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今度は3泊4日? スキー合宿! 2

ナデシコダンジ2に合わせて、修学旅行→スキー合宿に変更です。



 学生全員が手続きを終え、搭乗を待つ。椅子に座っておしゃべりをしたり、お菓子を食べたりと待合場所でくつろいでいる。


 俺はトイレに行った後、戻る途中にあった土産物からアクセサリーまでを並べている店を覗く。もちろんまだ買う気はないのだが、旅行と言う事で気分が高揚しているのだろうか、見ていると楽しくなる。


 その中に、キラキラと輝く時計があった。どこかのブランド物なのだろうが、俺はその方面には詳しく無いので分からない。しかし、ぱっと見、ブレスレットのように見えるその時計は、文字盤が非常に小さく数字も無いという、機能性が皆無の時計だと言うのに、俺は何故だかショーケースに両手をべったりと当てて見てしまっていた。


「いいなぁ……これ……」


 時計は時間を知るためだけの物。頑丈で壊れにくくあれば良いと思っていた俺の目から鱗がポロポロと落ちていく。それが地面から30cmほど積みあがった時、耳に誰かの声が聞こえてきた。


「お姉さんって!」


「……ん? 俺?」


 振り返ると、30歳くらいの男性が立っていた。目に付いたのはカメラ。高そうな一眼レフカメラを手に持っている。


「……ナンパ? 修学旅行前の高校生を搭乗待合室でナンパなんて、お兄さんすごいね」


「違うって! これ、これっ!」


 その男は自分のカメラを何度も指差す。


「そんな良いカメラの使い方分かるかなぁ……。シャッター押すだけ? 飛行機をバックにしたらいいのか?」


 俺がカメラに手を伸ばすと、慌てて男はそれを引っ込めた。


「違うよ! 俺が撮りたいんだよ! 君を!」


「え……。俺、万引きなんてしてないけど……」


「だから、違うって! 君がとても可愛いから、写真を取らして欲しいんだよっ! はい、これ名刺!」


 俺は渡された名刺に目を通す。フリーカメラマン……? なんか怪しいな……。


「俺、死んだ爺ちゃんから、写真は魂抜かれるからやめとけって言われてるんだよ。じゃ、またー」


 歩いて行こうとした俺の前に、名刺によると『南条』とか言うカメラマンが回りこんできた。


「お願いっ! 一枚だけでいいからっ! それだけっ!」


 両手を合わせて必死に俺に頭を下げてくる。


「何に使う気? 俺これから飛行機に乗らないといけないから忙しいんだけど……」


「雑誌に載せるだけっ! 変な雑誌じゃないよ! 『CUTE』って雑誌知ってる? 俺、今からそれのイベントの取材で関西行くんだけどさ、どうしても君を撮って置きたいんだ!」


「CUTEは知ってる。それの何のイベント?」


 その雑誌は知っていた。10代の女の子に人気のあるファッション雑誌の一つで、千夏が俺の部屋でよく読んでいる。有名な雑誌だろうから、南条が適当に名前を出したのかと思って、突っ込んで聞いてみた。


「おっ! じゃあさ、今、『CUTE GIRL』ってイベントの募集やっているのは知ってるよね?」


「……知らない」


「ええっ! 結構有名なんだけどなぁ。去年グランプリとった設楽みくとか知らない?」


「誰それ……」


「ぜ……絶対友達は知っているからさっ! 後で聞いてみて! 一枚だけお願い!」


 南条は俺の顔に向かってカメラを向けるが、俺は自分の頬を両手で押し上げてやった。


「ぷっ! ……君、性格も可愛いね!」


「とりゃさにゃい、ばひばひー」 


 そのまま歩いて行こうとすると、南条は俺の目の前に腕を伸ばしてきた。その手の先は、俺の横のショーケースを指差している。


「それ買う! 買ってあげる! さっきずっと欲しそうに見てたでしょっ!」


 指の先を辿ってみると、さっきのブレスレットのような時計だ。


「にゃんれそこまへ?」


「絶対君いけると思う! 最近の子はさ、可愛い写真送ってきても、間違いなく修正入れてるんだ! 取材に行ったらがっかりパターン! でも君は、俺が今まで見た子の中でもずば抜けてる! 設楽みくにも負けないかもしれないっ!」


 必死で力説する南条の前で、俺はもう一度時計の値段を確認した。約2万円だ。俺の写真一枚にそんな金出すなんて、こいつ頭おかしいんじゃないだろうか?


