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092 エレウス王の焦り ★




 エーデルシュタインはぼう然として王都の空を見上げていた。


 空には、真っ黒な物体が3つ浮かんでいた。


 この国で空を飛べるのは樹魔(じゅま)車両だけである。そしてあれは樹魔車両ではない。大きすぎるのだ。


 ここから見た予測だが、全長は50メートルを超えている。幅も20メートルぐらいだろうか。


 後方には、羽のようなものが回っている。下には、四角いものが張り付いている。窓のようなものも見える。


 まるで、大空を泳ぐ強大な魚のような形をしていた。


「キュリンドルよ、あれはなんだ」


 めったに表情をくずすことがない懐刀(ふところがたな)が、目を見開いていた。


「わかりません。魔物ではないようです。たぶんですが、人の手によって作られたものでしょう」


「ストラミア帝国だと思うか」


「間違いなくそうでしょうな」


 く、やられた。完全に出遅れた。出迎え要員はすべてアステル湖の船着き場にいる。


 エーデルはぐっと(こぶし)を握りしめた。


「どこに着陸すると思う」


「貴族門前の草原でしょう」


「使者がここに来るまでの時間はどのぐらいだ」


「早くて30分後ですな」


 出迎え要員を呼び寄せる時間はない。間に合わない。


 明晰(めいせき)な頭脳が状況を計算する。あらゆる可能性を想定してみたが相手の魔動車の方が早く到着する。なぜなら、それがねらいだからだ。


「くそ、まずいぞ! 弱みを握られてしまう。無茶な要望を押し通されてしまう」


「そうなりますな」


 く、どうする。


 めったに焦りを見せない賢王が冷や汗を流していた。




「陛下、探求者様がお二人面会を求めています」


 文官がノックもしないで()()んできた。怒鳴りたいところだが今はそれどころではない。


「直ぐに通せ」


「わかりました」




 メガネをかけた子どもの容姿をしたエルフと姫の騎士であるカナデが入ってきた。



「エーデルよ取り込んでいるところをすまないな。こちらも緊急でな」


 知識の探求者『レーデル・ランデリラ』がそう言うと、カナデが一歩前に進み出た。


「エーデル様、あの空に浮かんでいる物体について私が知っている情報を提供したいのですが、よろしいでしょうか」


 騎士(ナイト)淡々(たんたん)とそう言った。


 いいどころではない、どんな小さな情報でもいい。今は欲しい。


 エーデルはドカッと椅子に座り足を組んだ。


「許可する」


 騎士(ナイト)は、うなずくと、自身の収納から黒板と呼ばれている緑色の板を取り出した。


 エーデルはこんなに大きなものをどの次元箱に収納していたと思わず聞きたくなるが我慢している。それどころではないのだ。


「あれは『飛行船』と呼ばれている空を移動するために作られた乗り物です」


 下から見て確認したのだろう。黒板に先ほどまで空に浮かんでいたものと同じものが白い線で描かれていく。正確な絵だ。


「下から観察した推定(すいてい)です。全長70メートル幅20メートルです。乗客が乗る部分の大きさから定員は20名ほどでしょう。3つのなので60名です」


 どうしてそこまで分かる。突っ込みたいが我慢だ。時間がない。エーデルのイライラが(つの)る。


「どうして浮かんでいるのかの詳しい説明はできません。機密契約(きみつけいやく)と同じで言葉にできないのです。ただ、王都のお祭りで空に飛ばす『風船』と原理は同じです。つまり、あれは、風船の化け物です」


