第一話 予期せぬ遭遇。
私が今日から住むことになった私立天真学園。建物は、どこか洋風な雰囲気を出している。私が最初に“通う”ではなく“住む”と言ったわけは校舎からそう離れていないところに学生寮があるからだ。寮は4つあり、それぞれに中1から高3まで数百人づつ割り振られている。
綺麗な藤が寮章でどんな劣等生だろうが不良だろうが優等生だろうが優しく歓迎するものが多いウィスティリア寮。そして白い椿が堂々と咲いている寮章で申し分のない愛らしさを持ち合わせ、それを謙遜できる人たちが多いカミーリャ寮。濃色の大きな菊が咲いている寮章で自分を信頼してほしいと思っているがそれをおくびにも出さない人たちが多いクリサンシマム寮。薄桃色の美しいシダレザクラが寮章の優美で、純潔そして内面から美しい心の持ち主が多くてまた優等生も多いチェリーブロッサム寮。
と、まぁ全部図書館で調べに調べた結果だけどね。たぶん他の生徒たちは知らないだろうし、私も教える気は全然ないけどね。それにここは超お金持ち学校だから、どこぞのお金持ちの息子とか娘とかしかいないし。私はただの庶民だけど、特待生で入学したのでお金は全然かからないから、入れたんだ。お母さんだけ「玉の輿ねらいなさいよ!」とか言って色々な香水とか化粧品とかもらったけど、私まだ中学生だから使う気ないし。誰かにあげようかな?
「おはようございますわ」
「お、おはようございますっ」
大きな校舎を見上げていたら、後ろからいきなり挨拶された。振り返って私も挨拶をすると、声の主は美しく微笑んだ。朝日に輝く金髪の髪にはウエーブがかかっていて翠色の瞳がエメラルドの如くキラキラしていた。私を珍獣を見るような眼差しで見るのは止めてほしいけれど。
「貴女が特待生の方ですの?」
「あ、はい。そうですっ!」
「いきなりで悪いですけれどわたくしと友達になってくださらないですの?」
本当にいきなりだなぁと思いながらも頷いた。こんな大きな学園で友達なんて作るの大変なんだろうと考えていたところだったので、内心友達ができた飛び上がりたいくらい嬉しかった。じーっと見つめていたら、肌がすごく綺麗なのとまつ毛が長くて私なんかとは比べ物にならないくらいの美人だということが改めてわかった。しかも瞳がパッチり二重でキラキラ光る翠色の瞳が綺麗だった。
「な、なんですの? そんなにじっと見られたら恥ずかしいですの。」
「えっ、あ。すみません……貴女の肌が綺麗なのでつい……。」
「お世辞でも嬉しいですの。それに、貴女の方がわたくしよりも可愛いですの。」
お世辞じゃないですよ、と否定はしたけどあんまり真面目に聞き入れてくれなかった。それに、私の方が可愛いなんてお世辞にもほどがあるし。本当に綺麗なのにな、えーっと名前なんだっけ? そう言えばきいてないな。それにしてもなんか美容にいいことでもやっているのかもしれないなと考えていたら、その美しい少女が名前を口にした。
「あ、いまさらですけれどわたくしの名前は天嬢院綾女ですの。」
「私は神流馨です。天嬢院さん、これからよろしくお願いします。」
「そんな天嬢院さんなんてよそよそしすぎますの、綾女でいいですの。だからわたくしも馨と呼ばせていただきますの」
「あ、はい。綾女……さん。」
そう私が言うと満足げに頷き「それでは、わたくしはお先にいきますのー」と私を一人残して優雅に去って行った。私は仕方ないか、と思い歩き始めた。