「店員さーん、これください!」


「ちょっぽ! へへっ?」


 南条は俺の前で財布から二枚の紙幣を取り出し、店員に渡すとお釣りと時計を受け取った。


「さあ、これで撮らせてくれないと、俺はこの自分の腕には到底合わない女性物の時計を持ち帰らなければいけない。どうしたらいいかな……。困ったな……」


「……もう、あんたがプロのカメラマンだってのは分かったよ。それじゃ、どんな強そうなポーズすれば良い? ボクシング? ボディビル?」


 俺は諦めて顔から手を離した。


「つ……強そう? いや……普通にしてくれたらいいよ。はい、こっち見て!」


「普通って……何を……。ちょっ……ちょっと……」


「はい、チーズ!」


「にへっ」




 俺は、ぽけーっと座っている千夏の所まで、飛行機より早いスピードで戻った。


「千夏! これ見ろ! いいだろっ!」


「……えっ! それ雑誌に載っていた時計だっ! そんなの持ってたっけ和海クン?」


「マジで!? やっぱそうかぁ……。すっげー可愛い……格好良いもんなっ! 男の防具って感じ!」


「ブレスレット……。防具? そう……見えない事も無いけど……。でもいいなぁ。私も欲しい……けど……」


「お前の腕には回らないだろっ! はっはっはぁ!」


「女の子に戻れたら……貸してね」


「そんときゃ、俺は男かもしれないから、あげるぜ! しかし、今は俺の物だ! 超可愛……格好良いだろぅ!」


俺は左腕につけたキラキラと輝く時計に非常に満足だった。


「で、それ……いつ買ったの?」


「うん、今、そこで」


 俺は少し離れた所にある、先ほどのショップを指差す。


「もっ……もうお土産買ったのっ? まだ修学旅行始まったばかりだよ! それに、その時計2万円くらいするでしょ? そんなにお小遣い持ってたの?」


「うんにゃ、なんか変な男いてさ、そいつが買ってくれたんだ。写真一枚撮らせてやっただけでさっ!」 


「え……えぇ! 駄目だよ! いやらしい写真撮らせたらっ!」


「いや、普通の写真だったぜ。胸から上のバストアップだったし。ちょっと俺の顔引きつったかもしれないけど」


「普通の写真で? 不思議……。バストアップでも、変な事に使われないかな? なんか心配」


「一応、こんな奴だったけど……」


 俺はポケットからさっきもらった名刺を出して、千夏に渡した。


「南条俊夫……。どこかで聞いたような……」


「雑誌のCUTEに載せるとか言ってたな。イベントがなんたらかんたら……」


「えっと、今は一番盛り上がる『CUTE GIRL』って言うのしかやってないと思うよ。アイドルになる登竜門って言われているすっごく有名なのだけど」


「んん…そんな名前だったかなぁ。まあ、いいや! 南条大喜びだったし、俺も大喜び! 誰もが幸せっ!」


「でも、写真撮らせて時計を買わすなんて……、和海クン、悪女になるかもしれない……」


「うっ……。言われてみれば……」


 とは言え、俺の手に入れた時計はみんなからも評判が良かった。女の時計を女の体に身につけて喜ぶ自分に少し危機感を覚えたが、それ以上に時計は可愛かった。




 

 羽田から新千歳空港までは飛行機で一時間半。しかし、そこからゲレンデまでは倍の3時間。飛行機って早いんだなぁと思い知らされる。



 ゲレンデに着いたのが昼過ぎ。バス内で昼食を済ませていた俺達は、急いでスノーボードの道具を借りると、すぐにゲレンデに飛び出した。


 もちろん最初は全員ごろごろと雪だるま。


 最初にコツを掴んだのは……もちろん、この俺だっ!

