騙し通せるか? 林間学校! 2
「風呂はぁ? まだ入れない訳?」
俺は、その正也の言葉に体を震わせた。
「晩飯食ってからじゃないと駄目だってよ」
「飯って6時だろ? まだ5時前だぞ」
「マジぃ? 汗しこたまかいたし、体はだるいし、早く入りてぇ……」
三人は風呂の話題に持ちっきりだ。
「ちょっと俺、風呂どんなのか偵察してくんわ」
「おう、和海頼むー」
俺はみんなの返事を背に受けながら部屋を出た。もちろん10割俺のための偵察だ。
壁に貼られている紙の誘導に従って進む。……普通、こんな案内はプラスチックじゃないか? とか思いながら、結構広い館内の廊下を歩き、階段を下りる。建物は4階建てで、俺達の部屋は2階。風呂はまあスタンダードに一階にあるようだ。
理想は、鍵をかける事が出来る風呂。最近の旅館は家族風呂とか言って、自分のグループだけで入れるようなのもあるって聞いた。まあ……こんな古い旅館では期待薄だが。
着いた風呂の扉は横開き。しかも、二枚の扉を左右にスライドさせて開かれるタイプの無駄に大きな入り口だ。『男湯』と、のれんがかけてあり、典型的な風呂と言える。鍵? そんなのいりますか? と、経営者の声が聞こえてくるようだ。
俺は片方の扉だけを横に開けて中に入った。温泉なら先生はそうだと教えてくれるだろうから、お湯は沸かしたものを使っているのだろう。浴室への扉の向こうで水の音が聞こえてくる。おそらく、浴槽にお湯を張っている最中だと思う。
更衣室を抜けて、風呂へのガラス戸を開けて覗いてみた。中はタイル張りで、綺麗って印象は受けないが、かなり広い。音楽室とかと同じぐらいだ。その半分を浴槽が占めている。これなら……無理無く一クラス全員の男子、12人が入る事が出来るだろう。もちろん、脱げば完全に女の体を持つ俺は、それだけは避けないといけない。
「まずいな……。非常にまずい……」
俺は呟きながら風呂を出る。すると、廊下でばったりと千夏に会った。
「どうしたんだ、お前」
「お風呂を見に来たの。和海クンのためでもあるけど、僕にも大問題だから……」
「なんで? お前は男の体なんだから、普通に入れるじゃねーの?」
「だからっ! 他の男の人の裸なんて見れないよっ!」
「ん? ……ああ、そか……」
よく考えたらその通りだ。俺は男の裸を見る分には構わない。自分の裸を見せられないだけだ。しかし、千夏は逆で、体を見せる分には良いけど、心が女なので、男の裸を見るのは恥ずかしいって事になる。
「んじゃあ……隙があったら二人で一緒に風呂入るか?」
「なっ! なんでよっ!? 恥ずかしい!」
「だって……俺はお前の裸見ても何とも思わないし、お前も俺の裸見ても何も感じないだろ?」
「だからっ! 僕の裸は見られたくないのっ!」
「なんでぇ? 別に普通に付いてんだろ? そんなもの見慣れてるぜ」
俺が視線を千夏の下半身に向けると、なぜか千夏は手を広げてそこを隠す。
「いやっ! だめっ! 恥ずかしい!」
「……女って、訳わかんねーな」
俺は千夏とそこで別れ、部屋に戻った。部屋の中では、3人は布団も敷かずに畳みの上でいびきをかいている。
「まあ、しゃーねーよな。なんせ、全力疾走登山だったからな。…ふぁーあ。俺も…飯まで一眠りするかな……」
俺はあくびを一つすると、横になる事はせず、壁に寄りかかって座る。片膝は立てたままで、いつ何時襲われても対応できるような姿勢で目をつぶる。
[ピピピピピ……]
電子音が聞こえた瞬間、俺は目を開けた。本多が寝返りをうつように動くと、携帯を手に取った。どうやら飯の時間にアラームをセットしていたようだ。俺もポケットから携帯と取り出して時間を確認すると、18時丁度だった。
「おい、飯行くぞ」
俺は立ち上がってそう言うと、他の三人はゾンビさながらに、這って付いて来た。
晩飯も終わり、時間は夜の8時前。俺達は部屋に帰って来た。宿にいる間は特に学校のイベントは用意されておらず、基本的にずっと自由時間だ。