何分か歩き続けていたら、全く知らないところに来てしまった。まだ時間があると思い探検しようと思ったのが間違いで、すっかり迷子になってしまった。適当に歩いていたら、森の中に来てしまった。学校の中に森!? と思いながらも進んで行った。すると、急に木々が少なくなって平地に出た。
「うわぁ……。」
その平地の真ん中に大きな湖が広がっていた。その湖は光の当たる角度によって、色々な色に変化していた。まるで、湖の中に色とりどりの花が咲いているかのようだった。湖は浅いらしく湖底が見えていた。
「って、見とれている場合じゃないでしょ。」
と自分にツッコミを入れつつも湖を眺めていた。湖に入ってみようかどうしようか迷いながら。もう入学初日から遅刻覚悟で、湖のほとりに寝っ転がった。
「どうしたんです? そんなところに寝っ転がって……。」
笑いを含んだ声がどこからか微かに聞こえてきた。私は起き上りあたりをキョロキョロと見回したがどこにいるのかわからなかったので、声は幻聴だと思い再び寝っ転がり、目を閉じた。
風がふわりと私の髪やスカートの中に入り込んでふわっとなびかせる。遠くで小さく草を踏むような声が聞えた。寝っ転がっていると土の匂いや草の匂いがかすかにする。
「貴女は1年生でしょう? 遅刻しますよー?」
今度は確実に私の顔の上から声が降ってきた。パチッと目を見開くと優しげに微笑んでいる『王子様』が私を見下ろしていた。濃いめのクリーム色の髪はふわふわとゆるくウエーブがかかっていて顔をより一層小さく見せていた。その『王子様』は寝っ転がっている私の頭の上に正座していた。
「だっ、誰ッ!」
「僕? 僕を知らないんですか? それじゃあ、はじめまして僕は実月氷牙と言います。」
「はっはじめまして、私は神流馨です。ところで、先輩はどうしてこんなところに?」
制服のネクタイが緑色のチェックだったからすぐに先輩だとわかった。これも私が図書館で得た情報で、私たち1年生は赤のチェックで2年生が緑のチェック、そして3年生が青のチェックらしい。それにしても、この先輩は絵本の中から飛び出してきたかのような王子様顔してるなぁ。あれ? でも少し絵本の中の王子様とは違和感があるような……。
「変ですね、僕のこと知らないんじゃなかったんですか?」
私は、一瞬何のことを言っているのかわからなかったが、すぐに私が先輩と言ったことだと理解して先輩のしている緑のチェックのネクタイを指差す。
「へ? あぁ、ネクタイですよネクタイ。先輩のやつ緑色でしょう?」
「なるほど……。でも、良く知ってますね。」
姉がこの学園に通ってるんですよ、と言うと納得してくれた。でも、実際には姉はそんなにこの学園のことを話してくれないんだよね。どうしてかは聞いたことはないけれど、姉はそのことに触れないでほしいらしいから私も黙っている。
私は、ようやく先輩と話しているのに寝っ転がったままだということに気がついた。ふっと息を短く吐き出して思いっきり起き上った。私の顔の上に『王子様』の顔がある事を忘れて……。
――――――ゴツン。
案の定、真上にあった先輩の顔に直撃。私は何て事をしてしまったんだろう! 先輩の綺麗な顔に傷でもつけたら……。きゃー、この世のすべての女子に恨まれてしまうー。と、とにかく先輩の方を向いて傷ができてないか確かめなきゃ!
