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098 王妃の音色




騎士(ナイト)、勝敗はつきましたね。3戦目はどうしますか」


 王城の文官が聞いてきた。


「あちらさん次第(しだい)ですね」


 あの威張(いば)っていた団長さんが走ってくるのが見えた。


「あの魔道具の秘密を知っているならなぜ教えてくれなかったのですか。そちらだけが知っていたというのは公平ではありませんな。よって、先ほどの試合は無効です」


 なるほど、そういう理屈(りくつ)できたか。グライヒグの指示だろう。


「おかしいですね。あれはそちらが所持(しょじ)していたものですよね。持ち主が使い方を知らないなんて事があるわけないです。変な言いがかりはやめていただきたい」


 先ほどの文官がすかさず反論をしてくれた。助かる。


「う、それは……」


 言葉に詰まる団長。


「試合はこちらが2戦勝利しています。もう勝敗はつきました。3戦目はありませんよ」


 とたんに目がつり上がった。


「ふ、ふざけてもらっては困る。我々にこのまま国へ帰れというのですか」


「いや、そのまま帰ればいいじゃないですか」


 文官が真面目にそう答えた。笑ってはいけない。がまんだ。


「帰れるわけないでしょう。3戦目はこちらが勝つと決まっているんです。ならば、やるに決まっています」


 文官が私の方を見て、「どうしますか」と聞いてくる。


「勝負に勝ったのになぜ受けなければいけないのか理解できませんね」


「そちらが不正をしたのだから勝負は無効です。先ほどそう申し上げたはずだ」


「持ち主が使い方を知らないなんて事あるわけないと私だって思いますよ。なんなら、会場にいる観客に聞いてみましょうか」


「う、それは……困る」


 とんでもないルールを押しつけたことが知られたら、暴動が起きてもおかしくない。それこそ、王都から無事に帰れないかも知れない。


「仕方ないですね。3戦目を受けてもいいですが条件があります」


「どういう条件ですか」


「あの『精霊の踊り』は、ネメルさんが正式な持ち主であることを認めてください。そして、もし、私達が勝ったときは、無条件で返却をするとここで約束をしてください」


「う、それは、私の一存では決められない」


 しどろもどろでゴネ出す団長。


「いいわよ、その条件全て受け入れるわ」


 後から声がした。聞き覚えがある声だ。


 振り返ると、やはりミラーシさんだった。横にはイローニャもいる。武装しているところを見ると護衛のようだ。


「まったく、どこまででたらめなんだおまえは」


 イローニャが苦笑いをしている。


「ミルノーモス、皇帝からの指示です。『正々堂々と戦え』です」


「は、直ちに準備を始めます」


 団長が、楽屋にすっ飛んで行った。


「と言うことだから、がんばってね」


 ミラーシさんが、ウインクをしてしだれ掛かってきた。


 それをヒョイと避けて、聞いてみた。


「グライヒグを通さないで大丈夫なんですか」


「帰ったわよ。それと、あなたたちが何かを仕掛けたならかなり効果があったわよ。ご機嫌だったわ」


 しれっとそう言うと、手をひらひらさせながら帰って行った。やはり油断できない相手のようだ。


「では、3戦目もとっとと終わらせますか」




 ステージには、ストラミア帝国の楽団が勢揃(せいぞろ)いをしていた。50人ほどだろう。それぞれが音を出しながら調整をしている。


 私達は5人だけだ。開演を待っている観客は不思議そうに見ている。また、何かが始まるのだろうか。今までの流れから考えるとかなり期待していい。そんな思いも感じられた。


「隊長、『振動波発生装置』の設置終わりました」


 エルが嬉しそうに報告してきた。


「ありがとな。敵さんおったまげるぞ」


 ニヤッと笑ってそう言うと、他の仲間達もニヤリとした。『振動波発生装置』を改良して、大音量のスピーカーのような機能を持たせたのだ。


 大きな音とは『音圧(おんあつ)』のことだ。ならば、単純に増幅させればいいだけだ。簡単なことなのだ。ただ、そのイメージがこの世界の技術者にはまだない。作れる知識と技術があっても完成形が描けないのだ。




「それでは、これからストラミア帝国の楽団による親善演奏会を開催します」


 ドワーと拍手が起こった。


「その前に、ちょっとした音出しゲームがあります」


 多言語翻訳君はずっとゲームと変換している。この世界にも遊戯(ゆうぎ)はあるのだろう。


「それぞれが一斉に楽器を鳴らして音を出します。大きな音が出た方が勝ちになります」


 なんだ、そんなことか。ちょっとがっかりする観客達。


「かなり大きな音が出ますので、苦手な方や小さなお子さんは耳を(ふさ)いでください」


 母親だろう、うなずいて子どもの耳を塞いだ。


「では、ストラミア帝国からお願いします」


 一発勝負になる。タイミングを合わせて鳴らさないと効果が弱まる。けっこう難しいのだ。指揮者の腕の見せ所だろう。


「いきます」


 指揮者が構えた。それを真剣な表情で見ている団員達。手がかすかに震えている者もいる。


  指揮者が腕を振り上げた。


 ボワーァァァァァァァン!