 俺は滑り台みたいなジャンプ台を飛んで着地をする。すぐに前後を入れ替えて逆向きに滑ってみたりした。


「和海すっげー」


 ホームベースは無いと言うのに、ヘッドスライディングを決めた正也は俺を見上げながら褒めてくる。


「ふっふっふ。この凡人どもがっ!」


「和海もスノボ初めてだろ? スケボーでもやってたのか?」


「ふっ……。いとこの兄さんからもらったスケボーを、親父が「このアメリカかぶれがっ」つってすぐに叩き折られたのを思い出すぜ……」


「和海クン、教えて教えてー」


 千夏が、生まれたばかりの小鹿のように足をプルプルとさせながら言ってきた。


「仕方ねーな」


 俺は少し下に滑り降りると、千夏に手招きをする。


「とりあえず、ずりずり板を横にして滑ってきてみろー。足首に力入れるのを忘れるなよー」


 千夏はすぐにでも尻餅を着きそうなフラフラな様子だが、俺に向かってなんとか降りてくる。


「ほらっ! ここまで来いっ!」


 俺が手を広げて見せてやると、千夏の顔が明るくなった。「わっ、わっ」と言いながらも、ついに一度も転ばずに俺の目の前にまで来た。


「よーし、良くやった千夏!」


「ほんとっ?」


 千夏は笑ったとたん力が抜けたのか、前側のエッジが引っかかって谷側にいる俺に覆いかぶさってきた。


「うわっ!」


「きゃっ!」


[ドサッ]


 こけた勢いで、俺達は抱き合ったまま5mほど滑った。


「ごめんね」


「気にすんな、こうして上達するんだから」


 俺達は頭を斜面の下にしているのと、両足がボードに固定されているという二つの理由で、もつれたままなかなか起き上がれなかった。ゲレンデの真ん中でじたばたと二人で絡みあっていると、何やらいやらしい感じがして俺は結構照れた。それは千夏も同じだったようで顔が真っ赤になっている。


 俺達は抱き合ったまま半回転をして、斜面の下側に足を持っていくと、ようやくすんなり離れることが出来た。


「ちょっと……エッチじゃなかった?」


「あ……、やっぱお前も思った?」


 俺と千夏は立ち上がると、お互いに何かよそよそしく辺りに視線を泳がせてしまう。


俺が青く晴れた空に目を向けていると、腹の底から搾り出したような男の声が段々と近づいてくるように聞こえてきた。それも、何人もの……。


「和海ぃー。俺にも教えてくれぇぇぇ」


「俺にもぉぉぉー。滑れねぇよぉぉー」


「和海ぃ、転びそうぅー。受け止めてくれぇぇー」


 ゲレンデの上を見ると、俺に向かって猛スピードで突っ込んでくるクラスの男子達がいた。先頭は正也だ。


「ばっ馬鹿、お前ら来んな! 危ねぇ!」


 俺は慌てて千夏から離れて滑り出す。すると奴らは、器用に俺の方へ方向を変えやがった。


「お前らっ! 本当は滑れるだろっ!」


「マジ初めてだってぇぇぇ」


「止まらねぇぇー」


「優しく受け止めてくれよぉぉぉー」


 俺が左にターンをすると、やはりあいつ等は俺を追ってきた。顔の形相から滑れないのはマジっぽいが、命を削って俺に向かって方向転換を決めているようだ。


「お前ら……いい加減にしろぉぉ!」


 俺はゲレンデの端まで滑って行き、奴らを引きつけると直角に曲がった。


「ぎゃぁぁぁぁ」

「うぉぉぉぉぉ」

「ひゃぁぁぁぁ」


 奴らは次々とスキーのジャンプさながらに、スノーボードでジャンプをしていく。俺は止まって、それを腕組みしながら満足そうに眺める。おそらく俺を追ってきただろうクラスの男子全員が飛び終えると、俺は谷を覗き込んだ。


「絶景だな」


 5mほど下に、馬鹿共が雪に人型をいくつも作っていた。



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