部屋で座ってまったりしている松尾と本多。そして、何かあった時のために、入り口の扉近くに陣取っている俺。3人だけだ。正也は風呂に混み具合を調査に行っている。
「だめだぁ。一組の男子が入ってやがる。あいつら早いなぁ」
扉が開くと、正也が入って来てそう言った。
「くそっ! あいつら狙ってやがったな!」
松尾は畳を叩いて悔しがっている。
「入れそうも無かったか?」
本多が聞くと、正也はゆっくりと首を横に振る。
「ほぼクラス全員じゃなかったかな。あれで一時間は入ってるだろぉ……。2番手を狙いたいけど……3組の奴も偵察に来てたから、熾烈な争いになりそうだぜ」
「しょうがねえなぁ……。なら、風呂が空く時間まで……大富豪でもするか?」
松尾がカバンからトランプを出してきた。
「良いねぇ!」
本多も手を叩いて賛成をする。
俺は、じりじりと部屋の扉へと移動をする。そんな俺に、正也は「閃いた!」 って顔をして言う。
「じゃあよっ! 負けた奴は罰ゲームとか有りにしねー? どう思う、和海…」
「あばよっ!」
俺は扉を開け放つと、クイックターンで曲がり、一直線に廊下を駆けていく。
「ちょっと待てよぉー どこ行くんだよー。カムバァーック!」
正也、松尾、本多の三人の声が廊下に響き渡った。
俺は旅館内をトボトボと歩いていた。あまりこんな奴はいないだろう……。
「あいつらマジかよ……。何処であの『くだり』の打ち合わせしてたんだ……? 男同士の友情って、ああ言う時にも働くからやっかいだぜ……」
俺は元男。もちろん男の手の内は読める。正也はタトゥーの件があるから言い出さないだろうが、松尾と本多が「負けた奴は一枚ずつ服を脱げ」なんて言い出す事も十分ありえる。……って言うか、絶対言う!
「ああ……どうすっかな。風呂にも入りたいし……。部屋には戻れないし……。ロビーにいたら見つかるし……」
俺は両手を組んで頭の後ろにやり、ため息を付きながら歩いていると、後ろから声が聞こえた。
「和海クン、ここにいたんだ」
振り返った所に立っていたのは、千夏だった。
「俺が部屋から飛び出したのが分かったのか?」
「もちろん分かるよ。僕の部屋にまで騒いでいる声が聞こえてきたし。カムバーックとかも」
「あいつらアホだからな」
「良かったら、一緒に女子の部屋に行かない? 僕呼ばれてるんだけど……」
「えっ! お前、女子に呼ばれて部屋に行くのっ!? ……すげーな。多分、正也ならよだれを垂らして羨ましがるぞ」
「一緒に行こうよ! 僕一人だと不安だし」
「えぇ……。俺が行ったら微妙な空気になるんじゃねーの?」
「大丈夫だよ! 女子はみんな僕たちを応援してくれてるからっ!」
「えっ……。まさか、それって……ボーイズラブを応援しているって事か? ……なんか余計不安になって来たんですけど……」
背中を向けてイヤイヤをする俺を、千夏は男の怪力で女子部屋にまで引きずって行った。
「ううぃっす……」
「わぁ! 和海君だっ!」
女の匂いが鼻を突く。多分、各々良いと思っている香水なり何なりをつけているんだろうけど、それが混ざった香りは脳の奥深くを直接刺激してくるような強烈な匂いとなる。
「なんか……広くねぇ? 千夏」
「うん、男子の部屋と違うよね」
俺と千夏は空いている場所に並んで腰を下ろした。
和室なのは男子部屋と同じだが、かなり広い部屋だ。おそらく、10畳はあると思う。この一室に、12人のクラスの女子全員が集まっていた。
「そうなの? 10畳の部屋に6人だから、狭いと思うけどねー」
女子のリーダー格の高橋久美がそう言うと、みんなはウンウンと頷く。
「なんでだよっ! 男子は6畳を4人だぞ! どうして女子は10畳を6人なんだよ!」
「同じようなもんじゃないの?」
「どこがだよ! 割ってみろ! 6を4で割ったら1.5だけど、10を6で割ったら…」
「もう、男は理屈っぽーい!」
俺は女子全員に笑われた。
女は自分達の事を『現実的』とか言いながら、男が理屈を並べるとすぐ顔を背けやがる。おまけに、血液型での性格とか、占いを超信じる奴らのどこが『現実的』なんだよ!
