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壮絶な再会? 転校生はお姉系! 2


 教室に戻った俺には誰も近づいて来なかった。先ほど、あれだけ人気があった千夏にも同様だ。後から正也に聞いたのだが、女子のうち何人かが俺達の後を追って来ており、屋上で抱き合っていた二人を見ていた……との事だ。


これで俺の高校三年間が、入学一ヶ月目にして終わったと思った。特に女子よりも男子の変化が如実だ。正也でさえ、俺と話すときには昨日までの倍の距離をとり、おまけに触れてくる事が無くなった。


女子はと言うと、さすがに噂どおりボーイズラブに耐性があるらしく、放課後には千夏の周りに人垣が戻ってきていた。ただ、地味めの女子の方がなぜか目を輝かせて千夏に質問をしていたようだったが……。


 俺と千夏はあれから一度も目を合わす事無く……その日は終わった。




「ただいまぁ」


 俺は家に帰ると、玄関でだらだらと靴を脱ぐ。そんな俺に、母さんは居間から顔を出して声をかけて来た。


「和海、お父さんもう帰ってるけど、朝の続きするなら庭でやるのよ」


「……親父、現場早く終わったのか。……やめとくわ、そんな気分じゃないし」


 俺は二階への階段を上り始めたが、その途中で足を止める。


「母さん、千夏って覚えてる? 山本千夏。俺が小さな頃一緒に遊んでた……らしいんだけど」


「あっ! 懐かしいわね、千夏ちゃん! すごく可愛かった子よね! あんたと千夏ちゃんはいっつも一緒に遊んでたわよ。 ……確か、小学校入学前に……お引越しをしたんだったかな」


「……ふーん」


 俺は自分の部屋に入ると、クローゼットの奥に仕舞ってあるアルバムを何冊か引っ張り出した。意外に思うかもしれないが、俺の子供の頃の写真はかなり多い。親父がカメラに凝っていた時期だと母さんに聞いた。飽きたのか、小学校の頃からの写真は極端な事にぷっつりと途切れている。


 この辺りかと思って取り出したアルバムだったが、まだ俺の乳児の頃の写真だった。一体どれだけ撮っているんだよ……。また別のアルバムを引っ張り出す。すると、今度は当たりだったようで、公園で遊んでいる俺の幼き日の姿が写っていた。


「へぇ……。久しぶりに見たけど……俺ってなかなか可愛いな」


 何やら目を細めて見ていた自分に恥ずかしくなった。駄目だっ! 俺の子供の頃は鼻に絆創膏を貼っているようなガキ大将が望ましい! こんな写真認めないぜ!


 アルバムをめくってみる。すると、次のページには滑り台の横でVサインをしている俺の隣に、一人の子供が写っていた。


「これか? ……これだよな?」


 そのアルバムを最後まで目を通してみると、殆ど俺はその子と一緒に写っていた。写真自体は初見である。百科事典を思わすような冊数のアルバムに、俺は今までうんざりして自分の写真など見た事が無かったのだ。


 並んで写っている写真の中から、最も二人の顔が大きく撮れている一枚をアルバムから抜き出した。それを机の上に置き、蛍光スタンドの下で良く見てみる。


 面影は……二人ともある……気がする。自分ですら『気がする』と言うのは、俺はこの頃何故だか髪が肩まであるのだ。まるで女の子に見える。


そして千夏はと言うと、こちらは更に髪が長く、肩よりもまだ長い。しかし、千夏は髪が長いから分かり辛いと言うより、もう完全に女の子の顔をしているのだ。俺も髪型のせいか女の子っぽく写っているが、ちょっと千夏は次元が違う。この子じゃ……無いのか?


