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今度は3泊4日? スキー合宿! 4

ナデシコダンジ2に合わせて、修学旅行→スキー合宿に変更です。



二日目の朝――。


入り口付近に何とか乱れた様子で布団を敷き、絡み合って死んだように眠っていた男達を俺は叩き起こす。


「野郎どもっ! 滑りに行くぞっ!」


「いでぇっ! 触らないでぇ!」


 奴らの腕を軽く引っ張っただけでこの悲鳴だ。今晩もぐっすりと眠れそうだぜ……。



 

 朝食を済ませ、朝の8時からゲレンデに出た俺達。昨日と違い、目一杯スノーボードを堪能できる。


 頻繁に日焼け止めを塗り直す千夏に待たされながらも、俺達は朝から夕方まで滑った。


 一生懸命頑張った千夏は、早くもターンを習得して俺と一緒に楽しく滑る。しかし残念ながら、執念で男子共もターンを覚え、執拗に俺を追いかけてきた。もちろん俺は昨日のように、闘牛士の如く鮮やかに奴らを谷底へ叩き落す。だが、鬼気迫る表情ですぐによじ登ってきた奴らは、また俺を追い回す。


今回のこいつらの執念は一体なんなんだ? 昼食の時など、男のうち何人かが、「ちょっと来て」とか言って、一人ずつ俺を呼び出そうとするのが非常に不気味だった。




 日も暮れ、スノーボードを終えた俺と千夏は夕食を済ませて家族風呂の予約の時間を待つ。家族風呂の定員は4名、ばれると一緒に入ろうとする輩が出ると面倒なので、二人だけの秘密にしていた。


 予約の時間に家族風呂の前に行くと、そのうちの一つが当然俺達のために空けてある。俺達は周りを見回して知った顔が無い事を確かめると、さっと中に入って鍵を閉めた。


俺は風呂が楽しみな余り、スパパパパっと服を全部脱ぎ、タオル片手に勢い良く浴室に入る。


中は、壁も、床も、浴槽も、露天風呂をイメージして石と木でだけで作られていた。浴槽はそれほど広くも無く、4人入ったら少し狭いかなと言う大きさだが、二人なら足を伸ばしても余裕がある。洗い場を入れて5畳って所の広さだろう。


「あー……。ユニットバスと全然違う……。雰囲気も良いし、こりゃぁ疲れ取れるぜ……。出たら明日の予約もしないとなぁ……」


 俺は湯船につかって脚を伸ばす。女の俺の体なら、思いっきり手足を広げてプカプカと浮くことも出来そうな風呂だ。家族風呂って言うから、家庭の風呂よりちょい大きいくらいなのを想像していたが、嬉しい誤算だ。


「何してるの……子供みたい……」


 俺が風呂の縁につかまってバタ足をしている時、腰にタオルを巻いた千夏が入ってきた。相変わらず男としては細い体をしてやがる。


「お前、筋トレちゃんとしてるか? 俺が買ってあげた鉄アレイ使ってる?」


「使ってないよ! あんなのを使う女の子なんて知らないよっ!」


「お前、男だから頑張らないと。いざと言うとき女を守れないぞ!」


「女の子の和海クンが僕を守ってくれるから大丈夫!」


「まあ……そりゃそうか」


 千夏は体を流して湯船に入ってきたが、その間ずっとタオルを油断無く押さえ、死んでも外す気が無いようだ。


「和海クン! 女の子が湯船から足なんて出さないっ!」


「えー。そうかぁ?」


 脚を入れた俺だが、後頭部を風呂の縁に乗せると、足を真っ直ぐに伸ばして湯船にプカプカと浮かぶ。


「今日はマジ疲れたよな。何時間滑ったんだ? 朝の8時から夕方の5時まで。途中昼飯が1時間で……」


「そう言えば……、僕今日一日、和海クンがいない時に、男の子達に同じ質問いっぱい受けたんだけど……」


「へぇ。昼飯の時とかトイレの時に、俺も何度か男共に連れ出されそうになったけど、そのたびに尻を蹴飛ばして逃げたなぁ」


「あのね……。男の子達って……和海クンの事を好きかもしれない」


「はぁ? 今更何を言ってんだよ。そんなのご存知だって」


「違うの。僕が言いたいのは……。このスキー合宿中、男の子達は……和海クンに……、告白しようとしていると思うの」 


[ドボンッ]