……と、言いたかったが、タダでさえ男子から逃げているのに、女子までを敵に回すと四面楚歌になってしまうので言わない。
「ところでさ、実際の所……どうなってんのよぉー。千夏君と和海君は? キスくらいしたの?」
久美が、女っぽい長い髪をかき上げながらそう言うと、女子全員が顔を寄せて来る。
「なっ……何言ってんだお前ら! ど……どうなってるって……言われても、普通に…友達。それだけ…」
「うっそだぁ!」
女子の視線は、顔を真っ赤にしてうつむいている千夏に向いている。
「お前がそんな態度だから疑われるんだろっ!」
「千夏君は、和海君の事好きだって言ってるのよー! 可哀想じゃない、ねー」
「ち……千夏! そんな話まで女子としているのかよっ!」
ますます顔を真っ赤にした千夏は、コクリと小さく頭を振った。
「お前らっ! 千夏は男だぞっ! もうちょっと……男と女の間で交わされる会話には……、遠慮ってもんがあるだろうっ!」
「だってぇ……。千夏君は女の子みたいだもん! だから何でも話しちゃう! きっと心が女の子なのよ! 神様が魂を入れ間違ったって感じぃ?」
「くっ……ある意味……合ってる」
俺は女の鋭い勘に黙らされた。
「もう、ここでキスしちゃったら良いんじゃないのぉ!」
「はっ……はぁ?」
なぜかそこで、「キス」の大合唱が部屋に巻き起こる。
「正気かお前ら! 俺と千夏は男同士だぞっ! 魂とかじゃなくて、体が男だ! 生物的にそれは俺には無理だ! なあ、千夏!」
千夏を見ると、奴は俺に向かって目を閉じていた。
「しょっ……正気になれっ! お前は違うだろっ! もっと消極的な……おしとやかな女……じゃなくて、男のはずだろっ!」
俺は千夏の胸倉を掴むと、上下左右に揺すった。
「それは……中学校までの話かな。人はいつ死ぬか分からないから……、僕は今したい事を……やりたいな」
「にゃぁー! 血迷うなバカっ!」
三十分ほどそれで揉めた後、俺は女子全員に押さえつけられて、千夏にほっぺにキスをされた。
「まさか……泣くとはねー……」
「泣かなきゃ、お前ら唇にしただろっ! けだものっ!」
俺は部屋の隅で体育座りをしながら震えていた。マジで涙が出るとは驚きだった。体が女になって、涙腺とかも変化してきているようだ。
「でもさぁ、和海君の体ってさぁ……。みんな気がついた?」
「あっ! 柔らかくなかったぁ?」
「うんうん!」
俺と千夏は視線を合わせる。やばい……ばれたか?
