してやる。

 俺や他者の生活を脅かす悪霊は殺す。これだけは絶対的だ。

 俺は立ち上がり、黒いバッグからライフルを取り出した。

 そして、俺はそのライフルを空に向けて、トリガーを弾いた。

 霊力弾は空に向かって放たれ、光輝いていた。

 ストレス発散にはこれが一番だ。霊力の消費を感じない俺の特権だ。

 四方八方に連射しまくり、俺はストレスを発散し続けた。もし、周囲に人がいれば俺を変な目で見るだろう。しかし、今この場所には誰もいない。広大であるが、家も畑もない場所だ。せいぜい橋を渡っている車くらいだ。

 けれど、霊力弾を乱射しているのは単にストレス発散だけではないと思う。

 この社会に対する復讐。

 俺を認めなかった社会への攻撃。

 それがこの行動をさせている原動力である。

 俺は社会に対して攻撃しているのだ。しかし、霊力弾は亡霊や霊力を持った人間にしか効果がない。するだけ、霊力の無駄遣いだ。

 けれど、その復讐心を消化する術を俺は知らない。いくら霊力弾を発射しても、怒りが収まるわけもない。霊力弾の飛距離はかなりのもので俺の視力で見えないところまで飛んでいっている。

 俺の憎しみを悪霊に八つ当たりするだけの仕事になってしまうことは避けたい。しかし、どうしても、俺の心理状態は不安定だ。

 この先、この駆除仕事をうまくやり続けられるかが心配である。

 とは言っても、始めてまだ二日目ではあるが。


 その次の日も、学校ではUFO騒ぎで持ちきりであった。写真まで広まっている始末でしばらくはブームが続くだろう。

 まあ、俺には関係ない。今俺が考えなければならないのは今日の仕事だ。

 今日は夜の産婦人科に行かなければならない。

 内容は産婦人科に取り付いている中絶して生まれなかった子供の霊を駆除することだ。これはこれで生々しい現実を突きつけられる。

 穢れも無い中絶されたいわゆる水子は駆除しにくい。同情してしまう。しかし、大神さんに渡された用紙にはこう書かれている。

『通常の水子の霊は何の害も及ぼさないが、何年も取り付いている水子の中には悪霊になる場合があり、妊婦に取り付き、流産させる可能性がある。しかし、水子の活動自体が低いため、取り付かれる可能性は低い』

 しかし、生きるものを流産させるのは悪以外の何物でもない。同情する部分はあるが、やってはいけないこともある。

 駆除するしかない。

 しかし、理不尽な話だ。人の身勝手で命を咲かされ、人の勝手で殺される命。もちろん、暴行されたとかで望まれない命もあるのだろうが、理不尽にもほどがある。中絶を否定するつもりはないが、この世には正しいと間違っているという価値観だけでは片付けられない問題がある。

 今回の仕事はある意味で難しい。俺の心の問題だ。

 ただ、駆除するなら簡単だ。しかし、事情が事情だけに駆除しにくい。もし、ためらいも無く駆除してしまったら、自分は人間ではなくなってしまうのではないだろうかと不安が頭を過ぎる。

