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今度は3泊4日? スキー合宿! 5

ナデシコダンジ2に合わせて、修学旅行→スキー合宿に変更です。



3日目――。


 スキー合宿は3泊4日。最終日は飛行機に乗って帰るだけなので、本日はスノーボードが出来る最後の日にして、みんなと泊まれる最後の晩となる。


 その日は朝からテンションがみんな高く……と言うより、全開バリバリだった。



「和海君! いい加減にしなさいよっ!」


 朝食を食べ終わってくつろいでいる俺の頭を、後ろから叩く女がいた。


「痛ってぇ……。なんだよ久美……」


 後頭部をさすりながら振り返ると、何故だか久美の奴は頬をパンパンに膨らましている。


「あなたねぇ。もう何人振ったの?」


「……まだギリギリ一桁だと思うけど」


「良いなって思っていた男子が、男に告白して玉砕したって女子からの苦情が全部私のところに来るのよっ! なんでっ?」


「な……なんでかどうかの理由は知らねえよ……」


「修学旅行みたいな泊まりの学校行事だからこその、告白するとかしないとか、女の子には色々あったのよ! 和海君のせいで、今晩何もする事が無くなった女子が量産されているじゃないっ!」


「別に……その予定を貫けばいいんじゃねーの?」


「男相手に失恋した男子に、女の子が告白してOK貰えたとしても、それって空しすぎるじゃないっ! そんなのみんな出来ないよっ!」


「じゃあ俺にどうしろと……、ん? なんだ木村?」


 言ってる側から俺の肩を叩く男がいた。「ちょっと来てくれ」って……。はぁ、またか。起きてすぐ顔を洗いに行った朝早くから始まり、こいつらと来たら……。



「ごめんなさい!」


 白い灰になったクラスメートに背を向け、俺は部屋へと戻る。この感じだと、今日中に全員来るな。その数……50人。



「うげっ」


 部屋までの廊下、その両脇に男達がそわそわと何人も立っていやがる。こいつら……、飯を急いで食べて、ここでずっと待っていたな……。


「あの、俺男同士でも構わないと思うんだ……。俺と付き合って…」

「ごめんなさい」


「好きだっ!」

「ごめんなさい」


「性別なんて小さな問題さ。俺と君は…」

「ごめんなさい」


……6人ほど切って捨てた。



部屋に戻ると、正也をはじめ同部屋の千夏をのぞく男4人はそわそわとした様子だった。落ち着き無く、俺に何度も探るような視線を向けてくる。多分、昨日の晩から俺がずっと機嫌が悪いとでも思っているんだろう。


俺はスノボウェアの下に着る服をカバンから出すと、部屋の外へと向かう。扉に手をかけた所で俺は止まり、振り返ってそいつらに言った。


「野郎共、乾燥室にウェア取りに行くぞ!」


「お……おうっ!」


 奴らは目を輝かせてついて来る。


 こいつらは告白して来ないのかと少し疑問に思ったが、よく考えれば今告白すれば、昼間のスノーボードを俺と一緒に滑りにくくなる。多分晩だな。尻尾を振りながら後ろを歩く男達を見て俺はため息を付いた。



 

 本日も快晴。3日連続晴れなのは、俺の日ごろの行いが良いからだろう。


 さて、今日も俺の隣には千夏。そして、正也や同じ部屋の男達と取りあえずはグループで滑ろうと言う事なのだが……。


 なぜか不審者のように俺のクラスの男子達も周りをうろついている。しかし、ここまでは昨日と同じ。今日は更に、他のクラスの奴らもその更に外側に輪を作って徘徊している。


 簡単に言うと、俺が滑ろうとしているゲレンデのあるコースは、かなりの人口密度であり、とてつもない程の男率の高さだ。むさくるしいったらありゃしない……。


 ゲレンデを俺は滑り降り、そして、リフト乗り場で千夏を待つ。千夏と一緒にリフトに乗ると、その後ろに連なって次々と男子達が行列を作る。リフトの係員は、どうしてこんなに込み具合にむらがあるのかと毎回首を捻っていた。



