089 騎士鎧のお披露目
「大陸の象徴、目覚めの一族の証、セルビギティウムの紋章を掲げろ!」
エレウス王国王城大広場には、玉座が設けられていた。そこには、聡明さを隠そうともしない風貌の男が座っていた。
名前を『エーデルシュタン・アステール』という。エレウス王国の王である。その隣には王妃『クリューリソス』が座っている。
2人の視線の先には、大陸の姫が騎士と一緒にこの広場に入場してくる姿が見えていた。
セルビギティウムの紋章が左右一列に並んでいる中を悠然と歩いて行く。
しかし、周りで見守っていた貴族達が何やら騒ぎ出した。
「おい、騎士アーマーのお披露目なのではないのか」
「そのはずだぞ。招待状にはそう書いてあった」
「ならば、どうしてその鎧を着ていないのだ」
「しるか、所詮平民だ。作るのが間に合わなかったのだろう」
「とんでもない失態だぞ」
心配する声と、
「平民はこれだけら困るんです。矜恃というものがないから平然としていられる」
「笑えますな。エレウス王もいい恥さらしだ」
「10層が何とかと言っていましたが、やはり眉唾物でしたな」
あざ笑う者、
「カナデ様は何を遊んでいるのかしら」
「見下しているやつらが驚く顔が見物だな」
これから起こる催しを期待する者に分かれた。
エレウス王玉座の手前で立ち止まる。サクラシア様は軽くカーテシィをして、そのまま立ち姿だ。私は跪き、騎士の挨拶をする。
「セルビギティウムの姫よ、よく来た。歓迎するぞ」
「招待を感謝します」
「姫の騎士よ、面を上げよ」
「はい」
「よく来た。騎士アーマーを見せてくれるといことだが、どこにあるのだ」
ククククと失笑が起きる。
「はい、ここにございます」
ねこちゃんペンダントを取り出し掲げた。
シーンとなる会場。
エレウス王の逆鱗に触れるぞと、皆が緊張する。
「王よ、その無礼者を直ぐに処分するべきですな」
小麦貴族のハルスロッコ侯爵だ。
「私も賛同しますぞ。ふざけるにも限度がありますな」
やはり、小麦貴族のエポースラッハ侯爵だ。
「そうだ。処分だ!」
周りから次々に声が飛んできた。
「だまれ!」
鶴の一声だった。
「姫の騎士が明言しているのだ。疑う余地はない。騎士アーマーはここにある」
エレウス王が異議を申し立てている貴族の方を睨みつけた。
「ふざけてもらっては困る。その小さなペンダントが騎士アーマーだとでも言うのか。馬鹿らしい」
引かない小麦貴族達。
「証拠を見せてもらおうか」
一番威張っていた貴族がそう言った。
「わかりました。エレウス王よ、装着を認めてもらえますか」
「認めよう」
ペンダントを首にかける。それを片手で持ち、あの言葉を宣言した。
「アーマー装着」
ペンダントから黒いリボンが飛び出した。
それが一瞬で体に固定された。
次に、足下から装甲板が転送されていく。
下から順番に騎士の鎧が完成していく。
最後に兜が装着され、カタンと目を保護する盾が下に落ちた。
時間にして10秒ほどの装着である。
銀色に輝く騎士アーマーを装着した騎士がいた。
「……」
シーンとして、言葉も出ない。
威張っていた貴族は、持っていた杖をカタンと落とした。
「うむ、見事な騎士アーマーだ。さすがは10層に行く準備が全て整っているだけのことはある」
なんだと、見事な騎士アーマーだと。あれが鎧なのか。何もないところから出てきたのだぞ。
10層がどうした。行く準備が全て整っているとはどういう意味だ。
何が起こった、何かが起きている。見極めろ、今日は今後の情勢を左右する転換点になるぞ。
それぞれの貴族達がそう考えているはずだ。
小麦貴族達は情勢が把握できない。ポカンとしたまま動けない。
「パネル表示 収納」
兜と両腕の装甲を収納する。
いきなり消えたことにまたザワつく会場内。
「エーデルシュタインよ。今日は私からの贈り物があります」
サクラさんがそう言って、ペンダントから献上用のあの箱を転送した。
何もない空間から箱が出てきたことにまたザワつく。
「10層攻略隊のメンバーと同じアーマーをそなたにも授けましょう」
エレウス王が玉座から降りていく。サクラさんは嫌がったが、これも演出だ。直接手渡す事に意味がある。
「これをそなたに、10層攻略の約束として授けましょう」
王は、サクラさんから箱を受け取り頭上に掲げた。
「セルビギティウムの姫が今ここに、10層攻略の確約を宣言した。これはその証である」
中からペンダントを取り出した。
それを自分の首にかける。
「アーマー装着」
ペンダントから黒いリボンが飛び出す。
瞬時に体に固定される。
装甲板が足下から転送されていく。
10秒で、金色に輝く王の鎧が完成した。
「エレウス王国は冒険者が作った国である。10層攻略は2000年の悲願である。来年だ! その悲願は達成される」
うおー。
事前にお願いをしておいた、サクラ貴族達が雄叫びを上げた。