 俺は縁から頭がずれ落ち、湯の中に全身が沈んだ。


「ぷはっ! マジかよ! なんでそう思うんだよっ! いくら馬鹿共でも、男が男に告白する訳ねーだろっ!」


 俺は濡れた前髪を掻き揚げて千夏に言った。


「だって……、聞かれたもん。僕と和海クンは、本当に付き合っていないのかって……」


「……付き合ってないよな?」


「そう答えておいた」


 俺はどうしてだか、少しがっかりした。


「でもね、そう言っても、嘘じゃないのかって何度も聞き返されて……」


「ふ……ふーん。誰がそんな事を聞いて来たんだ? 正也か? 松尾か? 用心しねーとな……」


「あのね、…………クラスの男子全員」


[ボチャン]


 俺は、今度は顔から湯船に突っ込んだ。


「なっ……何やってんだ奴ら! 大体、全員って……、中には彼女持ちもいるだろうが!?」


「あのね、うちのクラスの子は全員だけど、他にも聞いてきた人がいるの……」


「やべーな奴ら……。で、クラスメート以外で聞いてきた奴らの人数はどのくらいだ?」


「一年生の男子ほぼ全員。聞いてこなかった人探した方が全然早いと思う」


[ボチャン]


 気が遠くなった俺はまた風呂に顔を突っ込んでしまった。


「……敵は50人か。どうなってんだよ、最近の男子の倫理観は……」


 顔を拭った俺は千夏の前でうな垂れる。


「逆に健康なんだよ。和海クンは超可愛い女の子だから……」


「違うぞっ!」


 俺は湯船から立ち上がり、千夏に向かって仁王立ちすると、胸を張って言った。


「俺は男だっ!」


「だから、その体で言われても……説得力ないから」


「うむむ……」


 俺は一度大きなため息を付くと、風呂から出て洗い場で頭を洗い始めた。


「早く体治らないかなぁ……。千夏の父さんはなんか言ってたか?」


「和海クンの……女性化が進んでるって。ホルモンの量が…」


「いいっ! 聞かねぇ!」


 俺達は暫く無言だった。俺が頭と体を洗い終わると、交代で千夏が洗い場に座る。


「ホルモン注射とかあるよなぁ。あんなのは一時しのぎなのかなぁ……」


 俺は千夏の広い背中を見ながら独り言のように呟くと、湯の中で目をつぶる。



 結局今年の春に女になってから身長は伸びないし……。体重も増えない。今まで隠し通せたのが不思議なくらいだ。体育の授業では着替えるのを不審がられ、プールの授業は一度も出てない。


 俺は……一体これからどうすれば良いんだ?


 大学、就職……ずっと男の振りをするのか? 結婚は? 出産もしなきゃいけないのか? まさか! いやだ。俺は男だ。しかし、徐々に心までも女化が進んでいる俺。いつかはこんな気持ちも消え失せてしまうのだろうか。スカートを穿きたくなってきたように……。


 我慢して……女になるか? 最初は嫌でも、慣れ……いや、きっとそれが自然となる。今まで以上に男達が寄ってくるだろうが……。俺には千夏が……。


 まて、千夏は心が女だ。今の俺には丁度いいだろうが、完全に女になってしまった俺には……逆に……付き合えなくなるんじゃないだろうか。俺のように千夏も心まで男になれば? そんな兆候は無い。個人差? それがあったとしても、片方が完治して元の性別に戻ったならどうする?


そもそも、この病気は一体なんなんだ? 何が原因で……俺達だけなったんだ?