「和海クン。絶対みんな和海クンの隣に乗りたがっているよ。僕……邪魔かな」


「どうせ俺の隣に乗って、リフト降り場までの5分間に告白するつもりだろ。奴らなんて気にするな」


「大変だね……。まだ30人以上は残ってるんでしょ?」


「めんどくせーよな。……性別が変わった時、あっさりと女になったって言って、お前と付き合っている事にすれば良かった。それなら、こんな事態にはならなかったのにな」


「……それ、本気で言っているの?」


「さあな……」



 参ったのはゴンドラ。8人乗りだと言うのに、10人以上が乗り込もうとして係員に怒られた。俺と千夏以外の奴らを怒ってくれよ……。



 そして奴らは俺が一人の時を狙って襲ってくる。


 リフト乗り場で千夏を待っている時。トイレに行ったとき。もちろん昼食中も何度も席を立たされた。名前を書いた紙を俺に渡して、返事が無ければ失格。そういうシステムにしてくれねーかなぁ……。



 余り集中して滑れ無かったが、千夏はこのくらいのペースが良いとの事だった。前日は楽しさのあまり、引っ張りまわしてしまったかもしれない。


 いつも一緒にいる俺と千夏だが、リフトに座りながら隣り合ってする会話はなぜか新鮮で、千夏の性格の良さをより感じた。これがゲレンデ効果と言う物なのだろうか。


 もしくは……男の千夏に段々と惹かれだす程、俺の女化が進んで来ているのか。




 午後5時。リフトも運行を終了し、俺達はホテルへ帰ってきた。悔いが残らないように滑り倒そうと臨んだ俺だったが、千夏とリフトで騒いでいた方が印象に残っている。なんか、リフトがメインで滑っていたのがおまけ……と、これは言いすぎでは無いかもしれない。



夕食を食べ終わった後、食器を片付けていた俺に話しかけて来た奴がいた。男子? いや、男は殆ど日中に撃ち落としてやった。それは、久美だった。


「ちょっと来て」


 久美は階段を降り、乾燥室がある地下フロアに俺を連れて来た。普通の人は滑り終わり、ナイターを滑る人はその真っ最中。さすがにこの中途半端な時間は誰もいない。


「どういうつもりなの?」


 久美は朝のように熱く怒っている様子では無かった。


「またかよ……。男達に聞けよ」


「男達を悩まして……。あの人達は凄く真剣に悩んだ末の告白よ」


「でも、俺は嫌なんだから、断る権利あるだろ?」


「違う! 私が言っているのは、男子達は、男子相手の恋に悩んでいるって事」


「……、だから、それは……」


 俺が頭を掻きながら顔をそらすと、久美は静かなフロアに声を響かせた。


「和海君、女じゃないっ!」


「―――っ!」


「女の子を好きになって振られたならすぐ忘れると思う。でも、男相手に悩みぬいて……告白し、振られる。それが本当に告白する相手が男なら仕方が無い。でも、和海君は男の振りしている女の子でしょっ! 和海君が男の振りをしている事で、彼らの悩みは無駄に大きくなっているのよっ!」


「……おまえ、いつから気が付いていたんだ?」


「もちろん……、夏に海で和海君達と会った時からよ。恵は双子って話を信じたようだったけど、私は元から考えていた事があった。それで、あの瞬間ピンときた」


 偶然浜辺で久美と恵に遭遇し、とっさに双子の妹、和菜を演じたのは今から半年ほど前だ。


「あの時か……。良かったら、その元から考えていた事ってやつを教えてくれ」


 久美は視線を宙にやると、ゆっくりと思い出すかのように話し始める。


「私はあの時まで何か矛盾を感じていたの。私が好きだった和海君が……ある時突然変わった。私とぴったりこなくなった……ってね。でも、千夏君とはなぜか二人はぴったり。男と男なのに、すごくお似合い。どうしてって?」


「…………」


「千夏君は女っぽい男。和海君は男っぽい女の子みたいな容姿の男。この二人がぴったりなのには矛盾があるってね。最初はただ不思議に思っていた。でも、海で和海君にそっくりな女の子、和菜ちゃんを見た瞬間……謎が解けた。和海君は男っぽい……女の子であって、男では無いってね。それからの私の目には、和海君は女の子にしか映らなかった」