お披露目会は異様な盛り上がりの中で終わった。この後は、晩餐会になる。私とサクラさんとシンティが出席する。
主役は私達だ。いろいろな貴族達が声をかけてきた。みな、エレウス王の支持者達である。
なぜだ! きっとそう思っているだろう。敵対勢力の貴族、セルビギティウムを快く思っていない貴族、私を平民だと侮っている貴族達は近づけないのだ。
彼らは気がついていない。足下をすり抜けていく1匹の猫がいることを。
晩餐会も中程だ。大人の貴族達はこの後も社交は続く。しかし、私達は学生だ。そろそろおいとまの時間になる。
楽団が演奏を始めた。ダンスの時間がやって来た。これが終われば今回の任務は終了だ。ダンスには参加しなくていいという打合せになっている。
王族が一番初めに踊りだした。王女と王子も踊っている。癒やされる。この後は、公爵たちが踊る番になる。
王族の踊りが終わった。
突然、ファンファーレが鳴った。なんだ。
「セルビギティウムの姫と騎士がダンスを披露します。みなさま、静粛に!」
聞いていないぞ! 王を見た。首を傾げていた。
「どうした、10層攻略確定なのだろう。ならば、ダンスぐらいできるだろう。早く踊れ」
小麦貴族達が顔をゆがめてそう言った。
なるほど、焦っているな。魔動機関貴族には足を引っ張れと指示されているはずだ。このままではまずいと思い、私達のイメージを壊す作戦できたか。
ならば、その企みも粉砕させてもらおうか。
心配そうに見上げてくる王女様ににっこりと笑って、
「大丈夫ですよ。ダンスは得意なんです」
と言い、サクラさんを見た。
「サクラさん行きましょう」
「はい、任せてください」
様子を見守っていた楽団が演奏を始めた。
「いきなりこの人数の前はちょっと緊張しますね」
「ふふふ、わたしもです」
礼をする。
サクラさんは、ひらひらと回りながら少し離れて礼をする。
見つめ合い、手を取る。
ゆっくりとしたテンポの音楽が流れ始めた。
まずは基本通りの動きだ。入り口の町で一流の音楽家達から絶賛された完璧な動きで滑るように会場を流れていく。
「ほー」
という感嘆の声が聞こえ始めた。
急にテンポが速くなる。楽団員達の前には、目を真っ赤に充血させてわなわなと震えている小麦貴族達がいた。何かを言われたのだろう、申し訳なさそうにこちらを見ている。
「問題ない」
私達もギアをひとつあげた。完璧な動きは揺るがない。曲に合わせて蝶が舞うようにステップをしていく。
周りの貴族達が笑顔になる。体が揺れていた。リズムを取っているようだ。
踊りながら貴族達を観察する。真色眼はすでに発動している。ダンスをしながらになるとは思わなかったが予定通りだ。
全て整った。王に目で合図を送った。
「今日は特例だ。階級の特権を|停止する、皆で踊れ」
うおー。
歓声が上がる。
次々に貴族達がダンスの輪に加わっていった。
それを苦々しそうに睨み付けている小麦貴族とその仲間達。
ダンスを踊っている人たちは気がついていなかった。
足下を猫がすり抜けていくことに、そして、なぜが一定の方向に誘導されていることに。
音楽が突然止まった。
なんだ、どうした。
周りを見る。あれ、何で俺はここにいる。
集まっていた貴族達が左右に分かれていたのだ。
中央にエレウス王がいた。
「これが今のおまえ達の選択だ!」
何の選択なんだ?
「こちら側にいるのは、おれと姫達の協力者、つまり味方だ」
右側を見る。ペリティア公爵家をはじめとする有力貴族達が集まっていた。
「こちら側は、まだ態度を決めていないか、おれと姫達に逆らうことを選択した者達だ。つまり、『敵だ!』」
左側にいた者達が顔を見合わせた。小麦貴族をはじめ、お披露目でヤジを飛ばしていた者達ばかりだ。
数は左側の方が多い。態度を決めかねている貴族がいるからだろう。
「おまえ達は今日、姫達の奇跡の力を見た。ならば考えろ。いいか、10層攻略は来年成し遂げられる。これは確約だ。情勢に乗り遅れてこのまま没落していくのか、姫達と共に未来を切り開くのか。選択しろ」
困惑している貴族達を見た。
「この状況が分かるか。おれたちは、おまえ達の覚悟が分かるのだ。欺こうなどとは思うなよ。その場合は敵対したものよりも重い罰を与えるぞ」
縮み上がる左側の貴族達。
「10月だ。エレウス王国建国祭でもう一度審判をする。それまでに態度を決めておけ。いいか、反対なら反対でいい。それを貫け、静かに没落させてやる。以上だ。解散しろ」
騎士アーマーのお披露目は終わった。貴族達の穏やかな日常も終わった。
これから選ばなければいけないのだ。ストラミア帝国よりの今権力を持っている貴族達にすり寄るのか、奇跡の力を示した姫達を指示するエレウス王につくのかを。
全てが動き出した。
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