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DNA? 男子のアイドル!

 次の日の朝、満員電車が更に辛いものとなっていた。


 昨日俺の部屋で千夏に身長を測ってもらった所、158cm。なんと10cmも縮んでしまっているとの事だ。つまり、ただでさえ息苦しかった電車が、壮絶なほど息苦しくなった。


スーツや制服姿の巨人に囲まれた俺は、手を伸ばしても頭の上にある酸素の層を掴める気がしない程だ。おまけに、体重も筋力も落ちた俺は、少し人の体が当たっただけでよろめいてしまう。


駅に着くたび、人の流れに水に漂う藻のように流されて行き、また押し戻される。高校の最寄駅で吐き出されるように降りた俺は、まだ一日が始まったばかりだと言うのに、体力を使い果たした状態だった。


「やっべー。女って……こんなに辛いのか……。女性車両……大賛成だな」


 俺は、視点が変わると世界も変わるものだとこの時初めて勉強した。


 制服の袖と裾は母さんにミシンで短くしてもらった。長さはそれで良いが、胴回りや太もも周りが全く合わない。これが中学の時のような学ランだったら明らかに変だったのだろうが、幸いにもうちの高校はブレザーだ。前のボタンをはずし、ポケットに常時手を突っ込んでルーズに着こなす事で、何とか誤魔化せている……と、思う。


靴は中敷を5枚重ねて、身長を3cmほどアップさせた。足のサイズが問題で、どうやら26cmから3cmも小さくなり、今は23cmだ。つま先にティッシュをこれでもか? これでどうだっ! ってくらい詰め込んで履いている。



 俺は正門をくぐり、靴箱に来ると、用意していた靴の中敷をカバンから素早く取り出し、上履きの中に突っ込んだ。また片側5枚、計10枚の中敷のお陰で、少し目線が高くなった。伸縮性の生地を交えた上履きなので、革靴とは違ってつま先に何もつめなくても、程よく足を締め付けて歩けた。



「おはよーっす!」


 悩んだ末、いつも通り教室のドアを開けると挨拶をしてみる。一週間程休んでいたので、俺の声にクラスの奴らが普段よりも強めに反応をする。目立つ事は避けたいが、男としてこそこそ入ったりは出来ない。しかし、どうしてか俺の声は裏返っていた……。


 俺は真っ直ぐに自分の席へと向かう。気合のあまり早く来すぎたようで、クラスの半分しか登校してきていない。どうやら千夏もまだのようだ。


 椅子に座ると、予想していたより胸が苦しい。ばれたくない一心で、少し胸を締め上げ過ぎたようだ。千夏と昨日話し合った所、やはり『さらし』のような物を巻きつけてぺったんこに潰すのが良いだろうとなった。しかし、そんなもの何処で売っているのか分からないので、シーツを切って超細長い手ぬぐいを作り、体に3重に巻きつけている。


「息が……。少しだけ……緩めて…」


「ちぃーっす! あれっ? 和海じゃねーの! インフル治ったのかよっ!」


 俺が自分の胸をシャツ越しに動かしていた所、正也の声が聞こえる。俺は慌てて手を離したが……、見られて……無いよな?


 正也は、俺の隣の自分の席に座ると、俺の方へ椅子を向けて笑顔で俺の肩を叩く。人の噂も75日。頭が軽めのあいつは、その10分の1の期間で俺がゲイだって噂を忘れてしまったようだ。変な噂が広まった次の日から一週間休んだのは俺としてはラッキーだったのかもしれない。ちなみに、入院理由はインフルエンザと言う事になっている。


「おう! 完全に完治だぜ!」


「はれっ? 和海……。声……、どうしたんだ?」


 俺は慌てて自分の口を手で塞いだ。そうだ……、俺は姿だけでなく、声まで女のように変化しているらしい。自分の声はなかなか客観的に聞けないため、昨日千夏に指摘されていたのにすっかり忘れてしまっていた。


