壊したのは……
主人公が少し血を流します……。
気づいたらこんな出来になっていました。すみません。
この頃キリスが来ない。キイナがもうやって来ないだろう事は分かっていたけれど、毎日来ていた彼が来ないことには違和感を覚えた。他にも気になる事がある。
最近の姉の様子がおかしいのだ。
窓を向いては遠い目をし、食事を取ってる最中にいきなり泣き出したり、笑い出したり。そしてその日は決まって部屋がグチャグチャになっているのだ。刃物で切り裂かれた人形の綿が辺りに散らばっていたり、ベッドのシーツが切り裂かれていたり、時には部屋の電気が割れていたりもした。親は気づいていない。まぁ、気づかないのが当然なのだが。自分の子供たちに興味なんて全く無いのだから。
「セリア……。」
今日も朝食を取っている最中にポロポロと涙を零した。
やっと泣き止んだと思ったら私の食事はとうに終わっていて。
姉は泣き止んだし、部屋にでも戻ろうかとか思っていたら服の裾をそっと引っ張られた。
後ろを振り向くと泣き止んだばかりで目を赤くしている姉が、まだ食べ終えていない朝食を見つめながら私の服の裾を掴んでいた。
「姉さん……?」
掴んだままでいる姉に何か反応をもらおうと姉を呼んでみたが反応は無かった。だが、裾を離すつもりはないらしい。掴む力が強くなってきている気がする。
「どうしたの?」
しょうがないなぁ。とか心の中で呟きながら、しゃがんで姉に顔を合わせる。
「セリア……。」
再び姉が私を呼ぶ。
でも食器を見つめるその目は虚ろで、何も映していない。
「姉さん……?」
しばらく姉の蒼い瞳を見つめていると、その瞳が小さく揺らいだ。
あ、泣くな…。
直感で分かった。
そして予想通り姉は静かに泣き始めた。
本日2回目。
姉の白い頬を涙が濡らす。
「どうしたの?」
口癖のようになってしまったこの言葉を私は何度も姉に投げかける。
「せりあぁ……。」
幼子のように泣く。
「姉さん……?どうしたのか言ってくれないと、私分からないよ?」
それでも姉は幼子のように「セリア、セリア」と私の名前を呼び続ける。…本人は無意識に、だろうが。
「セリア……せりあぁ……。」
馬鹿みたいに私を呼ぶ。
彼女の瞳は揺らぎ続け、彼女の白く細い指は私の服の裾を引っ張って離さない。だから私はこの場を離れたくても離れることができず、彼女の涙を拭き取ることさえ出来なかった。
突然、姉が泣く声を押し殺して俯いてしまった。
私は彼女の目に自分を映そうとのぞき込もうとした。
その瞬間。
強い力で両腕を掴まれた。
姉の爪が腕の肉に食い込む。…決して私が太っているというわけではないのに(学校では痩せている部類に入っている)ギリッという音がするのではないかと思うほどに、爪が食い込んでいく。
正直に言うと……
「痛い……。」
本当に。呟くつもりがなかったのに呟いてしまうほど。
自分では結構我慢強い方だと思ってたのになぁ。
結構ショックだった。
姉はそんな私に気づいていない様子で、構うことなくギリギリと腕を絞めていく。
「姉さん……痛い……。離して……?」
姉が一層力を強める。
「イタッ……。」
肉が切れた気がした。
そうっと右腕の姉に掴まれている部分を見ると、
(やっぱり……。)
無地の薄いピンクの生地に、赤い染みができていた。
痛いはずだ。
「姉さん……血が出たから……。」
そろそろ手、離して……?
わざと切なげな声を出して懇願する。
それでも姉は力を強めていく。
もうここまでくると諦めしか無い。……腕は痛むが。
痛い……。
「姉さん……痛い……。」
何度この言葉を繰り返しただろう?
「姉さ」
ポフッという間抜けな音を発して、突然姉が私の胸辺りに顔をうずめてきた。もちろん腕を掴んだまま。
「……す………と…な…で……。」
自分の胸辺りからか細い声が聞こえてきた。
「……ん?」
出来るだけ優しく、落ち着いて、ついでに腕を掴む細い指をゆっくりはがしていった。
はずされた指を胸の前で組み、姉は私の胸から頭をどけた。それでも俯いたままだったけれど。
「姉さん……?どうしたの?」
今日で何度目になるか分からない問いかけを、もう1度する。
姉がゆっくりと息を吐き出した。
私はか細い姉の声を少しでも聞き取れるようにと、姉に耳を近付けていく。
「――――――、」
姉が涙を零す。
私をとらえた姉の潤んだ瞳に、私はどう映ってるんだろう。
「きりすくんをとらないで」
あぁ、もう完全に遅刻だな、なんてかなり場違いな事を考えながら、私は静かに泣き続ける姉を引き寄せて、その細く頼りない体をそっと抱きしめた。……その時に姉の体がビクッと小さく震えたのは気のせいだろう。
恨めしい程の静寂が私たちを包む。
姉を、
姉さんをこんなにしたのは、
誰?