先輩は鼻のあたりを押さえてうつむいていた。やはり怪我をさせてしまったのだろうか。
「実月せんぱーい? 怪我とかしてませんかッ!?」
「ん、あぁ大丈夫ですよ。すみません、僕が乗り出していたばっかりに……。」
「こちらこそ、すみません。思いっきり起き上ったりして……。」
そして、私たちは数秒間じっと見つめあっていた。あれ? 実月先輩の瞳……。あぁ、瞳の色が絵本の中の王子様と違ったんだぁ。瞳はどこか神秘的な濃い藍色をしていることに気がついた。遠くから見ると、黒に見えるけどじっと見つめてたらわかる。すると、急に実月先輩が耐えられないというように笑いだした。
「ふふっ……。可愛いですね、神流さんは。」
「……お金持ちの人たちってお世辞得意なんですか? はっ! もしかしてさっき私がぶつかったからその時、目にあたってしまって目がおかしく……」
「なってないです。ふはっ……本当に面白いですね。」
笑いながら話すという何とも器用なことをして見せた実月先輩は今もまだ笑い続けている。私は意味がわからないという風に首をかしげながら、笑っている実月先輩を見つめていた。
『王子様』はどんな表情をしてもかっこいいと私は思った。ただ普通に笑っているだけなのに、こんなにも美しいなんて神様に愛されすぎです。きっと怒っても、泣いてもかっこいいんだろうな。
「氷牙ー? 学校行くぞー。どこにいるんだー?」
「静炎ー? ここですよー。」
「え……。」
どこからか声が聞えてきた。たぶん、後ろからだろうと思ったのでゆっくりと後ろを振り向いた。するとそこには、実月先輩とはまた違った感じの『王子様』がいた。立てたりしていないまっすぐの黒髪は外側から内側にかけてだんだん長くなっている。前髪は無造作に軽く分けてある。瞳は、黒? いや……紫かな。たぶん紫のカラコンをしているんだと思うんだけど、カラコンする必要ないと思うんだけどなぁ。うん、私はこの短時間でこんなにも綺麗な人たちに会えたんだからきっといいことあるよね。……もしかして夢?
「氷牙? このちび誰?」
むかッ……。
〝ちび〟という言葉に対して即座に反応した。第一、思っても口にしてはいけないでしょ。本当に小さい人に対して〝ちび〟って……。禁句だよ禁句。そりゃあ、貴方は背が高いでしょうけどね。えぇ、えぇ。
「静炎、敬語忘れてますよ。」
そんな言葉と共に黒髪の男子生徒に人差し指を一本伸ばしてピトっと口に付けた。そして、微笑んだ。ひゃー、見たいけど見れない……。背後に薔薇が見える気がするー。だってこんなかっこいい二人がそういう体勢ってなんて魅力に満ちあふれてるんだこのヤローっ! 女の私が入るよりしっくりくるじゃないかぁ……。
「っ! 忘れてた……。」
「敬語って、忘れるもの? いや、実月先輩はほんとのほんとに王子様っぽいけどさ。この後から出てきたのなに? まじ夢壊れますー。えー、ショックー。てか、二重人格? 人格作るのって大変ってなんかで言ってたけど、そんな面倒なことしてるんだ。でもそんなに器用に見えな……」
などと考えていたら、目の前から明らかに怒気を含んだ声で邪魔された。
「……、おい。」
「明らかにかっこいい顔が台無しになるよね、この声。でも、やっぱり……」
「ぷぶっ……神流さん……ぷっ。」
いきなり、黒髪の……えっと、そう。静炎とか呼ばれた人は怒ったかのような顔で睨みつけてくるし、実月先輩は実月先輩で大きな声をあげて湖のほとりを笑い転げている。私、そんな面白いことした記憶ないんだけどな。
「あのー、二重人きゃ……ぐっ。」
事実を口に出そうとしたら、すごい勢いで誰かに口をふさがれた。私は両手両足をばたつかせ必死に抵抗したけど、後ろにあった木にぶつかってしまい身動きが取れなくなってしまった。だから、仕方なくキッと睨みつけた。勿論、息が苦しくて涙目になっていたのだが。
「お前、バカだろ。そんな大声で言ったら俺の本性ばれるだろ?」
そして、私の耳に口元を寄せた。呼吸をするたびに耳に息が吹きかかる。何となく、わざとやっているような気もした。
「このことは誰かに言ったらただじゃおかねーからな? おちびさん。」
「うー……。」
フンッと偉そうに鼻を鳴らして私の口から手を離した。手を離した瞬間に、鳩尾に蹴りを入れた。そして押し倒すと馬乗りになった。そして、上から肩を押さえこんで起き上れないようにした。
「あんたね、さっきから人のことちびちびっていいすぎっ。確かに私はあんたよりかなり小さいかもしれないけど、ちびって言うのは禁句なんだから。次言ったら、湖にたたき落とすからっ!」
「はぁ、怖いですね。わかりました、もう言いませんよ。」
「……?」
