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今度は3泊4日? スキー合宿! 3

ナデシコダンジ2に合わせて、修学旅行→スキー合宿に変更です。



千夏は疲れたからと午後3時にあがったが、俺や他の男子はリフトが止まる午後5時まで滑っていた。ヘロヘロになった男子に、「もっと滑ろう!」と笑顔で言って、体力の限界を超えさせたのは訳があった。


 それは、晩飯を終えた頃に効果を発揮する魔法。


「くっ……首が……」


「腰が………」


「膝が笑って……」


 俺は腕組みをして弱った男達を見下ろす。スノーボードと言うスポーツは、両足を固定されている分、初心者にとってスキーよりも大ダメージを受けるのは調査済みだ。奴らは畳みの上でイモムシ状態だ。


「な……なんで和海は平気なんだよ……」


「さあな」


 俺は笑いながら部屋を出て、奴らを閉じ込めるかのように扉を閉めた。これで今晩は襲われる心配なく眠れるぜ……。


 俺が筋肉痛にならなかった理由は二つある。一つ目は、女は男より筋肉痛になりにくいようだ。おそらく、体重が軽いからと言う事に関係あるのかもしれない。


もう一つは、俺は男子に見つからないように、きっちりストレッチをしていた事だ。滑る前と、滑った後に念入りに。スノーボードは大した運動では無いと思ったのだろう、運動部の奴らも甘く見ていたようで、ストレッチをした奴は皆無だった。


「んじゃ、風呂行くか」


 部屋の外で待っていた千夏と並んで廊下を歩く。


俺のクラスの男子全員の動きは封じたとは言え、残念ながらまだ他のクラスの男子達がいる。したがって大浴場は使えない。


そこで俺達は、ホテルの一つ上のフロアへ向かう。階段を上がると、先ほどの和風テイストではなく、洋風の洒落た廊下が広がっている。俺達は絨毯の上を歩き、ある部屋の前まで来ると扉をノックする。返事が聞こえたので入ると、中はベッドが二つある綺麗な部屋だった。


「わぁ、良いなぁ」


 千夏が目を輝かしている。


「男子部屋とは全然違うな。男は和室で良いだろってどんな思考回路で先生達は決めるんだろうな」


「でも、どうして二人ともユニットバス使いたいの? 大浴場広いらしいよ?」


 久美はベッドに腰掛、俺をみてクスクスと笑いながら言ってくる。


「お前は入りに行かないのか?」


「んーどうしよ。もうちょっと後にしようかな。せっかく千夏君と和海君が来てくれたし」


「同じ部屋の恵は?」


「あの子はお風呂に行っちゃった! 私は二人が来るから待ってたの」


「そか、悪い事したな。久美も行って来いよ。千夏、先入って良いぞ」


 千夏は部屋に備え付けのユニットバスに入っていった。


洋室の女子部屋全てに風呂が付いていると聞いている。まあ、普通は広い大浴場へ行くので、使うのは俺と千夏くらいだろう。いつものように俺は女の体なので男子と一緒に入るわけには行かず、千夏は心が女なので男子達と入るのは嫌なようだ。

 

暫くすると、千夏のシャワーの音が聞こえてくる。それ程、部屋は静かだった。別に俺は久美と仲が悪い訳ではない。だが、あいつは俺をじっと見たまま、何も喋らないのだ。俺もそんな不穏な空気を感じて黙ってしまっていた。



「…………まあ、昔好きだった男と二人っきりだからって、意識するなよ」


 俺は、冗談めかして話を始めてみた。久美は、それに対してすぐに答える。


「昔……男だった人と二人っきりだからって、意識しないよ」


「ははは、そうかそうか。……ん?」


 何か違和感があった。今、久美は何て言った? 『昔、男だった』って……言わなかったか? 言い間違えか、俺の聞き間違いだよな……。


「じゃ、そろそろお風呂行って来るね」


 久美は、着替えが入っているのだろう袋を手にしてベッドから立ち上がる。


「おお。後で男子部屋でも来いよ。遊ぼうぜ」


「そだね。あ、そうそう、ほらそこ」


「ん?」


 久美が指差した所には、ハンガーにかけられたスカートがあった。これは確か、久美が朝着ていたスカートだ。


「穿いていいよっ! 可愛いでしょ! 私のお気に入りっ!」


「だから……穿くかって……。アホか……」


 久美は出て行く時に、もう一度俺に言って来た。


「ホントに、穿いて良いから!」


[パタンッ]


