雪女(?)さんの恋は冷たいですか??
これは、俺が小さい頃に体験した怪談話だー。
じいちゃんの別荘地に遊びに行って迷子になった俺は、小さな小屋を見つけた。
外は猛吹雪。勿論迷わず飛び込んだ。
中には誰もいない。
部屋の真ん中にポツンと囲炉裏があるだけだ。
「あの〜、誰かいませんか?」
返事はなかった。とりあえず体を温めようと囲炉裏に近づいた瞬間・・・
「だれ!??」
銀色のサラサラした髪で白装束を身に纏った少女がいきなり目の前に現れた。
見るからに同い年くらいのその子は怯えた様子だった。
「あ、ごめん。一応声は掛けたんだけど、いるの気づかなくて・・・」
「ふ、ふ〜ん。で、あなたはどうしてここにいるの?」
「実は俺・・・・・」
遭難した旨を伝えた所、彼女は吹雪が収まるまでここにいて良いと許してくれた。
どのくらい経ったのだろうか。
時間も場所も、外が吹雪いてる事さえ忘れて彼女と色々な話をした。
この古屋は彼女と彼女の母の二人で住んでおり、諸事情で今は母は不在らしい。
一人で寂しかったのだろう。久々に人と話せた嬉しさからか、彼女の表情が徐々に柔らかくなっていった。
「・・・うふふ!!それでお爺さんと逸れてしまったの?」
「そうなんだよ!!じいちゃんったらこんな可愛い孫置いてスキー楽しんじゃって、気づいたら俺はこの雪の中ひとりぼっちだったんだ!!」
「いいなぁ、君には楽しい友達や面白い家族がたくさんいて・・・」
「お前のお母さんはいつ帰ってくるんだ?」
「分からない・・・・今回のお仕事はいつもより時間掛かってるっぽくて・・」
「そっか・・・・・」
(彼女はいつまで続くか分からない孤独をずっとこのまま過ごすのか・・?一人でここで?・・・・そんなの、そんなのかわいそうだ!!)
同情から湧き上がる気持ちが抑えられなくなり、当時の俺は思い切った事を口走った。
「なぁ!!『けっこん』しよう!!!」
「ふぇ!?!?!?」
「そしたら俺がお前のそばにずっと居てやる!!俺がお前を寂しくさせないから!」
彼女の頬は真っ赤になり、モジモジし始める。
それもそうだ。なんせ『結婚』と言ったのだから。
幼かった当時の俺はなんせこの言葉の意味を『友達として、ずっとそばにいるという約束』だと勘違いしていた大馬鹿者だった。
「えっと・・・それは大人になって・・・・ってこと?」
「そんなんじゃダメだ!!今すぐにだ!!」
「それは・・・『こんやく』?ってものじゃ・・・」
「よくわかんないけど・・・そう!」
「ふえぇぇぇぇぇぇぇぇぇっぇぇ!?!?!?!?」
「おう!(?)俺に任せろ!(?)」
彼女は小さな自分の手で顔を隠した。
「す・・・・末長くよろしくおねがいいたします・・・・・」
そこから先は記憶がない。
俺は眠っていたらしく、気がついたら祖父に救出されていた。
後から知ったのだが俺が倒れていた場所に小屋などなかったらしい。
「・・・・という事から、俺はその少女は『雪女』だと思ったんだ・・・どう?怖いだろ〜?」
「いやいや幹太。雪女云々つか、それ『怪談話』じゃなくね????」
時間を戻そう。
俺は仲の良い女友達の京子と怪談話対決をしている。
「え?歴とした怖い話だろ??」
「どこがよ!どう考えてもアンタがバカした話じゃん!!!何妖怪に言葉の意味も分からずプロポーズしてんのよッ!!!」
「そこは置いてとてくれよっ!!今は如何に怖かったが重要だろ?!」
「まっ、まぁーそうだけど・・・・・」
「京子は怖かったか???」
「ニヤニヤしながら聞くな!!!全然怖くねーっつの!!」
「ちぇ〜面白くねーの。あ、そうだ!今の俺の話、雪代さんも聞いてた?」
俺達の近くの席で、一人本を読みながら聞き耳を立てていた女子に声をかけた。
彼女の名前は雪代冬華。
すらっとした高身長で、見惚れるほど白い長髪の生徒。
おまけに頭脳明晰・スポーツ万能と全てを備えた完璧美少女だ。
どうやら告白された回数は学校1らしい。
クールを極めた彼女は「氷の微笑み」、「一輪に咲いた雪の華」と呼ばれたりし、挙げ句の果てに巷じゃ「雪女」とも呼ばれている。
「・・・・・・ん」
俺の問いかけに答えるように、彼女は読んでた本を閉じ、俺の方をじーっと睨みつけてきた。
「雪代さん・・・・・?」
「ん・・・・・」
「雪・・・・」
「ん・・」
「代・・・・」
「ん」
「さん・・・?」
「ぷい」
彼女は目線を逸らした。
安心してくれ。いつもの事だ。
初対面の時から彼女は俺にだけ、やたら冷たいのだ。
「ほんと、他の男子達とは少なからず会話はするのにね・・・」
「京子ぉ〜俺何かしたのかぁ〜??」
「私が知るわけないでしょう!!!!」
正直な所、俺はこの美少女が苦手だ。
前も俺に目線を感じたと思ったら遠くから雪代さんが睨んでたし、俺が話しかけてもダンマリを決めてくる。
なのに俺の近くに絶対いる。
新手のストーカー?新手のプレイ???
