表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/21

騙し通せるか? 林間学校! 3


 女子達の風呂はひたすら長かった。


時間はもう夜の9時半だ。消灯は10時。消灯時間に異性の部屋にいると、問答無用の停学コースって噂だ。もちろん、俺は体が女で千夏は心が女だって言い訳は出来ないし、通用する訳が無い。俺達は他には誰もいない女子部屋を出た。



 俺達は男子フロアに戻る廊下を歩く。もちろん話題は風呂の事だ。あれだけ汗をかいたのに、流さずに寝るなんて事は考えられない。


「風呂って何時までだっけ?」


「確か……一般客用に夜の11時まで入れるんだったかな?」


「一般客なんているのか?」


「あはは。分からないけど……。決まりなのかな?」


「まあ……俺達は10時消灯だから……。それまでに入らないとか。10時に点呼とかあるんだっけ?」


「……聞いてない。でも、今から入って……たった30分しか入れないのかぁ……」


「30分で十分だっ! 男は長風呂なんてしてはいかんっ! 男になったらなら、それくらい覚えろ!」


「女の子は1時間くらいお風呂に入るよ! 女の子になったなら、それくらい覚えてよね!」


 俺達は、相手の笑顔を見ながらお互いの男子部屋の扉の前に立った。


 用心しながら扉を開けると、部屋の電気はついたままだったが、4人ともまた布団も敷かずに寝ていやがる。三人で『大富豪』をした形跡があるのが、また涙を誘った。


 俺はカバンから着替えを抜き取ると、部屋を出てそっと扉を閉めた。三人の髪の様子から、風呂には入ったらしいが、起こしてしまうと覗きに来ないとも限らない。


 廊下に出ると、正面の部屋から千夏も出てきた。俺達はしばらく黙って廊下を歩き、階段を下りてから口を開く。


「でも……やだなぁ。一緒に入るの……」


「消灯まであと少しだ。仕方ないだろ?」


「僕の体、ジロジロ見ないでよね!」


「それはこっちのセリフだ! 普通女の方が見られるもんだぜ!」


 俺達は浴場に付くと、少しずつ扉を開いて中を覗く。時間が時間だからなのか、人の気配は無く、脱衣所の籠には誰の着替えも置かれていなかった。


「やったぜ! さっさと入るぞ!」


 俺は着ていた長袖Tシャツをあっという間に脱ぎ、さらしをはずしてズボンを脱ぐ。


「ちょっと待って! いい事考えた!」


「はぁ?」


 千夏はなぜか服を着たまま浴室に入って行った。


 暫くすると、何やらしたり顔で戻って来る。


「も…もう良いか? 寒いぜ……」


「なに裸で待ってるのよっ! もうっ! 信じられない! そんな女の子いないよ!」


「う…うっせー」


 俺は全裸でタオルを振り回しながら風呂場に飛び込んだ。すると、中は晩飯を食べる前に偵察した時と、まったく様子が違った。


「なに……この……煙……。あ、湯気か……。何も見えないじゃねーか……」


 扉を開けたとたん、白い壁に歓迎される。濃い湯気が充満し、奥にあったはずの浴槽が見え無い程だった。3mほど先まではかろうじて見えるので、転ぶような危険性は無いが……。


「換気窓開けちゃダメだよ! わざと締めたんだからっ!」


 後ろで声がした。どうやら千夏が入ってきたようだ。


「換気? ああ……それでか……」


 俺は洗い場の椅子に座った。普通はまずかけ湯をして風呂の中に入るのだが、今日はとにかく時間が無い。体を洗って風呂に入り、温まってさっと出るのが最短コースだろう。


 千夏もそれは分かっているようで、俺とは反対側の洗い場に背を向けて座った。


「しっかし、俺ってナイスバディだよなぁ! 羨ましいか? 千夏!」


「……羨ましいよ」


 俺は鼻歌を歌いながら上機嫌で自分の胸を洗う。女の体だと言え、今は自分の体。人に自慢できるものを持っているのは気分が良いものだ。うーむー。見ているとなぜか牛乳が飲みたくなるぜ!


 体を洗い、頭も洗った俺は湯船に向かう。驚いた事に、千夏はすでにそこにいるのだ。長時間風呂に入るって言っていたから、体を洗うのも遅いと思い込んだが違っていたようだ。


「洗うの早いな」


 俺が湯船に浸かると、振り返った千夏は俺に向かって舌を出している。


「べーっだ。胸ぺったんこだから、洗う部分少なくて済むもんねーだ!」


「はっはっは! それもそうだ。羨ましければ、いくらでも揉んで確かめても良いんだぞ!」


 俺は風呂で膝立ちすると、千夏の目の前に胸を突き出してやる。すると、千夏も両手で俺の胸を掴む。


「わぁ! ほんと大きくて柔らかーい」


「すごいだろ? 君もこのくらい大きくしてみなさい! ふっふっふ」


 男風呂で、女の乳を揉む男と揉ませる女。俺達はこの異常な様子に全く違和感を持たなかった。




[ガラッ]


「何これ……すっげー煙……」


 広い浴室に男の声が反響した。俺は顔を引きつらせながら千夏の背中に隠れる。


「ちぃーっす。誰入ってんの? 俺も入れてもらうなー」


 この声にはとても馴染みがある。……また、奴だ!


