090 全てが動き出す
6章最終話です。
全てが動き出します。展開も早いです。
「だからここでの受付は終わりました。要望があるなら直接騎士に言ってください」
生徒会室は騒然としていた。こうなることはレーデルさんが予測していた。なので、生徒会長も冷静に対処している。
エレウス王から進退を迫られた、低級、中級貴族の子息達が目の色を変えて生徒会室に押しかけているのだ。
「いや、それができないからここに来ているのだ。頼む、一族の危機なんだ。なんとしても選手団に入らなければならないのだ」
「そう言われましても、受付期間は終了しました。規則を守れない者は選手団には入れません。姫がそう明言しています」
「いや、私は貴族だぞ。特別な権限がある。早く受付を受理しろ」
後ろにいた貴族学生が申込書を振りかざしてそう叫ぶ。
「そうだ、貴族特権がある。従え!」
他の貴族学生達も次々に叫びだした。もはや収拾がつかなくなってきた。
「見苦しいです」
桜色の髪の毛を持つエルフが腰に手を当てて立っていた。
「サ、サクラシア様、丁度よかったです。わが一族はあなたに忠誠を誓います。選手団には私のような魔力が高いものが必要なはずです。平民どもよりも役に立って見せます」
貴族学生達が一斉に跪いた。
「私は規則を守れないものを信用しません。お断りします」
「……」
シーンとなる貴族学生達。
「ふ、ふざけるな。おれたちは貴族だぞ。特権がある。いくら大陸の姫でも、断ることなどできないはずだ」
貴族達が一斉に立ち上がって、抗議を始めた。
「私の騎士よ、紋章を掲げなさい」
「イエスマイロード」
「アーマー装着」
ペンダントから黒いリボンが飛び出した。
一瞬で装着が終わる。通常モードだ。
「セルビギティウムの名のもとに紋章召喚」
騎士アーマーの胸の部分にセルビギティウムの紋章が浮かび上がった。
「サクラシアが命ずる。拒否権発動!」
風が起こった。学生達が手に持っていた申込書は全て手から離れ宙を舞う。それが1箇所に集まり竜巻のような渦を作った。
「魔法陣展開 炎よ燃やせ」
ソフィアが詠唱をした。火災旋風の様に申込書は燃え尽きた。
「まだ何か言うようなら、ここで私が相手になろう。掛かってこい」
私がものすごーく軽い威圧を込めてそう宣言すると、貴族学生達はお尻から座り込み、そのまま、這って逃げていった。
「ふー、スッキリしました。あいつらは平民学生達をあざ笑いながら追い出した張本人達です」
ソフィアがスッキリした顔をしてる。生徒会役員達も同じだ。
「わたしたちもスッキリしました」
周りでハラハラしながら見守っていた学生達が一斉に拍手をした。
「姫様、かっこよかったです」
「騎士アーマー、すごいね。どうやって転送したの」
「ばか、秘密に決まっているだろう」
いろいろな反応があった。これが学生だよな。
学院の円形闘技場は8月の交流試合が終わるまで代表選手達のために貸し切りになる。学院が総力を挙げて協力すると学院長が明言したので異議を唱えられるものはいない。
唯一、それができる立場だった貴族枠の教授達は、妨害や嫌がらせ所ではなくなっていた。なぜなら、彼らの邸宅に連日のように、代表選手になれなかった貴族学生の親たちが押しかけていたからだ。
なぜうちの子が選ばれなかったのだ。
なぜ、おまえ達は平民ばかりを選んだのだ。
今からでも遅くない、直ぐに息子を選手団にねじ込め。
その屋敷に営業で訪れていた我が社の社員からの情報である。間違いはない。なぜなら、最近学園でも彼らを見かけないからだ。きっと、自分の屋敷から出られないのだろう。
「今日から訓練を開始する」
闘技場には、イグニス、イディアが仁王立ちしている。2ヶ月しかないのだ。かなり効率よく練習をしていかないと間に合わない。
魔術士は基礎体力も必要なのだ。課外活動の時間を使ってみっちりとトレーニングをしてもらう。1ヶ月間は体作りになる。