嫌がらせにも程があるぜ。
そうだ。この際しっかりとけりをつけよう。
俺だって男だ。仮に彼女を傷つけて今に至るのなら、それなりのケジメを取ろう。
何にせよ、このままじゃ虫の居所が悪い。
「なぁ、雪代さん。前から思ってたんだけど・・・」
「・・・・・何ですか?」
初めて聞いた彼女の声。
透き通る程綺麗で、小さい声だった。
「あのさ、俺・・・・雪代さんに何かしたかな・・・・?」
「・・わた・・・がい・・べ・・・・女の子・・・・・話す・・・・から・・・・」
「え?ごめんもう一度言って?」
俺は彼女の前に行き、耳を立てる。
「・・・・・//んッっつ!!」
その瞬間、冷たい冷気が顔に当たり、気を失った。
目が覚めた時には保健室のベットの上だった。
「・・ねぇ大丈夫?気がついた????」
横に座っていた京子が俺に声をかけてくれた。
起きあがろうとしたが、気を失ったショックで筋肉がまだ硬直していた。
「いてて・・・あぁ大丈夫だ。久々だぜ気を失ったのは・・・。あの吹雪の日以来だ・・・」
「こっちこそびっくりしたよ。いきなり倒れるから。ちゃんと自分の名前言える?」
「乾幹太。16歳。高校一年生。」
「ちゃんと言えるね、よかった・・・・」
「悪いな。ここまで運んでくれて」
「あ、えっと・・・・幹太を保健室まで運んだのはね、雪代さんだよ」
「えっ」
俺が倒れた瞬間、すぐさま抱えて雪代さんが保健室まで運んでくれたらしい。
どういう事だ、一体・・・・・・。
俺の事が嫌いじゃないのか?
「雪代さん、慌ててた。何度も小声で『ごめんね』って言ってた・・・」
「ごめんね・・・・・」
『雪女』というものは、運命のいたずらで出会った男と雪山で出会い、恋に落ち、約束を守る妖怪らしい。
ずっと思っていた事がある。
それは馬鹿な話で、ただの俺の妄想。『だったらいいな』くらいの考えだった。
自分でもただの憶測だと割り切っていたが、当たっているかもしれない。
彼女はきっと、俺のそばで、また一人で・・・・。
昔の交わしたはず約束を思い出す。
(俺がお前のそばにずっと居てやる!俺がお前を寂しくさせないから!)
「・・・・謝るのは、気付かなかった俺の方だ」
俺は立ち上がった。
今ならまだ間に合うかもしれない。彼女にちゃんと伝えなきゃいけない。
仮に俺の勘違いだとしても、雪代は笑ってくれるのだろうか。
そうだとしても、やっぱり伝えたいーーーーーー。
教室に俺は駆け足で向かう。廊下にいる生徒達をかき分けて進む。
「でさぁ〜雪代ってぜってービッチだよなぁ??」
俺は足を止めた。
「そうそうあーゆ顔して裏では年上の彼氏とかいて、裏でみんなの悪口言ってるタイプだぜ!」
「わかるわぁ〜態度じゃなくて、心も冷たいっちゅーか?優しさとか一ミリも持ち合わせていないっつか〜?」
「ほんとは友達いねーんじゃね?」
「ふざけんなァ!!!!」
俺は廊下で人目も気にせず叫んだ。
「雪代さんはそんなやつじゃねぇ!!!お前らみたいな汚ねぇ男が雪代さんを語るんじゃねぇ!!!!」
「なっ、なんだテメェ!!誰だよ!!一年だろ?調子乗んなよぉ??」
「誰だと・・・・?そんなん決まってんだろ、俺は雪代さんの『友達』だ!!!彼女のことならお前らより知ってるぜ!