「UFOって本当にあるんだな!」

「本当かしら? どう思う?」

「いるんじゃない。この町に基地でもあったりして?」

「マジかよ。そしたら、UFOがやってくる町で繁盛するかもな」

 周囲のクラスメイトたちはUFOに取り付かれ、俺は亡霊に取り付かれている。この温度差は一体何なのだ。

 UFOで盛り上がる生徒と、水子で悩む俺。この温度差はまさに天と地ほどの差だ。

 次第に俺の中に怒りがわいて出てくる。

 どうして、俺だけがこう苦しまなければならないのか。

 裏の世界の事情を何も知らないのん気な高校生たち。ただ、楽しいものばかりに目が行くだけの動物たち。一方では亡霊ばかりに目がいってしまう俺。

 もし、この学校で悪霊の被害があり、仕事をしてくれと言われても、俺は断るかもしれない。

 最低だな俺は・・・・・

 しかし、この学校に亡霊はいても悪霊はいない。そんなことは実際に起きないだろう。

 少し残念ではあるが。

 そんな歪んだことを考えていても仕方がない。

 今日は水子のことだけ考えていればいいのだ。

 しかし、この仕事を期に敵は亡霊だけではないことを始めて理解したのだ。

 いつもどおりの日常が過ぎ、六時までに産婦人科へ向かうことができた。

 医院長との話では、駐車場周辺の水子たちを駆除してほしいとのことであった。しかも、定期的に駆除をしているらしい。

 流産や中絶などがある以上、水子は定期的に生まれてしまうことは必然なのだろう。

 町の産婦人科にしては大きく、駐車場も広い。しかし、一番驚いたのは水子の霊の形であった。

 水子は完全な肉体を手に入れる前に死んでしまった魂だ。今俺が見ている光景は、産婦人科の建物を虫がわいているような光景。『光の玉』であっだ。

 通常の魂は人の形をした半透明な存在だ。しかし、俺の目に映っているものは光の玉。俗に言う『オーブ』だ。

 オーブを見るのは生まれて初めてであったために、俺は驚いてしまったが、そんなことで怯んでいるわけにはいかない。

 黒いバッグからライフルを取り出し、ライフルについている霊力ライトを点滅させ、視界を輝かせる。あまり、人に見られたくはないので早く終わらせようと無数のオーブに向かってライフルを構えた。

 無数に浮かぶオーブは蛍のように輝かせている。その面影は人間のものでも亡霊のものでもない。この姿なら罪悪感を抱くことがない。

 そして、俺は霊力弾を発射した。

 オーブとは違う白き光は、オーブの存在を打ち消している。この光景は害虫駆除のようである。しかし、オーブといえども最低限の知恵があるようで、俺の攻撃を回避するかのように離れていく。

「逃がさないぞ!」

 明らかにシューティングゲームのような感覚で俺は駆除している。オーブの直径はいろいろで五センチから大きくて二十センチのものもある。何を持って大きさが決まるのかは俺は知らない。色は少し黄色いがそれもまちまちであり、個性が出ている。

 しかし、どんなオーブであろうと、害ある魂は駆逐しなければならない。

 ライフルの連射で小さい球体に霊力弾が命中し続けた。しかし、その分だけ目一夕できなかった霊力弾もあった。小さい球体を狙うのは難しいからである。もちろん、俺の狙い方が悪いもの確かだ。

 自分流で構え、攻撃しているのだからいたし方がない。

 産婦人科の裏に回り、隅に浮いている無数のオーブを俺は見た。虫がわいているかのような光景に俺は気持ち悪さを感じた。死体に群がる蛆虫のような不愉快さは俺の罪悪感を完全に消し去ってしまった。

 ライフルの使い、駆除を繰り返す。まるで大量虐殺しているような規模だ。

 実に哀れな存在であるオーブ。

 人として生まれてこれなかったものの末路がこの姿であり、駆除の対象でしかない。悲しいことである。しかし、駆除以外に俺のできることはない。やるしかないのだ。

 空へと逃げようとするオーブを俺は打ち落とす。隅に隠れようとするオーブを世界から阻害する。そんなことを繰り返していたが、まだまだオーブは存在している。

 これでは、本当に害虫駆除だ。きりが無い。

 そんな時、俺はあるものに気がついた。

 霊力手榴弾!