一瞬誰が発した言葉なのかわからなかった。はじめ、私は実月先輩のほうを向いたら実月先輩は「違うよ」という風に首を横に振った。その後しばらくキョロキョロと見回してみたが、誰かいる気配はしなかった。すると、私の下から明らかに怒気のようなものを含んだ声が聞えてきた。
「……だぁーもう、敬語止めた。それと、さっきからパンツ丸見えだぞ、ちび。」
「ふぇ? ……えぇぇぇぇっ! ちょ、み、見ないでっ!」
「やーだっ!」
「え、ちょ、いやっ。見ないでよっ。」
そう言って、逃げようとするがスカートの端がすんでのところで掴まれてしまった。必死に、スカートをめくろうとしている手を両手で離そうともがいた。そのせいでバランスが取れなくなり少し押されただけで後ろ向きに倒れてしまった。しかも、明らかに誘ってるとしか思えないようなエロい体勢で倒れてしまった。その上、顔がゆでダコのように真っ赤になり、さっきのまま涙目だったので、さらにエロさが倍増してしまった。
「お前、誘ってんのかァ?」
と言いながら、私のネクタイに手を伸ばす。そして、手早くネクタイを外し、少し乱暴にボタンを1つ、2つと外していく。私は、恥ずかしすぎて何もすることができなかった。ただ、顔を真っ赤にして涙目のまま睨みつけることしかできなかった。そして、ようやく声が出るようになったころにはお腹あたりまでボタンが外され、ブラジャーが丸見えの状態だった。
「いやぁ……みっ、見ないでっ」
「お前背の割に、胸でかいな。……あとそれが人にものを頼む態度か? 違うよなァ?」
「ふぇ……み、みみ見ないで……くだ、さい。お願い……しますっ。」
く……この変態が……。背の割にとか失礼だし。私、男の人にむっ、胸とか見られるの初めてだし……。まだ中一なのに……。
怒りと屈辱と恥ずかしさによって真っ赤に染め上げられた私の顔を、そっと大きな手が包み込んだ。そして、額にキスをした。……と、思ったが実際は違った……。
「はーい、ストップ。静炎、そこからよけなさい。」
「はァ? 氷牙、お前今までは邪魔しなかったじゃんか。なに? こいつのこと好きなわけ?」
「……静炎。よけなさい。」
「ちっ……。」
実月先輩が、私の体を自由にしてくれた。この二人はどんな関係なんだろう。一見、静炎と呼ばれた男の方が発言力ありそうなのに実月先輩の方が発言力があるみたいだし。
そして、舌打ちをした後不貞腐れたように静炎さんは、私と実月先輩に背中を向けて湖の方を向いている。
「神流さん、大丈夫ですか?」
「え、あの……はい。大丈夫です。」
「そうですか、良かったです。」
そういいながら、静炎さんとはまるで逆、優しくボタンをしめていってくれた。でも、その手つきがあまりにゆっくりで、じーっと見られていると思うと恥ずかしくて、顔が真っ赤になってしまう。しかも、胸のあたりのボタンをしめるときに手が胸に触れてつい、小さくひゃぁっと声をだしてしまった。でも、実月先輩は気付かない様子で、ネクタイまで結んでくれた。
「これで、いいですよ。」
「えぁ……。ありがとうございます。」
「いえいえ。あ、体育館まで案内しましょうか?」
「いいんですか? それと……あの人は誰ですか?」
静炎さんを指差して小さな声で実月先輩に尋ねる。実月先輩の口を私の耳に近付けたので、私はさっきのことを思い出してしまい顔を真っ赤にした。それを横目で見て、面白そうに口元を緩ませこう続けた。
「彼は、香月静炎ですよ、無愛想で口が悪くて変態でドSですが、根はいいやつですので大丈夫ですよ。」
「おい、氷牙。それは褒めてるのか? 貶してるのか?」
「どっちもです。」
いつの間にか近くに来ていた静炎さん……もとい、香月先輩が私の頭の上から顔を出して実月先輩と楽しそうに話している。うー……さっきあんなことしたって言うのにもう普通に接するとか私には無理ー。てか、なんで私の頭の上?! いずらいよ……。
「うぉいっ!」
「ひぅっ!」
「さ、さっきはその……悪かったなっ!」
と言い、私の頭を軽く優しくポンポンと叩くと私の隣にきて、極力私の方を向かない様に歩いている。ちらほら、生徒らしき人影が見えてきて、二人とも私が初めて思った時のような王子様顔になっている。でも、なんでかな? 私に向けられる視線がものすごく痛い気がする……。それにしても、謝ってくるとは思わなかったなぁ。
「……なんだ、案外可愛いとこあるじゃないですか、香月先輩も。」
「あぁっ? 今何つったぁ?」
「え? 何も言ってませんよ、やだなぁ香月先輩ってば……。ははははー。」
「静炎、スマイルスマイル。笑顔ですよ、それとその口調は止めてください。」
ぷぷ、いい気味だー。香月先輩は実月先輩に注意されてションボリしている。でも瞳はきちんと私を睨んでいるから怖い……。でも、私なんかしたのかな?