「和海君って……運動不足なんじゃないっ?」
「あはは、だって、和海君、帰宅部だもん!」
「緩んだ体だと、もてないよっ!」
……俺は両膝に顔を押し付けて、大きなため息をばれないようについた。
「でもさ、和海君ってさぁ、顔すっごく整っていない?」
「整っているって言うか……、化粧したらすっごく可愛くなりそう」
「うんうん! リップ塗るだけで、十分女の子に見えそう!」
塗らなくても、女なんですけどね……。千夏も苦笑いをしている。
「体も華奢だし、手首なんて私よりも細いんだよ!」
「絶対前世は女だよね、和海君!」
「千夏君が惚れるのも分かるよねー」
前世が女って言うか、今世で女になったから困っているんだけど……。
騒ぐ熱量が変化していないので気が付かなかったが、女子はいつの間にか半分の人数になっていた。何人か風呂に行ったようだ。
「でもさぁ……、和海君って……変わったよね?」
高橋久美が俺のすぐ隣に座って、直接言ってきた。
「はぁ? そうか? 別に同じだろ?」
「違う。顔が変わった」
久美は、俺を真っ直ぐに見つめながら真顔だ。俺は背中に何か冷たい物が流れた気がした。
「そ……そうか? ちょっと……性格が丸くなったからかな。前は尖っていたから…」
「……それのせいかな? 確かに……同じ人だと思うんだけど……。前はもっと男っぽい顔をしてたよね? 顎もこんなに細く無かったし」
久美は手を伸ばして俺の顎に触れた。俺はその腕を柔らかく押し戻す。
「やめろよ……。お前の記憶違いだって。俺は元からこんな顔だ」
そこに、久美といつも一緒にいる茶髪の深田恵が腰を降ろして話しかけてくる。
「私には分からなかったんだけどさぁ。久美ってば、和海君が入院から戻ってきたら、すぐに『違う!』って言ったのよ!」
恵は久美の隣でいたずらっぽい顔を見せる。
「おいおい。そこで恵が訂正しとけよ。そんな訳ないよとか言ってよぉ」
「言えないよぉ! だって、久美は和海君の事好きだったもん!」
「こらっ! 恵! 言うなっ!」
久美がこぶしを振り上げると、恵は両手を目に当てて泣く真似をする。
「な……何の冗談だよ……」
俺が聞くと、恵は泣き真似の手の隙間から目を覗かせ、舌を見せて言う。
「一目惚れって奴らしいよ! 入学して一週間も経たないうちに、和海君の話しばかりするんだから、久美って!」
「違うっ! 違わないけど、もう違う! もう好きじゃないもんっ!」
久美は腕組みをして顔を横向けた。俺は何か、寂しいような、ほっとしたような気持ちになった。
「まあ……俺、変な奴だからな……いろんな意味で……」
すると、久美は眉尻を下げながら寂しそうな顔で俺を見る。
「全然変じゃないっ! でも……何か……変わったの。……好きになっちゃ……いけない人のような気がして……」
……俺が女に変わったからだ。久美は女。俺も女。本能で何か感じ取った……のかもしれない。逆に男達が俺に付きまとい始めたように。
「そんな事言って、久美は怖気づいたんじゃないのぉ? 一緒に告白しに行った程だったのに、急にやめちゃってさぁ」
「えっ? 告白しに……来た? 来たって……どこに?」
「えっと、学校の東にある、大きな道路沿いの病院に和海君入院していたんでしょ? 高倉総合病院だったかな。そこに、久美とお見舞いに行ったのよ。ついでに告白しちゃえってね!」
「き……来たのか? 俺……知らなかったけど……」
俺は退院する日までずっと眠っていた。千夏からは母さん以外に病室に入った奴がいるなんて聞いていない。今の話が聞こえていただろう千夏を見ると、首を横に振っている。
「それがさぁ。結構病気大変だったの? 和海君の病室を看護師さんはどうしても教えてくれなくてさぁ。で、帰っちゃったの。和海君は残念だよねー。久美に告白してもらうチャンスだったのに! あっ、男の子の方が好みなんだっけ? あははっ!」
俺はふうっと胸を撫で下ろした。女の姿で無防備に寝ているところを見られたのかと思ってしまった。
