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俺って女? ナデシコダンジ誕生! 2

 俺の自宅前。タクシーを降りた男女は、声を潜めて話を始める。


「こうなった事、マジで俺の親は知ってんのか?」


「病院で働いている僕のお父さんから説明を聞いているはずだよ。病室では和海クンのお母さんとも話をしたし」


「親父は? ちゃんと伝わってんのか? 奴が一番の問題なんだ」


「そこまでは……聞いてないけど……。僕は毎日お見舞いに行っていたけど、一度も和海クンのお父さんとは合わなかったから……」


「奴が俺の見舞いなんて来るはずがねーよ!」


「そんな……お父さんだから心配しているよ。きっと」


「んなわけねーよ! 知ればきっと、奴は弱くなった俺に……止めを刺しに来る!」


 ここで一旦説明を入れておこう。男と女が話をしている訳だが、明らかに男っぽい喋り方をしているのが女。女っぽい喋り方をしているのが男の方だ。俺も、自分でも混乱をしてくる……。




 病院は、俺の意思でだけですぐ退院できた。千夏の父親は俺が入院していた先ほどの高倉総合病院の医師で、娘の病気を治療している最中に、俺と言う同じ症例の患者が現れる事となった。不思議な病気だが、原因は不明で、もちろん特効薬もまだ無いらしい。


一見、世界の医者から注目を集めそうな奇病だが、その病気の痕跡が見つからないと言う事だ。簡単に言うと、俺が「その病気の患者です」と言って出て行っても、「君は生まれた時から女だろ?」と言われて門前払いされるのだと言う。戸籍に男と書かれてあっても、実際に俺は遺伝子から完全に女らしいので、戸籍の方が間違いだとされる。


 俺はこれから一週間に一度、千夏と一緒に病院に通って経過観察をされる事になる。血を抜いて遺伝子を調べるって事だ。もちろん喜んでお受けした。なんせ、今回掛かった一週間分の入院費をタダにしてくれると言うのだから……。




「ちぃーっす。ただいまぁ……でやんす」


 俺は玄関の扉を開けると、中の様子を伺いながらそう言った。俺の後ろに続いて入ってくる千夏は、落ち着かなく玄関を見回している。


「こんな家だったんだ。すっかり忘れてたぁ……」


「いや……、この家は小学校に入ってから建て直したから、多分お前は知らないんじゃないか?」


 靴を脱ごうと下を向いていたところ、廊下を慌しく走ってくる足音が聞こえる。


「なんだよ母さん。さっき会ったばかりだろ? 俺は寝てたけど…」


 言いながら顔を上げると、そこには廊下一杯に広がる大男が俺に向かって突進してきていた。


「てめえ! 親父! 早速俺を殺りにきやがったかっ!」


「和海ぃぃぃ!」


「ぐえっ!」 


 俺は腰を両手で抱え上げられ、強烈に締め上げられる。背骨を折られるか、頭を天井に打ちつけられるのかと思っていた所、親父の野郎はそのまま顔を俺の胸に押し付けてきた。


「おぉぉぉぉ! 女の子だ! これが……娘だ!」


「なっ…なっ…何をしやが…」


 一旦離したかと思うと、今度は自分の頬を俺の頬に押し付けて、擦り上げてくる。


「いでっ! てめぇ! やめろっ! 髭がいてぇ! 何だこれ、新しい嫌がらせかっ!」


 俺は両手を重ねて必死にブロックを試みるが、奴の腕は女になってしまった俺の脚よりも余裕で太い。


「そうか! すまん、そうだったな! 久しぶりで忘れてたぞ!」


 親父はようやく俺を離すと、見たことの無いようなダッシュを見せ、洗面所へと消えた。中からシェーバーの音が聞こえてくる。


「なっ……なんだあいつは……。って言うか、誰だ奴は……? 本当に親父か?」


 俺は親父のキャラの変わりように驚愕した。すると、今度こそ居間から出てきたのは母さんだった。母さんは洗面所に向かって小さなため息を付くと、俺を見て苦笑いをする。


「お父さんはね……娘が欲しかったのよ。だから和海の小さな頃は、髪を長くして女の子のようにしていたの。その頃は近所でも評判の……、いえ、近所でも気持ち悪がられるくらい和海を溺愛しているお父さんだったわ。写真も馬鹿みたいに撮って残しているでしょ?」


「あっ! それで……小学校入学までの俺の写真は、アルバムで20冊もあるのか……。んで、小学校に入学と同時に俺は男っぽく成長してきたから、気に食わない俺の頭をバリカンで坊主にし、千尋の谷に突き落とした……って訳か」


「いえそこまでじゃ無いわよ。ただ、男の子だから厳しく育て始めただけ。頭を刈ったのは、諦めきれないお父さんの決別の儀式だったのよ」


「……勝手に女っぽくしといて、決別とか言って坊主にする訳か……。やっぱあの野郎はとんでもねーな……」


「さあ、退院祝いにケーキを用意してあるのよ。リビングの飾りは全部お父さんの手作りなの。いつ退院しても大丈夫なように、もう3日前からずっと飾りっぱなしなんだから……。千夏ちゃんも一緒に食べて行ってね!」