 原理が分ければ納得だ。未知の技術ではない。十分対処できる。


 エーデルに余裕が出てきた。


「理解した。キュリンドルよ時間がない。案を出せ」


 キュリンドルが考え込む。珍しい光景だ。


「エレウスよ私からの提案を聞くか」


 知識の探求者の言葉を聞かない人類などいるものか。


 エーデルが姿勢を正す。


「聞こう」


「相手のねらいは分かっているな」


 子どもにうなずく二人の男達。 


「カナデの説明で、あれは未知の力ではないことをおまえ達は知った。ならば恐れる事は何もない。あれは、人が作り出したものだ。魔動車と同じだ」


 その通りだ。今は冷静だ。


 エーデルもキュリンドルもお互いの顔を見合い今の精神状態を確認する。


「城門で堂々と出迎えるのだ。そうだな、キュリンドルともう一人、(きも)()わった女性がいいか。そうなると、アルティーヌが適任(てきにん)だな」 


 エレウス王のそばで静かに成り行きを見守っていた金色の髪を持つエルフが名前を呼ばれてピクンと反応した。


 エレウス王をじっと見る。


「アルティーヌよ、引き受けてくれるか」


「分かりました。私は何をすればいいのでしょうか」


 アルティーヌがレーデルを見た。視線を変える度に金色の髪が揺れている。


「出迎えの言葉はおまえがやれ、遠路(えんろ)はるばるよく来ただけでいい。どうせ来るのは魔動機関貴族の公爵だ。こちらの方が身分は上だ。気にするな」


 ふふふと怪しく笑うエルフの少女がキュリンドルを見た。


「おまえは国王の言葉と謁見を希望するかを尋ねるだけでいい。いつも通りの姿でいろ」


 もう一度アルティーヌを見て言葉を続けた。


「最後にこう言ってやれ『飛行船で来るなら事前にそう言ってほしかった』とな。そっけなく、自然にだ」


 ここまでの話を聞いていたエーデルが笑い出した。


「わはははは、おもしろい。実におもしろい。その役目はおれがやりたいぐらいだ。相手の動揺が目に浮かぶぞ」


 キュリンドルにもいつもの無表情な顔が張り付いた。


「こちらは『飛行船』の存在を知っていた。と言うことにするわけですな。ふふふ、相手はさぞかしびっくりするでしょうな」


 エルフの少女がにっこりと笑った。




「遠路はるばるようこそエレウス王国に来てくれた。歓迎するぞ」


 アルティーヌがさっとひとまとめにした金色の髪を風になびかせて騎士の礼をひとつする。


「エーデルシュタイン国王陛下も歓迎の意を示しております。そちらにご希望があれば謁見(えっけん)(かな)いましょう。また、連絡をいただきたい」


  キュリンドルが淡々とした表情でそう告げた。


 取り乱した姿であわてて走ってくるだろうと予想していたグライヒグは少し(まゆ)を動かす。


(おかしいですね。焦っている様子がみられません) 


「それにしてもだ、飛行船(ひこうせん)でまいるならそのように伝えて置いてもらえればありがたかったな」


 アルティーヌが金色の髪を揺らしながら独り言のようにつぶやいた。


(『飛行船』を知っているだと。そんなことがあるわけがない。皇帝でさえ知らない情報だぞ)


 グライヒグが疑問に思うのも当然である。この飛行船はナダルクシア神国で密かに作らせていたものである。


 最新技術を使った乗り物であり、これを設計した技術者は、どの国の技術でも実用化は難しいはずだと言っていたのだ。


 いままで見下(みくだ)した態度で笑顔を見せていた魔動機関貴族のダーチェリストも思わず表情が顔に出てしまった。


(『飛行船』の名前をなぜ知っている。それに、なぜ驚いていない。空を飛んで来たのだぞ。驚かない方がどうかしている)


「おや、あれが飛行船だとよくわかりましたな」


 グライヒグが探りを入れるようにそう聞き返した。


(情報が欲しいですね。どこから()れたのか突き止めないといけません)


「我が国にも優秀な人材はそろっています」


 キュリンドルは表情ひとつ変えずにそう答えた。


(ふん、食えない男ですね。確かキュリンドルでしたね。あなたの名前は覚えましたよ。油断がならない相手です)


 ここまでだな。こいつらからは情報を聞き出せない。そう判断した2人は引き上げることにした。


 ふと、視線の先にあいつが見えた。排除対象(はいじょたいしょう)の男だ。


騎士(ナイト)殿が出迎えてくれるとは光栄ですな」


「姫もよろしくと言っていましたよ」


「是非、直接お目に掛かってお話がしたいと伝えて置いてくれ」


「わかりました」


 今回の勝負は私達の勝ちです。数の力に個人は太刀打(たちう)ちできません。それがこの世のことわりです。


 グライヒグの自信は揺らがない。




「ふー、カナデ君、飛行船の情報を教えてもらって助かったよ。これで、勝負を振り出しに戻せた」


 キュリンドルは緊張が緩んだ拍子(ひょうし)にヒア汗が出てきたようだ。(ひたい)をハンカチで()いている。


「まったくだ。あのグライヒグという男、油断ができないな」


 アルティーヌも額に出てきた汗を拭いている。珍しい姿だ。


 こうして、エレウス王国とストラミア帝国魔動機関貴族との戦いが始まった。


次話投稿は明日の7時10分になります

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