 ドアが閉まると部屋は静まり返った。千夏のシャワーの音も聞こえない。どうやら、湯船につかっているようだ。


 何もすることがなくなって暇な俺だったが、いつしか目が久美のスカートへ向いていた。茶色地に、小さな花柄がラインのように入っている。なんて言うか、デザインに切れがある。高いブランド物かもしれない。


 とか思っていたら、俺はいつの間にかスカートを手にとって眺めていた。サイズは十分入る……、っていうか、俺には若干大きいが、まあ大丈夫だろう。


 スコットランドではスカートを男も穿くと言う。なら……俺が穿いてもおかしく無いのでは? 違う! 俺は日本男児だ! スカートなんて穿いたら切腹だ!


 ……うう、でも、郷に入っては郷に従え。もし、ここがスコットランドなら穿いても良いんじゃないだろうか。いや……それはそうかもしれないが、残念ながらここは日本だ。ちくしょう。羨ましいぜスコットランドの奴ら。民族衣装がなんて魅力的な国なんだ……。待てよ。日本の昔の服はどうだった? ほら、侍が穿いてた袴。あれは……スカートっぽくないか? ……完全にスカートじゃねーか! たまに女がスカートみたいなのを穿いていて、よく見るとズボンだったあれとそっくりじゃないか。しかし、こんな短い袴なんてあったかな……。ちょんまげの男が膝上の袴を穿いている所を想像してみると……なかなかの恐怖が……。


[カチャ]