「へ……変か?」


 今初めて試みてみたが、俺は精一杯声帯を下げるように喉に力を込め、出来る限り低い声を出してみた。


「おう。声がめちゃ高いんだけど?」


 効果は全く無かったようだ。


「ちょっと……風邪で……、インフルでよ……。喉がやられたみたいで……」


 俺は冷や汗をだらだら流しながら適当な事を言ってみたが、正也は「なるほど!」と納得してくれた。


「ところで……、一週間ぶりに会うと、結構印象が変わったって感じるもんだよな!」


「そ……そうか? 俺は……別に……」


 奴が俺の顔をじっと見ている様子からして、正也が次に何を言い出すか検討が付く。俺は教科書を机に入れる振りをする事で、奴から顔を反らした。


「教室入って来た時さぁ、和海の事一瞬誰だか分からなかったぜ!」


「な……に言ってんだよ。記憶喪失にでも……なったのか?」


「その席に座ってたから、ああ和海かって思ったけどな!」


 額に流れる汗を俺は拭う。あんまり汗を書くと……眉ペンシルで濃くした眉毛が薄くなってしまう……。俺は性別が変わり、それに伴い顔も変化したが、まだ『良く似た妹』くらいの面影を残している。入学して一ヶ月、俺は勢いで「元々こんな顔だった」と主張して乗り切ろうと思っていたのだが……いきなりピンチだ。


「にゅ……入院してたから痩せたかもしれない……ぜ」


「だよなぁ! なんか目がくぼんで? すげー大きくなったように見えるぜ! まあ、元々和海の目はパッチリ二重(ふたえ)だったしな!」

「まあ……な。だから、それを言うなって。俺は……一重(ひとえ)が良かったんだから……」

「あはは! その言葉、やっぱり和海だっ!」


 正也は笑いながら、俺の体を何度も叩く。叩かれるたびに俺の肩が外れそうになっている。こいつ……力の加減を考えやがれ!


「あれ……。和海の体……こんなに華奢だっけ?」


「だから痩せたって言ってんだろ!」


 俺は正也の手を肩から払い落とした。


「痩せたって次元なのか? その手首とか……ほっそ。和海、体重今何kg?」


「男は体重なんてめったに量るもんじゃねえよ!」


 俺はそう言ったが、実はまさかの40kgだ。俺も昨日風呂場で量ってみてかなり引いた。


 いつの間にかチャイムが鳴っていたらしい。担任がホームルームのために姿を現した。千夏も俺が正也と話しこんでいる間に登校してきていたようで、俺をハラハラしている顔で見ていた。


 追求を逃れる事が出来た俺だったが……、女として学校へ来て、まだ初日の15分でこれ。これから3年、ばれずに過ごせるのかと非常に不安になってきた。



 一時間目二時間目と、俺は順調にこなす。途中の休憩時間も、トイレに行っては個室の方へ入って用を足す。


 だからと言って、俺は「このまま行けるんじゃないか?」なんて甘い考えは頭に浮かばない。なぜなら……、今日の4時間目に最大の障害になる科目があるからだ。それは……、もちろん……『体育』。


 三時間目が終わり、女子が出て行くと男子は一斉に着替え始める。千夏の奴も何やら窓の外に顔を向けながら、男子の裸を見ないようにして着替えているようだ。しかし、千夏と同じ病気のはずの俺の状況は、奴とは比べ物にならないくらい綱渡りだ。


 俺は制服のジャケットを脱いで椅子にかける。ネクタイもはずして上着のポケットに突っ込む。……さて、ここからが問題だ。残りはカッターシャツ、その下にTシャツ、その下に『さらし』。一応、さらしはTシャツの上からは透けて見えないのはチェック済みだ。しかし、体育の授業なので、Tシャツを脱いで体操着に着替えないといけない……。


 Tシャツ姿になった俺は、シャツから腕を抜いて服の中に入れる。丁度『てるてる坊主』になった様子だ。そして、シャツの裾から両手を出し、体操着を手に取る。袖を通してから、体操着を一気にTシャツの上からかぶる。すると……なんと言う事でしょう……、