(正也だ!)


(うっそぉー。どうしよう……)


(お前は別に見られても良いだろっ! 問題は俺だ!)


(僕だって見られたくないよぉ。だから急いで体を洗って和海クンにも見られないように湯船に入ったのに……)


(それで早かったのか……。それより……やばいやばい……どうする!)


(僕の背中に隠れたまま……和海クンはいない振りをするのはどう?) 


(ナイス、名軍師! それで行こう! 端へ移動するぞっ!)


 俺達は、入り口から最も遠い場所へ湯船の中をゆっくりと移動をした。



「あー今日は疲れたぁ。俺ら4組男子はさぁ、走って山頂まで登ったんだぜ。これマジだからなっ!」


 正也はポチャンと言う音と共に湯船につかった。


「で、お前だれ? 俺4組の大野正也。これも何かの縁だ、話しでもしようぜ!」


 俺は妙に社交的な正也に、このときはイライラ感MAXだった。


「裸の付き合いってもんは良いよなぁ。なあなあ、お前、好きな子とかいる?」


 正也は立ち上がると、湯船の中をこっちに歩いて来たようだ。段々と湯気の中に浮かぶ人影がはっきりと見えてくる。


(千夏! 返事をするんだ! じゃなきゃ、奴はここまで来る!)


「う……うん……。好きな人かぁ……いるよぉ」


「あれ? その声……。千夏か?」


「そ……そうだよ、正也クン!」


「んだよ。すぐ返事してくれよ。俺、同じクラスの奴に自己紹介しちゃったじゃんかよぉ」


 正也はそこで座り込み、湯船に肩までつかった。もう顔がおぼろげに見えてくる距離まで奴は来ていた。


「どうせ……和海だろ?」


「ま……まあね……」


「分かるよぉ。和海って……なんか色気があるよなぁ。別に俺はそっちの趣味は無かったはずなんだけどなぁ……。奴は別! 目はキラキラと輝いているし、唇は艶があるし、体はぷにぷにと柔らかいし……。触った事あるか? 俺はいっつも肩を叩く振りして感触を確かめてんだよ!」


 あ……の……野郎! とんだセクハラ男じゃねーか! もう二度と肩すらも触らせねぇ! 


 俺は自分が全裸じゃなかったら、間違いなく正也に飛び膝を入れてやるのに……と、千夏の背中越しに睨みつけていた。


(正也の奴は、後で寝ている隙に俺がギロチンドロップをかける! とりあえず、今はあいつを風呂から出るように促してくれ!)


(そんな……どうやって?)


「ん? 何をごにょごにょ言ってんの?」


 正也は更に俺達に近づいて来た。俺は慌てて湯船に首までつかる。


「なっ……なんでもないよ! もうすぐ10時だから部屋に戻らないとなぁって思って……」


 千夏が、湯船の外に出した手を振りながら慌てた様子でそう言うと、正也はまた止まった。


「あーだいじょぶ、だいじょび。もう点呼とったから」


「えっ!? 点呼……終わったの?」


「男子部屋を回ってたのが9時頃だったかな。それから女子部屋の点呼か? 22時消灯とか言いながら、いい加減だよなぁ」


「ぼ……僕部屋にいなかったけど……」


「だいじょぶだって。俺の部屋も和海いなかったけど、トイレ行ってますって言ったらそれでOKだったから。真面目な奴ばかりの進学校だから、その辺ゆるゆるだぜ。まあ、信頼なんだろうな。ありがたいよな」


「そ……そうなんだ」


「だから、俺は余裕で二度目の風呂に入りに来たって訳。俺風呂好きでさぁ。さっきは混んでいたから急いで入ったけど、今回は長風呂にしようと思ってさ。風呂11時までだろ? あと一時間くらいは、ここにいようかな。いや、旅館の人から追い出されるまでずっと……」


(どこが男の人はお風呂が短いのよっ!)


(あの変人は例外だっ!)