「…………あの海で偶然会ってしまった時はやばいって思ったぜ」


「どうして男の振りなんてしているの? それに、どうして本当は女なのに千夏君と付き合わないの? それとも、本当は付き合ってるの?」


 俺に視線を戻すと、久美は俺を真っ直ぐに見据えて言った。それに対して俺は目をそらす。


「付き合ってない! 男には……いろいろあるんだよ」


「女じゃないっ!」


「男だっ!」


 俺は自分の胸に手を当て、久美に力強く叫ぶ。 


「心は……男だって言いたいの? オナベだっけ? そういう事を……」


「だから違う! 俺は男なんだっ! 体は女だけど……」


「……もう、意味分かんない」


久美が俺を見つめる目は、哀れんでいるように見えた。


気持ちは良く分かる。俺も自分の身に起こった事じゃないと信じられなかっただろうし、女になって1年近く経つと言うのに未だに男か女かを決めかねている。 


「俺は入学してすぐは男だった。でも……病気で入院してからは……って信じないか……そんな事言っても……」


 俺は話す事を途中で諦め、小さく笑ってみせた。


「入院? 病気? 和海君のそれは覚えているけど……。まさか、性別が変わる病気なんて……」


「信じなくても構わない。だが、俺は紛れも無く男だった。だから、今でも男だと振舞っている」


 久美は視線を下げると、数秒間俺の体をじっと見ていた。そして、何かを思い出したかのように視線を上げると、口を開いた。


「いえ……信じる」


「…………ふふ。俺の話しなんてどうでも良くなってきたか?」


 俺は何が可笑しいのか良く分からなかったが、白い歯を見せて笑ってしまった。だが、そんな俺に久美からは真剣な声が返ってくる。


「違う。本当に信じる。でも、和海君の話じゃなくて、私を、私自身を信じる。私が好きだった和海君は、確かにあの時男だった。私の勘違いだと思ってたけど……やっぱり男だったのね」


 俺と久美は暫く見詰め合っていた。乾燥室から聞こえてくるヒーターの音と振動がフロア中に響いて聞こえる。


「……男の俺はイケメンだったからな」


「なにうぬぼれてんのよ。ばーか」


 辺りは俺達の笑い声で包まれた。


「俺が女だって誰かに言ったか? 例えば、恵とか」


「ううん。言ってない。必死に隠しているんだもん。言わないよ」


「必死に隠している事だから……人には言わない? ……へぇ、お前はなかなか良い奴だな」


「まあね、惚れるなよ」


 胸を張って見せている久美に、俺は間髪入れずに言い返す。


「惚れるかよ。お前なんかより……」


 しかし、俺はそこで口をつぐんだ。


「千夏君? そうだっ! 和海君は心が男だから男子からの告白を断っているって言ったのに、どうして千夏君が好きなの? 女の子っぽいって言っても、あの子はれっきとした男の子じゃない?」


「ああ……。そうだな。あいつは……男だ」


「……えっ。ちょっと待って。確か千夏君は病気で……入学が遅れたはず。そして、女の子っぽい……男の子。男の子っぽい女の子の和海君と正反対。……まさか」


「その……まさかだ。だが、あいつは男として生きる事を選んだみたいだけどな」


 久美は口に両手を当てて驚いた顔を見せた後、小さく拍手をしながら俺に言う。


「じゃあ、二人はまさにぴったりじゃないっ! 付き合っちゃえば良いのに!」


「俺は男だ。男の姿をした奴とは……付き合えない」


「……はぁ? 何そのこだわり」


 久美はわざとらしく不快な顔をすると、肩をすくめて見せてくる。


「男には譲れないものがあるんだよ」


 俺は高倉健のように渋い顔で言ったつもりだが、久美がクスクス笑っている所を見ると、またどこぞのアイドルのように見えているのかもしれない。


「心が昔は男だったって言うのなら、とりあえず和海君達に協力はするけど……、その和海君が守っているもの、きっとすっごく小さいものだよ」


「女にはわかんねーよ……って言いたいところだが……。じゃ、またな」


 俺は言葉を濁すと、久美を残して階段を上がった。




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