片想い
窓越しに見える向かい側の一軒家ではいつも、それは美しい女性が優しい表情を浮かべて腰掛けている。大学生の安城亮生は、毎日隙さえあればこっそりとその姿を眺めていた。
年齢は亮生と同じくらいで、身長は少し低めである。足は細長く、髪は長めで目はぱっちりと開いている。亮生はこの女性が気になって仕方がなかった。いわば恋をしていたといっていい。
しかしこんなに近くに住んでいるにも関わらず、彼女がどのような人間なのかは全く分からない。一度偶然を装って彼女に会おうと家の前で待ち伏せをしたことがあったが、家から出てくることはなかった。彼女はいつも自分の部屋にいて、椅子に腰掛けているのである。
なぜ彼女は部屋から出ようとしないのか、もしかしたらとんでもない事情があるのかもしれない。監禁をされているのかもしれない。それならば一刻も早く助けてあげないと、と思うと亮生はいてもたってもいられなくなった。
せめて自分と目が合うことはないだろうか。そうすれば声をかけることはできなくても、少しでもこちらから合図を送ることができる。そう思った彼は彼女の様子を伺い続けたが、一向に目が合うことはなかった。彼女はいつも斜め下を虚ろな目で眺めている。きっと何か深刻な悩みがあるに違いないと思い始めると亮生は、彼女を救えるのは自分しかいないと考えるようになっていった。
亮生はいよいよ我慢ができなくなった。直接彼女に会って想いを伝えなければ気が済まない。そう思った彼は夜中になってこっそりとその家に忍び込むことを決意した。
彼は窓を叩き割って下から侵入した。彼女の部屋は2階であり、階段を登らなければならない。案の定、住人たちに気付かれた様子はない。彼は忍び足で2階へと向かった。
部屋に入った彼は、憧れの彼女を確認した。彼女はいつも通り椅子に腰掛けている。今まさに彼女は窓越しではなく、自分の目の前にいる。彼は興奮を抑えるのに必死だった。
彼は下に聞こえない声で彼女の後ろ姿に話しかけた。
「いつも向かい側から君を見てたんだ。僕と一緒に来てくれないか」
しかし返事がない。彼は我慢ができなくなって強引に彼女をこちらに振り向かせた。
「何とか言ってくれよ。ずっと君のことを想ってたんだ」
しかし彼女は声を出さない。それどころか彼の方を見ようとすらしなかった。
「怖がってるんだな。無理もない。でもそのうち分かるよ。僕は君を助け出したいだけなんだ。ここではなんだから、僕の部屋に行こう」
彼は彼女の体を抱きかかえて、窓を開けてベランダ越しに家から抜け出した。そして向かいの家の自分の部屋に彼女を連れて入り、ベッドに寝かしつけた。
「まだ何も言ってくれないのかい?でもいいよ。やっと君は僕のものになったんだ。もう何も怖がらなくていい。僕がすべて守ってあげるよ」
翌日、向かい側の家に侵入者があったことが報道された。犯人は見つかっていない。幸い死傷者はおらず、金目のものも盗まれてはいなかった。しかし唯一、昔にその家の主人が外国で購入した人形が一体盗まれていたとのことだった。犯人の意図は未だ不明である。