「和海君、やっぱり穿きたくなったね?」


「うげっ!」


 部屋の扉を開けて顔をのぞかせていたのは久美だった。俺は手に持っていたスカートをどうして良いのか分からず部屋をうろうろと徘徊した。


「なっ……何戻ってきてんだお前!」


 俺は足を止め、スカートを手にしたまま口を尖らした。


「穿くんじゃないかなぁって思ってね……」


「は……穿く訳ないだろっ! 俺は男だぞ!」


「じゃあ、どうして手に持ってるの? 匂いでも嗅ぐ気?」


「んな変態扱いするなっ!」


「じゃあ、やっぱり穿こうとしたの?」


「ちがっ……。こ……これは……。俺は……、で…デザイナーになるのが夢だから……観察していただけだ……。これ……高いんだろ?」


「デザイナーになるの? ぷっ……。初めて聞いた……」


 久美は口に手を当てて、目を三日月のようにして笑っている。


「本当だぞっ!」


「じゃあ、じっくり見ていても良いよ。それは設楽みくが穿いていたスカートで、手に入れるのすっごく苦労したんだから!」


「そうかぁ……。べ……勉強になるなぁ」


「あ、そうそう。今、そこでお風呂から帰って来た子と会ったんだけど、このホテル家族風呂もあるらしいよ。予約制だってさ」


「えっ? あの鍵の掛かるやつ?」


「うん、一般客の邪魔になるから先生達は教えなかったんだろうけど、私達でもルームカード見せたら予約取れそうだってさ」


「そうか……。予約なら今日は無理だろうけど、明日の分とって来ようかな……」


「じゃあ、今から見に行く?」


「そうだな」


 俺は久美と部屋を出て、浴場があるフロアへ向かった。




 家族風呂は、完全予約制であり、受付のような物の前に従業員が一人立っていた。その人に俺はルームカードを見せる。


「ご予約は何名様ですか? 定員は4名となっています」


「一人! 俺だけ!」


「……大変申し訳無いのですが、混雑を避けるため、二名様からお願いしたいのですが……」


「えっ……。そりゃそうか……。んじゃぁ……」


「私が入ってあげるよ! それで二名だね!」


 隣に立っていた久美がそう言うと、受付の人は「かしこまりました」と言って、用紙に『二名』と書き込んだ。


「待て待て待て! お前女だろっ! 正気か!? 俺は男だぞ!」


 受付の人が驚いている様子なので俺が目を向けると、彼女は俺の顔と体をまじまじと見ている。


相変わらず、男子学生服を着てないと、初対面の人には女の子にしか見えてないようだぜ……。


「私は別に良いけどぉー」


 久美は何か引っかかる笑いを俺に見せる。


「俺は男! お前は女! 駄目に決まってるだろ! ……まあいいや、千夏と一緒に入るから。お姉さん、二名のままで良いよ!」


 俺が受付の人にそう言うと、後ろから久美が、


「千夏君との方が……ずっと不健全だと思うけど……」


 と、言ってくる。


「なんでだよ! 千夏と俺は男同士。裸の付き合いだろっ!」


 そう言った俺を、なぜか久美は冷めた目で見ている。


「ふーん……。ま、今日のところはそう言う事にして置いてあげましょう。私お風呂行って来ようっと。またね、和海君!」


 久美は気になる言葉を残すと、大浴場のほうへ行ってしまった。


「あいつ、俺達の事ゲイとか思っててさ、参ったねこりゃ……、あはは……」


 俺は受付のおねーさんに苦笑いをする。


……そうだよな。高校生的には、俺と久美が入れば不健全。俺と千夏が入れば健全。


……しかし、性別的には、俺と久美が入れば女同士で健全。俺と千夏なら、女と男でいやらしく、不健全。


あいつ、一体……どんな意味で『不健全』だと言ったんだ?




 久美の部屋へ戻り、丁度風呂から出てきていた千夏と交代に俺はユニットバスへ体を流しに入る。15分程で済ませると、部屋には恵が戻ってきていた。3人で10分ほど話をしてから、俺達は男子部屋へと帰る。


 一学期の林間学校の時とは違い、10畳の和室に6人と、ゆったり使える。俺は今回、千夏と同じ部屋となり、その他のメンバーは、正也、松尾、羽島、吉岡だ。まあ、今日は故障したロボット程度の動きしか男共は出来ないようなので、襲ってくる危険性は無いのでどうでもいいだろう。


 まだ風呂に入っていなかった奴らを俺は廊下へ蹴り出し、自分達の布団を敷く。布団の上に座って千夏と話をしていると、廊下をズリズリと這っていく音が聞こえたので、正也達も風呂に向かったようだ。


「えぇ!? ……家族風呂? 和海君と二人っきりでぇ?」


「だって、大浴場は俺達には無理だろ? それに……明日もユニットバスで良いのか? 俺は今日入ってみたけど……とても疲れが取れる気しねぇ。明日も、明後日もあの狭い風呂は厳しいぞ」


「それは僕も思ったけど……」


「俺の裸はお前に見られるのは構わないし、お前は腰にタオルでも巻いてればいいじゃねーの?」


「うん……見ないでね」


「男同士でも、あえて見ようとなんてしねぇって!」


 俺達は一時間程話をしていると、消灯を前にして眠たくなってきた。昼間のスノーボードの疲労はやはり相当なものだ。正也達はまだ風呂から帰って来ないが……まさか湯船に沈んで……、まあいいか。


 俺は、久美の俺に対する言動に気になる事があることを千夏には言わなかった。もしばれていたとしても、あいつは誰かに伝えようと思っている様子が無い。だが、この修学旅行中に、一度問いただしてみようかと俺は思っていた。


 俺と千夏は、並んだ布団にお互い入り、目をつぶる。


 

さて、この修学旅行中に、何が起きる事やら……。


俺は、どうなってもいいやと言う気持ちがあったのは、もしかすると頭の隅で女とばれても構わないと思っていたのかもしれない。



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