 俺はライフルを捨て、霊力手榴弾を取り出した。真っ白なその球体を俺はオーブの地面に向けて投げた。その球体もまた白き閃光を流し、地面へと消滅し、そして光を拡散させた。その光を浴びたオーブの大群は一瞬で消え去った。

 光を周囲に放つのは嫌ではあるがいたし方がない。

 霊力手榴弾のおかげで数体のオーブだけが残った。

俺はライフルを地面からつかみ取り、オーブを再び狙い撃ちにする。

 小さいオーブたちを撃墜し、後に残ったのは黄色に光る直系三十センチくらいのものだけである。こいつを駆除すれば今日の仕事は終わる。

 俺は連射し、巨体オーブを攻撃したが、今までのとは違い、俺の攻撃を避けている。

「やるな!」

 俺はライフルを構えたまま、後を追った。

 産婦人科の裏から駐車場へと巨大オーブは向かった。

「殺してやる!」

 ハンティングをしているような遊びの感覚へと落ちていた俺は油断して裏の角を曲がり、ほとんどの車がない駐車場へと出た瞬間、予想外の出来事が起きた。

 霊力弾が飛んで来て俺の体に命中し、俺は後方へと吹き飛ばされたのだ。命中した胸が焼けるような痛みを発している。

「霊力弾?」

 俺は痛みを堪えて立ち上がると、そこには巨大オーブとともに一人の女の子が立っていた。ロングヘアーで耳を出している。しかも、制服が俺と同じ高校のものだ。

「お前は・・・・誰だ!」

「あなたね。霊たちを虐殺していたのは?」

 その声は気が強く、完全に俺を悪人であるかのようなどすの利いた声であった。

 俺は巨大オーブ目掛けて再びライフルを向けると、その女の子もサブマシンガン型の銃を俺に向けた。

「私たちは互いに霊力を持っているわ。だから、この霊力銃で苦痛を与えることができるわ。あなたがこれ以上霊たちを虐殺するのであれば、私はあなたを撃つわ!」

 その言葉に一点の曇りも無かった。この女こそが大神さんが言っていたハンターを否定する存在。

「オーブは悪霊だ。駆除する必要がある。俺の行動のどこに問題がある?」

 俺は間違ったことは言っていない。

「オーブであろうと悪霊であろうと、魂は生きている。その魂を天へと返す。それが自然の摂理よ。しかし、あなたはその魂を天へ返すどころが殺している。それは罪よ」

「死んだものはこの世界にいてはいけないのだ。もし、天へ帰る気がないなら俺が駆除する。この世界は生きている人間だけの特権だ。死者は黙って天へ帰れ! 邪魔なんだよ。亡霊共は」

「殺すことしか出来ないハンターは悪だわ。霊はこの世界に未練があってこの世界に止まってしまったいわば被害者なのよ。私たちネゴシエーターは彼らを保護して説得し、自然に天へと帰らせる」

 ネゴシエーター?・・・・・・俺はアンダーワールド内の言葉をよくは知らない。なにせ、行ったことがないのだから。

「交渉で天へ帰らせる・・・・・笑わせる。なら、とりついたたちの悪い悪霊をどうやって天へ帰らせるというんだ。あいつらは人の話を聞かない。エゴの塊のようなやつらだ。そんな亡霊は駆除するのが一番早いし、効率がいい。彼らに生きる資格は無い!」

 昨日の仕事を例にした。

「確かに、時間がかかるわ。でも、人殺しよりましよ」

「亡霊駆除だ。やつらは人じゃない。死人はこの世界にいてはならない」

 俺の苦しみの根源は亡霊。そのような存在を肯定することは俺自身を否定することになる。それだけはあってはならない。

「彼らに天へ帰るチャンスを与えないなんて最低よ」

 話が絶対に合わないようだ。亡霊に人権を訴える女と死者に生きる資格はないと唱える俺。分かり合うことは不可能だ。

「俺はオーブを駆除するようにこの産婦人科から依頼を受けているんだ。これは立派な仕事なんだ。それに亡霊を駆除してはいけないという法律はこの世に存在しない。それはこの社会でもアンダーワールドでもそのはずだ」