 千夏は俺の後ろで頭を下げる。そして母さんの後に続いて、俺と一緒にリビングに入った。   


 そこで俺は気がつく。母さんの身長が……俺よりも高くなってる。いや、俺が縮んだ訳なんだが……。母さんは確か身長が163cm無かったはずだ。俺って……一体今何cmなんだ? おまけに普通体型の母さんと比べて、俺の手足はぐっと細い。何なんだこの体……。そのくせ胸は割りとあるし……。


「そう言えば……。母さん、親父は見舞いに来たのか? あの調子なら、さぞかし病院の人に迷惑を…」


「迷惑をかけるから、私が行かないようにきつく言っておきました。だから反動であんな様子に…」


「和海ちゃーん! つるつるのパパが来たよぉ!」


「ぐぇっ!」


 俺は再び親父に抱えられ、高い高いを30回はやられた……。




 俺と千夏はケーキを平らげた後、二階の俺の部屋に入った。一週間程度では何も変わりがなく、俺が朝出て行ったままの状態だ。掃除機がかけられて多少出しっぱなしだった服は片付けられているようだったが。


「びっくりしたね! まさかケーキを3ホールも買ってあるなんて!」


「むちゃくちゃだな、あの親父は。うちは裕福でもなんでも無いってのに……。しかし、千夏は良く食ったな。俺はなんか……一週間寝ていたせいか、調子が出なかったぜ……」


「それもあったと思うけど、それよりも女の子は男の子ほど量を食べられないんだよ。僕も今は男の体だから、女の子の時の倍くらい食べられるんだよ」


 俺はカーペットの上にクッションを置き、千夏を座らせた。俺はと言うと、袖と裾を折り曲げて着ていたダボダボの制服を脱ぎ、Tシャツとパンツだけになってベッドに座る。


「きゃぁ! 何か着てよぉ!」


「はぁ? 女の体だから……別に構わないだろ? お前は元女じゃないか」


「そうだけどぉ……」


「あとよ、男の体でその女言葉やめろ。気持ち悪くてたまらないぜ」


「それを言うなら、和海クンもそうでしょぉ!」


「うっ……。俺は……心は男だから……」


「僕も心は女のままだよっ!」


 そこで会話は一旦止まる。俺は屋上で千夏に告白された事を思い出した。あの時は、千夏の事を男と思っていたから完全にスルーしたけど……。今、また告白されると……どうしたら良いのか……。


あっ! でも俺はもう女になってしまったから、告白なんてしてこないか? いや……千夏は男の姿だから、むしろ告白しやすい状況になった?


 俺はいつの間にか頭を抱えて、うんうん唸っていた。そんな俺に千夏が話しかけてくる。


「明日から……、どうするの?」


「えっ? ……何が?」


「……学校」


「そりゃぁ退院した事だし、普通に……。………ああっ! そうだっ! どうしよっ!」


 や……やばい。って言うか、何から考えたら良いんだ? まず、通学は問題ない。だって本人なんだから、通学定期はそのまま使っても不正乗車にはならないだろう。


次に学校。いつもの席に座る。……そんな俺に話しかけてくる正也。……さて、ここだ。ここからが問題だ。


 俺は……女になっている。


「うぉぉぉ! どうすんだこれ! 俺のこれからの生活どうなるんだよっ!」


「僕が男の子になったように……。和海クンも女の子になる? 制服なら僕のを貸してあげるから。女子用の制服も一応持ってるの。万が一……元に戻れた時のために……」


「はぁ? 俺が……女に? ……ありえねぇ! スカートを穿く位なら、切腹したほうがましだっ!」


「そんな……。僕も頑張ってるんだから、死なないって約束したじゃない……」


「わ……分かってる! 俺は男だ! 約束は守る! だがっ! スカートはやっぱり無理だ! 女が男の振りをするのとは訳が違う! 男の俺は……女装なんて絶対できないっ!」


「じゃあ……どうするの?」


「どうするって……。もちろん今まで通り……」


「男の子の『振り』をするって事?」


「えっ? …………振り? ……まあ、……そうなるのか……」


 俺はベッドから立ち上がり、落ち着き無く部屋を歩き回って考える。


女だとばれたらどうなるんだろう? 女子は……女子用制服を絶対着なければならない。校則で決まっている。これに逆らえばどうなるのかは知らない。だって、そんな奴見たことが無いからだ。ドラマに出ているヤンキーですら制服を身につけている事からすると……、停学か退学? マジでそれくらい覚悟しても良いかもしれない。

 

つまり……俺が女だと絶対にばれる訳にはいかない。


 もしばれたら……切腹……以上の拷問が待っている。それは、あの女子の象徴であるスカートと言う衣服を身につけないといけない事だ……。


「死んでも……俺が女だとばれる訳にはいかない……」


「その……体で?」


「身長は……何とか底の厚い靴を探して誤魔化す」


「違うよ。その……胸で?」


 俺が視線を下に向けると、部屋を歩いている俺の体と連動し、胸が上下に揺れ動いていた。


「…………俺、ピーンチ」


 それから俺と千夏の二人は、夜の11時まで作戦会議を開いた。


 そして、千夏全面協力の下、俺の男の『振り』をした生活が始まる。 





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