「おお……すげぇ……」


 一見、Tシャツの上に体操着を重ねて着たように見えた俺。しかし、襟口から手を差し込み、中のTシャツを上に引っ張って頭から引き抜くと……、体を晒す事無く、俺は見事にさらしの上に体操着を身につけた状態になった。


「和海……。何、女子みたいな着替え方してんだ……?」


 隣の席の正也は、ポカンとした顔で俺を見ている。もし逆の立場なら、俺も全く同じセリフを正也に投げかけた事だろう。


「いや……。一回……挑戦してみたかったんだよ……」


「……まあ、多少気持ちは分かるけど……。その着替え方を初めに考えた女子ってすげーよなぁ」


 俺も実際やってみてそう思った。歴史に名前を刻んでも良いと思う。もちろん、この偉大なる着替え方は、昨日の晩に俺の部屋で千夏と一緒に練習をしたのだ。


上は長袖の体操着に着替えた俺。長過ぎる袖は腕まくりをして誤魔化す。下に穿いたジャージも丈は長いが、裾がゴムのように締め付けるタイプなので、引きずらなくても済む。


「おっ! 袖まくりかよ! さすが和海! 威勢が良いなっ!」


「まあなっ! 男はやっぱこれだぜ!」


 俺は正也に拳を見せると、一緒にグラウンドに向かった。


 後で聞いた話だが、後ろから見ていた千夏には、ダボダボの体操着を着た細い女の子が、可愛くはしゃいでいるようにしか見えなかった……との事だ。


 あまり女子の事が分からない、もてない男子ばかりの高校で助かったぜ……。 



 今日の体育は『走り高跳び』だ。俺が休んでいる間にすでに始まっていた授業内容らしく、男子は次々と背面飛びでバーを越えて行く。さすが高校生の男子だ。中学校の時は、陸上部の奴らでも背面飛びもどきしか出来なかったってのに……。


「ふふん。どうだ? 和海はもっとバーを低くしてもらうか?」


 正也の奴は、ぽっかりと鼻の穴を広げながら俺にそう言って来た。他の男子達も、俺の周りを取り囲み、自分の飛び方の自慢を始める。


正也はともかく、……なんでこいつら俺に寄って来るんだ?


「ふっ……。見ていろよ、お前ら」


 俺は自信があった。なんせ中学の時に、危ないからと言って体育の授業では禁止されていた背面飛びを、陸上部の部活に混ざって練習していた過去があるからだ。


 俺はバーに向かって頭を左右に振って首を鳴らしてみる。袖が落ちてきたので、それを肘まで捲り上げた。そして、こちらもずれてきていたジャージを、腰の位置までぐりぐりと引き上げながら俺は走り出した。


「とぉっ!」


 俺は飛び上がると、バーを視界に捉えながら体を反らせる。マットに俺の体が落ちたとき、バーは少しも揺れる事無く元の位置に鎮座していた。


「おらぁ! 見たかお前らっ! 160cmだぞっ! お前らの身長からしたら大したこと無いかも知れないけど、俺は自分の身長よりも高いバーを、しかもダボダボの服とカポカポの靴で飛んでみせて…」


「うぉー! すげー和海ぃ!」


 マットの上で腕を突き上げている俺に向かって、男子全員が走り寄って来ていた。目を輝かせて俺を見ている。……なんでだ?


「すっげー体柔らかいな!」


「綺麗な飛び方するよな!」


「みとれたぜ!」


 男共は、口々に俺を褒め称えている。なんか……若干、男を褒める言葉として違和感があるんだが……?


「すっげーな、和海! 病み上がりでそれかよ!」


 正也の奴もどうしてか顔を上気させている気がする……?