俺と千夏は別々の場所に住んでいたのに、近い時期に同じ病気にかかった。それも、世界で二人だけの病気に。これは……とても偶然だとは思えない。


原因は……俺と千夏が一緒に遊んでいた幼い時期に、ウィルスか何かに感染したのではないか? 俺と千夏、一緒に……何処で……感染を……。公園か? 一緒に遊んでいたあの公園で……何かあったのか? 例えば………


………駄目だ、何も思いつかない。それに、公園に原因があったとしても、もうあの公園は完全に作り変えられ、当時の遊具などは一切無いため原因の特定など不可能だ。

 やはり……俺が男に戻る手立ては無い。あとは運を天に任せるしか……。




 閉じた瞼に当たる照明が陰るのを感じた。


 目を開く。


 すると、正面に……顔があった。俺の焦点が合うと、数センチ先にあった千夏の目が驚いたように大きく開かれた。


「なっ……」


「―――――っ」


 俺が横に逃げると、千夏は顔を反らして背中を向けた。


「おっ……お前……今……何をしようとした?」


 俺の声は震えていた。千夏は湯船に胸までつかったまま、うつむいている。


「ち……千夏。お前……俺にキスをしようと……」


「ご……ごめんなさい」


 千夏はそのままの姿勢で頭を下げた。


「なっ……何しやがるんだっ! 信じられねーっ!」


「声を……かけたら……、返事が無かったから……。寝てるのかなって……」


「寝てたらキスをするのかよっ!」


「ごめんな…さい」


「お前っ! 信用してたのに! 他の男と違うって思ってたのにっ!」


「…………」


「今まで……俺が……気が付かないうちに何度もしてたんじゃないだろうなっ!」


「違うよ! 今が初めてで……。和海クンの寝顔見てたら……どうしても……したくなって……」


 千夏は後ろ向きのままだが、声を張って否定した。


「本当かどうか信用できねーなっ! それに、寝てたらキスをするって、それじゃあ、いつかは力任せに俺をどうにかするつもりなんだろうっ!」


「し……しないよっ! 僕、心は女の子だもん!」


「何言ってんだ! 女がどうして女にキスするんだよっ! 大体、俺の寝顔が、女の寝顔が可愛いからってキスをしようとしたくせにっ!」


「わかんない……。僕も……男の子になってきているかも……」


「俺が女になってきているからって、都合よく……っ……」



 俺は立ち上がったまま、両手で顔を覆った。


 バカな……この……俺の……反応は……。



「どうしたの……?」


「すまん……」


 俺は両手を顔から離し、湯船につかる。


「何なんだこの反応は……。キスをされそうになったからって、男がこんなに怒るものか? ……まるで女じゃないか。以前の俺なら……、千夏が男らしくなったなって、そっちの方へ注目したもんだ」


「許して……くれるの?」


「許さん。男の体で俺にキスしようなんて、お前が元女でなければコブラツイストだ」


「ごめんなさい……」


「……まあいい。ところでそろそろ45分だ。出るぞ」


 俺は風呂の壁にある時計に目をやると、湯船から出た。千夏も、言葉少ない俺の後にタオルを抑えながらついて来る。


 家族風呂は一組45分と決まっている。俺達は着替え終わると部屋に帰った。



「和海ぃぃ…………?」


 本日は筋肉痛もやや引いたのか、部屋の男達は戻ってきた俺を歓迎ムードで出迎えて来る。しかし、そんな正也達の前を通り過ぎ、俺はさっさと自分の布団を敷いてその中に入った。


「なんか……機嫌悪そう。俺やっぱり明日にしよう……」


「俺も……」

「俺も……」


 何か話し声がヒソヒソと聞こえていたが、俺は目をつぶって眠りについた。



 ……日に日に女に近づいてきている。このままでは……あと一年なんて期間なんかよりもっと短い間に……俺は女になってしまうかもしれない……。

 

 風呂の中で千夏を怒ったのも、きっとその焦りもあった……。


 駄目だ。もう……止まらない。

 

 俺は……女になる。



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