なんて他愛もない会話をしながらも、実月先輩と香月先輩は私をきちんと体育館の方へと案内してくれている。流石に、今日が入学式だからか、大勢の人であふれていた。
「実月先輩、この大きな建物なんですか?」
「あぁ、ここは図書館棟だよ。本ばかりが置いてある棟なんです。それと、その“実月”って呼ぶのやめてください。氷牙です。」
「ひょ、氷牙先輩。ここって生徒も入っていいんですよね?」
私が、“氷牙先輩”と口にした途端。どっと、女たちが詰め寄せてきた。しかし、この二人のイケメンには近づけないらしく一定の距離をとりつつずっとついてくる。でも、流石に間近でこの視線は痛い、痛すぎる……。
「氷河先輩……あの、私ここからなら一人で行けますので……ここからはもう大丈夫ですよ。」
「だーめーでーす。それとも、僕たちのこと嫌いですか?」
「そんなわけないじゃないですか。でも、視線が痛いんですっ!」
いや、そんなに不思議そうな目で見つめられても困りますよ……。先輩は気付いていないんですか? 射るような視線に……。今にも貫かれて倒れてしまいそうなのに。
私が、先輩と親しげに話しているのを見て、一人の女生徒が近づいてきた。リボンは青。ということは3年生か……。逆らったら後々怖いんだろうなぁ……。
「わわっ! ちょ、神流さん背中に隠れさせてください。」
と言って実月先輩は私の背中に隠れた。が私の身長では実月先輩を隠すことなどできなかった。それに気付いたのか、私のお腹あたりに後ろから手をまわして、抱きしめる形になった。そして、私の髪に顔をうずめじっとしている。
その光景を見た、目の前の女生徒はこめかみに青筋をたてて私を睨んできながらこう言った。
「貴女、誰なのよ。わたくしの『王子様』に近寄らないでくださる?」
「お・う・じ・さ・ま? 誰が?」
私は、ぽかんと見つめ返した。いや、確かにこの二人は王子様っぽい顔立ちはしているけども……だからといってそう呼ぶことはないでしょ。でも、ほんとにこの二人はかっこいいんだよね。なんていうか、実在していないかのような感覚にとらわれるっていうかなんか、夢なのかな? って思うくらい綺麗な顔立ちだもんなぁ。
「いい加減、そのアホ面どうにかしろよ。」
「ひゃう!」
いきなり耳元で囁かれた声にびっくりした。私の顔の斜め上にその声の主がいた。勿論、香月先輩だ。しかも、自分の本性ばれないように私の耳元でボソッとつぶやくあたりが本当にせこい。大きな声でお前の本性言いふらしてやろうか? なぜだか、さっきの記憶がよみがえってきて顔がだんだんと赤くなっていくのがわかる。私の顔を見て面白そうに顔を緩ませたがすぐにばつが悪くなったのかそっぽを向いて私の顔が見えないようにした。
氷牙先輩はまだ私の髪の中に顔をうずめている。いい加減離してくれないと動けない……。
「なんなのよ、貴女。今すぐ離れてくださる? 目ざわりなの。そうよねぇ静炎様、氷牙様ぁ。」
「……いえ、俺たちは全然平気ですよ。この子が道で迷っていたので、体育館まで送ってあげようと思ったんです。」
「まぁっ! 偉いわぁ、流石、桜子の『王子様』だわぁ。」
「……うっぷ。」
……ん? うっぷって何の音だ? もしかして、誰かが吐きそうなのかな。でも誰が? ……香月先輩は話しているし、周りの女生徒達も鼻血はでているけど、吐きそうな人は誰もいない。