実は少しずるをさせてもらう。ポーションにちょっと筋肉を作る成分を混ぜてある。プロテインみないなものだ。少量なので害はない。本人達も納得している。
学生達も必死だ。自分たちを追い出した権力に一矢報いたい。その意地もある。歯を食いしばって過酷な練習に耐えていた。
* * * * *
1ヶ月後、訓練を終えた学生達が隠れ家に集まった。筋肉の状態は申し分ない。その証拠に、ディーラさんが触りまくっていた。
「君たちは、今日から交流戦までここで生活をしてもらう」
目の前には、やや朽ちた部分もあるが貴族が使っていた屋敷が置いてあった。
そう、置いてあるのだ。
30人を収容する部屋はさすがに準備できない。二段ベットを入れても足りない。ならば、三階を住居にするかという話になったが、そこは魔術の練習で使いたい。
みんなで悩んでいたら、つくも(猫)が動いた。
エレウス王の所に行って、没落して使わなくなった貴族の屋敷をもらい受け、そのまま収納して持ってきたのだ。そう、基礎の土台ごと持ってきた。
それを新たに切り開いた土地にポンと置いたのだ。
サクラさん以外は呆れてものも言えなかった。もちろん姫は、
「ねこちゃん、お手柄よ!」
抱きしめて顔をスリスリしていた。
「あのー、すごく立派なお屋敷なんですが、本当にいいのでしょうか」
「男はみんなこの屋敷に住む。あっちは女性専用だ」
「騎士も住むのか。なら遠慮はいらないな」
ボンが屋敷を見上げていた。
学院は例年よりも早い夏休みに入った。交流戦のための特別処置だ。ボンはカロスト王国には帰らない。クリシスも同じだ。
どうも、国がきな臭いようなのだ。帰ったら戻ってこられなくなるかも知れない。ボンの勘がそう判断をした。
ボンは自国の有力貴族に逆らっている。恨みを買っているのだ。その原因を作ったのはおれ達だ。ならば、受け入れよう。誰も反対はしなかった。
平民学生が30名、ボンとクリシスが新しい仲間になった。
「作戦会議を始めます」
会場は、隠れ家の三階大広間だ。そこに、平民学生が30人、『風の森』パーティーが4人、『紅桜』パーティーが7人、その他に、ディーラ、メディ、ボン、クリシスがいる。さらに、探求者が2名と神獣が2匹、そして、俺様猫がサクラさんの横で丸くなっている。
「議題は『魔法学園交流戦対策』です」
エルが私を見た。分かっている。ここからはおれが仕切る。
「今王城に、ストラミア帝国の使者が来ている。皇帝の使者だ。そこで交流戦の名簿交換が行われる。『芸術勝負』は、学生達の出番はない。おまえ達が戦うのは魔法学園のエリート達だ」
「カナデさん、我々は魔術士です。相手は属性魔法使いなんですよね。それって、勝負になるのですか」
学生のひとりが不安そうに手を挙げてからそう言った。
「まあな、そう思うよな。でも、ピエール殿下は『魔法勝負』で挑戦してきているので、元々が『魔術』対『魔法』の勝負なんだよ」
「魔術学院ですよね。それって『勝負』となるとルール違反になるんじゃないんですか」
他の学生も質問をしてきた。
「どんなルールにしてもいいと実行委員長が宣言しているからな、そこは今更だな」
そんなーと言う表情の学生達。
「まあ、安心しろ、勝つための手段は考えてある。その為におまえ達には1ヶ月間体作りをしてもらったからな」
「魔術と体作りにどんな関係があるのですか」
「大ありだ。魔術は体力、知力、精神力がなければ使いこなせない。上級魔術になるほど体力が必要になる」
シンティが新しい腕輪が入っている箱を空けた。ねこちゃんデザインではない。柄も何もないものだ。
「これから配るのは、特別な付与が施されている腕輪よ。受け取ったら直ぐに本人登録をしてね」
そう言いながら学生達に腕輪を手渡していく。
全員が例の棘を使って登録を済ませた。
「利き腕にはめてみろ、太さが自動調節されるはずだ」