 劇場が揺れた。薄い板はビリビリと振動している。


「ただいまの音は『130デシベル』です」


 落雷(らくらい)やロックのコンサートレベルの大きさだ。


「次は騎士(ナイト)チームの番です」


 5人である。勝負になるわけがない。たぶん余興(よきょう)のつもりなのだろう。誰もがそう思っている。


「油断しないでください。騎士(ナイト)ですよ。何をするかわかりません」


 司会が注意喚起(かんき)をする。母親があわてて子どもの耳を塞いだ。


「では行きます」


「振動波発生装置スイッチオン」


 ブーンという低い音が振動板からしている。改良はこの振動板がメインだ。少し湾曲(わんきょく)させてスピーカー状に近づけてある。素材はまんまるの装甲板だ。


 5人で演奏を始めた。耳には(せん)をしている。


 静かな音がしている。敵側の団長がニヤリと笑った。


「音圧上げます」


 エルが演奏をやめて、装置の目盛りを徐々(じょじょ)に上げていった。一気にやるとスピーカーが壊れる。目標は、131デシベルだ。1デシベルでも勝てばいいのだ。


 だんだんと音圧が上がっていく。


 だんだんと青くなっていく団長の顔色。


 会場がビリビリと震えだした。


 経験したことがない圧迫感がある音圧に恐怖する楽団員。


 音に関しては専門家達だ。魔法による拡声ではないこの大音量は何だ。理解ができない。今にも泣き出しそうだ。


 目盛りが131デシベルになった。終了だ。


「目盛りは131デシベルです。勝者は騎士(ナイト)です」


 よく分からないが、騎士(ナイト)が勝った。ならば喜ぼう。


 会場が雄叫びと拍手の音で揺れた。


 飛行船に続き、ここでも未知の技術に遭遇(そうぐう)してしまった運の悪い楽団員達。放心状態(ほうしんじょうたい)だ。


「それでは、演奏を始めてください」


 司会の宣言など聞いていない。指揮者が構えているのに見ていない。なかなか演奏が始まらなかった。


 だんだんとざわめき始めた観客達。


 ちょっとショックが大きかったか。すまん。やり過ぎた。


 どうしたものか。


 澄んだバイオリンの音色がしてきた。見ると、王妃が弾きながらステージに登って行った。


 他にも音が聞こえ始めた。エレウス王国の楽団員達だ。


 ストラミア帝国の練習をいつも聞いていた。曲は暗記している。それぞれが、自分のパートである場所に向かっている。そして、ストラミア帝国の楽団員達の横に立つ。


 指揮者が状況を直ぐに理解した。優秀だ。


 手をふりあげて、演奏を始めた。


 迫力のある音楽が鳴り響いた。


 気を利かせたスタッフがエレウス王国の楽団員達に椅子を持っていく。


 だんだんと配置が決まっていく。総勢(そうぜい)80人ほどのオーケストラになった。


 指揮者が本気を出した。


 演奏の質が跳ね上がった。


 ストラミア帝国とエレウス王国の音楽家達が心を合わせて一つの曲を(かな)でていた。


 圧巻(あっかん)である。その一言だ。


 演奏が終わる。


 額に流れる汗を拭きもせず、指揮者が静かに手を下ろし、演奏者を見た。みんなが満足した表情だ。


 クルリと回り観客を見る。


 そして、静かに礼をした。


「……」


 どうすればいいのか。


 慣れていない観客達は反応に困った。


「ブラボー」


 誰かが立ち上がって拍手をし出した。


「ブラボー」


 周りの者達がそれに続く。


「ブラボー」


 ウエーブのようにそれが広がっていった。


 全員が立ち上がり拍手を贈った。


 拍手はいつまでも続き、鳴り止まない。


 指揮者が手で合図をした。


 静かにしてくれ、そう言っている。なぜかわかった。


 指揮者が王妃を見て立ち上がるよう(うなが)した。


 アンコールである。


 王妃は静かにうなずく。そして、ソロ演奏を始めた。


 きれいな澄んだ音色(ねいろ)が会場を包んでいった。


 その響きは『わかりあえる』そう言っているようにも思えた。




 ミリコス殿下との勝負は、我々の勝利で幕を閉じた。





次話投稿は明日の7時10分になります

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