……あ、一人忘れてた。私の後ろにいる、氷牙先輩のことを。なんでかは全然わからないけどものすごく気分が悪そうだ。
「ひょ、氷牙先輩ー。大丈夫ですか?」
「うぁ……大丈夫じゃないです。」
「そのまま、私におぶさること出来ますか?」
「そんなことしたら、神流さんがつぶれますよ……。」
「そんなことは大丈夫です、早くしてください。」
私の体を心配しておぶさろうとしない先輩を無理やり説得しておんぶすることに成功した私は、まわりの人だかりが悲鳴を上げるのも無視して、一直線にトイレへ向かった。が、道に迷って廃校舎のようなところに来てしまった。
「氷牙先輩……ここなら誰もいませんよ?」
「……ありがとうございます。もう大丈夫です。」
「どうしたんです? いきなり吐き気なんて。」
「僕は、昔っから香水とかの匂いって嫌いなんですよね。だから、さっきみたいに囲まれると吐き気とか眩暈とかに襲われてしまうんですよ。かっこ悪いですよね……。」
照れ笑いしながら、私の瞳をじっと見てくる。私は、見つめ返す。……数分が経った、いやもしかすると数秒だったのかもしれない。不意に、氷牙先輩が目をそらした。そして、聞こえるか聞こえないかくらいの声で呟いた。
「なんでこんなに関わってしまったんだ……。」
と、悲しそうな……そして悔むような声色の氷牙先輩は、いつもとは口調が違い、まるで別の人物のようだった。先輩は自分が、思っていることを口に出しているとは思っていないようで、言い終わった後はあの優しい先輩に戻っていた。
「では、帰りますか。」
「……はい。」
「帰りは僕がおんぶしますよ?」
いたずらっ子のような顔でからかうように笑ってみせた先輩の顔は、明るかった。でも、私にはその明るさが無理しているようにしか見えなかった。さっき言った言葉の意味はよくわからなかったが、あの時の先輩の表情から見て先輩が相当辛いということが分かった。
それでも、明るくしようと先輩がしているのなら、私が暗くなるわけにはいかない。だから、さっき以上に明るく接していこうと思った。
「歩かなくていいんですか! でも、視線が痛いのでいいです……。」
「ふふ、それもそうですね。」
そうして、私たちはゆっくりと来た道を戻って行った。すると、そこには香月先輩が待っていた。私と、氷牙先輩は顔を見合わせるとくすっと小さい声で笑った。香月先輩にも、私がまだまだ知らない優しいところがあるんだなぁと思った。
でも、体育館に入った瞬間、二人は私からずっとずっと遠い人なんだと思い知らされた。先生が私を迎えに来た。「新入生はこっちよ」と腕をひかれている私は逆らわずについて行った。一度だけ振り返ると、あの二人はまた違う先生に呼ばれ、もうその場にいなかった。
「神流さん、貴女『王子様』と一緒に登校してくるなんて、どういう仲なのよ。」
「そうよ! あんなに親しげに話すなんて、一体どんな……。」
「もしかして、入学早々私たちの『王子様』に媚売って抜け駆けとかしてんじゃないでしょうねっ!」
「この子から『王子様』の匂いがするわ、きっとものすごく近づいたのよ。」
……波乱の予感です。
はじめまして。
はじめてですが、頑張りますw
これから宜しくお願いします。