「まあ、筋力は落ちたけど、体が軽くなってたから飛べたぜ。あと10cmくらい上げてもいけそうな気がするぜ!」


 俺はマットから立ち上がり、正也の隣で言う。するとその時、何か太ももに変な感触があった。


「こ……この細い足で……よく飛べるね?」


 下を見ると、隣のクラスの男子の一人が屈み込んで俺の太ももを触っていた。


「てっ! てめぇ! 勝手に触んじゃねぇ!」


 俺は手を振り払い、後ずさった。すると、正也を初め、俺のクラスの男子共が手を広げて俺の前に立った。


「和海に手を触れるんじゃねよ!」


「そうだそうだっ!」


「和海は俺達のクラスの物だっ!」


 睨み付ける俺のクラスの男子達。合同で体育の授業を受けている隣のクラスの男子達は……なぜか何とも残念だと言う顔をしている。


「なに……これ……」


 顔が引きつる俺の周りを、正也達が微笑みながら取り囲んでくる。


「やべぇ……こいつら……。ばれて……無いはずなのに……。ライオンの群れの中の兎の気分が……する」


 俺は華麗に背面飛びを決めたからかと思い、次のチャレンジの時にはわざと足にバーを引っ掛けて失敗してみせた。すると奴らは、…………余計に血相を変えて俺の所へ飛んで来た。




 体育の授業を終えた昼休み。俺は千夏を屋上に誘って一緒に弁当を食べる事にした。もちろん、相談内容は先ほどの男子の様子についてだ。


「ばれては……無いよな?」


「たぶん……。でも、和海クンは自分で思っているより可愛いから……。もっと気をつけないと」


 屋上のコンクリートの上に腰を下ろす男子と小柄な女子。また説明しておくが、男っぽい言葉遣いの女子が俺だ。


「可愛い? 細いからか?」


「小さいし、華奢だし、目は大きいし……。私が女の子だった時と比べても、ずっと可愛いよ……」


「えっ? そうか? お前も写真で見たら可愛かったぞ?」


 その後、また二人の間に沈黙が訪れる。


 またやってしまった……。千夏は俺に告白をしてきたんだった……。告白を断った奴から「可愛い」なんて言われたらどんな気分だよ。少し俺はデリカシーに欠けるのかもしれない。この時初めてそう思った。


「……で、気をつけるって何をだよ? 着替えも用心して胸の膨らみも悟られてない。これ以上何をやるんだ?」


「例えば……笑ったりを控えたりとか? 走り高跳びを成功させて喜んでいる和海クン、すっごく可愛かったよ。それに、失敗したときの困った顔なんて……もっと可愛くて……」


「ま……マジか? それで男子共は俺の周りに……。何者だ奴らは? 本能でDNAの違いを見分けられるのか?」


「たぶん……。だって、僕にも和海クンがとっても可愛く見えるもん……」


「なっ……」


 千夏は俺に少し近づいて来て顔を赤くしていた。何故だかそれを見て、俺の胸は高鳴る。


……おかしい。前に千夏に告白された時は、「気持ち悪い」って思う気持ちが強かったのに……。まさか……それはどちらも男同士だったからであって……、今は男と女(元女と元男)になったからバランスがとれたのでは……?

 

しかし、本能はそうであれ、俺の心は男。つまり、理性は(おとこ)である。男の姿をした者と怪しい関係になる訳にはいかない!


「お前……昔遊んでた時からずっとそうだったのか? えっと、俺の事を……好きだとか……そう言うの」


何とか千夏の気持ちを諦める方向へ持って行きたい。俺は今まで避けていた会話を始め、千夏の心がどう育ったのかを聞く事にした。


「うん……。ずっとそう。僕は何度か引っ越したけど、それほど遠くにいた訳じゃないの。お父さんのお仕事の関係で、いつも都内にいたんだよ。でも……気持ちを打ち明けに行く勇気が無かった……」


「で、勇気が湧いたから、告白してみたって訳か? 高校がたまたま同じだったからか?」


「違う! ……告白したのは……勇気があるからじゃない。高校も……偶然同じになった訳じゃない……」


「あ……えっ? ちょっと意味が……?」


「僕は中学3年の終わりにこの病気を発症したの。それで男になった訳だけど……。お父さんからはいつ死んでもおかしく無いと説明された……。それほど異常な事が体の中で起きているって」


