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009 離島の公女殿下

『大樹の森編』の続編になります




 ここは、エレウレーシス連合王国の王都があるエレウスだ。アメリカ合衆国のワシントンみたいな感じか。


 ここには新大陸最大の湖『アステル湖』がある。湖には島が8つある。その内の1つである『キリヤ島』にベニザクラ号が停車している。


 昨日、エレウレーシス連合王国案内人ギルドのギルドマスターであるナツメさんが(たず)ねてきた。通信魔道具の引継(ひきつ)ぎと私達が住む場所の打合せをするためだ。ナツメさんは、早朝王都に戻って行った。


 これで、しばらく面倒な仕事はない。つまり、自由時間だ。それも2日もある。正直嬉しい。ワクワクしている。


 サクラさんは、この場所でペンテとテネリと遊びながらゆっくりするようだ。エルとシンティは工房ユニットを準備している。さて、今度は何を作るんだろう。つくも(猫)がらみだろうか……。まあいい。自由時間だ。


 イグニス達は、狩りに出るようだ。うん、成果を期待している。でも、自由時間だぞ。いいのか。


 (つくも)は……自由だ。猫はいつも自由だ。




 さて、出かけるか。『基礎研究仕放題(しほうだい)』の時間だ。


 実は、この湖の形についてやや気になっている。こんな星形に自然になるだろうか。その事も会わせての調査だ。まあ、探索と言った方がおもしろそうか。


 今いる東側は昨日大体調べた。今回は、北側から探索しよう。




 特に変わった場所はない。普通の島だ。学生がちょくちょく調査に来ている島だ。何かあれば今頃大騒ぎになっているだろう。


 さて、西側には人がいたな。どうするか。島の中央を通って、南に行くか。


 ピコン!


 真色眼(しんしょくがん)が反応した。赤玉だ。場所はかなり遠い。この島の西側だ。


「変だぞ、念のためにと島全体に範囲を広げておいた真色眼だ。サクラさんは東側にいる。危機があったとしても距離がありすぎる」


 どういうことだ。


「西側か、人がいた場所だな。行ってみるしかないか」


 赤玉は12個浮かんでいる。昨日の反応は色なしが5個だった。




神装力(しんそうりょく)第三権限開放 神装力認識阻害(にんしきそがい)風の道」


 何もないように見える風の道が島の西側に続いている。その中にポンと飛び込んだ。


 周りの景色がぶれた。


 1分で目的の場所近くに着いた。減速なしでピタッと止まる。そのまま、風の道を解除して、神装結界で身を隠す。




 魔術学院の制服を着た少女1人が、やはり制服を着た男子10人に囲まれていた。少女の前には、簡易な(よろい)を着けた女性剣士が1名、少女を守るように立ちはだかっている。


 んー、少女の危機ではありそうだな。どうするか。助けるか。


 私が思案(しあん)していると、男子学生のリーダーらしい男が口を開いた。


「公女殿下、こんな場所で,護衛もたった1人だなんて不用心すぎませんか」


「あなたたちの後ろにいる護衛が裏切らなければ、護衛は4人よ。我が国の剣士の実力なら十分すぎる戦力よ」


 男子学生達の後ろにいた1人の男性護衛の表情がこわばる。何か事情がありそうだな。


 それにしても、公女殿下か、どこかの国の公爵令嬢って所だな。


「それで、この前の提案は考えていただけましたか」


「お断りよ。妹が婚約者を辞退することは絶対にないわ」


「困りましたね。それでは私達が困るんですよ」


「それに、殿下は、サクラシア様の事を尊敬はしているけど王妃になってほしいとは思っていないわ」


 ん、なんですと、サクラさんがどうして出てくる。


「殿下のお気持ちは関係ないんですよ。我が国は、サクラシア様を必要としているんです」


身勝手(みがって)な。恥を知れ!」


「なんとでも言ってください。では、しばらくこの島でゆっくりしていてください。そうですね、10日もしたら、迎えの船を準備しましょう。その間に、妹様の気持ちにも変化が出るでしょう」


 学生と裏切った護衛3人は、そう言い残して去って行った。船が2(そう)、島を離れていく音がする。


 その場に座り込む少女、それを慰める女性剣士。


 さて、どうする。何か事情がある事は確かだ。ここで、私が名乗り出てもいいものかどうか考えがまとまらない。


「イディア、困ったことになったわ。このままでは妹や殿下に迷惑がかかるわ」


「船は持っていかれましたね。移動は困難です。ただ、幸いなことに食料はあります。10日ぐらいなら困らないでしょう」


「でも、このままだとサクラシア様に迷惑がかかってしまうの。殿下も困る立場になるわ」


「そうですね。我が国との関係に亀裂が入りかねませんね」


 それは困る。まだどの国か分からないが、初めから関係が悪くなるのは幸先(さいさき)が悪い。仕方ないぞ……。


 神装結界をかけたまま、一応1キロメートルほど離れる。あの剣士もあの少女もかなりできる。違和感を持たれるのは困る。


 探索者の振りをして近づくことにした。




「ソフィ様、誰か来ます。用心してください」


 2人の女性が身構えていた。剣士は剣に手を掛けている。


「すみません。びっくりさせてしまいましたか。船が出ていく気配がしたので、ちょっと気になって来てみたんです」


 私が敵意はないという意味で、両手を少し挙げて10メートル程手前で立ち止まる。


「誰だ貴様は、なぜ、こんな場所にいる」


 うん、それはお(たが)(さま)だよ。


「魔術学院に入学するものです。ちょっと事情があって、この島で休暇中です」


 どうせばれることだ。それに、学生といった方が警戒心(けいかいしん)が緩むだろう。


「どこの国だ、名を名乗れ」


 おいおい、それもお互い様だろう。ああ、そうか、私がこんなだから平民だと思われているか。


「イディア、失礼よ。その方は高貴(こうき)な方よ」


 ソフィアと呼ばれていた少女が、じっと私を見つめていた。


「ご無礼をお許しください。あなたは、探求者様ではないでしょうか」


 ん、なんで?