……しかし、久美が俺に告白してこようとするなんて……考えた事も無かった。大して仲良くないから性格は良く分からないが、顔はかなりイケてると思う。スタイルも、俺よりは胸が小さいが、かなり良い。告白なんてされたら……どうしていただろうか……。
「あっ! それじゃ、私達もお風呂入りに行こうか。久美、行こうよ!」
部屋にまだ残っていた女子に促され、久美と恵は立ち上がった。
「千夏君も、一緒に入るぅ?」
恵にそう言われた千夏の顔は、ぱぁっと明るくなった。しかし、すぐにため息と共に目を伏せた。
「やめとく……。僕、男の子だから……」
久美と恵はそれを見て、笑いながら部屋を出て行く。
「消灯まで部屋にいていいよー。また後でねー」
パタンと扉が閉まる音がすると、部屋は俺と千夏二人っきりになった。
「どうする? 男子部屋に帰るか?」
「久美ちゃんも……和海クンの事好きなんだってね……」
室内は俺達二人だけだから、多少大きな声を出しても問題無いはずなのに、千夏はわざわざ俺のそばに座って小声で言った。
「昔の事だろ。俺が女になったからやめたみたいだな。いい勘してるな!」
「和海クンが病気にならずに……男の子のままだったとしたら、告白されて……どうしたの?」
「え……っと……」
さっき俺が考えていた事の続きを千夏は問う。そう言われても……困る。いまさら想像出来ない。
「僕じゃダメ?」
千夏は俺に顔を寄せてそう言った。
「いや……ダメも何も……。お前は男だから……」
「僕がもし……ううん、私がもし女のままだったら? OKしてくれた?」
「いや……だからだな、俺は千夏の女の姿を子供の頃しか見たこと無いから……」
「……地味だよ。胸もとても和海クンにかなわないし、久美ちゃんよりも恵ちゃんよりも小さい……」
「め……恵よりも小さいのか……」
「でもっ! 好きな気持ちならっ!」
千夏は更に体を寄せてきて、俺の肩に千夏の胸が触れる。
「まっ……待て待て……。この問題はだな、俺達の病気が完治するかどうかにも関係してきて…」
「病気が完治しなくても……。このままでも僕達はぴったりだと思う! だって……。男の心を持った女の子と、女の心を持った男の子だもん。世界で一番相性が良いはずだよ……」
女にここまで言わすなんて……、俺って本当に情けない。しかし、俺や千夏の置かれている現状は、それを凌駕した異常事態だ。……だが、この異常な変化を飲み込み、千夏の言うとおりにするのも一つの案かもしれない。お互い同じ病にかかった二人だし……。病? 病気? 待てよ……。
「いや、待った! 一つ大きな問題がある!」
「え……何?」
「もし……片方だけが完治したら……どうする気だ?」
「……あっ!」
「これは……非常にまずいぞっ! うん、すごく良くない! 俺達は二人ともホモでもなければレズでもない。なのに……恋人となれば見た目におかしな事態が生ずる……」
「本当だ……。考えたこと無かった……。どうしよう……」
やはり……性別が変わったと言う事態を乗り越えるのは難しい。今はとりあえず病気の完治に望みをかけつつ、様子を見るしかない。まだ女になって二週間弱。千夏でも半年だ。結論と今後の生活を決定するには早いし、若すぎる。
「まあ、それはその時考えようぜ! それに、俺はこの体で女と付き合えるはずは無いだろ? お前もそうだ。お互いに恋人なんて作れない。なら、二人でこのまま仲良くしようぜ!」
「うん!」
俺達は友達同士の熱い握手を交わす。
これまでの事で分かった千夏の性格は、温和であり、気遣いが出来て、やさしく、控えめ……など、悪いところが見当たらないくらいのまさに大和撫子だ。かなり性格は好みだと思う。しかし、どうしても男の外見と、低い声が気になるんだ。さっきも、男の唇が近づいてくるのがマジで嫌だった。
千夏は自分の事を地味だと言ったが、どんな地味でも……男以外であったら……好きになるかもしれない。……千夏は俺と同じようには考えないのだろうか? 俺の姿は女。嫌じゃないのか? 外見なんか気にしないのか? 心だけを……見てる? なら、奴は俺よりも大人だ。