彼女はとても繊細で、心が綺麗で、一途な優しい女の子だってな!!!!
雪代をお前らの汚ねぇ妄想のオカズに使うんじゃねぇ!!
文句あんならかかってこいよ!!!」
「ちょっと・・・なんの騒ぎ!?!」
近くにいた女子生徒が先生を呼んで来たようだ。
こんな事している暇はない。
我に帰った俺は一目散にその場から逃げていった。
教室に着いたものの、雪代さんの姿はなかった。
やっぱり俺の妄想劇だった。
「何だ・・・やっぱり勘違い野郎は、勘違い野郎のままなんだな・・」
力が抜け、誰もいない教室で席に付く。
放課後のチャイムがなり、外はとっくに日が沈み始めている。
一人ポツンと座る中で、誰かが閉め忘れた窓のおかげで気持ち良い風が入ってくる。
孤独とわずかな喪失感の中で、徐々に落ち着きを取り戻していく。
全ては俺の思い込み。
雪代さんはただ俺を善意で保健室に連れて行ってくれただけ。
ただ、それだけだ。
「・・・・さて、帰るか」
「あっ、あの・・・・・・・」
聞き覚えのある、か細い声がした。
教室に恥ずかしそうに雪代が入ってきた。
「っ・・・雪代・・・・さん?なんで・・・・」
「・・・・さっき・・・先輩と口論してましたよね?」
「もしかして見てた?」
「・・・・はい。・・・声がしたので」
まじか、まじかマジか。
自分の行いを振り返る。
(俺は雪代さんの『友達』だ!!!)
(雪代をお前らの汚ねぇ妄想のオカズにすんじゃねぇ!!!)
本人の前で物凄い事を叫んでいたのか・・・・・。
はっ、恥ずかしいぃ・・・・・。
「ごめん、雪代さん・・・一部外者の俺が雪代さんの事を色々と・・」
「ぜっ、全然大丈夫!・・・むしろ・・・嬉しかった・・・・・」
「嬉しかった?」
「・・・うん、とても・・・」
「そ、そうなの・・・?」
「わ、私の事を、あんなに・・・想ってくれて・・」
彼女は微笑みながら自分の手を握りしめていた。
「・・・・それで、乾くん・・・」
「ん?」
「わっ、私を探していたようだけど・・・・・」
「あっ!そうそう!!雪代さんにお礼を言いにきたんだ。ほら、俺を保健室まで連れてってくれたと聞いたから・・・・」
「いっ、いいんです!あれは・・・事故というか・・・不意というか・・・そもそも乾くんが急に近づいてくるから・・・」
「段々声小さくなるなよ!!」
「とっ、とにかく!あれは私も悪いので!・・・・それじゃ・・・」
顔を逸らし、雪代は帰ろうとする。
「待ってくれ、雪代・・・・」
まだ大事な事を話していないー。
お得意の勘違いなら、それでもいいー。
「・・・・・何ですか」
彼女は廊下の方を見つめながら、俺に背を向けている。
「そのままでいい!少し聞いてくれ!!
昔の俺の話、聞いてたよな?俺、ずっと考えてたんだ・・・。
あの時の雪女、もしかしたら雪代なんじゃないかって。そうだとしたら、約束全然守れてなかった。一人にさせないって言いながら、あの出来事自体、自分が見ていた夢だと思い込んでた。本当にごめん!!
あ!でも、あの子が雪代じゃないとしたら、全部俺の妄想ってことになるよな!?
もしそうだとしたらまじきもいと思うから、笑ってくれ!!
頼む!雪代!!!!」
・・・・・・・・・・・・・・。
静寂な教室に下校のチャイムが響き渡る。
・・・・・・・・・・・・・・。
「べーっ!」
彼女は、振り向き、俺に舌を出した。
頬を赤く染めながら、笑っていた。
去っていく雪代の後ろ姿から、満足感が伝わる。
あんなに嬉しそうにスキップしてる彼女は、到底クールな「雪女」とは言えないな・・・。
冷たい風が開き切った窓から背後に当たる。
季節はもう時期夏だというにもだ。
雪代冬華は果たしてあの雪女だったのだろうか。
結局答えは分からないまま。
でも、急いで知ろうとしなくても良い気がする。
「よし、まずは雪代とちゃんと友達になる所から始めるとするか!!」
これは、俺と雪女(?)のちょっと変わった恋の怪談話だ。




