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夾竹桃の恋  作者: 橙夏
8/13

はじめまして

すみません……。

頭の中には父様の怒鳴り声が残っている。自分の右の頬には父様に叩かれた痕が残っている。背中には父様に突き飛ばされた痕が残っている。

母様はそんな俺を見て、ただ泣いていてくれた。


「少しは状況を把握してみろ、お前なら出来るだろう!」


泣き叫ぶように父様が言ってたのを覚えてる。


「止めて下さい!」


母様が泣き叫んで、振り上げられた父様の腕にすがりついていたのを覚えてる。


「分かっています、父様。」


俺はただ、俯いてそう呟くことしか出来なかった。



あれから何時間経っただろう。突然、部屋のドアを叩く音がした。

父様と喧嘩をしてから(非は完全に自分にあるのだが)部屋に閉じこもっていたために、夕食を食べていないから、正直に言うと腹が減っている。

母様が夕食を持ってきてくれたのだろうか…。

そうであって欲しいと少しだけ願ったが、それは無いな、と自分で自分の意見を否定する。壁に掛かっている時計を見てみたが、すでに8時を回っていて、8時というと親は仕事部屋に閉じこもって、もの凄い大金を動かしている、らしい。これは先月に辞めたメイドの(かなり若かったと思う。)サリアが教えてくれたことだ。俺自身、彼女の仕事に取り組む姿勢とか物腰柔らかなところとかが気に入っていて、他のメイドや執事よりも親密に接していた。そのおかげかは分からないが、彼女がその大金の事をコソッと、「ご主人様達には内緒ですよ。」と言って教えてくれた。

つまり、ドアをノックしたのは母様でもなければ父様でもない(父様が自分の部屋をノックする必要があるわけがないのだが)ということ。それならばメイド達は?と思うかもしれないがそれも有り得ない。8時から30分間は休憩を取らせているのだ。鍵を掛けているといっても一室では世間一般の常識を超えるほどの大金を操っているのだ。無防備すぎると思うのは俺だけだろうか…?

だから、メイド達でもないのだ。

他に誰がいる…?

再びドアが叩かれる。

「誰だ…?」

ドアの近くで声をかける。

返事はない。ただ、ドアの向こうで納得したような気配はする。

「だr」

「後ろだよ。」

急にかかった声に振り向くと、そこには面白そうに笑いながら宙に浮く少女がいた。

「誰だ…?」

少女はニヤリと笑って、

「天女だ。」

と一言、答えた。

は…?

今、この女は何と言った?

「天女……だと?」

少女は再び面白そうにククッと笑った。

天女ってこんな笑い方をするのか…?

自分があまりにも怪訝そうな顔をしていたのか、少女は顔を近付けてきた。再びニヤリと笑う。

「天女でもこんな笑い方をするんだよ。」

………。

「あんたの思ってる事なんてすぐに分かるって。」

「何で……。」

「天女って女神だよ?何で分からないの?人間なんて物凄く分かりやすいのに。」

「本当に天女……なのか…?」

「天女じゃなかったら何で浮いてるのさ。」

不満げに少し口を尖らせる。その行動は物凄く人間味があってやはり信じられない。

突然、ふわり、と少女が床に降り立った。その行動は口を尖らせていた時よりもどこか神秘的で、一瞬でも本当にこいつは天女なのかもしれないと思わせる程、綺麗だった。

少女はにこりと笑う。

…笑い方が変わった。

彼女の白く細い右手が差し出される。

「はじめまして、キリス・アリジリンス。あたしはキイナ。よろしくね。」

そう言われて握手を求められていることに気づき、右手で彼女の右手を握ろうとした。

すり抜けた。

自分の右手が拳を作っているのに、彼女の右手は開かれたままで、その彼女は思い出したように目を開くと「そういえばそうだったね。」と悲しそうに笑った。

「あたし、天女だから人間とか地界に生きるものには触ることが出来ないんだった。」

アハハッと笑う。

よく笑う天女だなぁ…。笑い方はかなり違うけど。

「父さんにも言われた。」

「な、何を?!」

急に話が繋がらないような言葉を言われて少し戸惑うと、彼女は呆れたように笑って、

「よく笑うけど、笑い方が違うな、て。」

考えてる事は分かるって言ったじゃない、と面白そうに続けて再びククッと笑った。

「俺のどこがおかしい?」

何度も笑われたから少し不愉快に思ってしまう。彼女も悪気は無いのだろうけど。

彼女(キイナとか言っていたか)は俺の質問には答えずにずいっと俺に顔を近づけて不思議そうな顔をした。

「あんたはセリアのどこが良いと思う?というか、本当にセリアの事好きなの?」

は……?

今度こそ、本当に話が繋がってない台詞だったから、思い切り顔をしかめてしまった。

そんな顔をしては駄目ですよ。

母様のおっとりとした声が頭によぎる。

それは分かってる。分かってるけど……。

「急に何だ?」

急に人の恋の話をし始めたらこんな顔になるのは仕方ないと思う。

「だぁかぁらぁ。」

1音1音語尾の伸びた口調で話し出す。

「あんたはセリアの事が好きか、て聞いてるの。」

セリアって……。

「グランセ家のあの子か…?」

「そいつ以外に誰がいるのよ?」

セリアなんてそこら辺にゴロゴロいそうなのだが。

しかし…。

「お前ってセリアさんと会ったことあるのか?」

意外だ、と呟くと、彼女はなぜか顔を赤らめて頬を膨らませながら、

「会って悪いか!」

と怒ったように言った。

「…照れてるのか?」

「照れてない!」

まぁ、照れているのなら何故照れるか分からないしな。

脳裏にセリアの姿が蘇る。

「好きだよ、セリアさんの事。」

キイナの目が輝いた、気がする。

「儚そうに笑うところとか人を心配するような優しいところとか、あと沢山あるけど、声とか。……全部、好きだ。」

自分の名前を呼ぶ時の声があまりにも優しすぎて、嬉しかった。

「でも、俺が結婚する相手はセリアさんのお姉さんのシャーラさんで。」

だから、俺の背中に傷を残してしまった。

キイナの顔が驚いたように歪められる。

「あんたの婚約者ってシャーラさんなの?」

「会ったことあるのか?」

キイナは気まずそうに目を逸らした。

「直接はないけど…。」

そこまで言うと、そこからは黙ってしまった。

「でも、俺の好きな人はセリアさんだから。」

もう一度、同じ事を繰り返して言うと、キイナは再び驚いたように目を見開いて、

「あんたって俺、なんだね。」

と意外そうに呟いた。

「は…?」

「見た目は僕って感じなのに、一人称が俺なんだね。今気づいた。」

本当に意外そうだった。

「今頃……?」

キイナはコクリと頷く。

彼女は壁に掛かっている時計に目やった。つられて俺も時計を見る。短針は2を少し過ぎた所を差し、長針は9を少し過ぎていた。

「こんなに経ってたんだな。」

時計を見つめたままの彼女を見ると、悲しそうな横顔が目に入った。

「そろそろ行かないと…。」

ここに降り立った時のようにふわり、と浮かぶと、

「じゃあ、また。」

と言って、俺の目の前から消えていった。



次の日の朝、父様と母様は普通に俺と接してくれたが、2人は彼女がこの家に来た事に気付かなかったのだろうか…?


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