EX-3 / Episode 1/2 予期せぬ事態。
やっと半分ぐらいです。
プロローグの割に長いと思うかもしれませんが
これが一番しっくりくる気がします。
1/2 ―予期せぬ事態―
豚人王率いるボアの部隊は進軍を開始し、ほどなくして人間の騎士団と遭遇した。
ボアキングの名はポーク。
その名は、かつて人間どもに奴隷として扱われた屈辱と憎悪を、決して忘れぬために――自らに刻みつけたものである。
そして今、その屈辱を晴らす時が訪れた。
ポーク :「人間どもを殲滅せよ!!」
「一匹たりとも残すなよ。」
その号令と同時に、ボアたちは雪崩のように突撃した。
魔王の加護を受けたその力は凄まじく、人間の防陣はあっという間に押し潰されていく。
後方にはゴブリン部隊も控えていたが、出番は当分なさそうだった。
それほどまでに、ボアたちの猛攻は圧倒的だった。
対魔物兵器も次々と投入され始めたが、戦況が覆る気配はない。
依然として、こちらが圧倒的に有利である。
何より――
ポークは、怒り狂っていた。
一方、魔王の城。
魔王レグリスは、ハーピーたちが共有してきた戦場の状況と異変を整理していた。
一つ目。
召喚者パーティーが、前線へと向かっていること。
二つ目。
本来控えているはずの兵が撤退を開始し、勇者と上位の人間たちのみが戦場に残されていること。
三つ目。
――最も不可解な点。
本来、死者を収めるための密閉箱が、なぜか大量に馬車へ積み込まれていたこと。
魔王は思考を巡らせる。
(妙だ……)
最も理解できないのは、あの箱だ。
――死者でも蘇らせるつもりか?
だとすれば、箱の中にいるのは勇者か?
いや……勇者を増やしたところで、兵を撤退させる理由にはならない。
ならば、あれは一体――。
「ハーピーども。箱の中を探れ」
命を受けたハーピーたちは即座に散った。
彼女たちは上位種であり、中にはAランクを超える者もいる。
仮に勇者と接触したとしても、逃げる隙程度は十分に作れるはずだ。
その頃、前線では人間たちの撤退が本格化していた。
――実に、滑稽だ。
同族を見捨て、自分たちだけが生き延びようとする。
人間という種族の愚かさを、魔王は改めて実感する。
撤退によって前線のパワーバランスは完全に崩れた。
ボアたちは逃げる者を追わず、取り残された部隊の殲滅に集中する。
怒りに駆られながらも、その判断は冷静だった。
この好機を逃すはずがない。
ボアたちの士気は、さらに高まっていく。
残された人間たちは、絶望の表情を浮かべていた。
中には逃げ場もないのに、悲鳴を上げながら走り回る者もいる。
魔王はその光景を嘲笑し、つまみにするかのようにワインを口にした。
「戦とは、実に面白いものだな……」
「ルルシアよ、貴様も飲むといい特別なワインを用意しようではないか。」
「では、お持ちしますね。」
そう言うとルルシアはワインだけを持ってきた。
「あ、れ? ……(?)貴様は飲まないのか?」
「はい。遠慮しときます。」
「あぁ……そ、そう――。」
魔王は断られたことが少しショックだったらしい。
ルルシアのために残しておいたワインをまた、自分のグラスに注ぎはじめた――
2/2 ―箱―
魔王はやけに静かだった。
先ほどから、ただ黙々とワインを口にしている。
どうやら、先ほどの出来事を少し引きずっているらしい。
そんなとき、ハーピーたちから念話が届いた。
魔王はグラスをそっとデスクの上に置く。
――箱の中身を確認できた、という報告だった。
その内容に、魔王でさえ目を見開いた。
命を受けたハーピーたちは、息を殺して箱へと近づいていった。
相手は勇者一行。感知能力が異常なほど高い。
わずかな油断が、即死につながる。
一瞬が命取りだ。
そこで、空の第二の支配者――ハーピークイーンは逆転の策を取った。
飛行部隊をあえて前面に出し、大規模な攻撃を仕掛ける。
勇者たちの意識を戦闘へ引きつけ、その隙に――
気配の薄い子供のハーピーたちに、箱の中を確認させる。
策が決まると、子供の中でも特に優秀な五名が選抜され、作戦は即座に実行された。
ハーピークイーン率いる部隊は、上空から勇者めがけて一直線に突撃した。
その数、およそ6万。
勇者がその存在に気づいた瞬間、ハーピーたちは一斉にオーラを解放する。
あえて派手に、大げさに。
すべては、子供たちの気配を悟らせないためだった。
「コモンスキル発動――
『斬風』!!」
魔力を形にした巨大な蹄が、空気を切り裂いて放たれる。
空の支配者にふさわしい一撃。
その存在値は、疑いようもなく高かった。
同時に、子供のハーピーたちはクイーンのオーラ解放に紛れ、地上へ急降下。
馬車の荷台付近まで、すでに接近していた。
クイーンの斬風は、さすがの勇者にも確かなダメージを与えた。
それに続き、他のハーピーたちも空から攻撃を開始する。
その間に――
子供たちは馬車へ侵入し、問題の箱を発見。
慎重に、そして震える手で開封した。
「なにこれ……人、じゃ…、ない。」
箱の中から放たれる、異質な圧。
強烈な“何か”を感じ取った瞬間、子供たちの背筋を寒気が走った。
経験の浅い彼女たちには、あまりにも重すぎる存在。
恐怖で腰が抜け、金縛りにあったかのように体が動かなくなる。
その異変に、勇者も気づいた。
「馬車の中だ。
――中にいるものを、即座に滅殺しろ」
命令が飛ぶ。
ハーピークイーンは、直ちに子供を守ろうと動いた。
だが、勇者は簡単に突破できる相手ではない。
クイーンが剥き出しの蹄で突撃した瞬間、
一人の勇者が短剣を抜いた。二刀流だ。
刃には魔力が宿り、嫌な光を放っている。
「スキル発動――『舞』」
次の瞬間、クイーンの体は刻まれた。
致命傷こそ避けたが、重傷だ。
墜落し、地面に叩きつけられる。
「何が空の支配者だ。笑わせてくれる」
「そこまでにしておきなさい。
弱者ほど、格好をつけたがるものです」
別の勇者が、冷たく囁いた。
他のハーピーたちも次々と討ち落とされていく。
勇者の前では、あまりにも無力だった。
やがて――
馬車の中にいた子供たちは捕らえられ、勇者の前に投げ捨てられる。
「ねずみ……いや、ひなを捕らえてきました。
どうします?」
「そうだな……奴隷商にでも売るか」
「いや、ハーピーの翼は高く売れる。
新鮮なうちに切り取ろう」
勇者が、解体用のナイフを取り出す。
「の、残ったメスは……」
興奮した部下が言う。
「ああ。好きに使え」
それを、黙って見ているクイーンではなかった。
その表情は、怒りと絶望に満ちている。
最後の力を振り絞るように、彼女はスキルを発動した。
「ア……アルティメットスキル……『下級天使召喚』……」
次の瞬間――
翼を持つ天使が、静かに光の中から現れた。
そして、ただ一言。
「――何用で?」
その純粋すぎる声に、勇者たちでさえ言葉を失う。
赤い瞳。
金色に輝く髪。
――明らかに、この場の“常識”ではなかった。
次回もお楽しみくださいまっせ