「そして、お(そば)にいらしゃるのは、神獣しんじゅう様ですね」


 いつの間にか隣で猫が浮かんでいた。


「よくわかったな、そうだ、俺様は神獣だ」


 空中に浮かんだまま、猫がしゃべった。


 固まる護衛剣士。


(つくもどういうこと?)


(そいつは『攻略対象(こうりゃくたいしょう)』の姉だ。こちらが上位(じょうい)存在だと、はやめに分からせた方がいい)


「申し遅れました。私はカロスト王国ノーテフィロ家第1の娘ソフィアフィと申します」


 おお、ノーテフィロ家と言えば、カロスト王国三大公爵家だ。そして、そこの第2公女が殿下の婚約者だ。まさに、今回の協力者になってもらう候補の1人だよ。


 でも、攻略対象って、母がはまっていた『乙女ゲーム』の影響受けてない、つくも(猫)!


「私は、サクラシア様のパートナーであり、今回はナイトを兼務(けんむ)する、カナデと申します。入り口の町のC級(ゴールド)スター冒険者です」


 サクラシア様の名前が出たことで、さらに固まる女性剣士。


「サクラシア様のナイトとは知らず大変無礼な言葉を使ってしまいました。私の処分は覚悟しております。ソフィア様には寛大(かんだい)な配慮をお願い致します」


 ひれ()す女剣士。脳筋だな、この剣士。


「気にしていませんよ。それに今、私達は休暇中です。私はただの冒険者です。で、公爵令嬢がどうして護衛1人でこの島にいるんですか。あ、何か話せない事情があるのでしたら、話さなくていいですよ。私達はここから立ち去りますので」


 護衛剣士と顔を見合わす攻略対象の姉。


「これも精霊のお(みちび)きですね。事情をお話しします。そして、できればサクラシア様との謁見(えっけん)をご許可ください」


 そう言って、静かにカロスト王国のおじぎをした。


「わかりました。では、今から私達のいるところにご案内します」


(つくも(猫)お願い)


(まかせろ)


「特別に、俺様が運んでやる。何か荷物があるならもってこい」


 貴族用の(はな)やかな飾りが付いた鞄型次元箱と、騎士用なのだろう、シンプルな作りの鞄型次元箱をもった2人がやって来た。


「では行くぞ」


 猫が立ち座りで前足を上げた。


「神力、風の道」


 猫が前足でクルクルッと空気を()き取り渦をつくる。それを手前にポンと放り投げた。


 神秘的な紅色の風の道が、ベニザクラ号が止まっている東側に数キロメートルにわたって延びていった。


「ほれ、とびこめ」


 猫が2人を容赦(ようしゃ)なくポンと渦の中に放り込んだ。


 ふわっと浮かんだまま、その場に留まる。


 2人の女性は声も出ない。放心(ほうしん)状態だ。


「カナデ行くぞ」


 私と(つくも)が渦に飛び込むと、景色が後ろに吹っ飛んでいった。


 数秒!あっという間に、東海岸に私達は立っていた。瞬間移動と大して変わらない感覚だ。


 そこには、ペンテを枕にして昼寝をしているサクラさんがいた。




猫がサクラさんを起こす。


「サクラ起きろ。おまえにお客だ」


 猫がむんずとサクラさんの両手で(かか)えられ()きしめられる。


「ねこちゃん来てくれたの。いっしょにお昼寝しましょう」


 そう言って、(ほう)ずりをされる猫。


「サクラ、客だ。おまえに客だ」


 頬ずりをされて、ゴロゴロと喉を鳴らしながら腕の中でもがく猫。


 生暖(なまあたた)かい目でそれを見つめる2人の客人。


 ん、とようやく目を覚ますサクラさん。キョトンとしながら、こちらを見ている2人に気がつく。


「えーと、どちら様でしょうか?」


 うん、そうなるよね。




「カロスト王国の方です」


 私がそう言うと。


「お初にお目にかかります。私はカロスト王国ノーテフィロ家第1の娘ソフィアフィと申します。こちらは護衛剣士のイディアです」


 そう言って、カロスト王国正式のカーテシーをした。


 サクラさんもそっと立ち上がると、セルビギティウム式のカーテシーをした。




 そのまま、ベニザクラ号に案内をする。シンティが慌てて走ってくる。


 ソフィアフィ様の身分を確認すると、すっと、公爵令嬢の顔になった。


「アルエパ公国マルモア公爵家第3女シンテラーノと申します」


 アルエパ公国のカーテシーをする。


 そのまま、エルに合図を送った。エルがうなずき、そっとベニザクラ号に入ると、ユニット交換をして王族仕様に衣替(ころもが)えをした。


 それを確認したシンティが、2人を招き入れる。


 中入って豪華な内装を見た2人が驚いて目を見張るが、それは一瞬のことで、直ぐに平静になる。貴族ってすごい。


「急な訪問にもかかわらず謁見を許していただいたことに感謝申し上げます」


 ソフィアフィ様が会釈(えしゃく)をする。それを会釈で返すサクラさん。


「それで、何か事情があり相談したいことがあるとのことですが、どんな内容でしょうか」


 サクラさんがこう切り出すと、


「はい、妹と我が国の王太子殿下のことです」


と、静かに事情を話し始めた。





次話投稿は明日の7時10分になります

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