 30分後――。


「やっと温まって来たよなぁ。まあ、これからって感じだけど」


「す……すごいね正也クン。僕も……結構お風呂好きなんだけど……。そろそろ……出たくなって来たかも……」


「いいぞ? 俺は一人でも構わないから気を使うなって! 大抵の奴は俺の長風呂に付き合いきれないからさ。先に出ろよ! 慣れてるから!」


「う……うん」


 その会話を、俺は途切れ途切れの意識の中で聞いていた。


(やばい……熱い……、なにこれ……。俺って……今何してたっけ……)


(和海クン!)


(なんで無理して湯船につかってんだっけ……。出たらいいじゃねーか……)


 俺が立ち上がろうとするのを、千夏が肩を抑える。


(何すんだよお前……。貧乳の妬みか?)


「ぼっ……僕はそこまで貧乳じゃないよっ!」


千夏の大声で俺は意識をはっきりと取り戻した。慌ててまた肩まで湯船につかる。


「はぁ? 貧……乳?」


 正也はまた俺達に近づいて来た。


「あれ……そこに……誰かいねえ?」


 正也は、千夏の肩越しに顔を覗かせた。すると、鼻まで湯船につかった俺と目が合う。


「あ! あれっ! 和海じゃねーの! おまえ、いつ来たの!? 俺、話に夢中で気づかなかった!」


 俺は浴槽の縁に置いてあった自分のタオルを掴むと、それを湯の中にいれて胸を隠す。


「いや……最初から……いたぜ……」


「ええっ! なんでだよ! どうして言わないんだよ!」


「ほ……ほら、お前、俺の話をしてただろ? だから……出るに出れなくなって……」


「ん……。そうだっけ? まあ、そういう時って良くあるよなぁ!」


 正也は俺のすぐ隣、30cmの距離に来て話を始めた。かなりヤバイ。乳が出たら終わりだ。しかし、この小さなタオルで一体いつまで隠せるのか……。



「んでよぉ……。ん?」


 俺が顔を上げると正也と目があった。余りにもチラチラと自分のタオルを見ているのを不審に思われたようだ。


「おまえ……なんでタオルを湯船に入れてんの? それってマナー違反じゃなかったっけ?」


 お前にマナーを説かれるとはなっ! 俺は奴の顔面にパンチを入れたくなったが、今手を離すと片乳がノーガードになってしまう。


「お……おまえ……。もう風呂から出ろよ……」


 俺はストレートに気持ちを伝え、千夏の背中に隠れた。


「なんで? なんで隠れるの? ……あっ! タトゥーか? それをタオルで隠してんのか? 最初は聞いてびびったけど、別に俺は大丈夫だぜ! 気にしないから見せてくれよ!」


 正也はまた千夏の後ろに隠れた俺の体を覗きこもうとしてくる。


「ダメだって言ってんだろっ!」


「桜だろ? みてーよ。リアル金さんみてーんだよ」


「お前、絶対金さんを見た時より驚くからダメだっ!」


「刺青って、皮膚とか盛り上がったりとかしねーの? ちょっと触らせてくれよ」


「触ったら、マジでお前を湯の中に沈めるからなっ!」


 俺と正也は湯船につかりながら、千夏の周りをぐるぐる回って鬼ごっこをする。

 そして、俺が千夏の後ろに来た時、突然千夏が立ち上がった。


「ああ……熱いねー! そろそろ出ようかな。正也クンは? まだ出ないの?」


 なぜか俺を追っていた正也が止まった。そして、目を点にして千夏を見ている。


「どうかした? 正也クン?」


 千夏が近づくと、正也は顔を引きつらせて後ろに1m下がった。


「さすが正也クンだよぉ! 僕はもう限界! 正也クンに……負けちゃった!」


 千夏は、どうしてか『負けた』と言う言葉を強調させた。


 すると、正也はうつむいて湯の中を後ろに下がって行ったかと思うと、


「お……俺……、もう出よっと! またな! 二人とも!」


 と言って、縁に置いてあった自分のタオルを手に取り、それで下半身を隠しながら逃げるように出て行った。 


「なに……あれ?」


 俺がそう言うと、千夏は俺にお尻を向けたまま、また湯船にポチャンとつかった。


「さあ? どうしたのかな?」


「まあ良いや。俺もう限界……」


俺は立ち上がると、浴槽の縁に座って正也が着替え終わる時間を待つ。お風呂の湯気さえも心地よく俺を冷やしてくれる気がした。


待っている間、何気なく俺は自分の大きな胸を見る。すると、ある考えが思いついた。


「もしかして……でかいのは……俺だけじゃ……無いとか?」 


千夏を見ると、慌ててそっぽを向かれた。


「意味の分からない事を言わない! 正也クンが着替え終わったら和海クンもすぐに出て行ってよね! 僕も本当にちょっとのぼせて来たんだからっ!」


「羨ましい……」


 俺の呟きは千夏に聞こえたのかどうか分からなかったが、とりあえず俺は、千夏にそれから自分の胸を自慢することをやめた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