「まあ……そりゃあ……。性別が変わるような体の変化よりも、人が死ぬ体の変化のほうが自然な気もするな……」


「それで……死ぬ前にどうしても和海クンに告白しておかなきゃって思った! 僕の10年の想いを……知ってもらわなきゃ、……死ねないって! 勇気とかじゃないの!」


 真剣な表情、真剣な言葉。千夏に比べると、人の気持ちを軽く考えていた自分が恥ずかしくなってきた。俺が千夏を忘れていた10年、こいつは一時も忘れた事など無かったのかもしれない……。


「それで、どうせ死ぬなら最後は和海クンと過ごしたいと思って……。一緒の学校へ行く事にした。和海クンがこの学校に通う事になっているのをお父さんに調べてもらって、受験はもう終わってたんだけど、病気で試験が受けられなかったって言って無理やり受験の許可を出してもらった。そして合格して……少し遅れての入学、厳密には編入扱いで入学させてもらったの。私立で良かった。公立なら無理だったかも……」


 よほど嬉しかったのか、自分の言葉でその時の気持ちを思い出したように、千夏は最後に微笑んだ。その顔を見ると、俺の心はキリキリと締め付けられて痛んだ。千夏の想いは軽くない。しかし、俺の男として育った10年も重いのだ。


「そうか……。お前の気持ちは分かった。だが……俺の事は、諦めろ……」


「どうして!」


 その声は悲鳴に聞こえた。俺は震える下唇を一度噛み、続ける。


「俺は……女に成り切る事は出来ない。つまり、男の形をしたものを好きになる事は出来ないんだ」


「別に良い! ただ……一緒にいさせて……くれたら……。元々、和海クンからイエスの返事をもらえるとは思っていなかったから……。あれから10年経ってたし……、顔も忘れてるだろうなって……。まさか、名前どころか存在すらも忘れているとは……思わなかったけど!」


 千夏の最後の言葉は、俺の良心をグサリと貫通した。


「存在……までは言いすぎだぞ。顔と……若干性別を忘れていただけだ。とりあえず……悪かった。す……すまん。……だが、俺は友情には厚い男だ。男同士として……仲良くしようぜっ!」


 俺は立ち上がって右手を差し出すと、はじめどうして良いのか分からないような顔をしていた千夏だったが、同じように立ち上がって、恐るおそる自分の右手を合わせてきた。


「よろしくな! これは男同士の熱い握手だぜ!」


「ほんとっ? 嬉しいっ!」


 千夏は笑顔になると、握手をすぐさま離して、手を広げて俺に抱き付いてきた。


「お……おい。男同士に友情のハグは無いぞ……」


 俺は目を白黒させてそう言った。


 屋上で抱き合う二人、これはお互いに同じ病気に立ち向かって行こうという、友情を確かめあっている姿なのであるっ! 友情物語だからなっ!



 俺は千夏の体を離し、高倉健のような渋い顔をして、


「男と男が手を組み、立ち向かうなら……、そこには敵など存在しないんだぜ。どんな障害も、友情と言う協力体制で打ち砕けるからなっ!」


 と、言った。

 

 ……つもりだったが、また後から聞いた話では、目をくりくりと輝かせるAKB48のメンバーの一人に見えたらしい。


「あっ! それで思い出した!」


 千夏は俺の目の前で、手を一つ叩いた。


「なんだ? まあ、例えどんな敵が襲って来ようとも、俺の心は折れないけど…」


「和海クンが休んでいる間に、決まった事があったんだ! バスの中の席と部屋の割り当てとか……。近くに友達が来ちゃうから女の子ってバレないように気をつけないとね」


「……なに? バス? ……部屋?」


「あれっ? それも休んでいる間で知らなかったんだったかな? 林間学校のだよ」


「林間学校? 宿泊訓練みたいな奴か? そんなのがあるのか……。まあ別に問題は……。遊んで、泊まって、帰るだけだろ?」


「あのね……。私も困っているんだけど……。えっと、『お風呂』もあるよ……」


「だから何だ? 風呂が狭いのか? ……ん……風呂? ……風呂ぉぉ?」


 俺の心はポッキリと折れ、白目を剥いて固まっていたらしい。それも後で聞くと、非常に可愛かったとの事だが……。 




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