「一体……どうなってんだ?」


 千夏は確かに今でも女顔だと言えるくらいだ。と、言う事は、子供の頃は完全に女の子に見える程だったとしても……不思議は無いのだろうか。


……たぶん、そう言う事だろう。千夏は男だ。抱き付かれた俺にはよく分かった。男としては細いが、女としてはごつすぎる。それに、胸もぺったんこで硬かった。

 

誰かがこの子に成りすまして俺に近づいて来た……って事は無いだろう。それならエージェントに男を選ぶはずが無い。千夏が女なら、「あ、この子ね」とスムーズに事が運ぶ。おまけに、俺には財産のようなものはミドリガメのミドリくらいしかいないし。ミドリは小学校入学の頃から飼い続けていて、かれこれ10年来の親友だ……が、一般的価値は無いに等しいだろう。


 しかし憂鬱だ。確かに硬派路線を歩み続け、女なんていらないって思っていた俺だが……、男は友人として欲しかっただけで、好意を持たれたい訳じゃない。


「んだよ……。好きって……。男のくせに……」


 テレビなどでそう言う人達がいるのはもちろん知っている。オカマ、ニューハーフ、最近ではお姉系と呼ばれている人達だ。あ、男の格好をしている人はゲイって呼ぶんだっけ? 


うちの親父は男らしくないと言って毛嫌いしているが、俺は平成生まれ、もちろん認めない訳じゃない。だけれど……、俺にそっちの趣味があるかどうかは別問題だ。俺に近づいて来てくれるなら……どちらかと言えば女が良い。軟派じゃなくて……、えっと……。とにかく、男は無理だ。


「そう言えば……、あいつ……抱きついて来た時……いい匂いがしたな……、って! やばいっって!」


 俺はおかしな頭を冷やそうと椅子から立ち上がった。途端に、立ちくらみに襲われる。


すぐ治まると思ってそのままじっと突っ立っていた俺だったが、それは頭痛に変わり、耳鳴りも始まった。


「ちっ……風邪だ……。また精神が弛んでいるからだとか言って……水風呂にいれられそうだぜ……」


 親父は、熱は冷ませば治るという持論の元、風邪を引いた俺を水の張った浴槽に叩き込む。そのくせ、母さんが風邪を引いた場合は、内緒で玉子酒を作っているくせに。


 俺はその日、無理して飯を食い、平然と風呂に入り、体調が悪い様子を微塵も見せずに生活をする。そして、部屋に戻ってくると気を失うようにベッドに倒れこんで眠った。





 朝、起きると体中が痛んだ。どこが……と言われても、全身だ。火傷をしたように皮膚はチクチクと痛み、体は火照る。おまけに筋肉と言う筋肉が痛い。間接も、すべての節々が曲げるたびに痛む。眩暈に吐き気、耳鳴りに頭痛。俺はこのまま死ぬんじゃないかと思ったが……、


「うおぉぉぉぉ!」


 俺は立ち上がって腕を突き上げる。その腕が指先から崩れ落ちていくような痛みの中、歯を食いしばって歩き、廊下に出た。


「へっ……。何でもない。このぐらいで……負けてたまるか……」


 風邪なんかで学校を休んで親父に馬鹿にされる訳にはいかない。俺はいつも気合で何があろうとも登校を成し遂げる。皆勤賞を狙っている訳じゃない。だが、男は病気などで歩みを止める訳にはいかないのだっ! 小学校、中学校の皆勤賞の賞状なんて、その日のうちに投げ捨てているぜっ!


[ズダダダダダダダ……ズデンッ!]


 微調整が出来ない体なので、当然のように階段落ちを決めた。これやばい病気かも……と、少し頭をよぎったが、俺は立ち上がると薄笑いを浮かべてリビングに入り、食卓についた。


「和海……顔色悪くない?」


 母さんがそう言いながら俺を見た瞬間、俺は両手で顔をバチンッと叩いた。


「………………、起き抜けだからだよ! はっはっは!」


 叩いた瞬間、一瞬気を失ってしまった俺だったが、どうやら親父にも母さんにも気が付かれなかったようだ。


俺は、食道を逆らって戻って来ようとするおかず達を、ご飯を丸呑みする事で無理やりと胃袋に押し込んだ。 

 




 学校に到着した頃、俺の命の灯火は消えかけていた。……って表現しても良いくらいだと思った。


 今日は親父と揉める事無く家を出たので、問題ない時間に教室に入った。起きてから1時間は経過したと言うのに、風邪の症状は治まる事無く一層激しくなってきていた。特に、体の痛みが酷い。今日の授業に体育が無くて助かった……。


