乙女は飢えの葛藤に
空腹が満ちたとたんに第二の飢えがやってくる。
少女は昼食によってできた空き袋を片付けながらどうしようか一寸悩んでから目を閉じた。
更に過食に走っても何も満たされはしないのだ、とわかっていたので考えないことにした。
「 」
少女は誰かに声をかけられたのを気づいて、目を開ける。
「 」
彼女の恋人が目の前でカップラーメンの出来上がりを待っていた。
片付けが面倒なのに少年はそういったものを好むことを少女は知っている。
ぼんやりと宙に目を彷徨わせてから少女はおもむろに彼の背中側に移動して座りなおす。
そこが居場所と言わずともわかっているかのように彼女は恋人に背中を預けて力を抜いた。
少年はいつもと同じように彼女の体重を支えながら器用に食事をとる。
麺をすする音がしなくなったところで少女は体の向きを変える。
少年の首と肩に体重をかけるように抱きついて密着した。
「 」
「 」
短い会話しかいらない。
少年は恋人に口付けをしようとしたが、少女は首に腕を回してそれを拒む。
口付けは少女から少年の首筋に。
唇から熱が少年に流れ込んだかのように彼の頬が赤く染まっていく。
短くも長くも無い時から少女は唇を離して、お互いの鼓動の脈動を感じてうっとりと目を細めた。
繊細なガラス細工を持つように、少年は恋人を腕の中に引き寄せて抱きしめる。
すると少女は細腕を一生懸命に震えながらも強く力をこめて彼の抱擁に応えた。
それでも彼女の指は唇は違い何かを求めるように相手の背中をゆっくりなぞる。
ゾクリと体が震えた。
背中の上側からシャツの裾まで落ちていった指は再び背中の上側で停止する。
少女の好きなようにさせていた少年はそれを待っていたかのように顔をあげた少女の髪をなでながら、そっと口付けを落とした。
触れるだけのキスでも恋人のすべてを手にしたような錯覚に落ちる。
少女が何かをしたそうに少年の胸を小さくたたいた。
どうしたいんだろうと思いながらも彼は彼女のために腕による檻をゆるめた。
膝立ちの少女の指がまず五本分少年の首に這う。
今度は彼女のほうからキスをしてくれるのだろう。
そう思った少年は目を閉じる。
もう五本指が首をすくうようにもち、そして優しく。
優しくも力いっぱいに、少年の首を絞めていた。
飢えを満たすために。
それからどれぐらいの時間がたっただろうか。
少女が体を丸めるように体育座りで少し離れた場所に転がっていた。
まるで置物のように、自分の存在が生き物以下であるように小さく卑屈に丸まっていた。
恋人は彼女に近づいて先ほどとは逆、彼女の背中側に立つ。
「 」
名前を呼んでも反応しない彼女はただ小さく誰かに謝罪の言葉を繰り返していた。
言葉が自分自身へのものではないのを少年は付き合いの中で知っていたのでそのまま言わせておく。
そもそも彼女は恋人に許されるとは微塵も思っていないのだ。
それが収まるまでは恋人は、彼女のすぐ後ろの体温が伝わりそうな距離でじっと待つ。
愛おしい少女の衝動を彼女自身が一時自己完結させる時間が来るまで。
まずおきる変化は少女の体の一部が緊張を緩めて、片腕がそろそろと何かを探るよう後ろに伸びてくることだった。
少年はその指に自分の手を差し出す。
まるで、蜘蛛の糸に手を伸ばすかのように少女はそれを臆病に触れた。
「 」
少女がつぶやく。
泣きはらしたのだろう、かすれた声だったが十分届いた。
返事の代わりに恋人はそこで初めて丸まった体を抱きしめた。
少女はまた少しだけ泣いた。
自分からけして抱きつこうとはできない。
それでも彼女も彼も幸せだった。




