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夾竹桃の恋  作者: 橙夏
4/13

少女

突然告げられた「人間界行き」。

天界で「人間界行き」と言われた者達はいわゆる「おちこぼれ」の証拠と父さんに言われたのを覚えてる。だから「人間界行き」と言われないように努力しなさい。て、何度も言われた。

それから、あたしは「努力」した。

「美しい天女」になれるように。周りからそう評価されるように。親の言うことはどれだけ理不尽な事であったとしても、聞いて、従った。突然「家を出ていけ!」って言われても、従った。殴られても黙って、ずっと殴られていた。

「努力」した。

「美しい天女」になりたいから。

あたしは「おちこぼれ」なんかじゃないから。

頑張った。

努力した。

あたしはずっと耐えてたんだよ?

なのに結果は「人間界行き」。

笑える。

ふざけないでよ。

あたしがどれだけ頑張ったと思ってるの?

「人間界に行って常識を学んできなさい。ついでに友達でも1人くらい作ってきたら良い。」

何で「天女」が「人間達」の常識なんか学ばなきゃならないのよ?

「友達を作れ。」という事は「戻ってくるな。」ってこと?

意味分からない。

それでも。

どれだけ文句を言おうと「お偉いさん」には届くわけが無くて。

納得がいかないまま、あたしの「人間界」へ行く日がやってきた。

出発直前、突然あたしの名前は「キイナ」になった。

元の名前なんて「消された」から覚えてないけど、凄く気に入っていたのは覚えてる。

だから突然、自分の名前が「消されて」違う名前が「上書き」された時は凄く驚いたし、悲しかった。

だけど、そのおかげでおちこぼれは「キイナ」のあたしじゃなくて、「前の」あたしだって考える事ができた。

今のあたしは「おちこぼれ」じゃない。


少し、ほんの少しだけ心が軽くなった気がした。


でも、あたしは甘かった。

人間界を甘く見すぎていた。


そこは、天界と比べ物にならないほど、酷かった。

「人間達」は自らの欲に溺れ、欲の為に自分達が暮らす世界を破壊していく。

醜い。

汚い。

嫌い。

弱い者をけなしては自分を自分で褒め称える。

馬鹿みたい。

笑えてくる。

帰りたい。

一瞬、子供みたいな感想だなぁと思ったが、やっぱり帰りたい。

この世界を見て分かる、天界の素晴らしさ。

思い出すだけで泣けてくる。

帰りたい。

けど、帰れない。

人間界にこの気持ちを埋める程の人間はいないのか?

天界には溢れるほどいたのに。


ずっと姿を消して動き回っていた。

その間に出会った人間は本当にくだらなかった。

だから、あの子を見たとき、奇跡だと思った。


「綺麗」


彼女に似合う言葉はこれしかない。

綺麗、なのだ。

彼女の顔を見たとき、確信した。

天女のようだ、と。

天界を舞い踊る、美しい天女のように、あたしがたまたま降り立った場所にいた少女は儚く、どこか惹かれるところがあった。

美しかった。

これまで見てきた人間達とは完全に違う着飾らない美しさがあった。

これほどの人間がこんな酷い世界に住んでいて良いのか。

美しい。

綺麗だ。

ずっと見ていたい。

儚く脆そうなのに、全てが綺麗で。

昔のあたしを見ているようで。


忘れられない。


「友達でも作ってきたら良い」

あの子なら、なっても良いと思った。

礼儀正しくて、美しい。

天女の友達にするにはもってこいじゃないの。


「セリア・グランセ」

良い名前。響きが良い。


あたしの名前は何だったっけ?

「友達」になるって事は名前を伝えなきゃいけないはず。

あたしの名前は2つ。

「キイナ」と前の名前。

あたしが好きだった名前。


伝えたかった。

あたしの名前。

「好きだ」と言われて欲しかった。

消された名前。

美しい声で呼ばれたかった名前。

友達として、彼女の事が気に入った。


全てが儚く弱く、そして美しいセリア。

天女のあたしには無いものを当たり前のようにいっぱい持ってるセリア。

少し悔しくて、でも憎めない。


あたしが笑いかけた時、無意識だろうが、笑ってくれた。

本当に。

本当に。

綺麗だった。



あの笑顔を見たら、帰りたくなくなってきた。

確かにこの世界は汚い、醜い。だから嫌いだけど、この少女は嫌じゃない。

彼女を見ていられるならこのままこの世界に居ても良いと思える。


あたしがここまで夢中になったものは初めてかもしれない。


それほどに彼女は興味深い存在だった。

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