ホントですかー? と言う表情で皆が腕にはめた。ヒュンと腕輪が締まり抜けなくなった。
「うわ、なにこれ、動いた」
「え、抜けません」
「どうなっているの」
大騒ぎになった。
「あー、不安になる気持ちは分かる。まず聞け、取り外したかったら自分の魔力を流してみろ」
言われた通りにすると、腕輪が元の太さに戻った。
ホッとする学生達。
「安心しているところで悪いんだが、これから交流戦が終わるまでその腕輪は外さないようにしてくれ」
「どうしてですか」
「その腕輪に付与されている力に慣れるためにだよ」
どんな力なの? 不安そうな学生達。
「おれ達が使っている加護の力だ。かなり制限されているので体の負担になる事はない」
ちょっと安心顔になった。
「ねこちゃんペンダントもしておくように。それがないと、この隠れ家に入れないし魔法陣展開もできない。せっかくできるようになった特別な魔法陣も使えなくなるからな」
うなずく学生達。
「よし、ではもう一度魔力を流してくれ。ぴったりになるはずだ。そして、もう外さないように。お風呂に入るときも寝る時にもだ」
よく分からないが、騎士の言うことなら危険はないだろう。そんな感じでみんなが自分の魔力を腕輪に流した。
「これからおまえ達がやることは、魔法陣展開『神装力』を使いこなすことだ。指導はここにいるクエバがする」
学生達がちょっと不安そうだ。見た目は頼りないようにしか見えない。
「見た目で判断するなよ。おまえ達の先輩になる。そして、上級魔法陣展開の天才だ」
クエバがVサインをする。
「クエバさん、よろしくお願いします」
学生達の態度が変わった。学園の先輩、しかも上級魔術師は雲の上の人だ。これでいい。真剣に学ぶだろう。
「私は厳しい!」
学生達よ、クエバの言葉は短いぞ。聞き逃すなよ。
その日から、夕飯の時間になると、魂が抜けたようにフラフラしながらテーブルに座り込む学生達の姿があった。
「カナデさん、学生達の実力はかなり上がっています。これなら間に合いそうですね」
「ああ、おれの神装力を受け取ることができるようになれば、戦術は無限と言ってもいい。負けることはない」
「はい、どんなエリート魔法使い達でも、神装力には絶対に勝てません」
ジェイドの言う通りだ。
学生達は、おれが投げた神装力を受け取るだけだ。あの腕輪がその役目を担う。ねこちゃんペンダントは囮だ。
グライヒグは、きっとあのペンダントを試合前に没収する作戦で来るはずだ。全ての力のもとはこの魔道具だと目星をつけているだろう。
なぜなら、そうなるように誘導しているからだ。これは、レーデルさんの作戦だ。腕輪には認識阻害が付与されている。実は彼らと私達以外には見えていないのだ。
なので、学生達には試合直前まで秘密にしておく。没収された時に自然な必死さを見せつけるためにだ。ごめんよ。
ここでの訓練は7月中旬までになる。下旬になったら実際の試合会場となる、王都壁内にある国立円形闘技場での練習が始まる。
この闘技場は5万人収容できる作りになっている。
その日は、王都中の住民達が集まるだろう。また、各国からの要人達も集まってくる。
この日が全ての転換点になる。そして、魔動機関貴族の終わりの始まりになる。
レーデルさんが本気だ。1000年、弟の為に努力してきたことを台無しにした魔動機関貴族は絶対に許さない。
私達も本気だ。ジェイド、シンティ、エル、クエバ、ソフィア、ボン、クリシス、メディ達が辛い思いをしている全ての元凶が魔動機関貴族なのだ。そして、その後ろに隠れている『ナダルクシア神国』の存在を明らかにし、粛正をしなければいけない。
8月でこの因縁には区切りをつける。9月からは、いよいよ10層攻略のための作戦に入るのだ。
次話投稿は明日の7時10分になります
7章からはかなり早い展開でお話が進みます。