 完全な正論である。しかし、アンダーワールドに関してはその秩序が変わる可能性を大神さんは示唆していた。

「あなた、アンダーワールドで見かけたことないけど、いつからこっちの世界に入ったわけ?」

 上から目線の発言だ。自分の考えが絶対だという人間の典型例だ。

「二日前だ!」

 すると、その女子学生は人を馬鹿に知るかのように笑った。

「何それ。それでハンター気取り。馬鹿じゃない!」

 巨大オーブの横にいる彼女はさらに俺を馬鹿にする。

「ド素人がハンターって笑わせるぅ! どこでその武器を手に入れたのよ! まさか盗んだんじゃないでしょうね」

 ずうずうしい女だ。どうしても好きにはなれない。

「大神さんから借りているんだよ。悪いか!」

 すると、彼女の表情がこわばった。

「嘘よ。どうしてあの人があなたなんかに武器を貸すと思っているのよ!」

 アンダーワールドでの大神さんの立場を知らない俺はどうリアクションをすればいいのか迷ってしまった。

「私たちの世界にとってあの人は伝説のハンターよ。ネゴシエーター側でも英雄視された人がどうして何も分からないあなたなんかに武器を渡すのよ」

「今日の仕事も全部大神さんから譲渡されたものだ。この武器も何もかも。大神さんは負傷して代わりに俺が仕事をしているんだ。だから、邪魔しないでくれ」

 俺は巨大オーブに狙いを定めた。

「だったら、なおのこと邪魔しなきゃいけない。大神さんは伝説よ。ハンターの象徴と言っても過言ではないわ。その後継者がいるなんてことがアンダーワールドに知れたら、ハンターはますます増徴するわ」

 互いに譲れないものがある。それは他者を否定することにつながる。そして、人間同士の絆は生まれない。

「このオーブは私が預かるわ。だから邪魔しないで」

「邪魔しているのはお前の方だろうが!」

 他人とここまで話したのは大神さん以来であった。

 俺はふとあることに気がついた。彼女の両手に霊力手袋が身に着けられている。その手でオーブに触れている。やさしい手つきで。

「分かった。その巨大オーブはお前にくれてやるよ」

 この場所のオーブを排除するのが俺の仕事だ。考え方を変えれば、この場所にオーブがいなければいい。この女がオーブを飼いならすならそれもアリだろう。

「責任を持ってオーブを天へ帰らせるわよ!」

 気の強い声は俺を不愉快にさせる。俺が悪いことでもしているかのような言い方だ。

「時間はかかるだろうけど、殺すよりはましよ。霊だって権利があるんだから!」

 余計な一言を・・・・同じ高校なので校舎で出会わないことを祈るまでだ。

「ところで、昨日霊の取り付かれた女の子を助けたそうじゃない?」

 意地悪な声で言った。

「そうだが、それがどうした?」

「霊を殴りつけたそうじゃない?」

「ああ、そうだ。それが何か?」

 少女の人生を壊そうとしていた悪霊には正しい処置だ。

「仲間の霊たちから聞いたわよ。あの家の兄弟霊を殺したそうじゃない?」

「仲間の霊?」

 この女は何を言っている?

「何も知らないのね。まあいいわ。霊たちからの情報だとあなたはあの兄弟霊を虐殺したそうじゃない」

「何か問題でも?」

「私がかけつけて話し合いをする所だった。それなのにあなたは彼らの言い分も聞かず殺した」

「それが・・・・どうしたぁ!」

 きれいごとばかり述べやがって。悪しき霊を駆除して何が悪い。

「亡霊はすべて排除すべきだ。目障りなんだよ。その存在自体が!」

「あなたと話してもどうしようもないようね」

「ああ、とっとと消えうせろ!」

 俺はライフルを下ろした。

「いずれ、幽霊狩りが禁止になる時が来るわ。そうすれば、あなたは終わりよ」

「何を言っている?」

 しかし、彼女は俺を無視し、銃をしまい、両手で巨大オーブを掴みながら、この場所を去っていった。

 非常に気分が悪かった。俺が罪人のような言い方。決め付け方。実に不愉快だった。あの女も霊力があるなら霊力銃で一発攻撃しておくべきだった。

 彼女に攻撃された箇所に痛みを抱えながら、今日の仕事の後始末をした。



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