「おはよう、和海!」


 いつもは肩を叩いて挨拶をしてくる正也だが、やはり今日は俺の体に触れなかった。


「だから、俺は別にホモでもなんでも無いって言ってるだろ!」


「でもよー……。結構イケてるくせに……今まで彼女がいなかった訳が分かったっつかさ……。あっ! 彼女がいたかどうかは和海に質問したけど、彼氏がいたかどうかも聞かなきゃいけなかったのか!」


「彼氏もいねぇ!」


 俺の剣幕に、薄笑いを浮かべる正也。まあ、マジでゲイだとは思ってないようだ。


「ところで……和海、顔色めちゃくちゃ悪いぞ……? それって……何色? 青いような……、赤いような……」


「はぁ? そんなにか? ちょっと朝から……気分が悪くてな」


 顔に手を当ててみた俺の手に、べっとりと汗が付いた。……マジ? 汗かいている事も……気が付かなかったんですけど……。


 保健室へ行くかな……と、さすがに検討し始めた俺。迷いながら廊下へと出る教室のドアを見ていると、それが開き、細身の男子が入って来た。そいつは俺に一瞬だけ視線を向け、そして背ける。しかし次の瞬間、目を見開いて俺を見た。


「和海クン! まっ……まさかっ!」


 声を荒げ、慌てた足音と共に千夏が走り寄って来た。両手を俺の肩に置き、顔を真っ直ぐに見つめてくる。


「なっ……なんだよ……。やめろって……。俺にそっちの趣味は……」


 俺達の様子に顔をしかめて後ずさる正也の前で、千夏は自分の手を俺の額に当てた。そして自分の手に付いた汗をなぜだか眺めている。おまけに人差し指と親指を擦り合わせて、感触まで確かめているようだ。こいつ……やべぇぞ……。


「お前……マジやめろって……」


 俺はその千夏の手を掴んだ。しかし、全く力が入らない。おまけに……痙攣まで起こしてきやがった……。


「和海クン! 眩暈の症状は無いっ? あるならいつからっ?」


「え……、眩暈? 昨日……家に帰ってからかな。……あ、そう言えば……、お前と屋上にいた時にも……ちょっとしたかも……?」


 千夏は首を振って教卓の上にある時計を見た。すぐに視線を俺の顔に戻す。


「に……24時間!」


「丸一日か、それがどうした?」


「ど……どうして普通に座ってられるのっ! 辛くないのっ!」


「へっ……。男は風邪なんかではなぁ、音を上げないもんだぜ!」


「風邪なんかじゃないよ!」


 ふ……。風邪じゃない? なら、大病になりながら、元気に学校に通う男。それって……すごくねぇ? 俺が朝から自分を励まして、呪文のように繰り返してきたセリフだ。


 千夏は携帯電話を取り出すと、どこかにかけたようだ。後ろを向いて話しているが、声が少し聞こえてくる。


「……そう、和海クン……。救急車を……」


 はぁ? 救急車? 


「ちょっと待て! 救急車呼んでるのかっ! バカな事をするなっ! 男は死んでもあんな物に乗るわけにはいかねぇ! どうしても病院に行くなら、自分の足で、這ってでも行ってやるぜっ!」


 振り返った千夏は首を傾げた。……いや、体全体を傾げた? あれっ? 教室が……斜めになったように見える。


[ドサッ]


 俺は右肩を床に打ちつけた痛みの後、深い穴をどこまでも落ちていく感覚がした……。




 神野家ではずっと電話が鳴り続けていた。家の外でそれに気がつき、慌てて所帯主の妻、洋子は扉を開けて家に駆け込む。一体いつから鳴っていたのか、鳴り止む気配の無い電話の受話器を彼女は持ち上げる。


「もしもし、神野です」


 相手の挨拶を聞き、笑顔になって頭を下げる洋子。しかし、すぐに顔色が変わった。


「はっ……はい! すぐに向かいます! 高倉総合病院? 分かります! 三十分以内には……はい!」


 電話を切ると、洋子は買い物包みを放り出したまま家を出、タクシーを拾った。




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